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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第十七話

 
前書き
ブラックのコーヒーを用意した方がいいです。 

 




 アルヌスに到着した第三偵察隊は残った弾薬を弾薬庫に返納して、銃を整備して武器庫に収め、車両の泥を落としてから漸く夕食となった。

 ただし伊丹と樹は記者会見(大本営の報告もあるが)があるのでそれらの指示を受けていたりする。

「……流石に疲れたな……」

 全てが終わった樹は狭いが個室のベッドで横になっている。

 夕食は伊丹同様に机に隠匿していた戦闘糧食で済ませていた。

「さて俺も寝るとするか……」

コンコン。

 その時、扉を叩く音がした。樹が扉を開けるとそこにはヒルダがいた。

「どうしたヒルダ?」

 樹は首を傾げるが、ヒルダは視線を下にしたまま樹の胸に抱きついた。

「ヒ、ヒルダッ!?」

 ヒルダの行動に樹は驚くが、ヒルダは震えていた。

「……ヒルダ?」

「……済まない、アルヌスでの戦闘を思い出して……眠れないんだ」

『砲弾神経症』

 言わばシェルショックとか心的外傷後ストレス障害やPTSDとかなどである。アルヌスの戦闘を経験したヒルダには十分に起こりうる事だった。

 特地に派遣された部隊は大陸等の戦闘を経験しているために今のところはそう言った報告はなかった。

 だがヒルダはPTSDなど知らない。ヒルダも夢として見ていて、最初は思い出すだけだと思っていたが何日も続き、そして止めを刺すかのようにピニャ達に出来るだけ話した。

 あの夢を見たくないヒルダは遂に樹の元へ来たのだ。

「(やっぱ俺が説明すべきやったな……)……済まんヒルダ」

 樹はそう思いつつヒルダに謝る。PTSDについて樹はあまり知らない。よく知っていたのは伊丹大尉であった。

 伊丹大尉は洋書等を買い求めるために一度欧州の駐在武官に付いて行った事があった。(勿論、普通は無理であるが、武官がたまたま伊丹と同じ洋書等が好きだった事もあって欧州に行けた。後にこれが上層部にバレ、左遷の意味で伊丹は南樺太に半年程飛ばされたのである)その時にPTSDの患者を見たと言っていたが伊丹自身は深くは語らなかった。

 その事もあり、樹はヒルダがPTSDになったと思ったのである。

「いいんだイツキ……ただ」

「ただ?」

「私をギュッと抱き締めてほしい」

 ヒルダの言葉に樹は無言で抱き締めた。ヒルダも樹に抱き締める。

 そしてそれを扉の隙間から見ている女性がいた。

「……まぁいいわぁ。今日のところは許すわぁ」

 見ていたのはロゥリィだった。ロゥリィは少しだけ悔しそうな表情をしたが直ぐに扉を閉めた。

 その日、樹とヒルダはただ抱き締め合いながら寝るだけで読者の皆さんが期待するような事は一切していない。

 なお、部屋に入ってバレるような事も起きてない。そんな事をすれば軍法会議ものである。

 そして午前十一時、樹と伊丹は中央門管理前にいた。そこへやってきたのはテュカや栗山達である。

「ねぇイツキぃ。本当に駄目なのぉ?」

 帆布で包装されたハルバートを見ながらロゥリィが樹に文句を言う。

「悪い。俺達の世界では刃物を持ち歩いていると法律で逮捕されるんだ。それに刀剣類は事件があったせいで余計に厳しい目があるんだ」

 樹はそう言ってロゥリィを宥める。そこへ一台のトヨダ・AA型乗用車が来た。運転していたのは柳田少佐であり、柳田は運転席を降りると後部座席のドアを開かせて客人を降ろした。

「ピニャ・コ・ラーダ殿下とボーゼス・コ・パレスティー伯爵公女閣下、ハミルトン・ウノ・ロー准騎士のお三方がお忍びで同行される事になった。よろしくしてくれ」

「おい柳田。聞いてないぞ」

「あ? 言ってなかったか? それは済まんな。陸軍省と海軍省の方には客追加の連絡はしといた。それと伊豆の方にも連絡済みだ。二泊三日の臨時休暇なんだからしっかり楽しんでこい」

「あのな、このお姫様達に俺と摂津がどんな目にあったと思っている」

 伊丹が文句を言うが柳田は笑って水に流せと答えてニヤニヤしている。

「それに同行にはヒルダ皇女もいるだろ?」

 柳田はそう言って伊丹に一通の白封筒を渡して後は任したとばかりにその場を去った。ちなみに中身はお金であり百円があったりする。




「一気に寒くなったな……それでも少し暖かいかな」

 樹達は銀座にいた。ちなみに季節は四月である。

「本当に春だな」

 ヒルダはそう呟く。

「あいつらみたいに驚かないのか?」

 あいつらとはロゥリィ達の事である。ロゥリィ達はあまりの変わりようにポカンとしていた。

「アルヌスの建物の時点で何かあると何となく分かっていたさ」

 ヒルダはそう言うがそれでも視線はあちら此方に向いている。

「暇が出来たら色んなところを案内してやるよ」

「楽しみにしている」

「あらぁ、私もよねぇ?」

 二人が話しているとロゥリィが乱入してくるように言う。

「ん? そりゃあ構わんけど」

「………」

 樹の言葉にヒルダは少し悔しそうな表情をしていた。ロゥリィはそれを見てニィっと笑う。

 その後、護衛の代表である駒門が、伊丹が盧溝橋事件からの猛者である事がバレて栗山が大層驚き、何故か近くにいた富田軍曹が栗山を慰める状態になった。

「取りあえず、ロゥリィ達の服を調達しましょうか。流石に何時までも陸軍の服を着ているのは……」

「それもそうか」

 ロゥリィを除いたテュカ達は陸軍の九八式軍衣袴を着ている。そのため、出ているところは出ているヒルダやピニャ達(ピニャ達は帝国の正装)を見て赤面して視線をずらす兵士達がいたりする。

 その後一行はテュカ達の服を調達した。レレイはそのままであるがテュカは白のワンピースである。

 服を調達した一行はピニャ達を別のトヨダ・AA型乗用車に乗せて帝国ホテルへと向かった。






 
 

 
後書き
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