ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode5 振り回されて、走りけり
「……は?」
「もーっ! 何を鳩が機関銃くらったみたいな顔してんのさっ! ちゃんと聞いてたっ!?」
「いや、鳩の身で機関銃を喰らったら流石に顔云々どころじゃ無かろうが……そんなことはどうでもよくて、今なんつった?」
アホの子のお手本のようなボケを入れたソラの突っ込みにいちいち反応するようになってしまったのは、進歩というべきか退化というべきか。いや、そんなこともどうでもいい。
「だーかーらーっ! 明日は第一回、『冒険合奏団』レベル上げ大会を開催しまーすっ! って言ったんだよ!」
「いや、違うだろ! お前さっき『炎霊獣の魔洞窟』に行くっつったじゃねえか!」
俺が面喰うのも無理はない。というか、この面々で行くのか!? 自殺行為じゃねえか!? 俺ならキリトを三人ぐらい連れて行きたいぞ。
『炎霊獣の魔洞窟』。
第五十二層のフィールドダンジョンだが、当初その異常な難易度で一時期話題となったダンジョンだ。五十代の後半のレベルのモンスターがかなりの高率でポップする上に、暑さで触れるだけでHPを削る壁や足場の悪い岩石地帯、落ちれば死が見えてくる溶岩。そして何より、ポップするモンスター全てが使ってくる厄介な特殊攻撃。
「あそこの火炎ブレス、HPゲージ云々以前に喰らいたくねえんだが……」
十分な範囲を巻き込む大いに不快な神経刺激を与えるそのブレスは、前衛後衛の役割分担、あるいは高機動プレイヤーの一撃離脱戦を許さない。はっきり言えば、俺(ついでに言えばソラもだ)の戦闘スタイルに、相性最悪だ。このメンツでは狩りはおろか命の危険があるぞ。
「ふっふっふっ! それなら問題なしっ、のーぷろぶれむのーぷろぶれむっ!」
「ギルマス、なんか秘策でもあるんスか?」
「……どうせ、ない」
「ちっちっちっ! 今日の私はいつもの私じゃないよっ! ちゃんと秘策があーるっ!」
「いつものお前なら無いんだな」
「しゃーらーっぷっ! 見せてあげよう、これが私の秘策、だーっ!!!」
ファー、レミ、そして俺の三連ツッコミにもめげずにソラが右手を振う。相変わらずすさまじい速さのウィンドウ操作で現れたのは、人一人をすっぽり覆い被せる大きさを持つ、なかなかにデザインのいいマントだった。一目で高級な素材が使われていると分かる…っておい。
「こ、これ《プロミネンス・マント》じゃねえかっ!? ど、どこで手に入れたんだ!?」
「買ったのっ! ギルドのお金でっ!」
「ええええええーっ!!!」
三人の悲鳴が上がった。このバカ、こんな用途がめちゃくちゃ限られる装備品の為に俺達が稼いだ金を…っ! 俺も結構な量の貯金があったと思うのだが、このギルドホームの購入や以前のボス戦を筆頭に浪費の機会が増えたせいでもうそこまでの余裕はない。恐らく中層ゾーン出身のレミ、ファーも同様だろう。これからはホーム維持の為に節約を、と考えていた矢先に、この女っ!
「まーまー! これを使ってそこで狩り頑張って、元をとればいいって! レミたんファーちゃんと、私らのレベル、差がついてきちゃってるしねっ!」
「それはそうだが。でも《プロミネンス・マント》があっても一人だろ? 他の面々まで、」
正論を述べる俺。
そんな俺に。
「それは、もちろんシドの仕事だよっ!」
ソラがとびっきりの笑顔で丸投げをくれやがった。
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