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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  災禍を振り撒く者

翼。

鳥類が持つ、地上からその足を解き放つ物。

とある有名な蛮勇のお話。

蝋で鳥の羽根を固めて翼をつくり、空を飛んで閉じ込められていた塔から脱出した、蛮勇は父の警告を忘れて高く飛びすぎる。やがて太陽の熱は蝋を溶かし、彼は文字通り羽根をもがれた。

羽根をもがれた彼は地に墜ち、死んだ。

このことからも解かるように、一人で人間は飛べない。これ以上ないくらい単純な真理。

鬼ごっこをする幼稚園児にでも解かる。

だから人類は鳥の真似事で、大勢で飛行機を創った。そして空を飛んだ。

だが、その偽りの翼も、地に落ちることもある。

機器の故障や、少しの想定外。たったそれだけのことで、鋼鉄の鳥は容易に地に墜ちる。

皮肉なことに、鳥がジェットエンジンに吸い込まれて起こる、バードストライクなる現象も起こるという。

何が言いたいかと言うと、科学が進んだ今でも人類は完全な鳥の動きには近づいてはいない。

しかもよりにもよって、そんな物が人間の背中からにょっきりと生えているなんて、誰が想像できようか。

だからレンは、目の前の殺人ギルドの首領の背中から飛び出している漆黒の物を初めて見た時、脳裏に閃いた、閃いてしまった思考はしょうがないと思う。

その思考とはすなわち、なんだあれ、だった。

せっかく戦闘にシフトされていた脳が冷えていく。《鬼》が、身体の奥底に渋々引っ込んでいくのも感じる。

思考が本来の自分に戻ってくるにつれ、忘れていた感情が戻ってきた。思わず、PoHに声をかける。

「おじさん………何……それ……………」

発された声からは、金属質なエフェクトが取れていたが、それに気付かずに続ける。

その問いにPoHは答えず、ただにやりと不敵に嗤う。そして、行動で答えた。

身体をすっぽりと覆っていたポンチョの端っこを掴むと引っ張り、ぶわりとはだけさせた。

それを見た時、レンの思考が完全に停止した。

それは………そこには──

漆黒に近い、クロムシルバーに輝く鎧が存在していた。










災禍の鎧。

かつて存在したあるプレイヤーの残した、負の遺産。

その鎧を着たものは、精神を侵され、《獣》となり、ただ殺戮のみを求めるようになる。

どんなに良い人柄の者でも、恐らく聖人だとしても《鎧》の侵食は免れられないだろう。

だから──

ありえない。

そうレンは思った。

《鎧》の侵食力は絶対だ。腕などの一部ならばともかく、全身などと言う広い範囲を侵食されながらここまでにの会話が成立するはずがない。

レンが眼を驚きで見開いたのを見、満足そうに目を細めながらPoHは言った。

「何を驚いているんンだ、boy?」

そうPoHが言うのと同時に、だらりと垂れ下げたPoHの腕が握っていた友斬包丁(メイト・チョッパー)に漆黒のライトエフェクトがが纏わりつく。

「俺はお前が言う《心意》ってノは、全て理解した。ただそレだけだ」

その凶器を構えつつ、PoHは言う。フードの奥から憎悪の感情を溢れさせながら。

その感情に呼応したように、翼の黒い光もより凶悪に、より凄惨に輝く。

「だから言オう。お前は俺に勝テはしなイ」

心底見下されたように、あるいは歌うように、あるいは嘲るように、あるいは吐き捨てるようにPoHは言った。

じゃきん、と黒く光を纏う肉厚包丁の切っ先をこちらに向ける。

そのフードに唯一隠れていない部分の口元が歪む。

PoHは嗤う。

それに感化されたように、自然に口の端が持ち上がってくるのをレンは感じる。

そして、心の奥底から《鬼》が舞い戻ってくるのも感じた。

そうだ、《鎧》がどうと言うのだろうか。

それが、今から始まる血戦に何か関係があると言うのだろうか。

自然と口角が持ち上がる。

レンの口から漏れ出たのは、《嗤い》。

『『ァ、ふっハッハハハハハハハハハはハッハハハハハハハハハははははハハはハッハハッはははハハ八ははあはははハハはハッハハハハハハハハハはははハッハハハハハハハハハ八はははははあははははハハハッはあははははハハハッはははハハはあはははあっはははあははあはははハハはあはハッハはははあははははハッハはははハッハははあはははハハはあっははははあっは八はアアはははハハハッハハハハハハハハハははハッはあははははハッはあははははハハはハッはははハッハハハハハハハハハははははハハははははハハはははハハはははハハはハッハハハハハハハハハあはははあハッハはははあっはあはははあははあああはははハハははあはははハハ八はあっはあはははハハはあははははハハははハッはははハハははあははははハハははははハハはははあハッはハッハははははハハはハッハはははハッハははあはははハハははあはははハハはああっはははははあははははハハははははハハ八ははあはあっはあっはははハハハッ八はハッハはハッハはは八ははああっはははハハはあはハッはははハハ八ははは八ははははハハ八はあっはは八ははは八ははは八はははハッはははハハははははハハはあははあっははははハハはハッハははは八はあっははははハハはははハハはハッハはアアはははあっははあっははあっはははははハッはははハハあっはは八ははははハハはあっははははあははははハハははははハハはハッハはあっはははははハハはははあっはははハハはあははははハハははははハハはははああっははははははははあははあっはあはあははははハハはあっハッハァははハッハッハッハハハハハハハハハははあははははハハははははハハはハッハァはあはハッはははハハははあはははあははははハハはははあは八ははあハッハはあははアアあっはははハッハはハッハはははハハはハッハァはははアアははハッはははハッハァははあははあはあっははははあハッハはははハハはハッハはハアハアはははハハはははあハッハははあはははあはははハッハァはははハハはははハハはあはあっはははあはははハハはははハハははあハッハはハッハハハハハハハハハははハッ八ははははアアははあはハッハァははは八はあっはあはははハッハァあっはあっはははハハはははハハはははハハはははハハははあはハッハははあはははハハはははハハはアアはハッハァはハッハハッはははハハハッハァハッハ八ははははハッハははああっははははあっははははあっはあっはははハハ八ははははハッハはははハッハは八はハッハァはははあははあははははハハはははハハははははハハはハッハアアはは八ははははハハハッはははハハははあはハッハははああっはあはははハハハッはあははははハハはははあっははははハハハッはははハッハ───』』

ジョニーとザザの姿は、いつの間にか無い。

──本気で殺れ合える。

灼熱した思考の片隅でそんな思考が一瞬だけ浮かび、消える。

そんな思考も、墜ちていく。

狂気の中に、墜ちていく。

血色に染まったPoHの両眼を、同じ血色に染まった両眼でレンが睨み返した。

《鬼》が──

嗤いあう──










どちらから動いたのか、記憶には無い。

ただ気が付いたら、戦っていた。そんな感じ。

互いの眼は、それぞれ真っ赤に染まり、互いの得物は、それぞれどす黒く光り輝いていた。

『wow!楽シいなァ、オイ!!』

『楽シイネェ!!本当ニ楽シイ!!』

どちらからともなく嗤う。

天使のように笑い、悪魔のように嗤う。

引きちぎれたように。

混濁したように。

焼け爛れたように。

笑う。嗤う。哂う。わらう。ワラウ。

嗤いながら、互いの得物をただ無心に打ち付けあう。その全ての一撃は重く、そして鋭い。一撃当たっただけでもHPバーが消し飛ぶ。そんな攻撃。

だが、互いの脳裏にはその一撃一撃にかけられる思惑とは全く違う思考が浮かんでいた。

このヒリヒリした瞬間がもっと続けばいい、と。

レンだったモノはPoHの顔を見る。

PoHの顔は嗤っていた。

PoHはレンだったモノの顔を見た。

レンだったモノの顔は哂っていた。

不思議なことに、戦えば戦うほどに周囲の時間がどんどんゆっくりになっていくように感じられる。だが、互いの動きだけは欠片も緩まない。

視界がどんどん血色に染まっていく。その中央に、不自然に点滅する文字が現れる。

【Brain Burst Program】

文字化けと点滅でよく読めないが、とてもその文字に心が吸い寄せられるような感じがする。

それは、とても不思議な体験だった。

身体と精神が分離した、とでも言えばいいのだろうか。心では、全く戦闘のことなど考えていないのに、体はその後も変わらずPoHとの激戦をし続けている。

視界はその間も赤く染まり続け、どんどん広くなっていくような気がした。

その二人の《鬼》が喰い合う広い空間全てが、手に取るように解かる。

ずきり……、と頭に鈍痛が走る。

今では、レンは激突する《鬼》達を見下ろすように見ていた。

喰い合う《鬼》と《獣》を。

いつまでも見ていた。










いまだ晴れない土埃の中、レンは一人溜め息をついた。

「あ~あ、逃げられちゃったかぁ~」

だだっ広いこの広間に、もうPoHはいない。レン一人だけだ。足元には、空中に残滓を引いて消えていく途上にある真っ黒い塊が一つ。

《災禍の鎧》の抜け殻であり。

《災禍の鎧》の残り香であり。

《災禍の鎧》の残骸であった。

たまにもぞもぞ動くことが精一杯のようで、もう脅威も感じなければ興味も湧かない。

ただ風景の一部として捉えるだけだ。

それよりレンの視線が向けられるのはただ一点。PoHが転移結晶を使用し、この空間からいなくなった地点だ。

転移する寸前、PoHは言った。

勘違いするなよ、boy。これで終わった訳じゃねぇ。まだ、何も終わってない。

It’s show time

その声は、いやその台詞は、なぜか《鎧》の初代所有者が死ぬ時に放った台詞と全く似ていないのに、全く同じだと感じた。

そしてPoHは言いたいことだけ言って、青い光にその身体を任せて消えていった。

「…………なんだよ、それ。おじさん」

口から自然と洩れた言葉。意味なんか最初から無い。

だが、その言葉に対する返答は唐突にもたらされた。

「ほぉーんと、そうだよねぇ」

びくりと肩を震わせてレンは後ろを振り返る。

いつの間にか、レンの後ろには数十人規模のプレイヤーが立っていた。背も体型もバラバラなそのプレイヤー達に共通するものは二つ。

全員が全員、毒々しいケープを羽織っていることと、その表情が驚くほど無表情なことだ。

その不気味な集団の中央、一人の人物が立ち、こちらを見据えていた。

その人物は、ケープで統一されているその集団の中で唯一同色のスーツを着ていた。だが、そいつの様相で特筆するのはそこではない。

その顔。

男性とも、女性とも取れる整った輪郭の顔は、残念ながら全く拝見することはできない。その理由は──

ピエロの仮面。

不気味なそのピエロのような仮面で、顔をすっぽりと覆っているのだ。

そのプレイヤーは、何が面白いのかくすくすと笑う。

その声も中性的な整った声なのだが、どこか歪んだ鈴のようなエフェクトが伴っている。

「凄かったよ、レン君。見物料はあげないけどね」

「………………フェイバル」

レンが唸るようにそう言う。空間に、忘れていたかのように殺気が充満し、膨れ上がっていく。

だが、その殺気をも笑い飛ばし、初代第四席にして、要注意(イエロー)ギルド【尾を噛む蛇(ウロボロス)】リーダー《背中刺す刃》フェイバルは、くすくすと嗤った。 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「はい、今回もお便りを読んでいきますよ~」
なべさん「いぇい!」
レン「月影さんからのお便りです。ま、まさかあのPoHが人外化するとは……。この神聖剣のヒースクリフにも、読みきれなかったぜ」
なべさん「なんで無理矢理にキャラ作りしてんだよ………。はい、今回の話を見た皆さんはもう分かってるように、PoH様六代目災禍の鎧の巻ですた。まあ、ネタバレすると、某加速世界では、六代目は誰だったか考えたらわかると思いますね、ハイ」
レン「へ?えーと……ああ!そーゆーことか!!」
なべさん「フッ!解ったようだな」
レン「PoHに鎧系の装備は似合わねぇ!」
なべさん「何に気付いてんだよ!えー、加速世界のほうの原作を読んでいる皆様にはもうわかっていると思いますが、読んでいない読者様のために解説いたします」
レン「何気に上目遣いだな」
なべさん「上から目線ね。ハイ、アニメ版でフラグが立ってたから気付かれた方もいらしたかもしれませんが、六代目災禍の鎧はあの主人公くんでした」
レン「んで、その主人公くんの能力を書いた、と?」
なべさん「そう!」
レン「微妙だねぇ………」
なべさん「うるせぇ!自作キャラ、感想を送ってきてください!!」
──To be continued──  
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