ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第3章 さらば聖剣泥棒コカビエル
第46話 執着
前書き
終わったぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!
……のっけから変なテンションですみません。
何が終わったかというと遂に修士論文が終わったんです。
本当は1月末に提出、2月初めに本審査発表会があって終わるはずだったんですが、その後まさかの差し替え期間で地獄を見ました。
いやはやあんなに苦労することになろうとは……。
おかげでここ最近更新ができなかったどころか、インターネットすらまともに見れない状態でして。
感想を書いてくださった方、返事ができなくてすみませんでした。
また、応援メッセージも頂いていまして、本当にありがたい限りです。
実はまだ論文を機械学会用に直したり、引き継ぎ資料を作成したり、後輩の卒論の添削をしたりと研究室でやることに加え、4月からの新生活に向けての準備とかもあるんですが、それでもこれまでよりは少しはマシな更新速度になると思います。
ではどうぞ。
「じゃあたくさんの女子が学校を休んでるってのは……」
「事実よ。問題はその女子たちに魔力の波動が残っていたということなの」
今私たちは学園から少し離れた山の中を歩いてます。なんでもここに昼間グレイフィアさんから聞いたキメラがいるらしいのよね。
「魔力の……ですか?」
「ええ。ちょっと気になっていたから影で朱乃と祐斗に動いてもらっていたのよ。そしたら案の定、ね」
「例のキメラを見つけたと」
「ええ」
なんとも迷惑な話よね。女子生徒が休んでるってことは、そのキメラに襲われたってことなのかな? まだ死者が出ていないだけマシだけど、早々に退治する必用があるわね。
と、そんなことを思いつつ山を登っていると、何かに気付いたかのように黒姉と白音が猫耳をピコピコと動かし出した。
「いました。確かに気配を感じます」
「でもあまり近付かない方がよさそうにゃ。地表に感じる気配を中心に広範囲に渡って地下にも気配がするにゃ。植物のキメラらしいし……これは根っこかにゃ?」
「それは厄介ね。近づきすぎると危険そうだし……黒歌、根っこから離れた場所で地表に出ている部分が見えそうな場所はあるかしら?」
「ん~、あっちの方は根っこが少なそうにゃけど……」
「あのちょっとした高台なんてどうですか?」
進行方向右手にある高台を白音が指さした。確かにあそこならちょっとは周囲が見渡せそうね。
「ではあそこに向かいましょう」
そうしてやってきた高台から件のキメラを望んでみると……
「あれは植物の魔物……ですか?」
と、アーシアが疑問の声を上げた。森の中央に少し開けた場所があり、そこには多数の蔦をより合わせてできた茎と、その先端にバラのような巨大の蕾、さらに茎の中央にコアのようなものがある見るからに怪しい植物が鎮座していた。大きさはだいたい6、7メートルってところかな? さらに茎からは無数の蔦がまるで触手のように周囲に伸びている。……っていうかこれってどう見てもビオランテの出来損ないにしか見えないんだけど。まあビオランテもバラとゴジラ、それに人間のキメラだし、似たようなもんだけどさ。
と、その時、花の蕾が開いて中から……ドラゴンっぽい首が現れた。地面からバラが生えてバラからドラゴンが生える。……なかなかキモいキメラになったわね。
「やはりグレイフィア様のおっしゃっていたのはあれのようですわね」
「ええ、どうやらそのようね」
「? 部長、森の奥から誰か来るにゃ」
「これは……人間が2人ですね」
黒姉と白音が指差す方を見てみると……
「あれ? なあ火織、あれって剣道部の片瀬と村山じゃねぇか?」
「えぇ、確かにそうね。でもなんだか様子がおかしいわ」
2人共目はうつろだし、寝間着で裸足のまんまだし。あれじゃまるで……
「あの2人、体内の気がおかしいです」
「どう見てもあれは操られてるにゃ」
やっぱり。となると犯人はやっぱりあのキメラ?
そんな疑問をよそに操られている2人はキメラの前で立ち止まった。キメラは2人にそれぞれ2本ずつ触手を伸ばすと……グチャァという音付きで粘液を引きながら先端が開いた!? うわっ、何あれ!? しかもその先端を2人に近付けると……そのまま胸に張り付いた!? そしてそのままゴキュゴキュと何かを吸い取ってる!?
「な、なんか動いてますぅ」
「おいおい、なんだよあれ?」
「おそらくああして生気を吸い取っているのですわ」
「あいつ!」
そこでイッセーが我慢しかねたのか飛び出して行きそうになる。
「待ちなさいイッセー」
「でも部長!」
「落ち着いてよイッセーくん。今までの事例を見る限り、命までは奪わないようだし……」
「ええ、だからもう少し様子を見ましょう?」
「……分かりました」
と、口では言ってるけど納得はしてなさそうね。……それにしてもなんというか、生気を吸われてる2人は意識がないのに……なんだか気持ちよさそうね。頬まで赤らめてるし。これじゃまるで……
「まるで往年の使い古された触手プレイのエロゲみたい」
「って龍巳!? お前無表情でなんちゅう事口にしてんだよ!?」
「でもイッセー、ああいうの好き」
「……は?」
その龍巳の言葉で一瞬にして場が静まり返った。っていうか、え? イッセーってそっち系の趣味なの?
「ちょ、ちょっと待て龍巳!? どっからその発想が出てきた!? 俺は別にあんな趣味は持ってねえ! っていうかああいうのが好きなのはお前だろ!?」
「? でもイッセーの部屋のクローゼットの右の2段目の棚の図鑑の箱の中に……」
「ちょっ!? なんでそんなこと知ってんだ!? っていやあれは違うんだ! あれは松田と元浜に無理やり渡されて!」
「他にもサイドテーブルの一番下の引き出しの裏側にガムテープで……」
「ほんっともう勘弁して下さい龍巳様!」
イッセー、その場で土下座である。何というか……哀れね。
「これは帰ったら部屋中くまなくチェックする必要があるわね」
「うぅ……イッセーさん! 私イッセーさんの趣味に共感できるよう頑張ります!」
「いや頑張らなくていいからなアーシア! それとレイナーレ! 頼むからそれだけは勘弁してくれ!」
という傍から見たらコントとしか思えないやり取りをやっているうちに、生気を吸い終えたのか触手が2人の胸から離れた。生気を吸われた2人はというと、そのままフラフラとまた森の中へと消えていった。行方不明者が出ていないことを考えると、あのまま二人は家に帰るのかしらね?
「ふらふらしてるけど、大丈夫そうにゃ」
「あの程度の生気なら命に別状も無さそうです」
2人の体内の気を監視してた黒姉と白音が言う。まあ命に別状がないってのは良かったわね。寿命とか縮んでたらシャレにならないし。
「どうやら狙った女生徒に術をかけ、夜な夜なここに来るようにしていたようですね」
「そしてああして生気を吸い取って養分にしていたと」
「そんなことができんのかよ! ……でもなんで女生徒限定、しかも胸からなんだ?」
「さあ? それは分からないけれど……なんにせよ私達にバレたのが運の尽きね。これ以上被害が出る前に片付けるわ」
「全員でかかりますか? 正直私1人でもどうにでもなりそうですけど」
実際あのキメラ、たいして戦闘力は高くなさそうだし。氷輪丸を投げて突き刺しただけで片付きそう。
「そうね、それでもいいのだけれど……悪いのだけれどあなた達姉妹はここで見ててくれるかしら?」
「どうしてにゃ? 私達ならすぐ終わりそうにゃのに」
「実際そうでしょうけど、いつまでもあなた達に頼りっぱなしという訳にはいかないもの。私たちの実戦経験を積むのにちょうどいいわ。ないと思うけど私達が危なくなったら動いてちょうだい」
「……分かりました。皆さん気をつけて下さい。……特にお兄ちゃんは」
「ってなんでそこで俺だけ名指しですか白音ちゃん!?」
「イッセー、この中で一番弱い」
その龍巳の言葉にイッセーはズゥーンと凹んだ。まあでも事実だししょうがないかな?
「そう言えばイッセー、ドライグの方はどう?」
「あぁ、それがまだ駄目だ。話しかけても一向に返事がねぇよ。一応赤龍帝の籠手は動くから無事だとは思うんだけど……」
と言いながらイッセーはジト目で龍巳を見るんだけど龍巳はどこ吹く風といった感じに口笛を吹いていた。
「その件はまた後で話しましょう。では皆……行くわよ!」
「「「「はい!」」」」
その言葉とともに部長と朱乃さん、レイナーレは翼を生やして飛び立ち、祐斗とイッセーは高台からキメラへ向けて駆け下りていった。
「あ、あの~、私はどうしたら?」
「アーシアは私達と一緒にここにいましょう? 回復役にケガでもされたら目も当てられないし」
「で、でも私も皆さんのお力に!」
「アーシアは誰かが怪我した時に治してあげるのが役目にゃ。だからここは我慢にゃ。ね?」
「うぅ、分かりました……」
アーシア、また落ち込んじゃった。アーシアがいるから皆怪我を気にせず戦えるんだけど、この娘は気付いてなさそうね。一方向こうでは戦いが始まった。部長と朱乃さんはそれぞれ得意な消滅と雷の魔力で、レイナーレは光の槍を次々投擲して、祐斗は創った魔剣で、そしてイッセーは倍加した魔力によるドラゴンショットと拳打で戦ってるんだけど……これは少々厳しいわね。
「部長たち、勝つの難しい」
「そうみたいにゃね。あのキメラ、思ってたより随分と再生速度が速いにゃ」
そうみたいね。皆で次々襲ってくる触手を斬り飛ばしたり消し飛ばしたりしてるんだけど、すぐさま切断面から新たな触手が生えてきてすぐさま襲いかかってる。ぶっちゃけ再生速度の方が速いわね。お陰で皆の攻撃はキメラの本体には全く届いていない。それにしても
「いくらなんでも再生速度速すぎない?」
「ん、多分ここの気候、あと学生の生気が体に合ってた。本来以上のスペックなってるはず」
「なるほどです。気配の大きさの割に部長たちを圧倒してるのはそういう理由ですか」
「これは持久戦かにゃ?」
「でもそうなった場合土からも養分吸ってるキメラの方が持久力はあるんじゃない?」
「「「……」」」
あ、私の言葉に皆黙っちゃった。
「あ、あのぅ、皆さん?」
アーシアが心配そうな顔で私達の顔を覗いてくる。そんなアーシアに私は満面の笑顔を向けてポンッと肩に手を置くと
「アーシア、皆が負けた後の回復、お願いね?」
と言った。
「ふぇえ!? 皆さん負けるの決定ですか!?」
動揺した表情でアーシアは黒姉たちにも視線を向けるけど
「決定にゃ」
「決定」
「決定ですね」
「そ、そんなぁ……」
アーシアががくっと肩を落とす。
「まあ完全に決定ってわけでもないけどね。今の皆でも勝てる方法がないわけでもないし」
「本当ですか!?」
私の言葉にアーシアが顔を上げる。
「ええ。イッセーが赤龍帝の籠手を最大まで倍加させて自分で撃つなり部長とかに譲渡して一気に消し飛ばしでもすればすぐに倒せるでしょうね」
「で、でしたら……!」
「でもねぇ……」
「アーシア、あれ見るにゃ」
皆で黒姉の指さした方に目を向ける。そこでは
「くそっ! なんて数だよ!」
「再生が攻撃を上回っているのよ!」
「あらあら、困りましたわねえ!」
「くっ、目の前の触手を斬り飛ばすので精一杯だなんて!」
「まったく、しつこいってのよ!」
そこでは目の前の触手を斬り飛ばすのに必死で誰一人として冷静に状況を判断できる状態じゃなかった。おまけに皆バラバラになっちゃって連携も取れない状態だし。これはもう積んでるわよねぇ。
「あれ、もう時間の問題」
「ドライグが目覚めていればお兄ちゃんももう少し冷静だったかもしれませんけどね」
「まあ今回は運が悪かったかな? というわけで私達も行こっか。私達も戦う必要ありそうだし」
「は、早く行きましょう! 皆さんが、皆さんがぁ!」
というわけで慌てるアーシアに引っ張られながら私たちは来た道を戻って高台から降りた後キメラのいる方向へ向かった。アーシアだけ大慌てだけど私達はのんびりしてる。いくらなんでもそんなすぐに負けることはないでしょうしね。
「皆さんもっと急ぎましょうよ! 早く行かないとイッセーさん達が!」
「大丈夫よアーシア。皆そんなすぐ負けるほどは弱くないだろうし、それに何かあったら黒姉と白音が仙術で気付くわよ」
「そうそう、今のところ皆まだちゃんと戦えてるからそんな心配しにゃくても……あ」
……え? 何その「あ」って?
「あ~あ、部長が……あ、朱乃先輩もです」
「お2人に何があったんですかぁ!?」
ついにアーシア、パニックの一歩手前みたいな状態になっちゃった。しょうがないので私達も急ぐことにする。例によってアーシアは黒姉にお姫様抱っこだけど。そしてついにキメラのいる開けた場所にたどり着く。そこでは
「うわぁ……」
私はついそんな言葉が口から出ちゃった。だって
「こ、こら! 離しなさ……あんっ!」
「あらあら、エッチな触手さんですわね。あぁっ!」
「2人を離せ!」
「くそっ! キリがねぇ! 木場! 俺にも魔剣を1本、いや2本よこせ!」
「ああもうっ! ほんとしつこい! なんなのよもうっ!」
そこには触手にがんじがらめにされ、服を溶かされて胸から生気を吸われてる部長、朱乃さんと、それを何とか助けようとする祐斗とイッセー、さらに上空を触手から逃げまわってるレイナーレがいた。思ったより早くに壊滅状態になったわね。
……それにしてもこのキメラ随分とエッチね。服を溶かせることにも驚きだけど、胸に張り付かせてる触手を「ジュボッ!」という音と共に粘液を引かせつつ胸から引き剥がしたかと思うと、また「ジュブッ!」という音と共に張り付かせてはそれを繰り返してるわ。その度に部長と朱乃さんは嬌声を上げてる。……もしかしてこのキメラ、楽しんでる?
一方そんな状況でイッセーはというと部長と朱乃さんを助けようと必死に祐斗から受け取った刀型の魔剣を振り回してた。ちょっとばかりこの光景には驚いたわ。原作のイッセーならこんな状況になったら思考放棄して2人をガン見してたでしょうに。まあこっちのイッセーも戦いつつも鼻血をダラダラ流してるけどね。それにチラチラ2人を見てて注意力散漫だし。まあでも少しは原作より成長してるってことかな?
それで最後に驚いたのは部長や朱乃さんは捕まってるのにレイナーレは未だ捕まってないことかしらね。まあこれは戦い方の違いかな? 部長や朱乃さんはパワー型だから一箇所に留まって攻撃してたんでしょうね。だからいつの間にか囲まれて捕まったと。一方レイナーレは2人ほどパワーはないから終始飛び回りながら攻撃してたんでしょうね。だからまだ捕まってなかったと。でも流石に疲労してるのか動きが鈍いわね。と思ってたらついにレイナーレの足首に触手が絡みついた!
「しまっ! きゃっ!?」
「レイナーレ!」
「イッセー! 助け……んぁああ!」
捕まったレイナーレは一瞬にして縛り上げられ、「ジュブッ!」という音と共に胸にも触手が張り付いた。さらにジュワァァァという音をたてながら服も溶け出してる。どうやらあの粘液が服を溶かすみたいね。
とまあそんな状況に直面した私と黒姉、白音は頭を抱えちゃった。せめてもう少し粘って欲しかったな。あの山での修行は何だったのか。そんな中龍巳だけは何故か瞳を輝かせていた。ってこの状況のどこにそんな要素が?
「リアルエロゲキタコレ!」
あ、そういうこと。
「そんなこと言ってないで早く皆さんを助けて下さい!」
そんなもうホントどこで教育を間違えたのか分からない状態の龍巳にアーシアは泣きついていた。でもアーシア、そんな大きな声を上げると……
びゅるるるるっ!
「ひぃっ!?」
ほら言わんこっちゃない。キメラが私達に気付いて大量の触手を伸ばしてきた。このままじゃ私達も縛り上げられるわね。まあ……
「そんな事させるはずないんだけど」
というわけで腰の七天七刀の柄から伸びる七本のワイヤーが自動迎撃、触手を斬り裂き始めた。もう七閃のカラクリバレちゃってるし、わざわざ抜刀の構えしなくていいよね。
「それじゃあまあ助けますか。私はここで安全地帯確保するから龍巳はイッセーと祐斗、黒姉と白音は捕まってる3人お願いしていい?」
「ん、分かった」
「じゃ、行ってくるにゃ」
「世話が焼けます」
と言いつつ3人は皆を助けに行った。その間に私は私を中心に半径数メートルの円周上に10本ほどの七天七刀を突き刺していく。これでこの円の中にいる限りは触手は切り裂かれて近付いては来れないわね。そうして安全地帯を確保してすぐ、皆の首根っこを捕まえた黒姉たちが帰ってきた。
「み、皆さん大丈夫ですか!?」
そこには息を上げている祐斗と鼻血の出し過ぎで貧血になりかけてるイッセー、それに服はボロボロ、体はヌトヌトにされた部長、朱乃さん、レイナーレが地面にへたり込んでた。そんな彼らにアーシアは駆け寄ると、特に怪我の多い祐斗とイッセーに回復の光を当てる。それにしても……
「何でしたっけ部長? 『ないと思うけど私達が危なくなったら動いてちょうだい』でしたっけ?」
「うっ」
部長、目をそらさないで下さい。
「それにしてもイッセーや祐斗を縛り上げなかったところを見るとどうやら生気を吸うのは女性限定、しかも胸からだけみたいですね」
「え、ええ。執拗に何度も吸い付かれたわ」
「ん、そういえば藍華、休んでるの胸の大きな娘ばかり言ってた」
「にゃるほど、じゃあこいつの得物は巨乳限定ってわけにゃ」
「む」
あ、いかん。昨日に引き続きまた白音が不機嫌になっちゃった。と、その時
『上級悪魔の淑女たるもの、いつまでもそのような卑猥な格好をしていてはいけません』
「グレイフィア!?」
いつの間にか部長の前に通信用の魔法陣が開いてそこにグレイフィアさんが映っていた。とりあえす昼間ろくに挨拶できなかったし今挨拶しておこうかな?
「お疲れ様ですグレイフィアさん。夜遅くまでご苦労さまです」
『いえこちらこそ。いつもお嬢様がご迷惑おかけします。どうやら今回もお手間を取らせてしまったようで……』
「ちょっと!?」
部長がグレイフィアをまるで捨てられた子犬のような目で見ていた。まあ分からなくもないけど。それにしてもグレイフィアさん、部長に対して容赦無いわね。
「そ、それはそうとしてグレイフィア! なにか新しい情報は入ったの!?」
あ、部長が慌てて話を逸らした。
『……はい。例のキメラですが、胸の大きな女性から生気を吸う習性が』
「それは分かってるわ。身を持って味わったもの」
『……そうですか。それとさらにもう1つ、特殊な能力を与えられているようでして』
「特殊?」
『このキメラが実らせた実を口にすると、どんな胸の小さな女性でもすぐさま豊かなサイズになるそうです』
………………
………………………………
………………………………………………
「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」
『はぐれ悪魔いわく、「世の女性が巨乳になれば、女性の心は豊かになり、男性も夢を持って大空へ羽ばたける。貧乳は罪であり、残酷だ! 世界を巨乳に! 乳&ピース!!」……だそうです』
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
……なんだろうこの沈黙は。
「……いやまあ男として、共感できなくはないんだけど、さ」
あ、やっぱり男の子はそういう気持わかるんだ。と、その時
ピキッ
な、なんかいやな音が。しかもこれは怒りのオーラ!?
「貧乳は罪、貧乳は残酷? ……人の気も知らないで!!」
し、白音が今までにないほどお怒りに!? こ、これは一刻も早く怒りを沈めてもらうためにさっさとキメラを倒さないと!
そう思った私は未だに私達に向けて触手を伸ばしては次々斬り飛ばされてるキメラに向けて解放した氷輪丸を投げようとする。でもその時、ガシッ! と氷輪丸を持つ手が掴まれた。誰よこんな時に邪魔するのは!? と思い手の持ち主に目を向けてみると……え? 白音?
「でも……でもその実を食べれば私も……!」
えっ!? もしかして白音、怒りより誘惑が勝った!?
「で、でもね白音。あのキメラに実なんかなってないよ?」
「ん、多分あれ、生気が足りてない」
「それにね白音、胸の大きさにゃんてそんなに気にする必要ないにゃ」
という黒姉の言葉に白音は黒姉をキッと睨むと
「姉様に、姉様達持つ人達に、持たざる私達の気持ちなんて一生分かりません!」
と涙ながらに訴えた! その言葉に特に黒姉がガーン! という言葉が似合うくらいショックを受けてる!
「白音、そんなに……」
そうつぶやいた黒姉は、何か決心をしたような表情になると
「龍巳、生気が足りてないから実はなってないにゃね?」
「? ん、多分そう」
「そう。……白音!」
そこで黒姉は白音の手をガシッと掴むと
「お姉ちゃん頑張るからね!」
って黒姉まさか……。
そんな私の心配をよそに、黒姉は白音の手を離すと一直線にキメラに向かって無防備に走っていった! 当然黒姉はすぐさま縛り上げられ胸に「ジュボッ!」と触手の先端が張り付き、ゴキュゴキュと生気が吸われ始める!
「んにゃぁぁあああ!」
「姉様!」
黒姉は悶えてるけど、一向に抵抗はしようとしない。黒姉、いくらなんでも妹に甘すぎよ……。
「白音の、白音のためならこのくらい……にゃ、にゃぁぁぁ、ん、ぁぁああ!」
「姉様……さっきはあんな事言ってごめんなさい! 私……姉様の妹でよかったです!」
あ、それ聞いた黒姉がものすごい幸せそうな表情になった。シスコンもここまで来るともはや病気ね。
「白音! いくらなんでもこれは!」
「胸のためにお姉さんを犠牲にしようと言うんですの!?」
一方この悲惨な現状に部長と朱乃さんが異を唱えた……けど白音に睨まれてすぐさま萎縮しちゃった。今の白音、怖いもんねぇ。
「言ったはずです。持ってる人には私達の気持ちなんて分からないと。ですよねアーシア先輩!」
「ふぇえ!? 私ですか!?」
あ、アーシアに飛び火した。
「いつも思っていませんか!? 周りは皆巨乳ばかり。自分ももっと積極的に行きたいのにそのことで気後れして、なんとか大きくしようと毎日頑張っても何の効果もなくて落ち込む毎日!」
「た、確かに皆さん大きくて……私なんかじゃっていつも……」
あ、アーシアが自分の胸を抑えて凹みだした。と、そこでそんなアーシアの手をつかむレイナーレ。あれ? この表情、なんかさっきも見たような……
「ごめんねアーシア。そんなに悩んでたのに私、ちっとも気付けなかった」
「レイナーレさん……」
「大丈夫よアーシア、私が助けてあげるから!」
そう言うと……レイナーレも自ら餌食になったぁ!?
「んああああ!?」
「レイナーレさん!? どうして……どうして私なんかのために!」
「私、アーシアにあんな酷いことしたのに、それでもアーシアは私を許してくれた。それどころか友だちになってくれた。でも私、そんなアーシアに何も返せてない! だから、だからこのくらい! あ、あぁぁぁあああん!?」
「レイナーレさん……」
アーシアは両手を口に当て、目からは感動の涙を流してた。……うん、なんだろうねこのカオスは。でも残念ながらまだ実が実る気配はない。
「くっ、どうやらまだ生気が足りないみたいですね。こうなったら……」
そこで白音は視線を未だに地面にへたり込んでる部長と朱乃さんに向けた。
「「ひっ!?」」
「部長、朱乃先輩。可愛い後輩のためと思ってどうかご協力お願いします」
その言葉を聞いて2人は尻餅をついたまま後ずさった。
「ちょ、ちょっと待って白音!?」
「私達はもう先ほど十分吸われて……!」
「でも、でもまだ足りないんです。どうか、どうか……!」
白音も2人が後ずさった分だけゆっくり2人の後を追う。それに合わせて部長と朱乃さんも更に後ずさって……って、あ。
「「きゃぁぁああああ!?」」
「ご協力感謝します!」
あ~あ、2人共そのまま七天七刀の円陣の外まで後ずさっちゃったからそのままキメラに捕まっちゃった。
「あ、ぁぁああ!? もう、もうダメ……あんっ!?」
「そ、そこはいけませんわ、あぁっ!?」
そしてそのまま2人もキメラの餌食に。っていうかあのキメラ絶対楽しんでる。だって必要もないのに明らかにわざとジュブジュブ卑猥な音立ててるんだもん。で、そんな状況でうちの男子たちは何をしているのかというと、祐斗は後ろを向くだけでなく耳まで塞いでた。なんか祐斗って最初は紳士なんだなぁって思ってたんだけど、ここまで来ると実は初心なんじゃないかなぁって思えて逆に可愛くなってきた。で、イッセーはというとこちらはもう我慢できなくなったのかガン見してた。うん、これでこそイッセーよね。なんか逆に安心したわ。
「あっ!」
と、そこでようやく生気が必要十分量溜まったのか、キメラの背後の枝に実がなり出した。その実は短い時間でぐんぐん大きくなり、ついにはりんごくらいの大きさになったわ。私はその光景を見てホッとした。皆には悪いけど、白音とアーシアのためとはいえ流石にあんな目に合うのはねぇ? 隣でも龍巳が安堵の溜息をついてるし。
一方、実がなるのを確認した黒姉は即座に自分を縛っていた触手を引きちぎり、ものすごい速さで全ての実を回収して戻ってきた。
「やったよ! やったよ白音!」
「ありがとうございます黒歌姉様!」
2人がここで涙を流しながら抱擁。ここだけ見れば感動できるのに、その手には大量のおっぱいの形をした実が握られているのを見るとどうにも感動できない。むしろげんなりしてくる。
「ちょっと! もういいなら助けな、あぁっ!?」
「も、もう限界……ですわ……」
「あ、あぁ、ん、うぁぁああ……」
「はぁ……、取り敢えず助けよっか。行こう龍巳」
「ん」
というわけで助けるために飛び出して行ったんだけど、何故か私達が行くとキメラは部長たちを離してくれた。何かキメラはやり遂げたような表情をしてるし、散々いじって生気をたっぷり吸ったことで満足したのかな? そんな訳で足腰立たなくなってる部長たちを回収、皆の所に戻るとまずアーシアが飛んで来てレイナーレに泣きながら抱きついた。レイナーレの行動がよっぽど嬉しかったようね。で、白音はというと……例の実をむさぼり食べてるわ。そんなに慌てて食べなくても誰も取ったりしないのに。でもちゃんとアーシアの分も残してるからまあ……今回は見逃してあげましょうかね?本来なら真っ先に部長たちにお礼を言わせるところだけど。まあ今回は勘弁してあげましょう。そして最後に黒姉は……
「ちょっ!? 黒歌姉ひっつくな!」
「んもぅ、イッセーのイケズ。で、どうだったかにゃ?」
「ど、どうだって何がだよ?」
「にゃはは、分かってるくせに。お姉さんのあられもない姿見て興奮したかにゃ?」
「ばっ!? 何言ってんだよ!? そ、そんなわけ……それより服溶けてんだから少しは隠せ!」
「にゃはは、嘘ついてもバレバレにゃ。……イッセー、また腰が引けてるにゃん♪」
「ってどこに手ぇ伸ばそうとしてんだ!?」
「にゃひひ、腰を引いてもテント張ってるのバレバレにゃ。ねぇイッセー、今度こそ私がスッキリさせてあげようかにゃ?」
「だ、だからそういうことは……」
「はむっ」
「み、耳を咥えるなぁ……」
「むぅ~、ここまでしてもダメにゃんて……うぅ、どうせキメラに汚された私の体なんて、イッセーは触ってもくれにゃいんにゃね……」
「そ、その言い方は卑怯だ黒歌姉!」
「……じゃあ白音みたいに抱きしめて?」
「……う、うぅ」
そこでイッセーは擦り寄ってくる黒姉の背中と腰をきゅっと抱きしめた。黒姉、なんという策士! 白音に感謝されて姉妹仲を発展させるとともにイッセーを誘惑して、あまつさえイッセーの方から抱きしめさせるなんて! 黒姉、恐ろしい娘!
「くっ、まずい。我だけ遅れとってる!」
そう言った龍巳は慌てた感じで二人の元へ駆けて行った。まあ確かにこれでイッセーラバーズ最古参のメンバーで抱きしめられてないのは龍巳だけだもんね。さて、この状況、白音も慌てて乱入するかな?
そう思い白音の方を見てみると……あれ? なんか難しい顔して俯いてる? どうしたんだろ?
「……大きくなりません」
あれ? そういえばグレイフィアさんも食べればすぐに胸が膨らむって言ってたわよね? なのに白音の胸は……あまり言いたくないけどまったく変わってない。相変わらずの大平原のままね。むしろあんなに食べたせいで若干お腹の方が膨れちゃってるような……。
「私もまったく変化がありません……」
と、いつの間にか実を食べていたアーシアも呟いた。これって……どうなってるの? もしかしてこのキメラ自体が失敗作? それともまだ収穫が早すぎたのかな?
と思っていると、またしても部長の前に魔法陣が現れ、グレイフィアさんの映像が浮かび上がった。
「グレイフィア? またなにか新しい情報が入ったの?」
胸を吸われ続けたダメージから幾分か回復した部長がグレイフィアさんに聞いた。
「はい。お嬢様から送られてきたはぐれ悪魔の研究資料を解析していた者たちから連絡がありました」
へぇ、あの資料、解析してたんだ。で、何が分かったんだろう?
「例のキメラが実らせる実ですが、キメラ自身の改良が不完全だったために全ての女性の胸を豊かにする事は出来ないそうです。胸を豊かにできるのは、現時点で将来胸の大きくなる希望がある者のみ、ということだそうです」
……え? じゃあそれってつまり……
バキィッ!!
急に響いた音に慌てて振り向くと、そこには今までにないほどの怒りのオーラを振りまきつつ片手で大樹をへし折って持ち上げてる白音が!
「じゃあ……なんですか? いくら食べても膨らまなかった私は、もうこれ以上成長することがないと……つまりそういうことですか?」
怖い。……今までにないほど白音が怖い! 龍巳でさえ震えてしまうほどに白音が怖い! そしてその白音の怒りの矛先は……キメラに向いた!
「ぶっ潰す!」
それからの出来事は凄惨の一言だった。ブチ切れた白音は悲鳴を上げるキメラをこれでもかと傷めつけた。それはもう荒れ狂う白音を押さえつけて本来倒すはずのキメラを助けてしまうくらいに。最終的に白音はイッセーに思いっきり抱きしめられて何とか落ち着いてくれたわ。で、キメラはというと散々痛めつけられた状態で今私の後ろで私に縋り付きながら縮こまってる。……うん、なんか懐かれた。多分白音に対する恐怖と最初に割り込んだのが私だった結果、こんなことになっちゃったんだと思う。
……しかしこれ、どうしようか? さすがにこの状態から改めて消し飛ばすのもなんか、ねぇ?
「仕方ないわね。冥界の動物園に引き取ってもらえるか相談してみましょう? 多くの魔物も飼育しているし、このキメラも引き取ってくれるかもしれないわ」
そのことをグレイフィアさんに相談した結果、グレモリー領にある動物園で飼育されることになった。後日届いた知らせでは、なんでも餌の代わりに飼育員さんが毎日少しずつ生気を分け与えているようで、実った実は売店でケーキやタルト、パイにして売られているらしい。味もよく、このキメラは冥界で大人気になったのだとか。
……それでいいのか冥界の動物園!?
☆
『当機はまもなく成田国際空港に到着します。乗客の皆様はシートベルトをお閉め下さい』
そのアナウンスと同時に、飛行機の高度が下がるのを感じた。久しぶりの故郷、それに……もうすぐ会えるね。
私はわざわざ日本から取り寄せた新聞の切り抜きにもう何度目か分からない視線を向ける。
「それはたしかお前の幼馴染だったか?」
「ええ」
私の隣の席、今回の仕事のパートナーが私の持つ新聞の切り抜きを覗きこんできた。その切り抜きにはとある高校の剣道部が優勝、そしてそこのエースが個人戦でなんと6連覇したという記事が、そのエースを中心にした剣道部の集合写真付きで載っていた。すごく背は伸びてるし、驚くほど美人になってるけど、トレードマークのポニーテールは今でも変わらない。それに……剣道部員の中にはもう1人、私の幼馴染がいた。私がイギリスに行ってからもう10年近く経つけど、あなた達は今でも一緒にいるんだね。
「私は日本語が読めないが、なんて書いてあるんだ?」
「『現代に蘇った侍』、『若き俊英』、『最強の剣士』。ふふっ、色々と書かれちゃってるわ」
あの娘、普段から大胆な行動をするくせにこういったことは恥ずかしがるんだよね。多分あの娘もこの記事見て顔真っ赤にして悶えたんじゃないかな?
「ほぉ、興味深いな。仕事の前に顔を出すんだろう? その時是非とも手合わせしたいな」
「ちょっと何言ってるのよ。いくら優勝したといってもあっちは一般人よ? 勝負になるはずないじゃない」
そう、今の私はもうプロ。あっちは普通の一般人。当時もうお父さんに剣を習い始めてたのに一度も勝てなかったし、一時期虐められてた私を助けてくれたりもしたけど、それでも今は私の方が護る側。そう、今あの街に、あの娘に危機が迫ってる。だから……
「絶対、護ってあげるからね、火織ちゃん」
私は切り抜きの写真に手を這わせ、決意を新たにした。
後書き
次回予告
「今日の会議はイッセーの家で行うわ」
「使い魔が掃除って……もしかして私も?」
「皆さん本当に昔から一緒なんですね……羨ましいです」
「この頃は私も知らないにゃ」
「幼馴染? 我知らない」
「イッセー、あんた覚えてないの? あんなに一緒に遊んだのに」
「こんなことがあるんだね。こんな思いがけない場所で見かけるなんて…………これは聖剣だよ」
『フゥ~ッアッハッハッハッハッハ!!』
次回、第47話 忌々しき過去
「「「ギャアアアアアア!!!」」」
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