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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第二十四章 変化の始まり《4》

 
前書き
 日来が上昇! 気分上昇! イエーイ!
 ……ス、スタート。 

 
 盆地の穴を覆うように南北に四列、東西に五列の巨大な四角形が宙に広がっている。
 加速機を底から噴かせて、機械の息吹きを吹かせる。
 広がっている区域とは別に空を行くものがある。
 黄森の戦闘艦だ。
 ワイバーン級はその小型ゆえに素早く上空へと回り込めたが、ドラゴン級は三百もある機体が仇となり上昇する区域を避けるのに精一杯だった。
 日来の変形を阻止しようと砲撃は行ったが、効果はやはり無い。今はただ変形を眺めているだけだ。
 こんな空に一人の女性の声が聞こえた。
 冷たく、感情の無い機械の声だ。
『――では初めに、拡張空間を開放して下さい』
『了解。拡張空間開放に支障無し、開きます』
 “日来”の声に、機械人形の誰かが答えた。
 宙に表示されてある映画面|《モニター》からは、変形の作業を行っている機械人形が映る。
 それら全ての動きが一斉に止まったとき、空に波紋が広がった。
 風の流れ、煙や雲の移動ではない。
 空間の歪みだ。
 拡張空間とはその名の通り、規模を広げた空間のことだ。この世は人類が住むこの現実空間、神々が住む神域空間、そしてこの二つの狭間に存在する拡張空間の三つに別れている。
 そして拡張空間は上位神が保有ゆる固有の空間。この拡張空間を使用するためには、宗譜|《スコア》で信仰対象とされている神を祀る他無い。更にはこの拡張空間は神の力に比例して、広くも小さくもなる。
 日来は万象宗譜|《トータルスコア》を信仰しており、信仰対象の神はアマテラスのみだ。だから拡張空間はアマテラスが保有するものである。
 この空間の歪みは、現実空間に拡張空間が繋がる合図だ。
 波紋は定速で広がり、最後の波紋が広がり消えた後。
 空間が縦に裂けた。
『アマテラスの保有拡張空間の開放を確認。続きまして、変形パーツの取り出しをお願い致します』
 予定通りの時間で、“日来”は次の指示を出す。
 機械人形達はそれに応答。拡張空間から変形パーツを取り出す作業へと入る。
 空間が裂けたのは東西南北に二つずつ、割れたとも取れる光景で出来た黒い穴。
 奥も同じく黒に染まり、暗黒と言う言葉が似合う。
 その八つの暗黒から幾つもの白や黒、銀のパーツが現れる。大小様々だが、それら全ては日来を変形させるためのものだ。
 機械人形達が重力力場を操作し、拡張空間に収納していたパーツを引き出す。
 空には金属のパーツが、区域からある程度の距離を置いて停止している。
 そして再び“日来”の声が飛ぶ。
『変形パーツの一部取り出しを確認。各区域はこれより変形を開始致します。
 やっとと言った感じですね、皆様もう少し頑張って欲しいものです。あ、この皆様は皆様のことではなく機械人形のお仲間様の方の皆様ですので皆様お気になさらず』
『皆様皆様、て普通区別付かないと思うんだけど』
『皆様は皆様ですので。あ、手が滑って――』
 “日来”は背後に立つ榊の方へ、視線を向けずに拳を振る。
 映画面から空気を断つ音と中年の悲鳴が聞こえた。
『何が拳が滑っただよ! てか老人殴るなんて酷すぎるだろ!』
『は? 何言っているんですか、頭に巣食う虫を丁寧に駆除しようとしたまでですが。
 ま、人類も虫と同格ですがね……』
『ちょっと、最後のは半目で目を逸らして言っちゃ駄目でしょ』
 言いたいことを言い放題の機械人形を榊は指摘する。
 毎度毎度自分は苦労するな、と榊は自分自身に同情のため息を送る。
 何処に隠れているのか、身の隠す榊と機械人形達は映画面越しに外の様子を伺いながら着々と変形の準備をする。
 これまでの会話の空気を断つように、ここで一つ咳払いをした後に“日来”は閉じた瞳を開く。
『それでは本格的に変形へと移ります』
 この言葉に機械人形達は身構える。
 変形時の衝撃で振り落とされないように、区域内に存在するあらゆるものに重力力場を発生させる。
 重力力場とは名の通り、重力の力が働く場所だ。
 重力も流魔が生み出している現象に過ぎない。ゆえに気体中の流魔に干渉することで、重力そのものを操ることが出来る。
 一般的には系術や加護により使えるのだが、機械人形には作業の効率化を求めたため、身体にその力が組み込まれている。
 束となり使うことで巨大なものでも、どれだけ距離が離れていようとも重力を操ることが出来る。
 区域を宙で支える加速機の唸りがより一層強くなり、大気を動かし風を生み出す。
『各区域担当の者達は変形開始時から最後の仕上げのドッキング位置まで移動。その移動中に変形を完了させて下さい。
 では、始め――!』
 貿易区域・計四、産業区域・計四、居住区域・計四、生産区域・計五、外交区域・計三。
 合計二十の区域が一斉に行動を開始した。
 船へと変形するため不必要な装甲や部品をパージ、四角形の形が徐々に長方形の船へと変わっていく。
 パージしたために空いた箇所へ変形パーツが結合、一隻の船の形となりつつある。
 パージされ落ちるパーツは機械人形が重力力場により拡張空間へと収納させ、その後に新たなパーツを引き出す。そして引き出したパーツは周りに漂う戦闘艦を払うように、わざとパーツを大振りに動かしそれを払う。
 パーツが離れ、結合される度に揺れと轟音が発生し、日来の地を賑やかす。
 切られるように区域のパーツを取り外し、そこへ新たなパーツがまた結合される。
 住民は全員が安全な場所へと避難しているため、作業は手早く進む。例えまだ避難が住んでいない住民がいたとしても、安全を確認してから行っているので心配は無いし、重力力場で急遽避難させることが出来る。
 区域は堂々とその存在を証明するように大きく形を変え、変形という変化が続く。
 それは西二番外交区域も例外ではなかった。



 日来の区域が大きく三列、間に別の区域が並ぶように移動しているなか、ここ西二番外交区域社交領は呑気ともいえる空気が流れていた。
 この空気のなかで、先導に立っているのは日来覇王会会長のセーランだ。
「これは壮大な変形だな。イメージ映像よりも実際に見た方が迫力伝わるぜ」
「急に故障とかないよな」
「それ言っちゃ駄目、本当に起きたらどうすんの」
「あ、うん……すまない」
 空気を読まない発言に飛豊は謝罪する。
 今のところは変形には異常は見れない。この区域も変形がなされ、遠くに見える建物が下へ落ちるのも見えた。
 正方形の形では停泊所の関係などで不都合なため、長方形へと変わることでその問題を解消する意味もあるのだろう。
 なんせ十キロもあるんだからなあ。
 変形時の衝撃を重力力場によって身体が支えられているなか、飛豊は視界に見える変形を眺める。
 この巨大なもので世界を巡ることになるのだ、上空にこんなものが現れたらさぞかし皆は驚くだろう。
「あの、いきなりですがよろしくて?」
 申し訳無さそうに肘を曲げてネフィアが手を挙げた。
 セーランに向けられた問いに、本人は軽く返事をして許可した。
「ここまで意外と順調に進んでますが、辰ノ大花へはやはり海側からですの?」
「それも一つの手。それ以外にもあるんだろ」
「当たり前でしょ」
 答えたのはレヴァーシンクだ。
 暇潰しに読んでいた小説から目を離し、視線を前に向ける。
「それは何ですの?」
「霊憑山を飛び越える」
 さらっととんでもないことを言った。
 何故か。理由は簡単、霊憑山は山神が集う場所だからだ。
 この時代、神の住み場を横断するなど外道中の外道だ。
 中二病の考えることは理解出来ませんわね。
 恐るべし、と中二病の恐ろしさを知った。
「ですが霊憑山には山神が集う場所。横断したならば天罰を食らうのではないかと」
「アマテラスを盾にすれば解決」
「さ、最悪、この中二病最悪ですわ。神を盾にするなど、神社の巫女として何か言うことがありますわよね!?」
「え? 良い考えだと思いますよ。でも私まだ巫女候補なだけで巫女ではありませんよ」
「この巫女も最悪ですわ……」
 神社の娘がこれでいいのかと思う。
 この日来にはまともな考えを持つ者が少な過ぎると改めて感じ、今後の行方が不安になる。
 だが、霊憑山を横断するのは問題だが考えとしては評価出来る。
「霊憑山を越えれば奥州四圏はすぐそこですが。まあ、仮に無事に霊憑山を越えられたとしましても、まず初めに南の朱雀。朱鳥天が盛大なお出迎えをしてくれるでしょう」
「朱鳥天は黄森と繋がってますからね」
「恋和は朱鳥天の出だったね」
 ええ、とレヴァーシンクに答える。
 しかしここで何故、と問うのは禁止だ。日来にいる殆どの者は訳有りで、ここへ流れ着いた者達だ。その訳は本人が口にするまで誰も問わない、というのが日来の暗黙のルールだ。
 笑みの恋和は言葉を発する。
「それはさておき、もし朱鳥天と交戦になった場合彼方は時間稼ぎとして戦闘を長引かせると思うんですよ」
「朱鳥天には黄森と違って神騎がある。時間稼ぎなどしないで日来を潰しに来ると考えられるが?」
 言ったのは顎の獣毛を弄っているルヴォルフだ。
「空中戦になったらアタイとマギトが先陣切ることになるね」
「でも、マギトも入直も長時間は戦えないよ」
 微笑顔のマギトが言う。
「ペアのいない魔法術師はそれだけで戦うのには不向きだし、入直の神騎もエネルギーが無限ってわけじゃないしさ」
「アタイの神騎は陸空装備だから燃料がその分余分に食うんだよ。作業用神騎を使おうにも、戦闘用神騎にとってはウザったいハエ程度の存在さ。部品だけ失われるだけならだしも、機体ごと失ったら機械部はお仕舞いさ」
 機械部のお仕舞いは日来のお仕舞いだ。
 陸にいたときならばどうにかなったと思うが、空に浮いたまま今後は日来の修理していくことになるだろう。
 そうした場合、人では行けない場所も存在するため作業用神騎はそのときや、別の用件でも使うことになる。
 これらの理由から、やはり作業用神騎を戦闘に出すのは難しい。
 だからと入直は思った。
「魔法術師が空中戦の中心にならざる終えないね」
「そうなるよね。でも魔装備出来るのはマギトしかいないから、本当は戦わせなくないなあ」
 眉を下げるマギトの言うことは分かる。しかし、それでも頼らざる逐えない。
 悩みの空気が流れ始める。が、ここで離れた所で黙っていた社交院が入ってきた。
「まあ、一番は東の辰ノ大花に直で行くことですな」
 茶色の着物を着ている倉澤が空気を断つ。
 皆、会議場の端にいる社交院の方を向く。
 一斉にこちらを向いた学勢に少々驚き、何か言わなければならない雰囲気になった。
 額に汗をかきながら、ええっと、と言葉を置く。
「やはり海側から迂回して行くのが良いと考えますが、これだと時間が掛かり海岸際に戦闘艦を配置出来る時間を彼方に与えてしまう。……ううん、難しい選択になりますなあ」
「霊憑山を越えて朱鳥天の出迎えを望むか、海を航行し海岸際に配置された戦闘艦と戦うか、か」
 葉木原はこちらに選択させるような口調で言った。
 ここにいる三年一組の視線が自然と覇王会である者達の方を向いた。
 こういったときのための覇王会だ。社交院の四人も異論は無いと、黙って見ている。
 ここは覇王会として判断しなければならない。
 飛豊は視線を覇王会会長であるセーランに向けた。
「お前はどう思う」
「そうだなあ、普通なら山神が許しくれる範囲ギリギリを横断するのが理想的だけども、ぶっちゃけ霊憑山の山神はなかなか人と関わろうとしないからそれに時間掛けるわけにはいかないんだよなあ」
「宇天長の解放開始時間は午後五時から、今は午前十一時二十分。時間掛けてもよさそうな気が」
 飛豊が言ったことには一理ある。その考えが普通だ。
 社交院との会議は長引くと予想していた飛豊にとっては、予想以上に早く会議が終わった。
 海を渡って辰ノ大花へ向かっても、最大出力で移動すればそう時間は掛からない。
 疑問符が頭に浮かぶ。
「それもそうなんだけど、宇天の長救ったら今度は他国へ渡ることになるからさ」
「そうか、なるほどな」
 外交関係に詳しい飛豊には容易く理解出来た。
「今や日来は神州瑞穂所属と言えども何するか分からない存在だからな、時間が経てば他国は万が一のために日来の対策を練ってくる。だから対策を練られる前にいち早く行動するということか」
「分かってるねえ。やっぱり飛豊は理解が早いな」
 だが辰ノ大花へどのように行くかの解決にはならない。
 考えたが、諦めた様子でセーランが頭を掻く。
「もうどうでもいいや。この際その時の気分次第でいいだろ」
「いいわけあるか、葉木原さんよくこんな奴を会長にしましたね」
 後ろにいる葉木原に、飛豊はセーランに親指を向けた。
 覇王会会長になるには社交院の許可がいる。他に色々とあるのだが、最終的に決めるのは社交院だ。
 嫌み混じりの言葉を吐いた飛豊に向かって、鼻で葉木原は笑った。
「そういう馬鹿みたいなのは案外何を考えているか分からない。ならそういう者を選ぶのは当然のことだ、そうだろ?」
「確かにそうですね、皆から馬鹿呼ばわりされてますし」
「本日三回目、馬鹿設定は無しって言っただろ」
「お前に馬鹿が外れたら何が残るんだ」
「ひ、飛豊お前見掛けによらず鋭いな」
 自身も自覚はしているようだ。
 胸に手を当て、心の傷を癒すセーランは笑っている。
 だが、葉木原の言う通りだ。彼が何を考えているのか分からないときが時々ある。
 日来を残すことは葉木原の代から決まっていたが、辰ノ大花の宇天学勢院の覇王会会長を救うことを決めたのはセーランだ。
 好きだから、が理由だろうが何故かそれだけでは物足りないような気がする。
 裏に何かを隠しているような、そんなはっきりしないものを感じる。宇天の長を救えば辰ノ大花が日来独立に協力してくれるかもしれないと、最もらしい理由を付けてはいるがそれだけなのか。
 疑いに意識が集中しているのを感じ、飛豊は頭を横に何かを払うように振る。
 あいつが何をしようともそれは日来を思ってのことだ。心配は無いさ。
 自分にそう言い聞かせる。心配があるとすればそこではなく、自分を容易く犠牲に出来るところだ。
 犠牲になどさせないために、自分達もしっかりしなければならない。
 笑うセーランを見て、飛豊はそう思った。 
 

 
後書き
 いきなりですが、作中にも出てきましたがこの世には空間が三つ存在します。
 人が生きる現実空間。
 神がいる神域空間。
 上位神が保有する、現実空間と神域空間の間にある拡張空間。
 ――です。
 これらは別に覚えなくてもいいです。物語にそんな重要ではありませんから。
 そして機械人形達が使った重力力場。
 これは重力を操るといったなんやら凄い力です。
 系術や加護で誰でも出来ますが、機械人形にはこの重力力場を使うための術式が身体に刻まれています。
 つまり身体が壊れると重力力場は使えなくなる、と言うことです。
 次回も日来の変形回です。 
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