ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
マイの正体
「マイちゃん、そろそろ教えてくれないかな。君は何者なの?」
レンのその問いにマイは長いこと黙っていたが、口を開く。
「レン。本当はね、マイはホントに何も覚えてなかったんだよ。だけどレンが守ってくれた時に、少しだけだけど思い出せたの」
「……あの時の………」
あの狂った時間の中の出来事を思い出しつつ、レンは言う。
マイは彼女らしからない真剣な面持ちでこくりと頷き、続ける。
「あの時、マイは中央サーバーであるカーディナルに直接アクセスしたの。それで、欠陥していた記憶データを復元したんだよ」
「記憶データって……。やっぱりマイちゃん、君は人間じゃないんだね。たぶん兄ちゃんが開発した、人口フラクトライト………?」
レンの問いに、マイは金と銀の美しい瞳を閉じて再び頷く。
「正しくは、人工高適応型知的自立存在。A.L.I.C.Eなんだよ。あなたの兄に創られた、人間であって人間でないモノ……」
「………………………」
黙り込むレンに、真っ白な少女は悲しく微笑みかける。
「レンは何も悪くないんだよ。と言っても、悪い人なんかどこにもいないんだけどね」
「………………ごめん」
思わず謝ってしまったレンに、純白の少女はもう一度微笑みかける。
その笑みは見たこともないくらい、美しく、大人で、痛々しいものだった。
場の空気を切り替えるように頭を一振りし、マイは話を変えた。
「ねぇレン。レンはあの空間のことを覚えてる?」
「そりゃあね」
はっきりと覚えてますよ、ハイ。大抵のことは慣れたと自負していたが、あれにはビビッた。
「レンはあの空間をどう思った?」
「あれは……」
そう言いつつ、あの時のことを脳内でプレイバックする。
停止と言う言葉が浮かぶが、すぐにあることを思い出す。最初に見たときに空中を飛んだまま停止していた蝶の位置が、微妙だが変わっていたことに。
「……時間を止めたんじゃあないんだね、あれはたぶん、時間を停止したんじゃなくて、ゆっくりさせただけ。だけど、その度合いが物凄く遅いから、止まったように見えていただけ……?」
「正解なんだよ。あのシステムもあなたのお兄さん、小日向相馬が創った物」
「兄ちゃんが、あれを創った!?」
レンの動転した声に、マイは三度頷く。
「あのシステムの名前はブレイン・バースト・システムって言うんだよ。正式名称はFLA、フラクトライト・アクセラレーション。あなたのお兄さんが、あなた達SAOプレイヤーに託した、唯一の神に抗える力………」
「アクセラレーションって………加速?」
「そう。BBシステムは、使用者の脳内にあるフラクトライトにアクセスして、思考クロックを理屈上はほぼ無限大に引き上げられるんだよ。要するに、思考を無限大に上げられるの。そしてマイはその発動キーと言ったところかも。BBSCP試作一号、コードネーム《Mai》。それがマイの本当の名前なんだよ」
「…………………………………」
ここまできて、さすがにレンの脳の処理能力が白煙を上げ始めているのだが、それはおくびにも出さずにレンは事務的に淡々と語っているマイに問いかける。
「そこまではどうにか解かったよ。でもマイちゃん、でもそんな魔法みたいなシステムに、何で発動キーがいるの?そんな凄いシステム、普通にパブリック公開したほうが、攻略はずっと速く、死者も出さずにすんだのに」
今だったら、ブレイン・バースト・システムの凄さがはっきりと理解できる。
時間を停止ではないが、ゆっくりさせると言うことは、逆に言えば状況判断能力が飛躍的に向上すると言うことだ。何せその状況状況、モンスターの一挙一動を見、次の動きを考えるという、本来の戦いの中ではコンマ一秒以下しか与えられないその時間を文字通りほぼ無限に与えられるのだ。
そんなトンデモ能力を得られたのなら、これまでのボス戦での死者は一桁……いや、ひょっとするとゼロになったかもしれないのに。
レンのその思考が解かっている訳はないのだが、マイは苦笑した。
「簡単だよ、レン。強い力には、必ずそれ相応のリスクがあるからなんだよ。言うなれば……諸刃の剣ってとこかも」
「諸刃の剣………」
不穏なその単語を、レンは口内で噛み締める。
「本来、人のフラクトライトに干渉するって言う事は、必ずそれなりの機械が必要なんだよ。それを小日向相馬はナーヴギアでやってのけたの。たぶん、ナーヴギアの中に極小のフラクトライトを読み取る追加デバイスを仕込んだんだと思う。だけど、いかな《鬼才》でも不可能なことはあったんだよ」
「不可能なこと………?」
あのタイムマシンでも涼しい顔して作ってしまいそうな兄にもできないことがあったのか。そっちのほうがレンには驚きだった。
「脳細胞と通信するナーヴギアと、フラクトライトに干渉するBBシステムは相容れないものだったんだよ。結果的に、BBシステムには致命的なラグが生まれてしまったんだよ」
「ラグ?」
レンの言葉に、マイは頷く。
「FLAってシステムは、フラクトライトのみにアクセスするから脳細胞へのダメージは絶対にありえなかったの。だけど、ナーヴギアっていう本来相容れないもの同士が合体しちゃったから、本来起こらない、使用者への脳細胞ダメージっていうものが発生した」
「そうか!あの時、突然僕の頭が痛み出したのは………」
レンの言葉に、マイは悲痛そうな表情をする。今にも泣き出しそうな。
「そう。あの時、レンの脳細胞は確実に壊死していっていたんだよ。だから───」
そこでマイは言葉を切り、掴んでいたレンのシャツを放してととと、とレンから離れた。そして、レンに対して深々と頭を下げた。
「だから……ごめんなさい」
「い……いいよいいよ!あのままだったら、僕殺されてたからさ。だからお相子、ね?」
「で、でも───!」
それでも、とマイは叫ぶ。
痛々しい顔をして。
泣き出しそうな顔をして。
張り裂けそうな顔をして。
それでも、と叫ぶ。
「マイは、マイはレンの寿命を縮めたんだよ!そんなの、許される事じゃないよ!!」
「それでも、だよ」
そう言ってレンはマイの頭を撫でる。優しく、これ以上ないくらい優しく。
うつむいたマイを見ながら、レンの頭に新たな疑問が湧き上がった。
「あれ?そのBBシステムが思考を加速するってゆーのは解かったけど、それでどうやってカーディナルに抗えるの?その現状を観察するくらいしか使えないんじゃない?」
レンのその問いに、マイはぐすぐす言いながらも答えてくれた。
「………思考を加速するって事は、どう言うことかレンには判る?」
「どう言うことか?……んー、それだけなんじゃあないの?」
ふるふるとマイは首を振る。
「違うんだよ。思考の加速って言うのは、そんな生易しいものじゃあないの。例えば、1000秒で答えられる問題があったとするかも。その問題をBBシステムによって1000倍に加速された脳でその問題を解こうとすればどうなると思う」
「………一秒」
そう答えながら、レンにはやっと全てが解かったような気がした。
あの宇宙人がSAOプレイヤーに託した、言わば《勇者の剣》の全貌が。
「そうか。加速するって事は、計算能力がとんでもなく上昇するって事をマイちゃんは言いたいんだね。そして、その加速されて凄いことになってる計算能力で何かをする」
パソコンなどの計算機器は、基本的に足し算しかできないと言うことを聞いた事はあるだろうか。
あれらの計算機器は、引き算も掛け算も割り算も全て足し算で済ませている、と言う話だ。
たとえば、1+1+1+1+1という問題があったとしよう。パソコンや電卓と言った計算機器は、バカ正直に1+1+1+1+1をするのだが、人間の脳は当然ながらそんな面倒くさいことはしない。単刀直入に1×5をする。その点でも、加速した人間の脳はきっと次世代のスーパーコンピューターをも楽々と追い越すだろう。
「レンは鋭すぎかも。簡単に言うと、周囲の空間の支配を行うの」
「く、空間の支配ぃぃ?」
「そう。この世界は全てデジタルコードで、要するにただのアルファベットと数字の羅列なんだよ。そしてそのコードは、コンマ一秒ごとに中央サーバー、カーディナルに送られて戻ってくるの。更新プログラムとか、エラー検知プログラムとか、色々通ってね」
「………なるほど、そうか!BBシステムはそこに割り込むんだね。それで中央サーバーに行くはずのところを、行き先を使用者の脳に書き換える。並みのスーパーコンピューターなら一発でオーバーヒートしちゃうようなそれらを、加速のおかげで向上している計算能力を使って、無理やりに書き換える………」
「うん。その一定空間内では、使用者は神であるGMにもなれるんだよ」
マイの言葉が、今なら解かる。
カーディナルにとっては、確かにとんでもない切り札となりえるものだ。
全てをひっくり返すジョーカー。GMとプレイヤーという立場を、根底からひっくり返すもの。
「だからあの時、失われていたレンの両手両足は戻ったんだよ。レンが動きたいって願ったから」
「……………………………」
黙り込むレン。
確かに、あの時の自分はマイを助けるために足掻きたかった。
それをBBシステムとやらが検知したと聞いたならば、確かに納得のできる話だ。
そこまでレンが考えた時───
キンコーン
軽やかなチャイムの音が、ノエル名義のプレイヤーホームの中に鳴り響いた。一瞬ノエルが帰ってきたのかと思ったが、すぐに思い返す。
ここはノエルの家だ。自分の家に帰るたびにチャイムを鳴らしていたら、そいつはただのバカだろう。とすると───
「お客さんかな……?」
そう言ってレンは席を立つ。その傍らには、再びシャツを掴んで離さないマイ。
今の今までのメカニックな話しをしていた本人とは思えないような可愛らしさだ。かりっと揚げて食ったろか。
そんな猟奇めいた思想に囚われながら、軽い気持ちで玄関のドアを開けたレンの表情は固まる。同じく、隣にいたマイの顔も強張る。
陽光に照らされたうららかな玄関先に姿勢良く立つのは、真っ白な白衣に血のような緋袴という巫女服を着て、腰に一メートル半くらいもありそうな長刀というかけ離れた二つを着こなす、純和風黒髪ポニテ女性。
カグラだった。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「はい、んじゃ早速お便り紹介行っちゃうよー」
なべさん「はいよ。今回は?」
レン「んーと、三通だね。ノエル関連二通」
なべさん「ああー、まぁ来るとは思ってたけどね」
レン「月影さんとルフレさんからで、ノエルのキャラが変わりすぎだってさ」
なべさん「それに関しては、ホントに申し訳ない……」
レン「だけど、作った当人の月影さんからは好評だよ」
なべさん「どうせ出番があるからだろ……」
レン「あったりぃ~♪」
なべさん「ハァ~。んで、もう一通は?」
レン「えーと、 月詠湊人っていう人からだね」
なべさん「あれ?もしかして初投稿の人?」
レン「え?………あ、ホントだ」
なべさん「おっしゃー!新たな読者、ゲットだぜ!」
レン「キメてるとこ悪いけど、内容は批判だよ。主人公の台詞にもうちょっとオリジナリティを混ぜたほーがいいってさ」
なべさん「うぅ、すいません。なるたけ改善していくので、お慈悲をぉぉおおお!!」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね♪」
──To be continued──
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