ソードアートオンライン VIRUS
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前書き
無刀が復活してめっちゃ見てた
自己紹介を行った後、リーファが事の成り行きを説明する。サクヤというシルフの領主、アリシャ・ルーというケットシーの領主と幹部達はリーファの話を鎧の音一つ立てずに聞いていたが、説明が終わると同時に揃ってみんな深いため息を吐いた。
「……なるほどな」
両腕を組み、艶麗な眉のアーチを小さくひそめながら、サクヤは頷いた。
「ここ何ヶ月か、シグルドの態度に苛立ちめいているものが潜んでいるのは私も感じていた。だが独裁者と見られるのを恐れ合議制に拘るあまり、彼を要職に置き続けてしまった……」
「サクヤちゃんは人気者だからねー、辛いところだヨねー」
「でも、苛立ちって……何に対して……?」
リーファがそう言うとサクヤは視線を遠い稜線に向けながら言った。
「多分……彼には許せなかったんだろう。勢力的にサラマンダーの後塵に拝しているこの状況が」
「……」
リーファはそのことを黙って聞く。
「シグルドはパワー志向の男だからかな。キャラクターの数値的能力だけでなく、プレイヤーとしての権力を深く求めていた……。ゆえに、サラマンダーがグランドクエストを達成してアルヴヘイムの空を支配し、己はそれを地上から見上げるという未来図は許せなかったんだろう」
「傲慢な奴だな、シグルドってやろうは。少し待てば新たな可能性を見出せることもあっただろうに……」
ゲツガはそう呟くと不思議そうに全員が見てきた。
「君はどうしてそう思うんだ?」
サクヤが聞いてくる。
「何でって、まあ時と場合によるけどな。“賢明にそしてゆっくりと速く走る奴は転ぶ”っていう言葉を知ってるか?速く選択するといけないときもある。そういう感じの意味を持っていると俺は思っている。とまあ、そんな感じで急ぎすぎた判断は時としては駄目な方向に転がる時があるって言いたいんだが、まあそんなことが言いたかっただけ。なんか、変なこといってすまん」
「いや、君の話しは難しいがなんとなくわかる。つまりシグルドの判断は後先を考えずについた結果、駄目になったということだろう?」
「まあ、そういうこと」
そう言うと、サクヤは君は詩人みたいだなと言って微笑む。
「でも……何でシグルドはサラマンダーのスパイなんか……」
「もうすぐ導入されるアップデート五・〇の話を聞いているか?ついに転生システムが実装されるという噂がある」
そうサクヤが言うとリーファは気付いたように声を上げて言った。
「あっ……じゃあ……」
「モーティマーに乗せられたのだろうな。領主の首を差し出せばサラマンダーに転生させてやると。だが、転生には膨大な額の金が必要らしいからな……。冷酷なモーティマーが約束を履行したかどうかは怪しいところだな」
「……」
それを聞いたゲツガはまったくだという風に首を縦に振る。そして不意にキリトが言った。
「プレイヤーの欲を試す陰険なゲームだな、ALOって。デザイナーは嫌な性格をしてるに違いないぜ」
「ふ、ふ、まったくだ」
サクヤは笑みでキリトに応じる。ゲツガはサクヤに聞く。
「で、サクヤさん。シグルドをどうするんだ?」
サクヤはそう聞かれると目を閉じた。そしてすぐに開くとその目は冴え冴えした光を放っていた。
「ルー、たしか闇魔法スキル上げてたな?」
アリシャ・ルーはそれを聞いて耳をパタパタと動かす。肯定と言う意味だろうか?サクヤは言った。
「じゃあ、シグルドに月光鏡を頼む」
「いいけど、まだ夜じゃないからあんまもたないヨ」
「構わない、すぐ終わる」
そう言ってアリシャ・ルーは詠唱を開始する。唱え終わると周辺が夜を思わせるくらいの暗さになり、サクヤの前に鏡が出現する。その向こうには椅子に座ったシグルドがいた。サクヤはシグルドとしばらく会話をした後に、何かウィンドウを操作した。すると、シグルドは鏡の前に来て何か言おうとしたときに鏡の前から姿を消した。これがレネゲイドになる瞬間かー、と思ったとき魔法が解けたのか辺りが明るくなった。
「サクヤ……」
リーファが心配そうにサクヤにそっと声をかけると、サクヤは大丈夫というように手を上げてウィンドウを消した後、笑みを浮かべて言った。
「……私の判断が間違っていたのか、正しかったのかは次の領主投票で問われるだろう。ともかく、礼を言うよ、リーファ。執政権への参加を頑なに拒み続けた君が救援に来てくれたのはとてもうれしい。それにアリシャ、シルフの内紛のせいで危険に晒してしまってすまなかった」
「生きていれば結果おーらいだヨ!」
お気楽な領主だなーとかゲツガは思った。リーファはゲツガ達のほうを向いて言った。
「あたしは何もしてないもの。お礼ならこの二人にどうぞ」
「そうだ、そう言えば……君達は一体……」
並んだ二人の領主はキリトとゲツガの顔をマジマジと覗き込む。
「そういえば君達、スプリガンとウンディーネの大使……って本当なの?」
好奇心の表現か尻尾をゆらゆらさせながらケットシーの領主のアリシャ・ルーが言った。キリトと顔合わせるゲツガは言えと言うようにアイコンタクトを送るとキリトが腰に手を当て胸を張って答える。
「勿論大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」
「な……」
その言葉に領主二人は絶句する。
「無茶な男達だ。あの状況でそんな大法螺を吹くとは……」
「手札がショボイ時はとりあえず掛け金をレイズする主義なんだ。だけど、俺はそんな考えるのは担当じゃないし。そういうのは大体こいつに任せてる」
「人任せすぎなんだよ、お前は」
ゲツガがため息混じりに息を吐くとケットシーの領主、アリシャ・ルーが近くに来て悪戯っぽい笑みを浮かべ顔を覗き込んでいた。
「おーうそつきくんよりも、詩人のキミは少し大人っぽいケットシーのキミが気になるから聞くけど、知ってる?さっきのバルダっていう子はALOの一位二位を争うほどの強さなのに正面から勝っちゃうなんてキミ、何者?何でケットシーにいないのかな?」
「俺?俺は、ケットシー領を初っ端出て行った、ただの流浪人だよ」
「ぷ。にゃははははは」
ゲツガの答えにひとしきり笑うとゲツガの右腕にくっついた。
「ねえキミ、ケットシー領に帰ってくるきない?今なら私の側近にしてあげるヨ。それに三食おやつ昼寝もつけちゃうヨ」
「あ、盗られた。まあいい、私はスプリガンのキミにしよう」
そう言って横にいるキリトにサクヤが色っぽくキリトの腕に絡みつく。
「キリト君と言ったかな?このあと暇なら個人的な礼もかねてこの後スイルベーンで酒でも……」
「おー、サクヤちゃんダイターン!初っ端から色仕掛けなんて!」
「そういうお前こそ、そんなに密着して色仕掛けしてるじゃないか」
ゲツガとキリトは領主の会話を聞いて苦笑する。その時、コートの背中部分が引っ張られたため後ろを向く。手の主はリーファであった。
「駄目です!ゲツガくんはあたしの……」
その声にキリト達も後ろを振り向く。リーファは言葉を詰まらせて必死に何か言おうとしていた。
「じゃなくてゲツガ君とキリト君はあたしの……」
再び、言葉を詰まらせるリーファ。しばらくしどろもどろしているリーファを見て、笑みをこぼしてゲツガは口を開く。
「ゴメンけど、今は彼女に世界樹まで連れてってもらう約束をしてるから無理だ」
「そう……それは残念」
「本当に残念だ」
領主二人は残念そうに言う。サクヤはリーファに視線を向ける。
「アルンに行くのか、リーファ。物見遊山か?それとも……」
「領地を出る……つもりだったんだけどね。でも、いつになるか分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」
「そうか。ホッとしたよ必ず戻ってきてくれよ。彼らとともにな」
「途中でウチにも寄ってね。大歓迎だヨー。まあ、キミの場合は戻ってきてだけどネ」
そう言ってアリシャ・ルーゲツガに向けてウインクをした。ゲツガは苦笑した。二人はゲツガとキリトから離れると表情を改めて言った。
「今回は本当にありがとう、リーファ、ゲツガ君、キリト君。私たちが討たれていたらサラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。何か礼をしたいが……」
「いや、そんな……」
キリトはそう言って困ったように頭を掻く。その時、リーファが一歩踏みでて言う。
「ねえ、サクヤ、アリシャさん。今度の同盟って、世界樹のためでしょ?」
「ああ、まあ、究極的にはな。二種族共同で世界中に挑み、双方ともにアルフになればそれで良し、片方だけなら次のグランド・クエストを協力してクリアするのが条約の骨子だが」
「その攻略にあたし達も同行させて欲しいの。それも、可能な限り早く」
「俺からも頼む」
そう言ってゲツガは頭を下げた。
「顔を上げてくれ、ゲツガ君。そんなことをしなくても君には同行して欲しい。キミのような戦力がケットシーにいるならば攻略も楽になるだろうし、それにキリト君も来てくれれば相当な戦力になる」
ゲツガは頭を上げてからサクヤに礼を言う。
「なに、礼を言われるほどでもないさ。それと、時期的にはまだなんとも言えないが、しかし、なぜ?」
そう聞かれるとキリトと一度目を合わせる。キリトはこくりと頷いた。どちらか話すかをジェスチャーしてゲツガが話すことに決めた。
「俺、いや俺たちがこの世界に来たのは、あの樹、世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれない、ある人たちに会うために……」
「人?妖精王オベイロンのことか?」
「いや、違う。……と思う。リアルで連絡が取れない人がいるんだ……どうしても会わなきゃいけない人がいるんだ」
「へえェ、世界樹の上ってことは運営サイドの人?なんだかミステリアスな話だネ?」
興味の引かれたアリシャはそう言って目を輝かせる。しかし、すぐに尻尾が力なく伏せて申し訳なさそうに言った。
「でも……攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ……。とても一日二日じゃあ……」
「そうか……そうだよな。とりあえず俺らの目的はあの樹の根元に行くのが目的だから……その後になんとかする」
キリトが小さく自虐的な笑みを一瞬浮かべるがすぐに何か思い出したように言ってウィンドウを操作し、大き目の袋をオブジェクト化させた。
「これ、資金の足しにしといて」
そう言って袋をアリシャに渡す。キリトが袋を離した瞬間、ふらつくが両手に持ち替えてなんとかふんばった。その袋の中を覗き込むと、驚きの表情を浮かべる。
「さ……サクヤちゃん、見て!これ!」
「ん?」
サクヤは首を傾げてアリシャの持つ袋を覗く。リーファも気になったのかその袋を覗いて声を洩らしていた。サクヤも口をあけて凍りついている。
「うぁっ……」
「……十万ユルドミスリル貨が……これ全部……!?これだけの金額を稼ぐのは、ヨツンヘイムで邪神クラスをキャンプ狩りでもしない限り不可能だと思うがな……。いいのか、キリト君?これだけの額があれば一等地にちょっとした城が建つぞ」
キリトは何の執着もなさそうに首を振る。
「構わない。俺にはもう必要ない」
そう言うとサクヤとアリシャは顔を見合わせた後、ほぅーっと深い嘆息してからキリトに視線を向ける。
「……これだけあれば、かなり目標金額に近づけると思うヨー」
「大至急装備をそろえて、準備ができ次第連絡させてもらう」
「よろしく頼む」
サクヤが広げたウィンドウにアリシャが頑張ってキリトからもらった金を格納した。
「この金額を抱えてフィールドを歩くのはぞっとしないな……。マンダーの連中の気が変わらないうちに、ケットシー領に引っ込むとしよう」
「そうだネー。領主会談はそこでやろっか」
領主たちは頷き、部下達に合図を送る。たちまち会談で準備されていたアイテムは片付けられた。
「何から何まで世話になったな。君たちの希望に極力添えるように努力することを約束するよ、キリト君、ゲツガ君、リーファ」
「役に立ててうれしいよ」
「本当にありがとう」
「連絡、待ってるわ」
ゲツガとキリトとリーファは領主の二人と固い握手を交わす。
「アリガト!また会おうネ!」
そう言ってゲツガの頬にキスをしようとするがゲツガは人差し指で唇を押して止めた。
「女性が簡単にキスするもんじゃないぞ。領主さん」
「にゃはは!キミは案外固い人だね」
そう言って翅を広げて空に浮かぶ。そして二人の領主はケットシー領の方に向けて飛んで行った。その姿が消えるまでゲツガ達はその後を見送った。
途中、風が吹き寒くなったのかリーファが寄り添ってくる。
「……行っちゃったね」
「ああ、終わったな」
「たしかに、色々あったけど何とかな」
キリト、リーファ、ゲツガは各々思ったことを口にした。
「なんだか……」
リーファが何か言おうとした時にキリトの胸ポケットからユイが飛び出して言った。
「まったくもう、浮気は駄目って言ったじゃないですか!パパ、お兄ちゃん!」
「わっ」
リーファは驚き数歩離れた。キリトは焦ったような声を出す。ユイはキリトとゲツガの周りを少し飛んだ後、キリトの肩に座ってかわいらしく頬を膨らませた。
「な、なにをいきなり……」
「そうだぞ、ユイ。何を根拠に言ってんだ?」
「領主にくっつかれていた時、お兄ちゃんはそこまでなかったですが、パパはすごくドキドキしてました!」
「そ、そりゃ男なら仕方がないんだよ!な、ゲツガ!」
「そうだぞ、ユイ。キリトの場合は女性に対しての抵抗がないからそうなるんだ」
キリトはそれを聞くと、ゲツガに対して文句を言うがゲツガは頭の上に生えている耳をふさいで聞こえない振りをする。
その時、リーファがユイに対して何か聞いていた。
「ね、ねえユイちゃん。あたしはいいの……ゲツガ君……とかキリト君にくっ付いたりしても?」
「リーファさんはだいじょうぶみたいです」
「な、なんで!?」
「うーん、なぜかな。なんか女性とは分かってんだけど、なぜか妹みたいな感じ?的な接し方になっちゃうからか?」
「いいや、俺の場合はあんま女の子って感じがしないからだな」
「ちょっとキリト君!それどういう意味よ!」
そう言ってリーファは剣の柄に手を触れてずかずかとキリトに詰め寄る。
「い、いや、親しみやすいっていうか……いい意味でだよ、うん」
キリトは引きつった笑みのまますいっと浮かび上がる。
「そ、そんなことよりとっととアルンまで飛ぼうぜ!日が暮れちゃうよ!」
「あ、こら、待ちなさい!」
そう言ってリーファはキリトを追うために地を蹴った。
「おい、お前等待てよ!」
ゲツガは遅れながらもその後について行った。
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