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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第50話 そして、転職へ・・・

俺達は、ダーマ神殿の中央にいた。
中央の祭壇にたつ老人は、これから転職をおこなうテルルに話しかけていた。


「ここは転職をつかさどるダーマの神殿。職業をかえたい者が来るところじゃ」
祭壇の位置は、神殿の入り口からだいぶ入ったところにあるので、説明内容が今更だと感じてしまう。

「転職をごきぼうか?」
ここにたどり着くまで、結構待たされた。
転職希望の整理券を持ってまで並んでいるのに、違う理由で並ぶ人なんているのだろうか。

「どなたの職業じゃな」
整理券には転職希望者の名前を記載することになっていた。
わざわざ、他人の名前で申請するなんて怪しいだろう。

「テルルがなりたいのはどの職業じゃな」
老人は一覧表をテルルに渡して説明している。
メニュー表のようなものを使用するのは、わかりやすくていいのだが、一番下にある「司教のおまかせ」とはいったいなんだろうか?

「テルルは盗賊になりたいと申すか」
悪いことをするわけではないので、後ろめたいことは何一つないが、周囲に聞かれるような大声で話しかけられても、気持ちのいいものではない。

「そうか!さすがぬけめがない性格だけのことはあるのう。テルルを少し見なおしたぞ」
頼むから、セレンの前で性格の話を持ち出さないでくれ。
セレンの機嫌が直るのにどれだけ時間がかかるか、知っているのか。
テルルも不満そうだ。
自分の天職を商人だと自覚していたテルルにとって、精神的なダメージを受ける内容である。
転職すると、全てのステータスが半減するのは、ひょっとしたら、こういった精神攻撃の影響かも知れない。
たぶん違うだろうが。

「いちどレベル1にもどり、修行をしなおすかくごもおありじゃな?」
簡潔な説明ありがとう。
受付でもらった注意書きには、細かい文字でびっしりと埋め尽くされていたので、解説はありがたい。
ただ、できたら、「転職に伴う事故等について、ダーマ神殿は一切責任は持ちません」という内容ぐらいは、口頭説明があってもいいと思う。
恐らく、いろいろ裁判闘争に発展する可能性が高いとおもうのだが。

「ああ神よテルルが新たな職につくことをなにとぞお許し下さい!」
この世界の職業は、神によって決められるのか。
就職出来るかどうかは別にして、職業選択の自由と言われる国の出身者からすれば、違和感を覚える。
まあ、あの国では職業としての魔法使いにはなれないので、別の意味では、この世界ほど自由でもないが。
やっぱり俺には理解できないところだな。

「よろしい。では今からテルルはとうぞくじゃ!」
周囲から、ファンファーレが聞こえる。
演奏者がいるとは思えないのだが、不思議だ。

「テルルの装備は新しい職業のものにかえておいたからな」
この老人は、神殿の衆人環境下で、勝手に人の装備品を交換するとは恐ろしい。
あぶない水着を装備していた女の子が、転職していたらどうなるのだろうか。
周囲を見渡すと、ちらほら残念そうな顔をみせる男達がいた。
この、むっつりスケベどもが。

「たぶん、この司教さんも同じだと思います」
俺の後ろにいたセレンが小声で俺に同意した。
性格のことを、気にするセレンが自分で言うなんて、よほどの人物だろう。

「軽い気持ちで、転職はできないな」
俺はテルルを目の前にしながら、おもわずつぶやいた。
「ああ」
タンタルも同意している。
思わず、地の口調に戻ったようだ。
「そうですね・・・」
セレンはなんとも言えない表情をしていた。
「転職した、私の立場は・・・」
戻ってきたテルルは、転職した喜びもどこかに行ったようで、うなだれていた。
俺達は再び合流し、訓練場所へ向けて旅立った。



「なかなか上手くいかないものね」
テルルが不満そうな表情でつぶやく。
「経験がものをいうらしいぞ」
俺がもっともらしく説明する。
「そうなのですか」
タンタルが質問すると、
「推測でしかないがね」
俺は断りを入れる。
俺達は、ピラミッド内部で戦闘訓練をしていた。
目的は、パーティの連携と、とうぞくに転職したテルルのスキル発動を確認するためだ。
ここに出没する、わらいぶくろからスタミナの種を奪うことが出来たら、最高なのだが。

「入手できました!」
「ほう」
テルルの報告に俺は喜んでいた。
何が入手できたのか、確認すると。
「すごろくけんだな」
「すごい!すごろくけんですね」
「・・・。そうですね」
「・・・」
目的のアイテムを購入出来た今となっては、あまり意味がないアイテムだ。

「せっかくだから、記念に残したら?」
「そ、そうね」
テルルは頷くと、袋の中にしまった。


「さて、効果も確認できたことだし、次に行きますか」
「どこに、いくの?」
「ここだ」
俺は地図を広げて、目的地を指し示す。
「あそこか」
「綱渡りは、苦手です」
「俺だって、旅の扉は苦手だよ」
みんなが、いい顔をしなかったので、俺も思わず不満を口にしてしまう。
「でも、テルルのレベルを上げないと、いけないだろ」
「そうですね」
「まあ、俺達もレベルは上がるけどね」
「追いつけないじゃない」
テルルは抗議の声をあげる。
とはいっても、本気ではない。

俺は大げさに、テルルの前に膝をつき、右手を握った。
「大丈夫です、テルル。俺達は先に頂上で待っています」
「・・・」
「ですから、必ず追いつきますよ」
レベルは99が上限だ。
そこまで、あげるかどうかは考えていないが、間違いではないだろう。
「なに、かっこつけているのよ」
テルルは、すねた振りをしているが表情は良くなっていった。

「じゃあ、いくぞ」
俺達は、ピラミッドを後にした。 
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