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戦国異伝

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第百十四話 幕臣への俸禄その四

「私はそうしたことには興味がありません」
「だからですか」
「側室は持ちません」 
 こう母に言い切る。
「あれと何時までも二人で過ごします」
「そうするのですか」
「母上にとってもよき嫁と思いますが」
「そなたはよき女房を持っています」
 これが母の返事だった。
「ではこれからも」
「大事にしていきます」
「そうするのです。ところでたまですが」
 彼女から見れば孫になる。明智の娘の一人だ。
「まだ幼いですがその顔立ちは」
「あれに似て、いや何かがさらに加わって」
「大きくなると恐ろしいまでの美人になります」
「そうなりますな」
「今天下で美女といえばお市様ですが」
 信玄の姉や妹、娘達も整った顔立ちの者ばかりだ。だが織田家もそれに勝る劣らず顔立ちの整った家なのだ。 
 それは妻に入っている帰蝶も同じだ。彼女もまた、である。
 そしてその織田家の中でも市はというと。
「あの方のお姿はこの目では見たことはありませんが」
「それがしはあります」
「どういった方でしたか」
「背は高く非常に整った方でした」
 市の背についても語るのだった。
「織田殿に似ているのでしょう」
「織田様も顔立ちが非常に宜しいですね」
 母は信長の顔については知っていた。彼にしてもその顔立ちはかなり整っており美男として通っているのだ。
「そしてお市様もですか」
「素晴らしき方です」
「そのお市様程ではないにしても」
「たまもまた奇麗になりますか」
「必ずなります」
 可愛い孫娘のことをこう話す。
「あの娘は」
「それは何よりです。では良縁に恵まれるでしょう」
「細川殿のご嫡男と結ばせるというのは」
「そこまではまだ考えていませんが」
「しかしですね」
「その話は確かに出ています」
 これはその通りだというのだ。
「細川殿から直接ではありませぬが」
「それでもですね」
「はい、あちらのご嫡男と」
 そのたまの縁談の相手である。
「話が出ています」
「それはどうするのですか」
「よい話かと」 
 明智はこう己の考えを母に話す。
「それもまた」
「ですか」
「はい、そう思います」
「ではその様にするのです」
 母は確かな声で息子に告げた。
「そなたが考える様に」
「ではその様に」
「そしてですが」
 母の我が子への言葉は続く。今度の言葉はというと。
「今は戦国の世、そして武家の婚姻は家と家のもの」
「そのことですか」
「そうです。家と家の婚姻であるが為に色々と耐えることは多いです」
 これはこの母もわかっていた。伊達に自身も武家の女であり明智光秀の母である訳ではないのだ。だからこそこう言うのだった。
「むしろ耐えることばかりです」
「それが武家の女ですね」
「夫は戦の場に向かい妻はその留守を守る」 
 そこには夫の討ち死にへの覚悟も入る。
「それが務めですが」
「それでもですか」
「だからといって幸せになってはいけないということもありません」
 そうした考えもないというのだ。
「武家の女でも幸せになっていいのです」
「ではたまもまた」
「よき家のよき伴侶の妻とする」
 確かな声と顔で息子に告げる。 
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