ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode6 風踊り、光舞う
アスナが、驚いたように俺を見てきた。俺は、ゆっくりと立ち上がり、倒れ込む段階で既に相当に減っていたHPを回復結晶で全回復させる。一連の動作を無意識にこなしながら、アスナの無言の問いかけに答える。
「『笑う棺桶』の連中…少なくとも首領のPoHは、俺より強かった。パワー、スピード、反応速度、戦闘センス。全てにおいて、俺を圧倒していた。俺は、正直、奴が怖い。……今でも、だ。だから…」
立ち上がった後、左手に携えた燃え盛る手甲を右手に持ちかえ、そっと左腕に付けていく。感じる熱は、ますます激しさを増していく。俺自身に、あの時感じた、炎の意志と氷の冷静さが帰ってくる。
「…見せてくれ。『攻略組』が…『閃光』が、俺より強いってことを」
最後のベルトをしっかりと締める。そして、右手のグローブを外していく。力を示すための戦いに、この《カタストロフ》は不要だ。使う武器は、俺の、この拳、この体のみ。
そんな俺を…俺の目を見て、アスナの美しい顔が、すっと引き締まる。
同時に届く、デュエル申請。
「……ありがとう」
一声応えて、俺はその画面をそっとなぞる。選ぶモードは、最初から決めていた。
選んだ瞬間、アスナの顔に驚きが走る。恐らく、彼女は初めて経験する対戦なのだろう。
「『半減モード』…!? どうして…っ」
「すぐにわかるさ。なあに、心配はないよ。俺の最高の威力のスキルがクリティカルで入っても、『閃光』のHPは三割も減らないだろう。そして俺の方なら、心配いらない」
「でもっ!」
「手加減して俺に勝つのは不可能か? 少なくともPoHは、俺相手に完全に遊んで見せたぜ?」
「っ…」
なおも渋るアスナの前で、カウントが開始される。同時に俺は、ウィンドウを操作して二つの結晶を実体化させて、離れたリズベットに放る。二つの回復結晶を受け取ったリズベットは、それだけで「危なくなったら頼む」の俺の意思を読み取ってくれたようで、涙をぐいっと拭って力強く頷く。
なおも、細剣、《ランベントライト》を構えながらも迷いを見せるアスナの前で。
カウントが、徐々に減って。
――― 三
――― 二
――― 一
「っ!?」
ゼロになったと同時に飛びかかった俺のその速さに、アスナが驚愕の表情を浮かべ。
放った一撃、《ロール・スラッシュ》が、防御も間に合わないアスナの頭部を完璧に捕えた。
◆
カウントがゼロになった瞬間、アスナの反応が普段のデュエルの際よりも、ほんの一瞬だけ遅れた。だがそれは、『閃光』と謳われたアスナにとっての一瞬だ。普通の…いや例え『攻略組』のプレイヤーであっても、その一瞬の隙を見いだせる者はそうそういない。
しかしシドは、その一瞬を決して逃しはしなかった。
「っ!?」
突っ込んできたシドを見たアスナの顔が、驚愕に歪む。シドの体が、まるで冗談のように幾重にも分身したのだ。突進する影が、二重に…いや、三重にブレ、輪郭がぼやけていく。初めて見るスキルに、アスナの動きが、一瞬止まる。
その、二度目の一瞬。
それはシドにとって、大技を放つに十分な隙になった。
薄赤いエフェクトフラッシュを纏った回転蹴りが、強烈にアスナの側頭部を捕え、吹き飛ばす。ダメージ軽減のために咄嗟に横に飛んだが、間違いなく強攻撃。アスナの頬に、有るはずの無い冷たい汗が伝ったように錯覚する。これが『初撃決着モード』だったなら、この一撃で勝負はついていた。
(手加減できる相手じゃ、ない!)
アスナの迷いが、一気に消えていく。
この相手には、一瞬でも気を抜けば、負ける。
完全に戦闘モードへと切り替えたアスナが、細剣を構えてシドの方を向く。
その時に、シドは、そこにはいなかった。
「っ!!!」
咄嗟に、脳に走った勘に従って剣を振う。
その鋭い斬撃が、死角を突いて振り抜かれたシドの拳と交錯した。
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