『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第十五話
「何? 第三偵察隊の伊丹大尉と摂津中尉が拐われただと?」
特地飛行場に戻った健軍大佐は部下からそう報告された。
「どういう事だ?」
健軍大佐の声色が変わる。調印した協定を向こうから破るなら此方だって考えがある。
「いえ……第三偵察隊から聞けば、接触したのはピニャ代表の騎士団らしいのです。その騎士団はイタリカに向かっていたらしいので……」
「調印しているのは知らないの当然……か」
健軍大佐は内心は無駄な戦にならずに済みそうでホッとした。
そもそも日本が捕虜を取ったのは捕虜に日本の印象を好ましくするためであり、宣撫工作をするためでもある。
大陸で長きに渡って戦争をしていた日本は莫大な戦費が翔んで行っていたので、特地の住人を日本の味方にして帝国を内側から崩そうとしていたのだ。
「ですが二人が戦死していたら……」
「恐らくはイタリカに侵攻するだろうな」
部下の問いに健軍大佐はそう答えた。
「……ぅ……」
樹はゆっくりと目を開ける。そこはいつも見慣れた宿舎の天井ではなかった。
「……イタリカだろうか……」
樹はいたぶられながら連行されて来たのをおぼろ気に思い出した。
「ん……?」
その時、樹は足下に重い物を感じて起き上がる。そこにはハミルトンが寝ていた。
「……何が起きた?」
樹はそう自問するしかなかった。何せ、起きたら西洋の物語のように美女が自分の足下で寝ていたのだ。
「失礼します。おや、お目覚めになりましたか」
そこへメイド長が入ってきた。
「あの此処は……」
「ミュイ様の館でございます。貴方ともう一人の方は別室で寝ておられます」
もう一人とは伊丹の事だ。
「伊丹隊長に怪我は……」
「命に別状はありません」
「そうですか……」
メイド長の言葉に樹はホッとする。
「それとイタミ様とセッツ様におかれましてはピニャ様が賓客としての礼遇を命ぜられました。そしてこの度の無礼を働かれました騎士団の隊長様は……」
メイド長はそう言って樹に説明する。そして説明が終わるとメイド長は樹に頭を下げた。
「この度はこの街をお救い下さり、真に有り難うございました」
「い、いえ。自分らは……」
樹は恥ずかしそうに言う。その時、ハミルトンが起きた。
「は、セッツ殿、傷は大丈夫ですか?」
「今のところは。それとハミルトンさん、口に涎が……」
「え? あ……」
樹に指摘されたハミルトンは顔を赤らめて手巾で口の周りを拭いた。
「し、失礼しました」
「いえいえ、気にしてませんよ」
謝るハミルトンに樹はそう取り繕う。
「セッツ殿、この度は真に申し訳ありません。此方の連絡が届かず、姫様配下の騎士団が初陣であり、貴方方を敵だと認識してしまい迷惑をかけてしまいました」
ハミルトンはそう言って頭を下げた。
「大丈夫ですよハミルトンさん。誤解だと分かれば、それに伊丹隊長も許していると思いますよ」
樹はそう言う。
「……貴方方の御厚意は本当に我が帝国では信じられないです」
ハミルトンは染々と言った。
「まぁうちの国はお人好しというかなんというかですね。義を尊重するというかなんと言うか……」
樹は苦笑しながらそう言う。それから二人は樹を心配するヒルダとロゥリィが部屋に入るまで談笑するのであった。
「……心配して損したな」
「そうねぇ」
部屋に入ってきたヒルダとロゥリィはそう言ってジト目で樹を見る。
「……心配かけて済まん……」
流石に樹は申し訳なく思い、二人に頭を下げる。そんな樹に二人は苦笑する。
「無事ならそれでいいわぁ」
「うむ」
二人は頷くが、ハミルトンはヒルダを見て驚いていた。
「貴女はヒルデガルド皇女ではありませんかッ!? 何故此処に……」
「貴様は私を知っているみたいだな」
「は、はい。一度姫様と面会した事がありますので」
「そうか。それで此処にいる理由だが、今は亡き部下達に助けられてな。今はアルヌスでイツキ達といる」
「……国には戻られないのですか?」
ハミルトンはそうヒルダに聞いた。ヒルダの国であるグリュース王国は、皇族がいないという理由で帝国が保護領としているのだ。
「戻らん。戻ったところで私に何が出来るというのだ? 前々から帝国の権威はグリュース王国にも及んで内政にも口を出していたではないか。商いも帝国の商人達が商業を押さえようとしている」
「そ、それは……」
ヒルダの言葉にハミルトンは何も言えなかった。
「グリュース王国は帝国と戦う前から負けていたのだ。それに私は民が無闇に傷つくのは嫌だ。それならいっそ帝国に服従した方がいい」
ヒルダはそう言った。グリュース王国と帝国の軍事力は帝国が数倍勝っていたのだろう。
ヒルダの父なら戦わずして破れるより戦って破れるのが良かったかもしれないが、既に王は亡く、ヒルダは大日本帝国へと身を寄せている。
諸国の力をもぎ取ろうとしていたモルト皇帝の思わない戦果であろう。
「民が幸せに暮らせるなら私は卑怯者と呼ばれても構わない。民の上に立つ者は相応の覚悟が必要だ」
ヒルダはそう言って自国の事は気にしてないように思われる。しかし、樹やハミルトン達はヒルダの右手が強く握り締められ、血がポタポタと流れているのを見た。
本当は悔しいのだろう。ハミルトンはそう口に出さなかった。
「……分かりました。それなら私は何も言いません」
ハミルトンは気付かない振りをしてそう言った。
そして樹達はボーゼスがした仕打ちに出席した。
「……で、何でこんな事に?」
ピニャは伊丹の顔面の損傷と捕らえられたボーゼスを見ながら何となく分かってはいたがそう聞いた。
ペルシアらメイド達は違うといい、ボーゼスは俯いたまま「わ、私がやりました」と打ち明けた。
「……この始末、どうつけよう」
「ピニャ代表、すいませんがそれについてそちらで決めて下さい。そろそろ自分らは帰りますので」
伊丹はピニャにそう言ったがピニャは顔を青くしてそれは困ると反論する。
「実は伊丹隊長と自分は大本営から状況説明の命令が掛かっているので今日には帰らないとまずいんです」
この言葉が樹の口から告げられるとピニャは大本営を帝国の元老院のような院と勘違いをして更に顔を青くする。
「(この二人はかなりの重要人物だ。何とかしなくては……)」
ピニャはそう考えてある決断をした。
「では妾も同道させて貰うッ!!」
後書き
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