『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第十六話
「妾も同道しよう。構わないか?」
「え、えぇ。ですが車の人数もあるので一、二名くらいなら……」
伊丹はいきなりの事で驚くが、同行の許可を出す。
「よし、ボーゼスとパナシュは街の治安維持を、ハミルトンはフォルマル伯爵領の維持管理と代官選任を任せる。行くのは妾で十分だ」
ピニャは自分で行くと宣言してハミルトンやボーゼスに後を任すのであった。
「ひ、姫様一人では危険ですッ!! 此処は私とボーゼスの供をッ!!」
意外な事にハミルトンが、ボーゼスがピニャに反論する前に反論した。
ハミルトンの意外な反応にピニャは驚きつつ頷き、ハミルトンとボーゼスを供にして維持管理と代官選任はパナシュに、治安維持にはグレイに任せるのであった。
「ヒルダ、ちょっといいか」
ミュイの館を出て自動貨車に乗り込もうとするヒルダに樹は声をかけた。
「どうした?」
「悪いが、伊丹隊長の自動貨車に乗ってほしいんだ。ピニャ代表が乗るのは伊丹隊長の自動貨車だからな」
「? それがどうしたと言うのだ?」
「ヒルダはアルヌスで戦闘を経験した生存者だ。アルヌスで日本軍の車両に出会すと思うからレレイ君と共に日本軍――俺達の武器がどれだけ恐ろしいかをピニャ代表に教えてほしいんだ」
樹はヒルダにそう言った。
「……よし、それならイタミの車に乗ろう」
樹の考えが分かったヒルダは頷く。
「済まないな。あの戦闘を思い出してもらうようで」
「構わない。あの時の戦闘を知ってもらうためだ」
ヒルダはニヤリと笑う。
「(何かいらん事まで言いそうやけど……まぁええや)」
そして樹は伊丹に事情を説明し、伊丹も了承してヒルダは伊丹の自動貨車に乗り込む。
「あ、貴女はグリュース王国のヒルデガルド皇女ッ!!」
先に自動貨車に乗り込んでいたピニャは乗り込んで来たヒルダを見て驚いた。
「先のアルヌスの戦闘で戦死したと聞いていたが……」
「日本軍に助けてもらった」
ヒルダはそう言って外を見る。ピニャもこれ以上聞くのは不味いと思ったのか何も言わなかった。
そして第三偵察隊はイタリカを後にした。
「……本当に動いてますね」
樹の自動貨車に乗り込んでいるハミルトンがそう呟いた。
「そうよぉ。私も最初は驚いたけどねぇ」
ハミルトンが呟いたのを聞いたロゥリィがそう言い返した。
「……帝国は大変な事をしてしまったようですね」
「自業自得ねぇ」
ロゥリィは笑う。そしてハミルトンに近づき、小さく呟く。
「貴女、イツキの事をどう思ってるのかしらぁ?」
「え? わ、私はセッツ殿は話しやすい人だと……」
ハミルトンは慌てて反論するが、頬は赤く染まっている。
「ふぅん」
ロゥリィはニヤニヤと笑いつつ元の席に座る。ハミルトンはロゥリィが何でそんな質問を聞いたのか気になったが分からなかった。
そして第三偵察隊は砂利で整備された道路へと入る。上空には陸軍の九七式戦闘機三機が飛行している。
防御陣地の前縁までの地域は派遣部隊の演習・訓練場となっており、兵士達が実際に小銃を持って市街戦の対処訓練をしている。これは大陸での戦訓と独ソ戦の影響であった。
ピニャとボーゼスは兵士達が何をしているのか理解出来なかった。
「彼等の持っている杖はイタミらの持つ物と同じ物のようだが、ニホンの兵士は魔導師なのか? もしそれなら話が分かるが……」
「魔導師は希少な存在ですし魔導とは特殊能力ですわ。もしかしたらニホンは魔導師を大量に養成出来る方法があるのかもしれませんわ」
ピニャとボーゼスはそう話していたが、ヒルダが突然笑いだした。
「何が可笑しいのだヒルデガルド皇女?」
「クックック、日本軍に魔導師なんぞおらん。全て平民で構成されている軍隊だ」
「「ッ!?」」
ヒルダの言葉にピニャとボーゼスの二人は衝撃を受けた。
「では魔導師はいないと?」
「そうだ。彼等が持つのは杖ではなく、武器だ」
「これが……」
「武器というのですか……」
二人は伊丹や桑原、倉田らが抱える小銃を見つめる。ピニャは武器ならば普通の兵士でも使えると思い、何とか入手して量産してみようかと思案する。
「それは無意味」
そこへレレイが口を開いた。レレイは九七式中戦車を指差した。
「『ショウジュウ』の『ショウ』は小さいと意味する言葉。ならば対義の『大きい』に相当する物がある」
「あれが火を噴くというのですか?」
二人は九七式中戦車の短砲身五七ミリ戦車砲を見る。あんな小さいのが火を噴くというのだろうか?
「まだ直接見た事はない。だけど想定の範囲」
「私は見たがな」
ヒルダはそう言う。三人の目がヒルダを見つめる。
「私はアルヌスでの戦闘に参加していた。あの車が火を噴くのは見た。あれが火を噴くと十数人の兵士が吹き飛び、直撃した兵士は肉片となり、直撃しなかった兵士は四肢をもぎ取られ死んでいった。我々は三度突撃して三度破れた。三度目は夜襲を敢行したが結果は一緒だ。突撃しても戦死し、立っているだけで戦死する。私は地獄にいるのかと思った程だ」
ヒルダから語られる言葉にピニャとボーゼスは息を飲む。
「そしてイツキから聞いたが、あのような戦果はイツキ達の世界でも行われているようだ。イタリカでのような戦いをな」
「………」
ヒルダの言葉にピニャはあの戦闘を思い出して顔を青くする。
その表情を見ながらヒルダは脅しは成功と思い、内心笑っていた。
しかし、その夜にヒルダをその悪夢を見てしまうのである。
後書き
多少修正します。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m
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