ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode5 振り回されて、走りけり2
「ぬおおおっ!!!」
走る、走る、走る!敏捷一極化型なめんじゃねえぞおおお!!! あれ、なんかデジャヴ!!!
俺は洞窟内、入って最初の広間になる足場の悪い岩石地帯を全力で走りぬけていた。ポップしたモンスターは全部で五体。這いずりまわる巨大トカゲが二体、大人の頭ほどもある丸々と太った蝙蝠が二体、直立して鎧と曲刀を持ったトカゲ戦士が一体。五体とも俺をターゲットするが、かみつき攻撃や剣でのソードスキルなどでは到底追いつけないとAIが判断を下し、
「グルアアアアッ!」
一声吠えて大きく息を吸い込み、一斉にブレス攻撃を放つ。感心してしまうほど美しいグラフィックで描写されたリアルな火炎。できればじっくりと見てみたいものだが、今はそんなことを言っている場合ではない。なにせその火炎の狙いは俺なのだ。
広範囲にわたるそれは、スピードだけでは振り切ることは出来ない、が。
「おらあっ!」
俺ははためく外套を掴んで体をすっぽり包むように引き寄せる。まるでミノムシのように赤い布切れにくるまった俺の体を、五匹分の火炎が包み込む。だが、俺が纏うのは、炎の攻撃に絶対的な防御力を誇る《プロミネンス・マント》。ダメージどころか耐久度の減少すら殆ど無く攻撃を受けきる。
「っあちいいいってっくそっ!」
まあ、火炎の熱さまで完全に遮断してくれるわけではない。
が、そこは根性でなんとかする。ど根性。
広範囲を攻撃するブレス攻撃は、威力、攻撃範囲、そして怯ませ効果と敵ながら非常に優秀な技だが、流石に難の欠点も無いわけではない。この攻撃、使用後にかなりの長時間の技後硬直が科せられるのだ。
「なーいすっ、シドっ!」
「行くッスよ!」
「……ぐっじょぶ」
当然、後ろに居る三人がそれを見逃すはずはない。
レミの持つ、五十層でドロップが確認されたばかりの身の丈ほどの巨大なくの字ブーメラン…《インドラ・スアロー》が、風の唸りとソードスキルの光を纏って飛来する太っちょ蝙蝠を力強く薙ぎ払う。
ファーが攻撃用に装備した両手用の長槍、《ミスティルテイン》で、地面の大トカゲを薙ぎ払う。四十七層のクエストで獲得した2メートル近い重槍の一閃が、ソードスキルなしでも一撃でモンスターをポリゴン片へと変えていく。
「そりゃそりゃあーっ!」
そして、ソラ。彼女の今日の武器は、やや大ぶりなダガーナイフ、《ソードブレイカー》。中層フロアでNPCが販売していた武器で、背の部分での弾き防御での武器破壊ボーナスが入るという珍しい武器だ。ただ、威力・リーチともに彼女の持つ他の武器と比べれば格段に劣るし、希少価値という点で言えば比べるまでもない。
そんな武器を使っているわけは。
「やあっ!」
新しく手に入れた、もうひとつの装備の使い心地を試すためだ。トカゲ戦士の前面に走り込んで、敵のソードスキルが放たれる直前の曲刀、その横腹に放った一撃が、モンスターの持つにしては小奇麗だった武器を砕いた。
「うんっ! やっぱこれいいわ!」
そのままバックステップで距離をとった後、満足げに武器を持つ右手を上げる。ナイフを握るその手には、俺には読めない禍々しい呪文のような模様がびっしりと編み込まれた、銀色の布地の不吉な片手用グローブ。名前は、《カタストロフ》。
大破壊、という物騒な意味の名を冠するその手袋は、ソラが何層だったかのフロアボスからのドロップで手に入れたもので、筋力や敏捷、防御値には補正がないものの、「装備した武器に関わらず、武器破壊にボーナスポイントが入る」という凄まじい効果を持っていたのだ。
ああ、そう言えば言っていなかったか。
俺自身は四十七層以来ボス攻略に参加してはいないが、なんの因果かギルドリーダーであるソラは、ちょくちょくとボス攻略に駆りだされるようになっていた。あの時のボス攻略で見せた戦闘センス、そして操る多彩な武器でのバリエーションの多い攻撃手段が、攻略組の目にとまったらしい。なんでもヒースクリフの旦那が珍しく入れ込んで、一時は最強ギルド、『血盟騎士団』への直接の勧誘まであったのだ。
俺としては何が起こるか分からないボス戦にソラを単身行かせるのはいい気分ではないのだが、ソラ自身が「やっぱりゲームの醍醐味はボス攻略だよねっ!」とノリノリなので仕方がない。
閑話休題。
武器が小型であればあるほど効果の上がる《カタストロフ》で武器を破壊してしまえば、剣術しか使えないモンスターは攻撃が出来なくなってしまう。そう、剣術しか使えない、なら。
「シドっ、あとよろしくっ!」
「ばかやろおおおっ!!!」
剣が使えなくなって、再びブレス攻撃を放つトカゲ戦士。当然、これを受けるのは俺の役だ。
俺は再び、ソラの盾となるべく火炎の中への突進を余儀なくされる。レミのブーメランが敵を仕留めるまでの数秒間、再び俺は大いに不快な神経刺激を味わい続けることになった。
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