我が剣は愛する者の為に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
エイプリルフールネタ
前書き
ドーモ、ドクシャサン。サクシャデス。
TYPE-MOONのエイプリルフールネタに触発され、かねてから頭の中にあった妄想を書いてみました。
始めに言っておきます。
type-moonの作品が苦手な人はごめんなさい。
聖杯戦争。
万物の願いをかなえる『聖杯』を奪い合う争い。
聖杯を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。
他の六組が排除された結果、最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる。
戦いは幾度となく繰り返され、今も続いている。
今回で四回目となる聖杯戦争に参加する魔術師の七人。
その一人に衛宮切嗣という男がいる。
『魔術師殺し』と称される傭兵じみた魔術使い。
そのやり方は異端であり外道。
多くの魔術師を葬り、多くの魔術師から忌み嫌われる存在になっている。
そんな彼がアイツンベルンという、魔術界では知らない者はいないくらい有名な名門に声をかけられた。
そして聖杯戦争について話を持ちかけられ、それを承諾してアイツンベルンの元に身を置く。
その後、アイリスフィールという女性と愛し合い、イリヤスフィールという子供も授かった。
着々と聖杯戦争へ向けて準備を進める中、アインツベルンの当主に呼び出しを受けた。
アインツベルン城の礼拝堂に向かう。
この礼拝堂は神の恩寵を讃える癒しの場ではない。
魔術師の居城における祈禱の場とは、すなわち魔導の式典を執り行う祭儀の間である。
始まりの御三家において、アインツベルンが費やした歳月はなお古い。
当初、アイツンベルンは千年もの間、独自で聖杯の奇跡を追い求めてきた。
その探求は、挫折と屈辱、そして苦肉の打開策。
その繰り返しだったと言っていい。
独力での成就を諦め、ついに遠坂とマキリという外部の家門との協定を余儀なくされたのが三〇〇年前。
そうして始まった聖杯戦争でも、錬金術という戦闘に不向きな魔術を研究していたアインツベルンは、マスターの戦闘力で遅れを取った。
ただの一度として勝利せず――結果として戦慣れした魔術師を外から招き入れるしかないという決断に至ったのが九年前。
いわば、衛宮切嗣は、血の結束を誇りとしてきたアイツンベルンが二度目の信条を曲げてまで用意した切り札だった。
冬の城の主たる老魔術師は、祭壇の前で切嗣とアイリスフィールを待ち受けていた。
ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン。
八代目当主の座を嗣いでからは『アハト爺』の通り名で知られている。
延齢に延齢を重ね、すでに二世紀近い永きに亘って生き長らえながらえ、聖杯戦争へと転換されてからのアイツンベルンを統べてきた人物である。
「かねてより探索されていた聖遺物が、今朝、ようやく届けられた」
氷結した滝を思わせる白髪の束を手でしごきながら、アハト爺は落ちくぼんだ眼の奥の、まったく老いを窺わせない強烈な眼光で切嗣を見据えた。
永らくこの古城に住まう切嗣だが、顔を合わせるたびに当主から浴びせられる偏執症めいたプレッシャーには、だいぶ以前から辟易していた。
老当主が手で示した祭壇の上には、仰々しく梱包された黒檀の長櫃が載せられている。
「この品を触媒にすれば『剣の英霊』を召喚できる。
聖遺物を見る限り、かなりの使い手を見える」
「お言葉ですが、当主。
その英霊とは?」
「残念ながらどの史実にも載っていない。
しかし、聖遺物から察するにかなりの英霊だ」
心の中で悪態をつきながら、深々と頭を垂れる。
「ご協力痛み入ります」
アインツベルンが開祖以来の伝統を破って外部の血を迎え入れた事を、聖杯は何の不思議もなく受け入れたらしい。
切嗣の右手には既に、参加の資格である『令呪』が刻まれている。
聖杯戦争は自ら志願して参加するのではなく、聖杯が参加者を決める。
その証が『令呪』である。
「アイリスフィールよ、器の状態は?」
「何の問題ありません。
冬木においても、つつがなく機能するものと思われます」
淀みなく返答するアイリスフィール。
願望機たる万能の釜は、それ単体では霊的存在でしかなく実体を持ち合わせていない。
『聖杯』を完成させるには、依り代となるべき器が必要で、それに降霊させる必要がある。
それを巡る七人のサーヴァントの争奪戦そのものが、いわば降霊の儀式と言っていい。
器の提供は代々アイツンベルンが。
聖杯を降霊させるために必要な霊地の提供は、戦いの土地である冬木を管理する遠坂が。
マスターの資格とサーヴァントを縛る技術の提供はマキリ、とそれぞれが秘匿を提供し合って成り立っている。
今回、第四次聖杯戦争で『器』を預かる役を任せられたのがアイリスフィールである。
器として作られた彼女は、人工の人間、つまりホムンクルスだ。
「今度ばかりは……ただの一人たりとも残すな。
六のサーヴァント総て狩りつくし、必ずや第三魔法、天の杯を成熟せよ」
「「御意に」」
魔術師とホムンクルス、ともに運命を負わされた夫妻は、呪詛めいた激情を込めて発せられた当主の勅命に、声を揃えて返答する。
その中で切嗣は胸の中で呟く。
(いいだろう。
お望み通り、あんたの一族が追い求めた聖杯はこの手で完成させてやる。
だが、それだけでは終わらせない。
万能の釜の力を以て、僕は僕の悲願を遂げる)
私室に戻った切嗣とアイリスフィールは、当主に託された長櫃を開け、その中身に目を奪われていた。
「これは……」
思わず呟きながら、聖遺物を手に取る。
それは刀だった。
鍔は竜の顔が彫られていて、柄や鞘は純白。
鞘から刀を抜こうとするが引っ張ってもビクともしない。
「これが八〇〇年前の武器とは思えないわね。
その刀が抜けないと見ると、持ち主しか抜けないのね」
アイリスフィールの言葉に切嗣は思わず頷いた。
この刀は中国のある地層から発見され、地層年齢は八〇〇年前のものだった。
「これ自体が一種の概念武装なのかしら?
でも、爺様が言った通り、これを扱う英霊は確かな英霊よ」
だからこそ、疑問に思った。
これだけ年月が経っていながら、風化していない時点で下手をすれば魔法の領域に入る武装だ。
それなのにこれを扱ったという英霊はどれだけ調べても、出てこなかった。
「だが、何が出てくるかは分からない。
分かっている事は剣の英霊、それだけだ」
鞘に収まった刀を長櫃に戻し、そのまま淡々と不満の籠った口調で語る。
「始めからどの英霊が来るか分かっていたら、作戦を考えられるのだがこれでは考えられない。
概念武装としては一級品でも、それを扱う英霊が脆弱では意味がない。
あのご老人はそれが分かっていない。
聖遺物の良さだけしか目に見えていない」
的確すぎる発言に苦笑いを浮かべる。
実際に的を射ているのだから、フォローのしようがなかった。
「でも『セイバー』は聖杯が招く七つの座のうちでも最強とされている。
だから、あなたが考えている最悪のシナリオにはならないはずよ」
「僕自身、そこも危惧している。
セイバーということは正々堂々と真っ直ぐな性格が多い。
いや、英霊となった英雄は基本的にそうだ。
そんな彼らと僕と上手くやれると思うかい?」
これにもアイリスフィールは上手く言葉に出来なかった。
切嗣が異端と呼ばれるには明確な理由がある。
戦闘に赴く場合は幾重にも張り巡らせた策・謀略と罠で「絶対に勝てる状況」を作ってから。
戦いにおいても確実に相手を葬ることを第一とし、そのためなら狙撃、毒殺、公衆の面前での爆殺、人質作戦、だまし討ちなど徹底して手段を問わない。
目標を達することでより多くの命が救えると判断したならば無関係の人間を利用し、巻き添えにすることすら躊躇わない。
正々堂々と戦う英霊とは明らかに正反対。
そんな二人が相容れる訳がない。
だけど。
「だけど、僕は負けるつもりはない。
どんな英霊が来ようとも、僕達の悲願を必ず成就させる」
確固たる意志を込めて切嗣は誓う。
他の誰でもない自分と愛する妻、そして愛する娘に。
そんな彼にアイリスフィールは優しく彼の肩を抱く。
「私の預かる聖杯の器は、決して誰にも渡さない。
聖杯の満たされる時、それを手にするのは――切嗣、あなただけよ」
聖母のような優しい口調で彼女は言う。
彼の妻たる女は、いま自らの家門の悲願より、夫たる男と志を同じくしている。
その事実は深く切嗣の心に響いた。
召喚の準備を終え、二人は礼拝堂にいた。
切嗣は床に描き終えた魔方陣の出来を確認していた。
「こんな単純な儀式で構わないの?」
脇で見守っていたアイリスフィールには、それが思いのほか簡素な準備として目に映ったらしい。
「拍子抜けかもしれないけどね、サーヴァントの召喚には、それほど大がかりな降霊は必要ないんだ」
水銀で描いた紋様に、歪みや斑がないか細かく検証しながら、説明する。
「実際にサーヴァントを招き寄せるのは術者ではなく聖杯だからね。
僕はマスターとして、現れた英霊をこちら側の世界に繋ぎ止め、実体化できるだけの魔力を供給しさえすればいい」
出来映えに満足がいったのか、切嗣は頷いて立ち上がると、祭壇に縁の聖遺物である刀を置く。
「さあ、これで準備は完璧だ」
その日、異なる場所で、異なる対象に向けて呼びかける呪文の詠唱が、まったく時を同じくして湧き起ったのは、偶然と呼ぶには出来すぎた一致であった。
いずれの術者も、その期するところの悲願は同じ。
ただひとつの奇跡を巡り、それを獲得するべく血で血を洗う者たち。
彼らが時空の彼方の英雄たちへと向ける嘆願の声が、いま、一斉に地上から放たれる。
右手を前に出し、呪文を唱える。
「告げる――
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
切嗣の視界が暗くなる。
背中に刻み込まれた衛宮家伝来の魔術刻印が、切嗣の術を後押しするべく、それ単体で独自に詠唱を紡ぎ出す。
心臓が彼個人の意思を離れた次元で駆動され、早鐘を打ち始める。
激痛が彼の身体を駆け巡るが、それを無視して呪文に集中する。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
逆巻く風と稲光。
召喚の紋様が燦然と輝きを放つ。
魔法陣の中心には一人の男が立っていた。
昔の中国独特の民族衣装で緑を基調とした服。
髪は黒く美しくそして腰まで伸びていて、後ろで一つに束ねられている。
手には触媒に使った刀を手に取っていた。
彼は閉じていた眼をゆっくりと開けて、切嗣の眼を見据える。
「問おう。
お前が俺のマスターか?」
ここに外史という、この世界では語られる事のない歴史の英雄が召喚された。
名は関忠統。
関羽の義理の兄にして、外史の英雄。
「ああ、そうだ。
これが令呪だ」
その問いに答えつつ、右手にある令呪を見せる。
関忠はそれを確認して。
「ここに契約は完了した、と。
んじゃ、堅苦しい挨拶はここまで。
これから短い間だがよろしく頼む」
さっきまでの張り詰めた空気はどこに行ったのか、笑顔を気さくに話しかけてくる。
しかし、切嗣は表情を一切変えずに聞いた。
「まず、君の真名と座、それに経歴を教えてくれ」
「あれ?
俺を呼んだのに知らないの?」
「調べたがお前に関する情報は一切出てこなかった」
そう言われ、思い当たるのか何かに気がついたようだ。
「そうだった」
「何がだ?」
「う~ん、と俺の経歴を教えた方が早いな」
彼から聞いた説明に二人は驚きを隠せないでいた。
「外史、それに転生。
まるでゲームの中みたいだな」
「まぁ疑うのも無理はないけど、信じて欲しい」
「信じるわ。
他でもないあなたが言った事だし、こちらもそれと照らし合わせる方法も見つからないしね」
「理解のあるマスターたちで俺は嬉しいよ」
「にしても外史か。
教会の人間が聞けばひっくり返るだろうね」
外史。
人は歴史の知った時、もしもこれがこうだったら? と考える時がある筈だ。
それが一人の人間が考えればさほど問題はないのだが、何十、何千、何万、と数が増えていけば話は別だ。
人々の思いがいつしか形となり、疑似的な世界が創り出される。
その世界はその世界独自の歴史を進み始める。
この世界とは外の世界の歴史。
これを外史と呼ばれている。
「自己紹介がまだだな。
俺は関忠統、真名は縁。
転生前は藤島縁、改めてよろしく」
縁は笑顔を浮かべて手を出す。
「アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ。
これからよろしくね、縁」
差し出された手をアリスフィールは握り返す。
「衛宮切嗣だ。
早速だが、君の戦力などを確認したい」
切嗣は簡単に自己紹介して、縁の握手を無視する。
「武力的には呂布を想定してくれて構わない」
「それは生前での話だろう」
「いや、知名度は皆無だがマスターの魔力が充分に伝わってきている。
これなら呂布相手でも何とかなる」
無視されたのを全く気にせず、自信満々に答える。
「口だけでは何も分からないな。
初戦での戦いで、お前の力を見せてもらう」
「確かに口だけでは伝わらないしな。
了解した、楽しみに待っててくれ」
切嗣はそう言って礼拝堂を出て行く。
「気にしないで。
本当は優しい人なの」
アイリスフィールはおそらく彼の態度を見て、不快に思っているであろう縁に言葉をかける。
しかし、彼女が予想に反して縁は小さく笑みを浮かべていた。
「それは分かる。
生前、色んな人と関わってきたからな。
これでも人を見る目はある」
「分かってくれて、助かるわ。
聖杯戦争の開催地である冬木に赴くのはまだ先。
とりあえず、簡単に城の中を案内するわね」
「よろしく頼む」
アイリスフィールの後を縁は着いて行く。
七人の英霊と七人のマスターによる聖杯戦争が始まる。
それぞれの悲願と命を懸けた戦いが。
本来、この話では出てくる事のなかった英霊が二体。
彼らがどう動く事でどう物語が動くか。
それは語られる事はない。
何故なら、これはエイプリルフールネタ。
真相は作者の頭の中にしかないのだから。
後書き
zeroを知らない人にとっちゃ、何だこれですよね。
さっさと本編を更新しろ、という声もあると思いますがエイプリルフールなので、許してください。
ちなみにこの縁は本編後の縁です。
一応、もう一つの小説にもエイプリルフールネタを書きました。
地味にクロスオーバーです。
次からはちゃんと本編です。
ページ上へ戻る