神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第二十二章 変化の始まり《2》
前書き
学長は三年一組副担任の榊先生!?
驚き仰天スタート。
学勢達の声が主に東一、二番外交区域から響き、大人や子どもは耳を塞いだ。
中年の笑い声があらゆる方向から耳に届き、会議場や日来各地の空気を一変させた。
監視を行っていた戦闘艦はそれを続けながらも、中年が映る映画面|《モニター》を見ている。地上にいる隊員も同じで、行動を止め近くに表示された映画面や空に浮かぶ映画面に視線を向ける。
他の者達も行動を止め、映し出された映画面に注目した。
『おいおい、学長だってことは内緒でって約束したのにさあ。たく……まあ、いいか』
短い笑いの後。
『どうやら間に合ったみたいだねえ』
「ギリギリアウト、だな」
『セーラン君は厳しいねえ、こっちはこっちで大変だったのにさあ』
「たまにはちゃんと身体動かした方がいいぞ」
『気を付けよう』
頭の後ろに手をやり、榊は息を切らし笑った。
前とは違い、騒ぎは収まらないようなのでこのまま行こうとセーランは思った。だから黄森を無視して榊と話そうとしたが、こちらの行動を遮るように飛豊が会話の間に入ってきた。
「さ、榊先生が学長!? 副担任ではなく、就任直後から姿を見せず年中不在だった学長だと!?」
『リアクション大きいねえ、若いってもんは良いもんだなあ』
「これにも訳があるのか?」
「まあな、でもそれ話すの後でよくね? ほら、今こんな状況だしさ」
セーランが指差す方向。
ドラゴン級戦闘艦が主砲による砲撃準備に取り掛かっている。見れば分かる甲板に取り付けられた一基の主砲に流魔光が砲口に吸い込まれていく。
さすがに主砲は防げる程の加護ではないのか、円外にいる美兎が慌ただしく広げた腕を上下に振り、
「あ、あれはヤバイですよ! 多分、あの流魔光の吸収量からして主砲を強化していると思います。この加護の防御範囲はドラゴン級戦闘艦の副砲までです。あんなの食らったら皆さんジ・エンド! ですよ!」
美兎は振っていた右手を親指を立てて、勢いよく下に向けた。
「親指立てて、下に向けてるのはマギトどうかと思うなあ」
「自身の存在を必死こいて訴えるのといいわ、このお調子巫女が!!」
「な、何で最後、灯に怒られたんですか!?」
さあ、と円外にいる仲間達は揃って言う。
呑気にしていると空から新たな音が生まれた。ドラゴン級戦闘艦の主砲の発砲に必要なエネルギーが蓄積され、今は発砲準備に取り掛かっている。
砲撃の衝撃に備えて、加速機を徐々に吹かせながら今は標準を合わせているところだ。
会議場にいる者や、ここから離れている者もさすがに危険を感じた。会議場にいる大人達は後退りしながら、ここから離れようと考えた。
そんな状況で榊は笑みのままで、
『えー、と。ここでやられると全てが水の泡になっちゃうから、ここは一つ。いきなりだけど頼めるかい?』
『了解致しました。無能な人はそれだけで困りますね。――では、行かせてもらいます』
『ひどっ!』
謎の女性と榊の声の後、ドラゴン級戦闘艦の主砲が龍の咆哮の如く吠えた。
目をつぶりそうな眩い光を放ち、高出力での光線状の流魔砲が直撃ギリギリの距離を通ろうとする。狙いは西二番貿易区域と、西二番商業区域の間に通る大道だ。
慌てた様子でネフィアは防犯用の映画面を表示した。幸いこれをやることを想定してか、大道には人は存在しなかった。
ほっと落ち着くも、今さらされている状況に意識が戻る。
真上を通る砲撃に視線を戻し、青に輝くそれは真っ直ぐに大気を断つ。斜め一直線に進み、地を削るかのように速度が落ちぬまま突き進んだ。
だが、地にぶつかる前にドラゴン級戦闘艦の砲撃は再び防がれた。
先程の副砲を防いだ防御系加護ではない。斜め真っ直ぐ、地面に激突するのを防ぐように一枚の防御壁により防がれた。
大道よりも大きく、紙のように薄い一枚の防御壁に。
『着弾確認。防御成功と判断出来ます』
「ナイスだな」
『ナイスだと判断出来ます。やりましたね私』
セーランが親指を立てそれに応じるように、映画面に映る女性は親指を立てた。
役目を果たし、展開した防御壁は消滅した。
後には指を立てたセーランはふと何を思ったのか、謎の女性が映る映画面から視線を空へと向ける。
しばし黙って、
「あの人、誰?」
宙に表示されている女性が映る映画面を指差した。
何言ってるの、と言うように周囲が静まり返る。
映画面に映る女性は半目になり、何の意味が隠ったのかため息を吐いた。
『申し遅れました。私、この日来を統括させて頂きます“日来”と申します。以後、お見知り置きを』
一礼し、釣られるように日来住民達も頭を下げる。
宙に浮かぶドラゴン級戦闘艦が再び砲撃を放つも、同じく防御壁に防がれそれで終わりだ。
動揺を隠せないのか、何処と無く艦の操縦が荒い。だがそれはこの場にいる者も、ここにいない者も同じだ。
日来を統括する者。こんな存在は今まで知り得なかったのだ。
これに反応したのは砲撃を放った戦闘艦だ。
艦手前、映画面を表示し、
『日来を統括する者だと? そんな存在聞いたことがないぞ。どう言うことだ』
『それにお答えするには私個人の判断だけでは不可能と判断出来ます』
『え、何その視線。俺の判断に任せるみたいな、責任取るの嫌だよ、面倒だから』
無視し、
『榊学長の判断により――』
『ちょちょちょ、待って待って。おかしくない? 俺まだ何も言ってないよ』
『何を言っておられるのですか、学長であろうとも教員には変わりありません。ならば、学勢院と社交院との争い事だと割り切ってしまえば教員である榊学長は責任を取る必要はないと判断出来ますが?』
『なるほど、それならいいかな』
『と、割り切ったところでそう考えているのは榊学長だけですので。いざというときは責任を取って下さいね。――では説明を開始します』
『ハメられた!?』
物に当たったように後ろに榊はよろけた。
中年の男性を言葉巧みに操る女性は、榊と同じ暗い空間で説明を開始した。
『先程申しましたように、私はこれから日来を統括させて頂きます“日来”と申します。前に行われた会議の結果、と言うよりもはなっから仕組まれた結果、日来は独立のために動くので始動致しました』
「始動? 機械なのかあれは」
上を向く飛豊の声に日来は頷く。
近くに居た仲間達は首を傾げるだけで、何も知らないと示す。
それを映画面越しに見て、同時に聴覚で艦の加速機の音を聴く。
効果無し、と判断し空でおとなしくしている黄森の艦を確認。視線をそれに向けながら口を動かす。
『はい、私、機械です。詳しく申しますと機械人形で、並の人よりかは強いと判断しています』
自身の強さを表すように、腕を曲げて力瘤を見せ付ける。細目の腕に力は入れているが、あいにく立派な力瘤は出なかった。受けが良くないと判断して、日来は力を入れた腕を下ろす。
一拍置いて、
『これより日来は独立活動の一貫として宇天学勢院覇王会長の解放阻止のため、日来の試運転を含む航行を開始したいと思います』
『……航行だと?』
映画面から漏れる黄森の隊隊長の声。いざという非常時の為に、他の艦にも連絡を飛ばすようにと仲間に合図する。
あることが頭に過るが、まさかと思いなぎ払う。
詳しいことは分からない。だから今はただ黙って聴くだけだった。
『これより五分後、まずは日来の試運転を開始。準備が完了次第、奥州四圏の東側に存在する辰ノ大花へと出向致します。皆様にはこれから行ってもらうことを映画面に映しますので、各自映画面を表示し、記入された指事に従って下さい』
では、
『これから五分間、日来の領域内に存在する黄森からの防衛、駆逐をお願い致します』
一礼し、日来が映る映画面と手を振る榊が映る映画面が消えた。
これから五分間という、短くも長い戦いが始まる。
●
これに対し、即座に動いたのは幾多の実戦を積んだ黄森の隊員だ。
会議場の上空近くで航行しているドラゴン級戦闘艦からは、緊急事態を伝える警報が鳴り響く。
「他の艦への報告終わりました。本部への報告は……」
「まだだ、そう簡単に若者に荷を背負わせるわけにはいかん。先程の言ったことが本当ならば、この日来の地を空に浮かすということだが」
「そんなまさか。約十キロもある日来の地を空に浮かすと言うのですか。もし日来が武装をしていたならば、この世に二艦しかないラグナロク級戦闘艦の新たな艦となりますが」
艦の操作室には緊迫した空気が流れ、そのなかで隊員は自身が成すべきことをする。
この艦の隊隊長は眼前の映画面|《モニター》に映る日来の地を見ながら、ものを考えるように顎に握った手を付けた。
「そんなことをすれば中立国の二印加奈利加|《トゥーエン・カナリカ》だろうと敵に回ることになるが……」
「二印加奈利加もラグナロク級戦闘艦を保有してますからね。注意するのは残り一艦を所持している他勢力群|《イレギュラー》ですね、一体どの勢力が何処に隠してるかさえ分からない状態ですから」
「それを今考えても仕方がない。さあ――」
年のいった隊長は息を一息、肺に空気を送り込む。肺一杯に溜まった空気を全て押し出すように、各艦に繋がっている映画面に向かって声を出した。
「総員よく聞け! これより日来の制圧行動に入る。指示は各隊の隊長の指示に任せ、その指示に従うように。学勢達に格好の悪いところ、――見せんじゃねえぞお!!」
「「了解!」」
『『了解!』』
仲間達の声が耳に届く。気合いが入っている、やる気のある声だ。
日来の者達は、この場所を消させないために戦いに向かっている。ならば、こちらはこれから現実に立ち向かって行く黄森の学勢にこれが大人だと、かっこつけられるように戦うだけだとそう思う。
意志と意志の戦い。
この五分間の戦い。最後に勝つのは、意志の強かった方だ。
●
会議場にいる者達は学勢、四人の社交院を除き安全の方を優先し社交領の建物のなかへと身を隠す。
空を行く艦は砲撃を放ってはいるが、やはり防御壁に阻まれ効果は無い。
ここだけではない。日来の全土がこのような状況だ。
横型車輪陣を組んでいたワイバーン級戦闘艦は陣を崩し、日来の地を低空飛行をしながら制圧行動を取っている。主に砲撃による威嚇。下手に動くな、と意味が隠った砲撃だ。
地上で監視を行っていた黄森の隊員も、各隊の隊長の指示に従い動いている。抵抗する者を取り押さえて、下手な動きをしていないかと四方八方、視界を動かしながら手に持つ長銃を握り締める。
更には空から轟音が響き、残り二艦のドラゴン級戦闘艦が全体の大まかな指示をしていた。
だが、やられるだけの日来ではない。
彼らの動きを阻むため、地上には流魔による障壁が造られ迷路のように行き先を阻む。
闘争心が強い者は、身近にある調理器具や棒状の木材を持ち黄森の隊員に立ち向かう。
大地が、空が、日来が震える。
この空気は会議場にいる者達にも伝わっている。
近くから、遠くから声が聞こえる。日来住民の声、黄森の隊員の声が混ざっている。
「残り四分ちょっとか……」
飛豊は隣にいるレヴァーシンクが表示した映画面|《モニター》を見ながら言う。
今、会議場の学勢達の殆どは円陣を組んでいる。それを遠くから社交院が見ている形だ。
「このままほっとけばいけるのでは?」
「駄目だよ天布、そんな安易な考えは。例え日来が無事に行けたとしても、まだ日来には黄森の隊員がいるし、周りには戦闘艦があるからね」
「グレイの言う通りですわ。私達の最終目的は日来の独立。その前に辰ノ大花に行くわけですが、そこではここよりも激しい戦闘が予想されますわ。出来るだけ日来への被害は、わたくし達も含めて少ない方がいい。やらなければ、その分の被害をこちらが受けることになりますの、よ!」
ネフィアは銀の腕輪を縄状に変化させ、会議場に近付こうとしていた黄森の隊員を縛り、遠くへ放り投げる。
加護を発動していれば大して意味の無い攻撃だ。ネフィアに続くように、流魔操作で動きを封じていた隊員を宙に浮かばせているセーランが、顔を上げ隊員を見ながら、
「今は治安関係だから学勢担当。まあ、俺達じゃなくて後輩達が頑張ってるから今は楽だな。俺達は辰ノ大花に着いたときが本番てわけ、だ!」
セーランはバラバラに浮かんでいた隊員を一つにまとめ、上空に見えるドラゴン級戦闘艦の甲板へと放り投げた。
わ、と声が聞こえて数秒後。無事に見事、甲板へと落ちた。
上空からは隊員が何か言っているようだが、離れているせいもあって何を言ってるのか分からない。
『おい馬鹿長! いきなり黄森の隊員が攻めて来て大変なんだ、こっちに増援寄越せないのか』
突如、セーランの眼前に映画面が表示された。
見知った男性の顔が映り、息を切らしながらこちらに向かって言葉を飛ばした。
背後には他の生徒も映っており、制圧行動のために彼らを取り押さえようとする黄森の隊員と交戦中だ。場所は見た感じ、日来学勢院高等部校舎の校庭だろう。
「だーかーらー、もう馬鹿設定無しって言ったろ? それにお前達四組は戦闘系の奴だけだから大丈夫だろ」
『馬鹿野郎! 今、高等部全生徒は各区域に行って黄森の奴らと交戦中だ。こっちは少ない人数で初等部、中等部の方も防衛してるってのに、一組の奴らは呑気だな!』
「俺達は辰ノ大花行ってからが本番なんでね、こんな所で疲れ溜めてたらいけないの」
映画面に映る男子生徒は怒りが少し込み上げ嫌そうな顔をしたが、辰ノ大花という言葉を聞いて表情は緩む。
『わーかったよ。馬鹿長が恋人救うためだもんな、その代わり……解ってんだろ?』
「俺達の見せ場は後半、だから前半の今はお前達の見せ場だ」
その言葉を聞き、男子生徒は高笑いをした。
『ははは! そうだったな、ならそこでゆっくり休んでな。俺達はお前達の引き立て役だ、良いとこ持ってけ泥棒が』
「あんがとな」
『後三分、どってことねえよ』
笑うセーランと男子生徒を繋ぐ映画面が消えた。男子生徒が戦闘を開始するため、邪魔なので消したのだろう。
日来には轟音が響き、空には艦が制圧を主とした砲撃を、地上では隊員が日来を止めようと動く。
三分を切った今、時間が経つにつれ黄森の勢いが増していく。
止まらぬ時間が彼らを動かしている、と言っても過言ではないだろう。
「やはり黄森の地上部隊は外交区域や貿易区域を制圧しに行っているな」
「空からの砲撃は防御壁により防いでいるが、地上は防御壁を障壁代わりに発動するだけで、抜け道は幾らもあるからな。ほんの時間稼ぎしかならんか」
学勢達から離れた場所いる社交院の鷹代と、葉木原が社交院用の映画面を表示し日来の状況を確認している。
二人の後ろからは、神崎と倉澤が映画面を覗くように顔を動かしている。
セーランはそれを目に捉え、
「防御壁は誰が操作してんの?」
社交院の面々に問い掛ける。
少しの間が空き、社交院の四人がセーランの方を向いた。
セーランの問いに答えるのは葉木原だ。
「機械人形だろう。彼らは操作系には長けているからな」
「そう言えば、“日来”のようなもんが他にも沢山あったな。そいつらも機動してるのか」
「補助として機動しているだろう」
そうか、とセーランは解ったように言った。
呑気にあくびを一つ。背筋を伸ばすように腕を空に向かって上げる。その空には艦からの砲撃が連続して発射されている。防御壁で防がれるが気にはしない。
何を思ったのか、セーランは物思いに更けるように空を見た。
まだ正午にはならない。だが、時間は刻々と刻まれていく。
焦りはしないが、早く行きたいと心が思う。
もう二度と、好きな者を失わせないために。
後書き
五分間の戦い開始しました。
まあ、五分とあって短いです。
この五分間に機械人形達は日来を上空に浮かせるための設定や、その後の設定もしています。
機械人形はオートマタ、オートマトンと呼ばれている西洋辺りのからくり人形の日本語訳らしい。
今でいうアンドロイド。
DVDでター○ネーターを見ていたらふと思い付いた要素です。
次回は五分間の戦いの続きからです。
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