問題児たちが異世界から来るそうですよ? 召喚士の軌跡
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第四話 ギフトゲームですよ?
前書き
我が家の愛犬が亡くなりました…ジャーマンシェパードのメス、享年10年です
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
ジンは怒りのあまりテーブルを叩いて抗議するが、ガルドは獰猛な瞳でジンをにらみ返す。
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘でコミュニティを追い込んでおきながら、どの顔で世界から人材を呼び出した」
「そ、それは……」
「何も知らない相手なら騙し通せるとでも思ったのか? その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義はあるぜ」
獣のような鋭い輝きを放つ視線に貫かれ、ジンは僅かに怯む。
しかし、ガルドの言葉以上に修也達に対する後ろめたさと申し訳なさがジンの胸の中で濁りだす。
「……で、どうですか? レディス&ジェントルメン? 返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずともあなた達には箱庭で30日間の自由が約束されます。一度、自分達の呼び出したコミュニティと私達『フォレス・ガロ』のコミュニティを視察し、十分に検討してから──」
「結構よ。だって、ジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
は? と、ジンとガルドは飛鳥の言葉に呆けた。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
「友達1号はムリ」
「あら、なんで?」
「すでに修也が1号だから」
「…そう、じゃあ私は2号かしら?」
「……うん。よろしく」
「にゃ~、にゃにゃ~(よかったなお嬢……お嬢にまた新しい友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ)」
ジンとガルドそっちのけで3人は盛り上がっていた。
ガルドはそんな中、顔を引きつらせながら咳払いして3人に問う。
「し、失礼ですが、理由をお聞きしても?」
「だから、間に合ってるのよ。春日部さんは友達を作りにきただけだから、ジン君でもガルドさんでもどっちでも構わない。そうよね?」
「うん」
「し、しかし……そちらのジェントルメンは──」
「俺はジン達がそうして欲しいっていうなら喜んで加入する。元々俺らはジンたちに呼ばれたんだ、それにお前が言ったことがホントなら尚更入りたくなった。礼を言うぜ」
「なっ……」
「そして私、久遠飛鳥は──裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直してほしいものね、このエセ紳士」
「うわ、言い切った……」
ぴしゃりと言い切る飛鳥にガルドは怒りで体を震わせていた。
だが、自称紳士として飛鳥の物言いにどう返すか言葉を慎重に選ぶだけの理性はあるようだ。
「お、お言葉ですがレデ──」
「黙りなさい」
飛鳥が言葉を発した瞬間、ガルドは不自然な形でガチンと勢いよく口を閉じて黙り込んだ。
本人は何が起きたかと混乱したように口を開閉させようともがくが、全く声が出てこない。
「……!? …………!?」
「へえ、それがお前のギフトか」
その様子を見て修也は飛鳥の力に感心する。
「私の話はまだ終わってないわ。あなたからはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。あなたはそこに座って私の質問に答え続けなさい」
再び飛鳥の言葉に妙な力がこもり、今度は椅子に罅が入るほど勢いよく座り込む。
「お、お客さん! 当店で揉め事は控えてくださ──」
「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いていってほしいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」
飛鳥達の様子にただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、猫族のウェイトレスが駆けつけてくるが、飛鳥は彼女の言葉を遮ってその場に立たせてガルドに向き直る。
いきなり言われた猫耳のウェイトレスは耳を傾げる。その様子を流し目で見た飛鳥は構わずガルドへと質問を重ねる。
「あなたはこの地域のコミュニティに両者合意で勝負を挑み、そして勝利したと言ってたわね。だけど、私が聞いたギフトゲームの内容はちょっと異なるの。コミュニティのゲームというのはホストとそれに挑戦する様々なチップを賭けて行うもののはず。……ねえ、ジン君。コミュニティそのものをチップゲームにするのはよくあることなの?」
「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースですよ」
「でしょうね。訪れた私達でさえそれぐらいわかるもの」
「まあ、自分の家と財産を全部賭けるようなもんなんだからな。そなのにそんな本当にやむを得ないくらいやばいゲームに同意するなんて早々あるわけ……なるほど」
「で、今修也君も言ったようにそんな危ない状況でしかやりそうにないゲームを何故そう何度もできるのかしら?その、コミュニティ同士の戦いに強制力を持つからこそ『主催者権限』を持つものは魔王として恐れられてるはず。その特権を持たないあなたが何故強制的にコミュニティを賭け合うような大勝負を続けることができたのかしら? その辺、教えてくださる?」
ガルドは反射的に別の事を口にしようともがいただろうが、彼の意思に反して口は言葉を紡いでいく。
同時に修也達や周囲の者達も異変に気づく。この少女の言葉には……どうあっても絶対に逆らえないものだと。
「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「まあ、そんなところでしょうね。あなたのような小者らしい堅実な手です。けど、そんな違法で吸収した組織があなたの下で従順に動いてくれるのかしら?」
「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」
その言葉に飛鳥の片眉が動いた。同時にコミュニティの存在に無関心な耀も不快そうに目を細め、修也は拳を握り締める
「……そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されてるの?」
「もう、殺した」
その場の空気が一瞬にして凍りついた。ジンも、ウェイトレスも、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。
そんな中、ガルドひとりだけ飛鳥の命令のまま言葉を紡ぎ続けていた。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど、身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食──」
「黙れ…!」
ガチン、とガルドの口が先程以上に勢いよく閉ざされた。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とは早々出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら? ねえ、ジン君」
「い、いえ……彼のような悪党は箱庭でも早々いません」
飛鳥の冷たい言葉にジンが慌てて否定した。
「そう? それはそれで残念。ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるのかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ではありますが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえばそれまでです」
それはそれである種裁きと言えなくもないだろう。コミュニティのリーダーであるガルドが去れば烏合の衆でしかない『フォレス・ガロ』が瓦解するのは目に見えている。
「そう。それなら仕方ないわ」
しかし、飛鳥はそれで満足できないのか。苛立たしげに指をパチンと鳴らした。
それが合図だったのか、ガルドを縛り付けていた力が一気に消え、ガルドの体が自由になった。
「こ……この小娘がああぁぁぁぁ!!」
怒りと共に咆哮を上げ、ガルドの体に変化がおとずれた。巨躯を包むタキシードが膨張する体を抑えきれずに弾け、体毛が変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。
人狼ことワーウルフならぬワータイガーと言ったところか。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰がいるかわかってんだろうなぁ!? 箱庭666外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ! その意味が──」
「黙りな──」
そのとたん
キインと言う音がしたと思ったらガルドの回りには4本の剣が浮いていた
「黙るのは貴様だ外道」
「さて、ガルドさん。ここであなたには2つの選択肢があるわ。
1つはここにいる全員を殺して口封じをする、
もう1つは法の届かないところまで逃げ延びるか」
「最も、どの選択肢をとるにせよその剣がお前を貫くのが早いがな」
「そこで、提案があるわ。私達とギフトゲームをしましょう。あなたのフォレス・ガロ存続と私達ノーネームの誇りと魂をかけて」
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