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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第58話 そして、襲撃へ・・・

高レベルの魔法使いが覚える呪文「ドラゴラム」
この呪文はドラゴンに変身し、口から放出する炎でモンスターを焼き払う事ができる。
この炎の威力は絶大であり、ほとんどの攻撃を無力化するモンスター「はぐれメタル」ですら、一瞬で消し去る事が出来る。

ゲームで遊んでいたときは、莫大な経験値を持つはぐれメタル狩りの時には非常に役に立った。

だが、今回俺が使用した「ドラゴラム」は、竜に変身して、人や物を空輸する事を目的に編み出した呪文である。


俺はドラゴラムで変身すると、深紅のドラゴンに姿を変える。
テルル達は、変身した俺を確認すると、素早く背中に乗り込んでゆく。
3人がキチンと乗れるよう、大きさにもこだわっている。

確認すると、素早く上空へと羽ばたいた。
一応朝なのだが、アレフガルドは闇に覆われたままだ。
大魔王を倒し、この世界の光を取り戻す。


「まもなく、到着か」
俺は、ゾーマの居城の目前に迫っていた。

途中、ゾーマの城から、キメラの集団がこちらに向かって出撃してきたが、タンタルが魔法の玉を投げ落として、セレンがまどうしの杖で爆発させると、キメラを一蹴していた。

俺の体はドラゴンだが、現在、口から炎をはき出すことができない。
輸送しながら、炎をはき出すことができるドラゴンに変身する呪文もあるのだが、MPの消費効率が悪いため、今回は使用を見送っている。

俺達のパーティでは、俺以外、空中戦の戦闘技能は持っていない。
というよりも、この世界の人間で空中での戦闘技能を持っているのは俺ぐらいだろう。
だが、今回は竜に変身しているため、今の状態では空中から襲いかかるモンスターに対応できない。
代わりとして、今回は魔法の玉も大量に調達しているので、この力で戦力を補うことに決めていた。
というか、対ゾーマ戦では魔法の玉を使用するつもりが無いので、この襲撃で使い切ってもかまわない。


「さあ、襲撃の始まりだ」
俺にとっての終わりのはじまり。
大魔王ゾーマ討伐作戦が、次の段階に移行した。


憎悪と畏怖の象徴であるゾーマ城。
アレフガルドの王都ラダドームの目と鼻の先にあるにもかかわらず、海に囲まれていることと、凶悪なモンスターに守られており、これまで誰も寄せ付けることはなかった。
この世界の住民の絶望を食い尽くしている存在であるこの城は、今誰も想像していなかった状況にあった。
巨大な城は、あちこちで火災に包まれ、塔は崩れ去り、あるいは、折れ曲がっていた。
中央にある玉座も上空から直接視認することができ、玉座も燃え上がっていた。


「バリアは魔法の玉の攻撃を阻害するようね」
テルルが感想を述べた。
「そうか、今後の研究に取り入れる必要があるな」
俺は、人間の姿に戻り、燃え広がる城の入り口で、魔法の玉の効果を確認しながら、大魔王の登場を待ちかまえていた。
魔法の玉は、まだいくつか残っている。

大魔王ゾーマは吹雪で魔法の玉の爆発を抑える可能性があるため、切り札には使用できないが、目くらましや戦闘補助には使用出来るだろう。


今回の計画のきっかけは、素朴な疑問が出発点であった。
「大魔王ゾーマは、あれだけ強大な力を持ちながら、なぜ人間を滅ぼすことができなかったのか?」
ゲームで遊んでいたときは、制作者の都合で済ませばよかったのだが、実際にこの世界で生活する上で、解明しなければならない切実な問題でもあった。

だがこの疑問を解決するには、大魔王ゾーマに直接尋ねるしかないのだが、できるはずもない。
ゲームで遊んでいたときの記憶を思い起こすと、疑問の解決への鍵になると考えた。

ゲームで最初に大魔王ゾーマが登場するのは、魔王バラモスを倒して、アリアハンに戻って戦勝祝いを行う時であった。
そのときに、勇者を倒さず、周辺の兵士のみを殺している。
勇者を倒さなかった理由がわからない。
世界を滅ぼすのであれば、魔王バラモスを倒すほどの存在を無視していいはずはない。

そして、去り際に残した、「やがてこの世界を闇で埋め尽くす」も、実行に移していない。
本気で実行に移すのであれば、直接上の世界に出現するか、失敗したバラモスの代わりに別のモンスターを魔王に付けて襲撃を始める必要がある。
なのに、そんなことをしていない。
なぜか。

大魔王ゾーマは俺達人間の苦しみが、自分にとっての喜びだと、ゲームの中では話していた。
この言葉は、大魔王ゾーマの嗜虐性を表すものだが、俺は疑問におもっていた。
「世界を滅ぼすことが優先ではないのかね?」と。

そこで俺は一つの仮説を思いついた。
大魔王ゾーマの力の源は闇の力。
闇の力は、人間の絶望を糧にするのではないのかと。

人間の絶望を闇の力とするのであれば、人間を全て滅ぼす訳にはいかない。
逆に力を集めるには、ある程度人間を増やした方が良いのだと。
そう考えると、ゾーマの城がラダドームのすぐ近くに存在する理由も頷ける。
大勢の人間から、すぐに力を吸い取ることができるから。

俺は、仮説を元に今回の作戦を組み立てた。
絶望の象徴であるゾーマ城が崩壊した姿を見たらラダドームの住民はどう思うだろうか。
住民達は希望を持ち、闇の力が減少するはずである。
大魔王ゾーマがそれを喜ばないとすれば、どうするか。
ゾーマの城を破壊できる希望の象徴である俺達を、そのままにするはずはない。

俺は、崩れ落ちる城内に向かって大声で叫ぶ。
「俺がアーベルだ。出てこい、大魔王ゾーマよ。相手になってやる」
俺は既に魔王を倒した実績がある。
大魔王を相手にする資格は十分あると考えている。
後は相手が、その気になるかどうかだ。


しばらくして、黒い衣に覆われた巨大なモンスターが、俺達の前に登場する。
「おまえが、アーベルか?」 
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