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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第二十三章 変化の始まり《3》

 
前書き
 変化の始まり、それが意味するものとは。
 物語スタート。 

 
 円陣を組む学勢のなか。その内の一人がセーランの方を向いた。
「なあ、セーラン。“日来”って機械人形なんだよな、初めて本物を見るから人と見分けがつかない」
 飛豊だ。長く伸ばした黒髪を揺らして、円の外にいるセーランの方を向いた。
 他にも円陣の外にはネフィアや、ルヴォルフ、覇王会指揮官とその補佐の四人がいる。
 獣人と半獣人は社交領の建物の屋上で、自身の視野を使い日来の様子を確認している。ついでにと砲撃の着弾地を予測し、映画面|《モニター》で散らばっている学勢や社交員らに情報を飛ばしている。
 砲撃は加護が無ければ基本的直線に進むため、動体視力が良いものはある程度の予測は着く。
 指揮官ことアストローゼと、補佐のニチアはその役職らしく学勢達に指示を飛ばしている。度々関係の無いことが聞こえてくるが、そこを気にしたら負けだろう。
「どう見ても機械人形だな、あんな人がいたら怖いわ」
 セーランの声がこちらに届くまでは他のことを考えていた。
 慌てて意識をセーランに戻す。
「さすがの俺にも社交院が詳しく教えてもらえなくてな。社交院の方が詳しいと思うぞ」
「ならば時間潰しに聞かせてやろう」
 そう言い、葉木原が会話に加わった。
 映画面を表示したまま、顔だけをこちらに向けた。
「お前達も聞いておけ」
 葉木原は円陣を組んでいる生徒や、円陣から離れている生徒に向かって言う。
 その言葉に皆は社交院の方へと、体や視線を向けて聞く準備に入った。
 他所は他所で、こちらはこちらが今出来ることをする。
「知っている者もいるだろうが、彼ら機械人形はここ最近の技術の進歩で産み出されたものだ。機械人形を簡単に説明するならば自動で動く機械だな。
 彼らは独自で物事を考え、自立して物事をこなすことが出来る。他国では既に国力として配備しているところもある」
「確か大地埃及|《アルドエジプト》が配備したんじゃなかったのかな?」
 グレイがそう言い、正解だと葉木原は頷いた。
「その通りだ。大地埃及は浮遊島であるため、艦が主な戦力となる。操縦に人員を取られれば戦闘に支障を来すと考え、機械人形の導入に踏み込んだわけだな」
「しかし何故秘密にする必要が?」
 飛豊が疑問を投げ掛ける。
 別にそんなことをしなくてもいいのではないか、そう思ったからだ。
 これに答えたのは葉木原ではなく倉澤だ。
「日来は武装禁止ですからな、機械人形の製造自体が秘密裏でやっていわけですよ。まあ、許容の範囲内で長には話しましたが」
「機械人形作ったから宜しく、程度だったけどな」
「他に話せることがありませんでしたからな。耳に入れておく程度で良いかと思ったのですよ」
 カバのような顔を縦に振りながら、口を動かした。
 軽すぎだろ、と思ったが相手は先輩だ。誠意を示さねばならない。
 突っ込みたくなったがここは我慢した。だから代わりに口を動かすことにする。
「大体何体いるんだ、機械人形は」
「一応今は三百体程度ですかな。これが作れる限界だったので」
「まあ、幾ら技術に特化している日来でも今後のことを考えるとそれが限界か」
 機械人形は神騎と同じ価値があるため、作るのに必要な材料は必然とレアなものとなる。しかし、日来の修理のことも考えるとあまり多く作ることは出来ない。
 これから増やせるかは分からないが、今はこの数で事足りる筈だ。
 耳障りな砲撃の音が気になる。苛立ちから頭を荒く掻いた。
「全く空がうるさいな」
「頑張って頑張ってえ、残り一分半だよ」
「なんか上機嫌だなお前」
 左右に軽くマギトが揺れている。機嫌が良いときはこうなるので目印だ。
 何時もの笑顔のまま、翼人族特有の背に生えている翼も軽く動かしている。
 何かするのかと思ったが、そうではないようだ。
「だって久し振りに全力で翔べるかもだからねえ」
「翼人族はある程度翼を使わないとストレスを感じるんでしたっけ」
 美兎が言う。
「そうなんだよ、あまり高く翔ぶとお叱り受けちゃうからね。戦闘なら自由に翔んでも大丈夫」
「お前そんなに争い事好きだったか?」
「こう見えて案外たぎる方」
 以外な答えだ。マギトは女性らしいところしか見たことがないので、勝負事に熱くなるとは男らしいところもあるのだと思った。
 自分は戦闘はなるべく避けたい。戦う力も無いし、気力も無いからだ。
 辰ノ大花では戦闘に巻き込まれないようにと、心のなかで祈った。
「ねえ、何だか地面揺れてない?」
 テイルが地面を指差した。
 皆は地面を見て、揺れを確かめるように黙り込む。
 耳に遠くから音が届くがこれは違う。五分間の戦いで発せられている声だ。空からは艦の加速機の音が響く。
 だが地震の予兆なような、微かな揺れは微弱ながら感じられる。
「一分近くなってるからね、起動の準備に入ったんだろう」
 目を細めた笑みのまま、神崎が地面を見ながら言った。
 黄森の方はさすがに焦りの色を見せ、今まで以上の勢いで攻めて来る。
 この社交領にも艦の砲撃や、隊員が迫って来たが砲撃は防御壁で、隊員はセーランが流魔操作で隊員を流魔線に繋いで遠くへ投げ飛ばして防いでいる。
 しかし時間が経つにつれ、ここへも良く攻めてくるようになって、やけになったセーランが流魔線で乱舞をかましている。
 皆はそんなセーランを他所に、地面の揺れを確かめながら残りの時間を過ごす。
「よく気が付きますね。この一組で一番背の低い私でも気付きませんでしたよ」
「物事の変化には敏感なのさ!」
 小柄なロロアにテイルが自信たっぷりに胸を張る。それに関心してか、おお、とロロアが声を漏らした。
 微笑む程度に皆は笑う。
 こんななか地面の揺れは徐々に大きくなり、揺れはこの場にいない者達にも確かに伝わった。
 ある者は地震ではとか、ある者は崩壊の進行が始まったのかとか、そして物事をきちんと把握している者は日来が動くのだと脳裏によぎった。
 そして一回、地面が跳ねるような大きな揺れが来た。
「じ、自分の肉が激しく揺れていますよ!」
「天布の肉という肉が激しく上下して、あんた誰ですか状態ですよ――!」
「美兎が壊れたわ! お調子巫女がぶっ壊れ巫女に昇格よ!」
「灯殿の胸が上下して美琴殿にアタックしてるで御座るが」
「揺れる巨乳は眼福だ」
「駆逐!」
 皆が揺れでおかしくなるなか、テイルの足蹴りを腰に受けたグレイが遠くへ吹き飛んだ。
 揺れが日来全土に広がり、この揺れは各区域に混乱をもたらした。
 共鳴するかのように揺れは止まることなく、揺れに対して揺れで押し返す。
「さすがにこれはやり過ぎだと思いますわよ!」
「派手好きなのか結構なことさ!」
「入直は豪快なのが好きだからね」
「……それには同意だ……」
「継叉とジューセンは至って冷静ね」
「そんなお前も同じだな」
 揺れをものともしないトオキダニが、同じく激しく揺れながらも余裕な恋和を見る。
 そんなトオキダニの背には、左に髪を縛ったサイドテールの空子がしがみ付いている。
「角張ってて乗り心地最悪ダ」
「機竜系破族は皆こうだ、この良さが解らぬとはな」
「誇れるのは頑丈さだけネ、少しは学ぶんだナ」
「この程度の揺れで慌てているような、ちっぽけなお前とは違うからな」
「リュウは浮いてるから分からないぞー」
 小さい辰型の竜が、宙に円を描きながら飛んでいる。
 地面から離れているため揺れの影響が無く、それは上空にいる戦闘艦も同じだ。
 突如の揺れにより、彼方は下手に動かず空に漂うだけだ。砲撃も効果無しと判断したのか何時の間にか止んでいた。
 地震のような揺れが続くなか、日来全土に映画面が表示された。
 それが告げるものは、
『準備完了致しました。皆様、防衛ご苦労様です。これより日来は上昇し、船へと変形を始めます』
 五分間の戦いは終わった。
 機械人形である“日来”が映る映画面が幾つも表示され、日来の後ろには榊が立っている。しかし先程までと違う所がある。
 二人の後ろ。明るく照らされ、そこには無数の機械人形が自身の役目を果たすべく、各自日来の変装の準備のために映画面に指を走らせている。
『安全確保のため重力力場を発動。敵様も含む皆様、日来はこれより上昇致します。バランスを崩さぬよう、万が一のため固定されたものなどを掴み揺れに備えるようお願い致します』
 それでは、
『日来、上昇致します』
 この声と共に日来は空へと上がっていく。



 日来の各区域に発生していた揺れは消え、代わりと言うように唸り声のような音を立てて上昇を始めた。
 巨大な四角形のそれは一斉に浮き上がり、砂煙を立たせ吹き飛ばす。
 地上に残る大道は上昇の際の衝撃により崩れ、区域のあった四角形の穴のなかへと崩れていった。
 黄森の戦闘艦はこの異常事態に黄森へと連絡を飛ばし、何とか食い止めようと砲撃を再開するがやはりと言うべく防御壁で防がれる。
 映画面|《モニター》に映る機械人形の仕業だとすぐに解ったが、如何せんドラゴン級戦闘艦の強化された主砲を防ぐ壁をどうにかするなど、今の自分らではどうにも出来ないことは解りきっている。
 ただ、しかし、どうにかしたい気持ちと諦めたくない気持ちが自分達を動かす。
 敵には敵の、自分達には自分達の譲れないものがある。それで一人の少女を殺すことだとしても、それが悪だとしても、それは自分達を守るためなのだ。
 砲撃が放たれる度、隊員達の雄叫びが響く。
 貫けと、破壊しろと、越えて行けと。
 対するように数メートル上昇した日来の各区域を守るように、防御壁が表示され砲撃を受け、衝撃を殺して自身は拡散する。
 青い塵が雨のように地上に降り注ぐ。
 五分間の戦いが終わっても、まだ戦い自体が終わったわけではない。上昇する各区域にいる隊員は制圧行動を続行している。
「俺達が諦めるわけにはいかねえんだよ」
「そうだ! 行くぞお前ら!」
「「お――!!」」
『『お――!!』』
 隊員の誰かが声を上げ、映画面で仲間達の士気を上げる。
 上昇で生じる轟音に負けず、その声は離れた区域にも届く。
 士気が上がり、動きが良くなる敵を日来の学勢や社交院の者達が必死に食い止める。
 取り押さえられた仲間も、日来の上昇で生まれた隙を突いて幾人か助けることが出来た。
 だが士気が上がっている彼方を防ぐのは容易いものではなかった。
「俺達も負けてられねえぞ!」
「学勢の力、見せ付けてやるよ」
「社交員も若者に劣るなよ!」
「押して押して押しまくれえ!」
 こちらも士気を高める。
 日来勢は防御盾を展開し、迫る黄森の隊員を押し返す。力で押す日来勢に対し黄森も力で盾を押し返し、若い隊員は仲間の背を踏み盾を飛び越えて行く。
 高さは数十メートル以上に昇り、なおも区域は上昇を続ける。
 穴の空いた日来があった土地には区域の改造の後が見られ、その証拠に穴の底まで金属で土を固めている。
 四角形の区域の底には巨大な加速機が装備されており、大出力で大気を下に押して自身を上へと押し上げる。
 上に行くために生まれた衝撃は機械人形が重力力場を操作し、あらゆるものが衝撃により振られ落ちないように支える。
  見えないものに支えられているような不思議な感覚を得ながら、景色が下がっていくのを見た。
『予定の高さに達したと判断出来ます。続きまして、日来の各区域は隣り合った区域と距離を取るべく横移動致します』
 映画面映る何一つ表情を変えない“日来”が口を開いた。
 この言葉の後に、各区域は上昇を止めて隣り合った区域から離れるように横へと低速で移動した。
 今度は景色が横へと流れる。
 盆地の穴を覆うような、そんな風にも見える。
 巨影を地上に映し、区域と区域の間を徐々に広げていく。
 その幅は百数メートル。近くにあった区域が今では小さく見える。
 “日来”は息を吸うように肩を上げて、
『横幅十分に確保したと判断出来ます。それでは皆様、これより日来は航空船へと変形を行います。変形時には激しい揺れや大きな音が発生すると判断出来ますので、皆様ご迷惑をお掛けます』
 深く一礼し、
『変形にはそう時間が掛からないと判断出来ます。が、黄森の介入次第では若干の誤差が生じると判断出来ますのでお許し下さい』
 今度は軽く一礼。
 動きが停止した区域は、次のステップへと移るときを今か今かと加速機を噴かせている。
 だからと、“日来”は次のステップへと移行させる。
『では、皆様安全第一でお願い致します』
 真っ直ぐに向けた視線をそのままに、
『総員、変形を開始して下さい』
『『――了解』』
 機械人形は返事をしながらも、手を休めることなく素早く動かす。
 加速機が唸るなか、巨大な区域は変形を開始した。 
 

 
後書き
 日来が浮かびました。
 え? と疑問を持った方がいると思いますがそう言う設定です。ご了承下さい。
 長い間、日来は奥州四圏の人形状態で貿易や生産やらをやらされていて軍事活動は実質出来ない状況でした。
 そこで少しは日来のためにと技術に力を注ぎ、奥州四圏の目が鋭くなるも何のその。
「これ兵器じゃね?」
「いやいや、これは日来独自で開発した新しい家具ですよ。兵器じゃねえから平気、なんつってな!
 あれ? 反応悪いですね」
 など言い訳を言いつつ、技術に力を入れているのを誤魔化していました。
 技術の進歩=兵器の製造、と捉えられるから誤魔化していたわけです。
 つまりは日来は技術面で案外強いわけで……。
 それでは、また次回。 
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