ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
イエローギルド
要注意ギルド【尾を噛む蛇】。
その起源は古く、SAO開始時まで遡る。
最初、そのギルドの掲げた思想は今で言う《軍》の掲げる理想に似ていた。
生活するためには金が要る。ならばその金を共同で、かつ安全にモンスターから協力して得ようではないか、と。
そして、得たその金は全員で平等に分配しようではないか、と。
その素晴らしき理想は、金を食い詰めたプレイヤーをまるで灯りに吸い寄せられる蛾のように引き寄せた。
洗脳は簡単だった。
リーダーのとあるプレイヤーは、集まった彼らに自らの思想を説いた。
それはすなわち、
金を得るためならば、何をしても正当化される、と。
とあるプレイヤーの言い分はこうだった。
人には生存権と言うものがある。人には最低限度の生活を営む権利がある。
だが、当然ながら、この世界でそんなものは保証されない。ならば、ここでは死に物狂いで生きなければならない。つまり、その過程で何をやっても生きるためなのだから、正当化される。
全くの詭弁。しかもこの暴論は、根っこの部分が間違っている。SAOでは、食欲さえ抑えればまず死ぬことはない。
餓死も、衰弱死も、過労死もない。
だが、性質の悪いウイルスのようにその言い分は、集まったプレイヤーの心の中に潜り込んでいった。
きっと、彼らの心は疲れきっていたのだと思う。だから、自信を持って言い切るそのとあるプレイヤーの言葉に惹かれた。ただそれだけ。
運が悪かった、ただそれだけ。
発足した当初、その集団は集団、という言葉が示す通り、人数の少ない慎ましやかなものだった。
当時、すでに基盤が整いつつあった、《六王》の目にも留まらない程度の。
だが、その集団は、かの《軍》をも負けずとも劣らずの勢いで、瞬く間に膨らんでいった。
だが、その集団の目的は一滴の波紋も、狂いもなかった。
それはすなわち、《金》。
金のためならば、情報収集でも、他愛のないお使いでも、アイテム収集でも、殺人ですら厭わない。
そんな集団に、発展していった。
その集団の規模、危険性ともに、いよいよ無視できなくなった当時のヴォルティスやヒースクリフ、並びに《原初の六人》は、監視の意味合いでリーダーのプレイヤーを六王に引き入れた。
そして、ヴォルティスを始め当時の初代六王達は、それで注意の必要はなくなったと全員が認識した。
しかし、彼らは失念していた。
《要》注意ギルドなのだ。注意ギルドではないのだ。
彼らは、そんなことでは止まらなかった。いや、もっと酷くなっていた。彼らはもう自分のことだけを考える奴らではなくなっていた。狂信的と言っても差し支えのないくらい、リーダーを敬い、尊敬していたのだ。
そういう意味では、そのリーダーとPoHは似ていたのかもしれない。
ただ、その目的が似て非なる物だったというだけのことだったのだ。
【聖竜連合】すらも上回る強さをようし、メンバーも軽く三桁を上回る数になった【尾を噛む蛇】は、全ての情報屋に向けて、あるメッセージを発した。
どんなことでも引き受けましょう、と。
どんなこと、と言う言葉が示す意味は、もちろん六王にも伝わった。
そして、彼らは気付く。自分達の努力は欠片も伝わらなかったことに。
同時に彼らは、リーダーに詰め寄った。どういうつもりだ、と。
だが、そのリーダー、フェイバルはさも面白そうにくすくすと笑って、こう答えたそうだ。
なんでもはなんでも、だよ。私達は頼まれたことしかやらないよ。悪いのは、頼んだプレイヤーじゃあないのかな、と。
そう言って、くすくす、くすくす、とフェイバルは嗤った。
ヴォルティスの沸点はここで臨界点を迎えた。
情報屋のアルゴによれば、ヴォルティスが本気でぶち切れたのは、後にも先にもこの時だけだったらしい。
最終的にどういったやり取りがあったかは不明だが、とにかく最終的にフェイバル率いるギルド【尾を噛む蛇】は六王から脱退し、何があってもそのギルドに入らない、依頼をしない、がアインクラッドの暗黙の了解になった。
くすくす、とフェイバルは笑った。
だが、その顔が本当に笑っているのかは解からない。不気味なピエロの仮面で隠しているからだ。
毒々しい黄色いスーツの端が、風もないのに揺れる。
「レン君、久し振りだね」
「できれば会いたくはなかったけどね」
のんびりした声をレンの口は発しているが、目の鋭い眼光は欠片も揺るがず、くすくす笑いを続けているフェイバルを射抜いている。
レンの殺気には意を返さず、フェイバルはくすくすと嗤う。
一見、平和そうに会話しているように見えるが、その場に立った人は発狂するであろう。それぐらいの殺気が充満している。
その妙な間を破ったのは、レンだった。
「何でこんなところにいるの………?」
眼光を緩めず、そう訊く。
半ば満足する答えは期待していなかったが、意外や意外、フェイバルは肩をすくめてレンの足元の《鎧》の残骸を指差した。
「決まっているだろ。《ソレ》を回収しに来たんだよ」
「…………まさか」
この言葉で、レンの頭に電撃的に閃いた。
「あの《鎧》をおじさんにやったのは、お前だったのか!?」
スカカッ!!
呆れるほど気の抜けた音が響き、レンの足から力が抜けた。堪え切れずに、地面に倒れる。頬に当たる地面が、驚くほど冷たい。
ざりっ、と足音がし、髪の毛を引っ張られ、レンは無理やりに顔を持ち上げられる。
「……お前は何様だ?」
持ち上げられたレンの瞳を覗き込んできた要注意プレイヤー達の首領のそれは、驚くほど冷たく、暗かった。
思わず、レンの背に冷たいものが走る。
必死に押し隠したが、表情に出たのだろうか。満足そうな表情でフェイバルはレンの髪を離す。
地面にどさっと落とされたレンは、顔だけ動かして上を見る。
フェイバルは、相変わらずくすくす笑いながら手の中で細い《針》を弄んでいる。
そう、それが原初の六人が一人、フェイバルの武器。
三番目に発見されたユニークスキル《投針》。
一番目は、原初の六人ヴォルティス卿の《戦神斧》。
二番目は、原初の六人ヒースクリフの《神聖剣》。
四番目が、原初の六人エンケイの《王槌》。
五番目が、原初の六人エクレアの《飼い馴らし》。
六番目が、レンの《鋼糸》。
七番目は、シゲクニの《自在剣》。
八番目は、テオドラの《戦舞》。
即応性と数量に優れ、決定打に欠ける面もあるが、フェイバルの手に渡ると立派な凶器になる。
痛みに顔をしかめながら、レンは自分の膝小僧を見る。そこには、さながらハリセンボンのように針が突き刺さっていた。しかも尋常じゃない鋭い痛みからして、しっかり心意が働いているらしい。
フェイバルは、くすくす笑いながらレンを見る。
「口には気を付けた方がいいよ?レン君。でないと――」
にィーっと、その口元が歪んだ、気がした。
「長生きできないよ?」
その言葉を最後に、黄色スーツピエロはよっこらせと立ち上がると、背後に控えていた異様な集団も全く同じタイミングで動く。
それは異様な光景だった。
彼らは皆一様に表情がないのに、一部の隙もなく完璧に動作が一致しているのだ。これが異様と言わずして、何が異様と言えよう。
そしてフェイバルは手をひらひらと後ろ手に振りながら、その集団を率いて闇に消えていった。
それをただ見送っていることしかできなかったレンは、自分の意識がどんどんブラックアウトしていくのを感じていた。
──────────────────────────────────
男が笑っていた。
高らかに、さも面白そうに笑っていた。
そこは真っ白な空間。
そこに無限とも言える数のウインドウが渦を巻き、その中心に男は立っていた。
いや、浮かんでいた、と言うのが正しいかもしれない。
だってそこには地面などないのだから。底などはないのだから。
そのウインドウ群の中央で、その男は笑っていた。
その男は、真っ黒なタキシードを着ていた。
────フッフフフフフフ、ァハッハハハハハハハハハハハハ────
男は笑っていた。さも可笑しそうに。さも面白そうに。
さも………嬉しそうに。
────ハハハハハハハハ!やった!やったぞ!ついに《扉》をこじ開けられた!────
男は嬉しさのあまり、手で顔を覆った。
────これで《アカシック・レコード》へのアクセスの可能性も見えてきた!植えつけた《種》も完全に芽を出した!いける!これならば、私は《真理》を手に入れる事ができる!!やった!私はやったぞォー!ァアッハッハハハハハハハハハハァ!!!────
男はそう言って哄笑する。
さも面白そうに。
さも可笑しそうに。
さも嬉しそうに。
だが、男は気付いていない。
高らかに笑うその背後。
二人の少女が浮かんでいた。
一人は濡れたような黒髪に真っ白なワンピース。
そして――
もう一人。
抜けるような真っ白い純白の髪に、同じく真っ白なワンピース。
そのくりくりとした大きな眼が、ゆっくりとだが開きかけていることに。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「うんうん、今回はえらく黒い奴が出てきたね」
なべさん「えぇえぇ、月影さんがオリキャラ登場を待っているというのでね、書かせてもらいましたよー!」
レン「どうでもいいけど、後々ややこしくなりそうなキャラが出てきたねぇ」
なべさん「ヤメテ言わないで!」
レン「ふぅ、それでは改めまして、お便りを読んでいきますよ」
なべさん「はいはい(立ち直った)」
レン「月影さんからのお便りです。今言ってたフェイバルさんの名前見て、何か某格ゲーのHさんってのを思い浮かべたんだって。Hさんって、誰だろ?」
なべさん「さあ?でも、参考にしたのは某とあるからですよ、ハイ」
レン「はい、月影さん、お便りありがとうございました!これからも本作品のご愛読をよろしくお願いします」
なべさん「自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー♪」
──To be continued──
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