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マノン=レスコー

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第一幕その五


第一幕その五

「妹さんは修道院にですか」
「それが親の考えです」
 レスコーはそう彼に述べる。
「残念ですが」
「残念かね」
「はい。パリにいるのですよ」
 レスコーはまずこの街を出してきた。
「偉大な人生の学校だというのに。狭く辛気臭い修道院に入ってどうするのですか」
「その通りですな」
 ジェロントもそれに同意する。
「全くその通りだ」
「ですね。全く」
 デ=グリューも仲間達も皆飲みながらその話を聞いている。ぱっと見ただけでは若者達が楽しく飲んでいるだけだがその耳は彼等に集中させていた。それどころかちらちらと横目で見たりさえしている。
「妹さんはお幾つですか?」
 ジェロントはマノンの歳を聞いてきた。
「十八です」
「そうですか」
「花の歳です」
「全くです。それで修道院に入るというのは」
「それでは」
 その言葉を聞いたレスコーの顔がニヤリと笑った。そしてジェロントに問う。
「今晩一緒にお食事でも」
「わかりました。それでは」
「やっぱりな」
 エドモンドは二人の会話を聞いて呟く。外見上は仲間達と楽しくトランプをしている。
「そう来たか」
「そうだろうと思ったわ」
 娘の中の一人も言った。
「あの人女好きなのよ、それも若い娘がね」
「ヒヒ爺いってわけだね」
 仲間の一人がそれに応える。
「そうだな」
 エドモンドがそれに頷く。レスコー達はそれに気付かずさらに話をしている。
「それでですな」
 ジェロントは言う。
「今から少し用事がありますので」
「席を立たれますか」
「はい。それでは」
 彼は去った。レスコーが一人になると若者達はそのレスコーに声をかけてきた。
「ちょっとお兄さん」
「ポーカーをしないかい?」
「何っ、ポーカーだと」
 レスコーはそれを聞いて目を輝かせてきた。
「面白そうだな」
「ああ、最高に面白いよ」
「あんたもどうだい?」
「よし、乗った」
 どうやら遊び人であるらしい。その言葉に乗ってきた。
「じゃあやるか」
 早速卓に座る。そして言う。
「いいかい?それじゃあ」
 エドモンドがカードを配る。レスコーは若者達と勝負をはじめた。
 やってみるとかなり強い。その強さはエドモンドも素直に称賛した。
「お兄さん随分強いね」
「いや、まぐれさ」
 不敵に笑って返してきた。
「たまたまだよ」
「またそんな」
 エドモンドは彼を冷やかしにかかった。
「そんな御謙遜を」
「まあ軍隊で覚えたんだけれどね」
「軍隊で」
「うん」 
 レスコーは上機嫌で述べる。
「今軍曹なんだ」
「それは凄い」
「その若さで」
 またお世辞を述べてきた。
「そんなに凄いかな」
「いやいや、軍曹と言えば」
「なあ」
 皆で言う。確かに軍曹と言えば結構なものだ。将校は貴族がほぼ独占しているのでなろうにもなれないところがあるからだ。それで彼等も一目置いてきたのだ。
「結構なものですよ」
「そうですかね」
「そうですよ。だから一杯」
「どんどん」
 彼を飲ませてそちらに目を向けさせる。しかしここでまた一つ問題が起こってしまっていた。
 ジェロントが戻ってきていた。そして宿屋の主人に何かを言っていた。
「馬車を一台欲しいのだが」
「馬車をですか」
「うむ」
 彼は主人に対して頷く。
「いいか」
「ええ、まあ」
 主人は深く考えずにそれに頷く。
「それでしたら」
「できれば一時間だな。いいかな」
「わかりました」
「それだけでいいからな」
「それだけでですか」
「何も言うことはないよ」
 ちくりと釘を刺してきた。
 
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