マノン=レスコー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一幕その六
第一幕その六
「いいね」
「畏まりました。それでは」
「うん」
こうして話を進める。しかしそれはエドモンド達に見られていた。彼等はそれを見てジェロントが何か企んでいることをすぐに見抜いた。レスコーにどんどん飲ませながら目配せをしきりに交わす。
「後はわしがハーデスであの娘はペルセポネーか」
ハーデスは妃ペルセポネーを地の底からさらって妻としている。なおこれには兄弟で天界の支配者であるゼウスも共犯であった。
「よし」
エドモンドはそれを見てポーカーを離れた場所から見ているデ=グリューのところにやって来た。そのうえで彼に囁く。
「いいか?」
「どうしたんだい?」
「まずいぞ。あの御老人彼女を何としても自分のものにするつもりだ」
「本当かい?」
「ああ、間違いない」
そうデ=グリューに答える。
「美しい花は茎から引き裂かれて枯れてしまう。どうだ?」
「そんなことは認められない」
デ=グリューは俯いて言う。
「彼女は誰にも渡さない」
「では行くか、鳩を捕まえに」
「うん」
彼はエドモンドに頷く。これで決まりであった。
「ではやるか」
エドモンドは言った。無言で若者達が席を立つ。レスコーは今度は娘達が取り囲んで足止めをする。
「さあ飲んで飲んで」
「いい飲みっぷり」
そう囃し立てている。レスコーはまんざらではなく娘達に囲まれている。そしてその間に若者達が動くのであった。
「まず僕が仕掛ける」
エドモンドはにこりと笑って述べる。
「いいね」
「一体どうするんだい?」
「まあ任せてよ」
彼は笑って言う。
「策があるから」
「策が」
「うん、見ていてくれていいよ」
そこまで言って席を立つ。そうしてジェロントの方に向かう。
そこでマノンも戻ってきた。話はいよいよはじまった。
「君は彼女の方へ」
「いいな」
エドモンドと若者達がデ=グリューに声をかける。デ=グリューも無言で頷く。
彼はマノンの方へ行く。そのうえで彼女に囁いた。
「あの」
「はい」
マノンはデ=グリューに顔を向けた。彼女は言う。
「どうされたのですか?」
「一緒に行きませんか?」
「えっ」
彼に思わず顔を向けて声をあげた。
「僕と一緒に」
「貴方とですか?」
「そうです、一緒に」
真摯な顔で彼は言う。
「このまま。二人きりで」
「どちらにですか?」
「僕の家へ。パリの僕の家に行きませんか?」
「パリ!?」
その街の名を聞いたマノンの目が輝いた。
「パリに住めるのですか!?」
「そうです」
デ=グリューはそのまま勢いに任せてマノンに語る。その肩を両手で抱いていた。
「いいですね」
「ええ。貴方と二人でパリに」
声がうっとりとなっていた。デ=グリューの若い美貌にも心奪われていた。もう全ては決まってしまっていた。
「微笑んで下さるんですね」
「はい」
マノンは微笑を浮かべて彼に言う。その顔をじっと見上げている。
「貴方の目に」
「何と有り難い御言葉。その御言葉を受けて僕は」
「貴方は」
「貴女を愛したくなりました。いいですか」
「ええ」
うっとりとした顔で頷く。
「では参りましょう」
「パリへ」
「そうです、パリの街へ」
彼はマノンにまた語り掛ける。自分達の愛を。だがマノンはそこに別のものを見ていたのである。彼がそれに気付いていないだけであった。
「いいですね」
「はい」
二人は抱き合う。その頃レスコーは娘達と楽しく飲んでいて気付きはしない。そこにエドモンドが戻ってきた。
「上手くいったぞ」
「何をしたんだい?」
「あの御老人は馬車を頼んでいたんだ」
「うん」
「それを君達の為に手配するように言ったんだ。お金はあの御老人持ちでね」
「じゃあ」
「そうさ、これでいいだろう?」
会心の笑みを浮かべてデ=グリューに言ってきた。
ページ上へ戻る