ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第49話 そして、説得へ・・・(2)
「さあ、これが答えだ」
キセノンは、俺達を目的の施設に案内する。
「ここは」
「鳥の飼育場?」
「どういうこと」
ここには、多くの鳥が飼われていた。
「ここでは、食肉用の鳥が飼育されている」
「食肉用?」
「これと、キメラの翼との関係は?」
「あれを見てごらん、テルル」
俺は、床に落ちている、目的のものを指さす。
「キメラの翼?」
「こんなところに、なぜ?」
「ここからは、管理人さんから説明してもらおう」
キセノンが声をかけると、1人の青年があらわれた。
「管理人のハリスです」
「アーベルです」
「テルルです」
「セレンです」
「ハリス。説明を頼む」
青年は、にこやかに微笑みながら説明を始める。
「この鳥は、ニワトリと呼ばれていますが、伝説の鳥形モンスターであるキメラの血を受け継いでいると言われています」
青年の視線は、テルルの方を向いていた。
やはり、自分の雇い主の娘と言うことで、興味でもあるのだろうか。
「キメラの血?」
テルルは青年に質問する。
「そうです。その証拠が、このキメラの翼と言われています」
青年は、落ちているキメラの翼を拾った。
「たまに、雄のニワトリが落とします」
「だから、お父さんの本に載っていないのね」
セレンは納得した様子でうなずいた。
セレンの父親の本は「モンスターを食す」だ。
ニワトリはモンスターではないので、記載されていないのだ。
「そうなのか」
「確かに、同じだわ」
テルルは、自分が持っているキメラの翼と比較していた。
「どうして、雄のニワトリだけついているのですか?」
タンタルが質問する。
「雌に対する求愛行動に用いられると考えられています」
「求愛行動ねぇ」
「ふうん」
テルルが俺にキメラの翼を手渡す。
「・・・。俺に、どうしろと?」
「不思議なおどりでも踊ったら」
「わらいぶくろじゃないし、だいたい俺、マホトラがあるし」
不思議なおどりとは、モンスターの特殊攻撃で相手のMPを奪う。
俺にはMPを吸収する呪文「マホトラ」を習得しているので、必要ない。
「あら、そう」
「セレンさん、どうですか」
「すてきです、タンタルさん」
タンタルは両手にキメラの翼を持って、セレンの近くを踊っていた。
「テルル、あんな踊りを俺に踊れというのか?」
タンタルの踊りは、武闘家の素早さを生かした、洗練した動きをみせていた。
何となく攻撃の型を元にした動きにも見える。
「さすがに、あそこまでは期待してないわ」
俺とテルルはお互いにため息をついていた。
俺とキセノンは、ニワトリの飼育場の一角にある、応接室で話をしていた。
「この部屋も大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
キセノンが答えた。
俺が質問したのは、防諜対策のことだ。
俺は気楽に話しかける。
「実は先日、ロマリア王宮に俺の技を探る動きがありました」
「そうか」
「今日は、キメラの翼を理由にここに来ましたが、本当の理由は、そちらに問題がないか確認するために来ました」
現在のところ、魔法の玉の効力を知っているのは、俺のパーティ(タンタルを除く)以外は、ロマリア王国ではジンクだけであり、アリアハン王国では、キセノンと俺の母親ソフィア、そして発明者だけである。
誰もが情報の漏洩について、危機意識を持っているため、問題はないはずだが、確認が必要である。
普通であれば、俺とキセノンとの直接の会話は危険だが、もともと俺がキセノン商会に入り浸っているから普通に話せば問題ないのだ。
「念のため、確認しますが、ハリスさんは大丈夫ですか」
俺は、先ほどの青年のことをたずねた。
「今のところ、問題ない」
「そうですか」
「キセノン商会を任せるだけの才能を持っていると考えている」
「すごいですね」
俺は驚嘆の声をあげる。
俺が知る限り、キセノンが絶賛した人間は、俺の母親ソフィアしか知らない。
「お前さんほどではないかもしれないがね」
キセノンは、意地悪そうな顔をする。
「買いかぶりすぎですよ」
「君が、セレンと結婚したことを想定して、育てているのだよ」
「まだ、結婚なんて考えていませんよ」
少なくても、冒険が終わるまでは結婚はするつもりはない。
「だったら、うちの娘と婚約してくれないか」
「結婚と、違いがあるのですか?」
婚約するつもりはないが、念のため質問する。
「ハリスの扱いをどうするか、彼にも話す必要がある」
「彼もそれなりの年だ。それに、エレンズという付き合っている相手もいる」
エレンズはキセノン商会の経営部門に在籍しているという。
俺よりも年上で、養成所で何度か顔を合わせたことがあった。
才気があり、勝ち気な性格のため、年上に対して少し生意気なところがあったが、俺達後輩に対しては優しかった。
「無理にあきらめさせるのですか」
「結婚さえしなければ、文句はいわない」
ハリスのつきあっている相手、エレンズを妾にするということか。
テルルは納得するのだろうか?
「なんだ。まだ、聞いていないのか」
「なんのことですか?」
「テルルに旅に出る条件として、俺の認めた相手と結婚することを約束したのだ」
「・・・。初耳です」
テルルと父親であるキセノンとの間に、そのような約束がかわされていることを初めて知った。
テルルは長い旅の間、話す機会は多かったはずだ。
それなのに、一度も話題に出なかった。
いや、思い当たる節がある。
旅に出て二日目の事だ。
ナジミの塔での戦いであまり動きが良くなかった事を話した後で、テルルとキセノンとのやりとりの一部しか話さなかったことを思い出した。
あのときは、追求しなかったことをようやく思い出した。
確認のため、キセノンに追求する。
「テルルには俺に口止めをさせましたか?」
「していないよ」
「理由は?」
「話してもらったほうが、逆にいいと思ったからね」
「そうですか」
俺はキセノンの考えを理解した。
俺に責任感を持たせることで、俺と結婚させる既成事実をつくろうと画策したのだろう。
だが、俺がロマリア王に就任したことで話が変わった。
当時、ロマリアの政局が不安定な事を見抜いたキセノンは、俺とテルルとを結婚させる計画を白紙にして、別の婿候補を選定したようだ。
それが、先ほどのハリス青年だ。
彼を後継者とすべく、仕事を覚えさせていたが、俺が国難を取り除くと、再び俺の事を婿にと考え直したようだ。
だが、ハリスも才能はある。
だったら、早めに決めた方がいいだろう。
「そんなところですか」
「そんなところだ」
俺の質問にキセノンは苦笑しながら答えた。
「まあ、俺があなたの立場なら同じ事を思いつくでしょう」
「じゃあ、どうするのかね。アーベル」
私の期待に応えてくれるのかと、目は訴えている。
「俺の旅は、まだ終わっていません」
俺は自分の考えを伝える。
「俺が無事に帰ったら、テルルに選ばせればいいのでは」
「いいのか、それで?」
キセノンは驚き、俺に確認を求める。
「俺を選ぶとは思いませんが、選んでもらえるなら光栄ですね」
前の世界でも、市のイベントでゆるキャラの着ぐるみを着たときを除いて、もてた試しがなかったし、事実30過ぎても独身だった。
だったら、年頃になり、日々美しくなるテルルと結婚しても、俺は困ることはない。
問題は、テルルの気持ちだが。
俺は、テルルに秘密を打ち明ける必要がある。
テルルの知らない俺という部分を見て本当にそれでも構わないのか。
俺がテルルの立場であれば、「ひどい」という言葉ではすまないだろう。
俺は思わずため息をついた。
「うーむ、テルルもまんざらではない感じだぞ」
「普段の会話では、全然そう思いませんが」
「どうやら、君は鈍いかもしれないね」
キセノンは苦笑する。
「テルルに話しておこうか」
「パーティの連携が悪くならない程度ならかまいません」
そんな事で死亡フラグを立てるわけにはいかない。
「わかっている。娘を未亡人にさせるつもりはない」
「気が早いです」
「そうだな」
「ところで、勇者の件で質問ですが」
俺は話題を変えた。
「どうした。気になることでもあるのか?」
「随行のメンバーは俺達で問題ないですね」
「魔王を倒したメンバーを外すわけがないだろう」
「反対派はいないと?」
「お前が船を入手したこと、ソフィアの活躍でナジミの塔が奪回できたことが大きい」
わずかにいたキセノン商会の反対派も、何もできなくなったという。
「それなら、いいのですが」
「心配のようだな」
「ええ、ですから念のため協力をお願いします」
俺は、キセノンに提案する。
具体的には、勇者の武具をそろえるために必要な資金の援助要請である。
アリアハン国王が勇者に提供する装備品や資金はわずかなものである。
自分の強さにあった武具で戦う事で、冒険の経験を積むことを表向きの理由にしているが、結局は経費節減が目的である。
「わかった。資金はこちらで用意しよう」
「ありがとうございます」
「お前さんなら、自前で調達できるだろう」
「ロマリアでの在位が長すぎました」
俺は、残念そうな顔で説明する。
勇者の出発前に活動出来た期間は、結局、当初予定の半分である一年しかなかったのだ。
「一度、しっかり確認したかったのだが」
キセノンは改まった顔をする。
「ロマリア王位より優先する、お前の冒険の目的はなんだ?」
まっとうな、質問であった。
ロマリア王国在位中、魔王を撃退し、都市を開放した。
そして改革が進みつつある、ロマリア王国の国王に居座れば、たいていのものは手に入る。
それを捨てるほどに、俺の冒険は重要なのか。
「そうですね、いずれわかると思いますので、先ほどのお礼に説明しましょう」
俺は簡単に、下の世界の話をした。
「そうなのか」
「事実です。他言は無用ですが」
「それにしても、いつ気がついた?」
「確信したのは、下の世界にいく直前ですが」
さすがに前の世界とは言えないので、ごまかすことにする。
「これを調べたときに、ある程度予測をしていました」
俺は手にしていた、キメラの翼を左右に振った。
「どういうことだ?」
「俺は、キメラの翼をどうやって入手するのか知っていました」
「そうだな」
「ですが、キメラというモンスターがなぜいないのか、疑問に思いました」
「あれは、伝説のモンスターだろう?」
セレンの父親は優秀な冒険者だ。
この世界のモンスターのほぼ全てを知っている。
いないのであれば、伝説のモンスターになる。
「俺達は見ました」
「下の世界で・・・か」
「空を飛ぶことができると考えると、昔は、空を飛んで移動したと推測したのです」
「では、なぜ今はいない」
キセノンは追究する。
「魔王の存在です」
「魔王の存在?」
「今の魔王はバラモスです」
「そうだな」
「ですが、魔王は1人ではないとしたらどうします」
「1人ではないだと?」
「人間も、職業によって使用できる呪文が違うように、率いることのできるモンスターが魔王ごとに異なるのではないかと考えました」
「・・・」
「魔王の名前がバラモスだと知ったのは、神話に出るほどに大昔でもないはずです」
「そうだったな」
「理由までは確認出来ませんでしたが、下の世界にいる魔王の命令で、この世界に魔王バラモスがいるのです」
「お前はまさか」
「下の世界の魔王を倒します」
キセノンはしばらく、俺の顔を真剣に見つめてから、質問する。
「・・・。出来るのか」
「そのための冒険です」
「バラモスはどうするのだ?」
「下の魔王のほうが強力です。バラモスは帰り道に倒します」
キセノンは俺の言葉に、ため息をついた。
「そういうことか、さすが「きれもの」か」
「おだてても、何も出ませんよ」
「本当に勝てるのか?」
「実はそのために、少しご協力をお願いしたいのですが」
「・・・。ここまで、説明されたら断れないぞ」
キセノンはため息をつきながら、俺の提案を受け入れた。
後書き
鳥の名前についてはいろいろ考えましたが、ドラクエ4に「おおにわとり」というモンスターが出現することからニワトリ(現実世界の鶏とは違う)にしました。
ちなみに、「おおにわとり」が落とすアイテムは「やくそう」です。
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