ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
《灰刃》ノエル
「…う…………」
ぴーちくぱーちく頭上にヒヨコが飛び、いまだに引きずっている倦怠感に反抗しながら、レンは重い目蓋をゆっくりと開けた。
真上に見えるものが固い次層の底ではなく、木製の天井だと言うことにまず気付く。
次に、横たわっている下の地面が妙にふっかふかな事にも気付く。
少しだけだが眩暈のする頭に鞭打って上体を起こす。起き上がった拍子に、体の上から薄手の毛布が滑り落ちた。
そして、レンはようやく周囲を見渡す。
落ち着いたブラウンを基調とした木製の部屋には、前回と違いレン以外誰もいない。
ちゅんちゅんという鳥の鳴き声と目に優しい陽光が、窓からゆったりと入ってくる。
「……………………」
そこまで見た時、レンは下半身にささやかな重みを覚えて、そちらを見る。
そこには───
眠りこけているマイの姿があった。
無垢や純白とは言う第一印象を抱くマイだが、可愛らしいと言う言葉は当てはまるが美しいと言う単語は若干無理がある、とレンは思う。
突っ伏したマイの口からは、大量のよだれが広がり、レンの下半身に掛かっている毛布を中心に───
「……起きた?」
ドアが開き、声が聴こえてきた。レンがそちらを見ると、目を引くプラチナブロンドの髪に白い肌、赤い瞳を持つ女性がドアから顔を覗かせていた。
その背丈は、恐らく平均的女子の背から頭一つ分低いだろう。その小柄な体は、ラフな灰色のシャツで包まれている。
「………ノエル……ねーちゃん」
レンが呟くと、攻略組トッププレイヤー通称《灰刃》のノエルは、薄く笑った。
《灰刃》のノエルの通り名は、その名の通り腰に挿している灰色の刃と鞘からきている。途轍もなくレアなボスドロップ品で、天剣”天乃羽織”という銘のそれの攻撃力は折り紙つきで、そのねずみ色の刃はMobでもボスでも例外なく切り裂く。
また、本人も主に灰色を基調とした服装のため、なかなか通り名が覆されない。
その服装は、ノースリーブの上着に二の腕まであるロンググローブ。ミニスカートに灰色のスパッツ、さらにライトオレンジのサングラスというアレな物を着けている。
スカートベルトの左側にカタナと曲剣、後ろ側に予備のカタナを装備。この上にダークグレーのフード付きの外套を着ている。
言葉少なめであまり喋らないが、街角のNPCの猫に餌をあげてたりと、本当はクーデレ?説が巷では定説として語り継がれている。
全く性格が違うが、なぜかユウキととんでもなく気が合って、ユウキは自らのギルド【スリーピングナイツ】に何度も勧誘している。
レンにも執拗に絡んでくることもあるため、本人は否定しているが実は、ロリコン、あるいは精神年齢が低い人間が好きなのか、という噂もある。
その、噂の域を出ないと今の今まで思っていたそれは恐らく真実だろう、
とレンは思う。なぜなら───
「い、イタイイタイ、痛いんだよっ!」
「あぁッ!もう可愛すぎるぅっ!!」
普段無口なはずの彼女が、髪を振り乱してマイを抱き締めているカオスな画が目の前で展開されているからだ。
非常に言いにくいが、決して豊満なほうではない彼女の胸に挟まれて、マイはかなり痛そうな悲鳴を上げている。
それを見ながら、レンは悩む。うーむ、と悩む。
これってどこから収拾すればいいの?と。
「ってそんなのんびりとした思考に囚われないでちょっとは助けるって思考にいたって欲しいかもって痛いいたいイタイッ!!」
再びの悲鳴。その声にかぶさる歓喜の声。
「あぁ可愛いかわいいカワイイィィーッ!」
………何か人格が根っこの部分から崩壊しているような気がする。
そう思いながら、レンは出された紅茶をズズッと一口含む。
「………おいし」
「だから何でレンはそんなにのんびりしてるのって今ゴリッて言ったんだよ!!」
「かーわーいーいィィー!!」
場はカオスを極めていた。
───数分後
マイを膝抱っこするということでひとまず落ち着いてくれたノエルは、レン達を見つけたときのことや今現在の状況などを、言葉少なに語ってくれた。
いわく、散歩&暇つぶしでなんとなく来ていた三十九層のあの場所を通りかかったら、そこにすぅすぅと寝息を立てているマイと、血溜まりの中で気を失っているレンを見つけた、と言う事らしい。
さすがに、わぁ気を失っている白髪美少女発見んん~と色めき立たない(少しはした)くらいの分別は備えていたノエルは、二人を何とか自分のプレイヤーホームのある第二十層まで運んできたらしい。
「ふ~ん」
レンはそう言いながら、再度カップを傾ける。レンの味わった中でも一、二を争うくらいの美味な紅茶が喉を滑り落ちていく。
正面では、ひたすら幸福そうな顔でマイの頭を高速名なでなでするノエルがこくりと頷く。
その顔の下では、むっつりと不機嫌そうな顔でココアを飲むマイの顔がある。
不意に顔を引き締めて、ノエルは言う。
「それでレン、何があったの?血があったって言う事は、《心意》を使ったってことでしょう?」
珍しく饒舌な彼女の声に押されるように、レンは頷く。
「うん。まあね」
「誰と戦ったって言う事はあえて訊かないわ。だけど一つだけ訊いていい?」
「何?改まって」
ノエルは、瞳をきゅぴーんと光らせた。そして黙って自分の膝の上に座っているマイを指差す。
「この子、貰えない……?」
「無理です」
即答した。この上なく即答した。膝の上のマイの顔色がどんどん青ざめていく。
はぁ、とノエルは溜め息をつく。うわぁ、冗談と思ってたらこの人本気だったよ。
「………いいわ、分かった。ここにあるものは好きに使っていいからいつまでもいていい………」
それはいつまでもここにいろって言うことなのだろうか。
「……それに誰かに襲われたって言う点でも、ここは安心。このロッジは特殊な場所にあってね。ここまで至る道筋は、ぼくとユウキしか知らない………」
「そっか、それなら安心だね」
頷いたレンだったが、心の中でいや、と思う。
相手はこのSAOの神と言っても過言ではない、システム管理者、GMだ。
いくらここが道筋を知っていなければ到達できない秘密のそのであっても、そこがこのSAOの中であり、コードの羅列である限りはあの存在からは逃げられないし、レンがプレイヤーである限り、逃げられない。
今レンのいるここさえも、カーディナルにとっては呼吸よりも簡単に見つけ出せるだろう。そして、それはあの巫女服モドキも同じく。
黙り込んだレンの様子をどう受け取ったのかは判らないが、ノエルは軽く頷いて再びマイの真っ白な髪をひと撫でして立ち上がる。
「……少し出掛けてくる。お腹が減ったら、買い置きがあるから自由に」
もうレン達がここに泊まる事になるのは確定のようだった。
夜寝るときのことが、今から怖くて堪らない。マイも同様のことを思ったのか、青ざめる。
「……それじゃ、バイ」
ひらひらと手を振ってノエルは出て行った。後に沈黙が残される。
戒めから解かれたとばかりに、早速マイが駆け寄ってきてレンのシャツの端っこを掴む。
何でか、脳内で同類憐れみの令が発令し、笑顔を浮かべながらレンはマイの頭を優しく撫でる。
金と銀という特徴的な瞳が、鼻が触れ合うような近距離でうるうるっと潤んでいる。
「レン~」
「はいはい」
笑って撫でる。だが、レンにはどうしてもマイに訊きたい事がある。
そのことがマイにも伝わったのか、マイも少しだけ顔を真剣なものに変える。
「マイちゃん、そろそろ教えてくれないかな。君は何者なの?」
レンのその問いに、マイは薄く笑った。
可愛らしく。
美しく。
自嘲的に。
笑った。
金と銀の両目が、濡れたように光った。
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「なんなの?ノエルのあの性格?」
なべさん「んー、あれに関しては本当にごめんなさいm(__)mわざとじゃないんです。書いてたらああいうキャラになっちゃったんです、ハイ」
レン「いやー、でもあれはないでしょ。ただでさえ人様から貰ったキャラなのに………」
なべさん「それについては、反論できない……」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね~」
──To be continued──
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