アルジェのイタリア女
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第一幕その七
第一幕その七
「アッラーよ、お救い下さい」
「さてと」
ムスタファはここで意地悪の最後の仕上げに入った。
「これリンドーロよ」
「は、はい」
リンドーロはその言葉に慌ててムスタファに応える。顔をイザベッラから離した。
「ここに呼んだのは他でもない」
「どのような御用件でしょうか」
「実はな、そなたを幸せにしてやろうと思ってな」
「私をですか」
「そうじゃ。どうじゃ?」
「はあ」
「何じゃ。嫌なのか?」
リンドーロの顔が晴れないのにすぐに気が付いた。
「いえ、そうではないですが」
「ふむ。だといいがな」
そうは言いながらも内心それでほっとしていた。彼もエルヴィーラと別れるつもりはないからだ。
「では何が欲しいのじゃ?」
「何と言われましても」
これといってはないのだ。
「今のところは」
「ふむ、そちは無欲じゃな」
「旦那様」
そしてすぐにイザベッラが話に入って来た。
「今度はそなたか」
「私には欲しいものがあるのですが」
彼女は一礼してから述べた。
「宜しいでしょうか」
「うむ、申してみよ」
彼は鷹揚な仕草でそれに頷いた。
「何でもよいぞ」
「ではこちらの従者を一人私に」
「従者をか」
「今目の前にいるこのイタリアの若者を」
「あら、考えたわね」
ズルマはそれを聞いてニヤリと笑った。
「彼を囲おうってのね」
「そうなのか」
ハーリーはそれを聞いて二人をまた見た。
「ええそうよ。やっぱり恋人同士ね」
「成程、それでとりあえずは手許に置いて」
「そこからまた何かするわよ。面白くなってきたわ」
「何か嬉しそうだね」
そんなズルマのうきうきとした顔を見て言った。
「どうしたんだい?」
「だって御妃様にとってはいい展開だから」
「そういえばそうか。けれどどのみち旦那様は本当は別れる気はないぜ」
「それでもよ。御妃様に意地悪するのはやっぱり」
ズルマはここでは顔を顰めさせた。
「許せないわよ」
「相変わらず御妃様一筋ってわけか」
「そういうこと。御妃様の為なら火の中水の中よ」
それがズルマの心得であった。その心のまま話の流れを見守っていたのである。
「旦那様」
イザベッラはここで切り札を出してきた。思い切りの微笑をムスタファに見せてきたのだ。
「それでは」
「うむ」
ムスタファは頷く。その後ろにはズルマとハーリーがいる。
「さて、これで舞台は一つ進んだわ」
「吉と出るか凶と出るか」
「出すんじゃないわ」
ズルマはハーリーにそう返した。
「するのよ。わかったかしら」
「了解。それじゃあ」
「御礼は後で弾むからね」
「別にいさ、それは」
だがハーリーはにこりと笑ってこう言うのだった。
「あら、どうして?」
「こっちもこっちであの素直でない旦那様の為に動いてるからな」
「そういうことね」
「ああ、じゃあな」
意気揚々とリンドーロと共にその場を後にするイザベッラ。そしてその後にはタッデオがついてくる。ムスタファは相変わらず鷹揚な態度は変わらずズルマとハーリーはそれを後ろで見守っている。悲しんでいるのはエルヴィーラだけ。けれど彼女の周りには人が大勢いた。
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