ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode5 火焔の魔窟のカタナ使い2
「で、『八つ頭竜の討伐』クエだろ? あれまだ検証中じゃないのか?」
「おお、確証はねェ。だが一つの意見として「カタナ使い」が参加している、っていうのがあるんじゃねェか、ってのがあってな」
「ああ、「ヤマタノオロチ」なら出てくるのは「クサナギノツルギ」。確かに筋は通ってるな」
「ま、レベル上げも兼ねてな。やっぱ俺達もブレス攻撃みてェな範囲攻撃にも慣れとかねェと」
いくらかのポーション類と結晶を売買した(なんかクラインが呻いてたがそんなのは気にしてはいけない)後、小休止を兼ねて話していると、やはりクラインたちはここにクエストで来ていたことが分かった。それに、『攻略組』の先のことまで考えている。見た目の割にいい奴だ。
「へーっ、ソラちゃん、へーっ!」
「うおおおおっ! おっさんは嬉しいぞーっ!」
「わーっ、わーっ! あんまり大きな声で騒がないでーっ!」
「ほら、そんなことならこれ。貰ってきな!」
「いやっ、そんなっ!」
ちなみに他の三人、特にソラは攻略に積極的に関わっているだけあって随分と親しげに談笑している。おっさん連中にとってはソラの健康的な(というか、バカっぽい)笑顔はなかなか受けがいいらしく、すっかりアイドルだ。さして美人でも無いくせに。
そんなことを考えながら眺めていると、ソラと目があった。と、ソラの奴が真っ赤になって慌てて目をそらす。なんなんだ。そのままこそこそとレミに耳打ちして、またチラ見、そしてまた俯く。
なんなんだ、何回も言うぞ、なんなんだ。考えてみればここに来るのも、なんとなく誤魔化されてそのままになっていたがはっきりした理由は聞いていない。レベル上げであればもっと効率のいい場所がいくらでもあるってのに。
と。
「……シド。提案が、ある」
「うおっとビビったぁ! なんだよレミ!」
突然背後から掛けられた声は、さっきまで向こうの輪にいたはずのレミ。相変わらず無表情で、『隠蔽』なんぞ持っていないくせにやけに薄い気配で後ろを取るのは、なんというか数値的ステータスとか云々ではない「影の薄さ」を思わせる。本人に言えば怒るだろうが。
「……『風林火山』を、手伝う」
「手伝いたい、ではなく?」
「……もう、報酬、貰った」
「それは提案とは言わないだろうが!」
思わず突っ込みを入れてしまうが、レミにそれを言ってもしょうがないだろう。なにせその約束を取り付けたであろう本人は、俺達から離れた場所の談笑の中でこちらをうかがっている。その顔にあるのは、「にへへ」とでもいう効果音が合いそうな、ばつの悪そうな笑み。続けて、許してね? とでも言いたげに両手を合わせる。
「はああー…」
「ふぁいとーおー」
「…おー」
分かってやってるのかレミの力の抜けた掛け声に、こちらもどっと疲れの増えた掛け声を返す。それで満足したらしくレミはまたトコトコと談笑の輪へと帰っていく。何故か拍手喝采をもって迎えられた彼女は、無表情にVサインをして座る。まったく、なんなんだ。
「…お前ェも、大変だな、なんか」
「…おお、まあな」
残ったクラインが、しみじみとつぶやく。
「んじゃあ、大変ついでに買い取りもお願いすっか。これ、いくらだ?」
「ん? なんだこれ? 指輪、か。よっと」
そう言ってクラインがストレージから取り出したのは、一つの指輪。金色に輝くリングに、紅く輝く美しくカットされた紅玉が嵌っている。『鑑定』でクリックしてみると、《ブラッド・ティア》のアイテム名、そして製作者の銘はなし、ドロップアイテムか。効果は、
「筋力補正が五、武器攻撃スキルの取得経験値補正有り、か。全武器に働くのはおいしいな。結構な値で買い取ってもらえるんじゃねえか?」
「いや、お前ェに買い取ってもらうんだよ」
「ん? いいのか?」
クラインの一言に、俺が確認する。直に言いこそしないが、俺は『ダンジョン行商人』だ。本来は出来ないダンジョンで売り買いが出来る代わりに、値段は大分客に厳しく設定してある(命がかかってたらみんな金は払ってくれるものだ)。それを、クラインも知らないわけではないはずだが。
「いいんだよ。前祝いだ。使ってもいいし、やってもいい」
「なら買い取るが…。俺は使えねえぞ、武器は持ってないし」
「ハッ。使えるぜ、お前ェが、な。ま、せいぜい有効に使ってくれや、若人よ」
「?」
そう言ってにやりとオヤジらしく笑うクライン。まったく、なんなんだ。こいつもなんか事情を知ってやがるのか。なんか俺だけえらくアウェーだな。
この短時間に何回「なんなんだ」といったか分からん。
そんなことを考えながら、これももう何回目か分からないため息をついた。
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