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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  Acceleration:加速

───ばしいぃぃぃィィィッ!

という音とともに、レンの耳に再び音が戻ってくる。

絶え間なく続く轟音、そして怒声。時たまそれに混じる破砕音。

「──────ッ!!」

その音で今現在何が起きているのか、レンはようやく思い出し、地面に付いていた顔を引っぺがす。

いまだ休息を求めるかのように痛む脳に鞭打って、ふらつく体をどうにかこうにか立ち上がらせる。

数メートル先では、永遠にも感じた先刻の止まった時間内の前と同じような光景が広がっていた。相も変わらず、人が変わったかのように紫のウインドウを長刀で殴り続けるカグラ。

だが、その表情は決して狂ってはいない。むしろ痛々しさで胸が張り裂けそうな、心の底から今やっている行為をやりたくないという顔だった。

まるで、マイを傷付けたくはない、という風な。

ではなぜ彼女はそうまでして、彼女を傷付けるような行為をやるのだろうか?判らない。解からない事だらけだ。

だがひとまず数多の問題は棚上げし、まずは目の前の問題から解決しよう、とレンはカグラに気づかれないようにゆっくりと両腕を構える。

悔しいことだが、今のレンではカグラには実力的にも心意技術的にも、瞬殺されるだろう。

初撃で決めないと………死ぬ。

そう判断したレンは、自分の周囲三メートルほどにまるで手足を扱うがごとき手軽さで不可視のワイヤーを綿密に展開する。

すぐさま頭の中を、どす黒い殺意で満たす。それに呼応するかのように右目が真っ赤に染まっていく。【Incarnate system】の表示が浮かび、ワイヤー全体が漆黒の過剰光に包まれた。

一心不乱に打ち付けられていた長刀がぴたりと止まり、整った顔がこちらを向く───前に、レンはもう凶刃を振り下ろしていた。

「………ッ!!」

背後を見、振り下ろされてくるワイヤーと無傷になっているレンを視認したかのどちらかで、純和風の顔が驚きで満たされるのを見、レンは勝利を確信した。のだが───

がすっ

とてつもなく嫌な音がレンの腹から響いた。

同時に、急速にアバターから力という力が抜けていく。

ワイヤーから自らの作り出した過剰光が空気に溶けるように消えていくのを、再び顔全体で宵闇の陽光を吸い込んだ土の味を味わいながら見ていた。

そしてぼんやりと考える。

今の攻撃の出所は、明らかに自分の真後ろからだった。その理由は、いまだになぜレンが倒れたのか解からずに取り乱しているカグラの様子から火を見るより明らかだ。

どうでもいいが、この巫女服コスプレ野郎は想定外のことに極端に弱いらしい。面白いくらいにあたふたしている。いっそ可愛らしいくらいだ。

だが、ありえない。そんな近距離まで接近されたら索敵スキルなど使わなくとも、気配でわかる。だが、レンに背後からの攻撃を決めた相手にそれはなかった。

まるで瞬間移動でもしたかのように、気配が突如何もないところから現れたのだ。

レンの腹から貫通して突き出していたのは、大振りの短剣(ダガー)の刃だった。

ちらりと視界の隅に浮かぶHPバーを見るが、フル回復していたそれの枠線が黄色く点滅していた。

麻痺毒。

しかも、かなり強い毒なのか指先がピクリとも動かない。たしなみ程度とはいえ、《耐毒》スキルを上げているレンの体をここまで戒めるとは、並大抵の毒ではない。

───誰がこんな真似を……

レンは必死に顔を背後に向けようとするが、いかんせん毒が強すぎる。

首が動かせず、背後が見えない。

この場でレンの背後を見れるのは、マイとカグラだけだが、マイのほうはレンがあの狂った時間から生還するのと同時に力を失ったかのように地面に臥せっている。

若干、と言うかかなり心配なのだが規則正しい呼吸も聞こえてくるので、きっと大丈夫だろう。

そこまで思った時、頭上、つまりレンの背後から殷々とした声のいらえがあった。

「いまだ発見されていない、レベル10の毒だ。気分はどうかね?少年」

深々とした特徴的なボイスエフェクト。一瞬、誰だコイツ?と思ったが、ある出来事が脳裏に閃き、戦慄する。

そもそもの発端。レンが狂気に走った、始まりの出来事。

アインクラッド第二十五層、攻略で初めてのクォーターポイント。そのボス攻略戦。一匹のちっぽけな黒猫がこの魔城から消え去った、あの悪夢のような闘い。

そして、レンを狂気へと誘ったあの漆黒のタキシードを着た男。

カーディナル

このSAOを支配し、操作しているシステム。そしてその自我プログラム。《鬼才》小日向相馬が無から創り出した、狂気の産物。

声は続く。

「おぉ、動きづらかろう。解き放ってやるぞ、少年」

そう言った言葉の後、体から毒が消え、体が自由になる。自分から仕掛けておいて、まったく勝手なものである。

レンはゆっくりと改めて後ろを振り向く。

考えていた通り、レンの背後の空間には真っ黒なタキシードを着た男が佇んでいた。

その口元には、毒々しいまでの完璧な笑みが浮かんでいる。

「久しいな、少年」

「…………ひさしぶりだね、おじさん」

射殺さんばかりに鋭いレンの視線を空気のようにスルーし、カーディナルは少し離れたところに、所在なさげに突っ立っていたカグラのほうにちらりと視線を向ける。

カグラは条件反射のように、地面に顔をこすり付けんがごとく跪く。

「すみません我が主様。わざわざご足労を………」

見ているこっちが痛々しくなるような声を出すカグラに、カーディナルは慇懃に言う。

「よい。私も少年と対面できて嬉しい」

「僕は何にも嬉しくないけどね」

「それで我が主よ。なぜこのような場に………?」

挟んだレンの言葉を、これ以上ないくらいに完璧にスルーしたカグラの問いに、カーディナルはうむ、と頷く。

「引き上げるぞ。観客が来た」

その一言で、カグラにはわかったらしい。顔を引き締めて頷く。

「かしこまりました」

短く言ったカグラの返事を聞き、カーディナルは無造作に右手を振るう。

すると、右手を振った先一メートルほどの空間に、突如穴が開いた。

おそらくそれが、カーディナルがここに急に現れたタネなのだろう。

「……待てよ」

レンは言った。持てる限り、精一杯の殺意をのせた言葉は朗々と響き渡った。

穴に片足を突っ込んでいたカーディナルはこちらをちらりと見る。

「案ずるな、少年。今は一時退くだけだ。また改めて、姫を取り戻しに現れよう」

「………………………………」

無言で黙るレンを見、何が面白いのか口許を笑みの形に歪ませてカーディナルは今度こそ穴の中に消えた。そのすぐあとに、カグラが続く。

──と思ったが、巫女服コスプレ女は踏み出しかけた足を止め、こちらを向く。

その表情はとても痛々しかった。

唇が何かを訴えるかのようにパクパクと動くが、レンの耳に届くような空気の振動は伝わってこない。

結局、カグラは悲しげに顔をうつむかせる。

「……ねえ、おねーさん」

だからだろうか、レンが思わず声をかけたのは。あまりにも、カグラの表情が悲痛で、悲しげだったから。

顔を上げ、視線を合わせてくるカグラの顔を正面から見つめながら、レンは続けた。

「ホントにおねーさんは、こんなことをしたいの?本当は………?」

「それ以上は言わないでください、少年」

冷たく、凍えて、しかし今にも壊れそうな言葉が返ってきた。

「……………おねーさんは、ウソつきだね」

「……………何とでも」

その言葉を最後に、長刀を携えた巫女モドキはきびすを返し、穴の中に消えていった。

穴も、役目を終えたとばかりに、さっさと消え去る。

それを見届けた時、レンの体を途方もない倦怠感が襲ってきた。それは泥のように重く、レンを眠りの世界に引き込もうとする。

レンは一瞬抵抗しようとするが、たちまちのうちに目蓋が途轍もなく重くなってくる。

どんどんと暗くなっていく視界を眺めながら、レンはぼんやりと考えた。

これって何かデジャブじゃね?と。

完全に閉じた目蓋の向こうで、レンは誰かに呼ばれたような気がした。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「そんじゃあ早速、お便り紹介行っちゃうよ」
なべさん「あいよ」
レン「来てたのは……ルフレさんと月影さんからだね」
なべさん「えーと、何々?……………どっちもマイちゃん関連か」
レン「んー、そだね」
なべさん「いやぁ、皆さん。誤解してますよ?マイちゃんは、あれでも清純系ヒロインなんですからね?」
レン「地味に初耳だ………」
なべさん「はいそこぉ!初耳とか言うんじゃねぇ!!いやでも、マジですよ?信じてあげてくださいよ彼女を」
レン「きめぇwwww」
なべさん「きめぇって言うな(泣)」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね~♪」
──To be continued── 
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