ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode5 火焔の魔窟のカタナ使い
「てめえ! 剣砕いたらブレス来るの分かってんだろうが!!?」
「あっ、苦しいっ、ぎぶっ、あーっ、HPが減らないぎりぎりの苦しさっ!?」
「HP減らなくたって熱いのは熱いんだぞ!?」
とりあえず敵のポップが一段落したところで、ソラに抗議のチョークスリーパーをかけておく。ソラは何だが妙に嬉しそうで、反省の色は全く見えない。何だこいつそういう特殊性癖か? そういうのは俺は関わらないように生きていきたいんだが。
とりあえずあまり反省効果がなさそうなのでさっさと解放しておく。
「で、そう言えばいつまでやるんだこれ? もう一時間近くやってんぞ?」
「んー、それはねー、んー」
ん? なんだこの反応?
ソラが急にそわそわとしだし、横の二人へと視線を廻らせる。周りを見回していたファーと、無表情にこちらを見つめていたレミの二人がストレージを開いて何かを確認し、無言でいやいやする。なんだかよく分からんが、今回の二人のレベル上げにはノルマでもあんのか?
「まだまだだねーっ。まあまだ結晶とか全然使ってないし、行けるよねっ!」
「いや、俺の精神力は確実にすり減ってんだが…」
「オイラは全然いけるッスよ!」
「……ごーごー」
「おっけっ! そんじゃー張り切っていこーっ!」
ダンジョン内にも関わらず大きな声で気合いを入れるソラ。そして、当然のように無視される俺の意見。いつものことなのでもう突っ込む気力もないが。先へと進み始める三人を追いかけ、追い越す。今回の壁役は俺だ。タゲを自分に集めるため、部隊の先頭を行かなくてはならない。
ため息をつきながら皆を追い越す。
その時、ソラがにっこりとはにかむ様に笑ったのが見えた気がした。
◆
「オオリャアア!!!」
ダンジョン半ばまで辿り着いた俺達を迎えたのは、野太い鬨の声だった。おお、俺達以外にも人がいたのか。意外だ。この『炎霊獣の魔洞窟』を舞台としたクエストは、現在俺が知る限り一つだけ。それもクエストの攻略こそ為されたものの、その本当の報酬たるドロップアイテムの取得方法は未だに分かっていないために検証中で、挑戦する者は今はいない。
だが、今回はどうもそのクエストの挑戦者の先客がいたようだ。
「喰らえっ!!!」
太い声を上げて、腰にさした刀を滑らかな動きで抜き放ちそのままマグマから突き出した巨大な多頭の巨大蛇の首筋を斬りつける。赤いエフェクトフラッシュを纏ったその斬撃は、エクストラスキル、『カタナ』の何らかのソードスキルなのだろう。十人弱の集団の先頭で果敢に巨体へと斬りかかる。
だが、この高難易度のダンジョンのボスである、「Eight-Head Dragon」…通称ヤマタノオロチの強さも、半端なものではない。喰らった頭が怯んでいる間も、他の頭がブレスや噛みつきで絶え間なく彼らへと攻撃を続ける。だが、皆、流石の反応速度で次々と攻撃を回避・パリィして、再度ソードスキルの一撃。
「キシャアアアア!!!」
それで勝負は決まったらしく、大蛇は力を失ってマグマの中へと倒れていく。うん、流石はあの『攻略組』、異常ともいえる戦闘集団の一角を占めるギルドだけのことはあるな。うんうんと納得する俺の後ろから、前の連中に気付いたソラが元気よく「あーっ! みなさんお久しぶりですーっ!」と呼びかける。
「おおっ! いい所に!!!」
「久しぶりじゃん!」
「ソラちゃん元気してたー?」
呼びかけに応えて俺達に笑いかけた連中はギルド、『風林火山』の面々だ。少数ながらも堂々と『攻略組』の一員を名乗れるだけの力を持った、正統派で無頼派の奴らで、以前にバカなイベントを開催したときにちょっとした縁でお世話になった連中だ。
そして、俺が声をかけるのは、その中の一人。
悪趣味なバンダナと、珍しいカタナを装備したひげ面の男。
「ひさしぶりだな、クライン。こんなところで会うなんてな。で、ご注文は?」
「お前ェは相変わらずせっかちだな。…まあ、アイテム切れかけてんのは確かだ。何がある?」
「おう、いつも助かるぜ」
クラインに、さっそく商談を始めていた。
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