ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第3章 さらば聖剣泥棒コカビエル
第45話 続く厄介事
「待ちやがれ!」
今私とイッセーは夜の廃ビルにてコートを着た男を追っている。グレイフィアさんから部長の縄張りにはぐれ悪魔が潜伏しているとの連絡が来たのが今朝のこと、そして私たちは日が暮れてからこうしてはぐれ悪魔の討伐にそいつの根城に眷属全員で乗り込んだ。そしてイッセーがそのはぐれ悪魔を発見、私が途中で合流して今こうして2人ではぐれ悪魔を追いかけているというのが今の状況よ。
「ったく往生際の悪い!」
「グダグダ言わないの! このまま追い込むわよ!」
そう、今はぐれ悪魔が向かってる先には既に連絡して皆が回りこんでるはず。このまま追い込めばチェックメイト!
『イッセー、火織。はぐれ悪魔の現在地は?』
部長から通信機を通して連絡が来た。私はそれにはぐれ悪魔に聞こえないように小声で返事をする。
「敵は5階の廊下を非常階段に向けて逃走中、あと10秒で非常扉です」
『分かったわ。こちらも配置が完了しているからそのまま追い込んで頂戴』
「了解」
そんなやり取りに気付くことなくはぐれ悪魔は非常扉を開け放ち、そのまま非常用の外階段の踊り場に飛び出した。その瞬間
ズドドドッ!
「ひぃっ!?」
はぐれ悪魔の足元に数本の光の槍が突き刺さり、はぐれ悪魔は驚いて立ち止まる。その視線の先には
「逃さないわよ」
「ん、逃げても無駄」
漆黒の翼をはためかせ光の槍を構えるレイナーレと両手に魔力をまとわせる龍巳の使い魔コンビが階段の外に浮いていた。
「な、なぜ堕天使が……」
「貴様には関係ない」
そう言って殺気を放つレイナーレからはぐれ悪魔はジリジリと階段の踊場から階段に向けて後ずさるんだけど、階段の下からは祐斗が、そして上からは
「ごきげんよう、はぐれ悪魔さん」
カン……カン……と足音を鳴らせつつ部長が降りてきた。上は部長、下は祐斗、後ろは私とイッセー、そして空中に龍巳とレイナーレ。これでもう逃げ道はないわね。
「あなたの討伐命令が下ったわ。主の元を逃げ、己の欲求のみを満たすためだけに暴れまわる不逞な輩、その罪万死に値する。グレモリー公爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげるわ」
これでもうチェックメイトなんだけど……件のはぐれ悪魔さんはまだ諦めきってないのか自分の周囲に瞬時に多数の魔法陣を展開した。全く無駄なことを……。
私は腰の七天七刀を抜刀、すぐさま側面に展開された魔法陣を斬り裂く。見れば反対側の魔法陣は龍巳が、そして正面の魔法陣は
「無駄よ!」
という部長の声とともに消滅の魔力で消し飛ばしていた。魔法陣を消されたはぐれ悪魔はそれでもまだ諦めないのか走って逃げようとするけど
「祐斗!」
「はい、部長!」
部長に命じられた祐斗がすぐさま接近、はぐれ悪魔を切り伏せた。加えて倒れた悪魔の上にレイナーレが降り立ち、片足で踏みつけつつ光の槍を突きつける。
「動かない方が身のためよ」
そこでようやく諦めたのか、はぐれ悪魔はおとなしくなった。
「あらあら、もう終わりましたの?」
その声に振り向くと、私達が出てきた廊下の方から朱乃さんとこぶし大の虫を鷲掴みにしている白音、そしてなぜかアーシアをお姫様抱っこしている黒姉が……って何やってるの2人共?
「黒歌姉、何やってんだ?」
「いやぁ~、アーシアが私達の速度について来られなくて仕方にゃく」
「はぅぅ、すみません~」
あぁ、そういうこと。まあ確かにこの廃ビル結構広いし、アーシアの体力じゃ走り回るのはきついかもね。
「部長、こちらも終わりましたわ」
「ご苦労様」
「弱かったです」
そう言って白音は掴んでいた虫をポイっと捨てた。……白音よくこんなキモい虫鷲掴みにできたわね。その虫はというともう死んでいるのか床に落ちた瞬間各部から泡を噴出し始め、しまいには溶けちゃった。この虫いったいどうなってんの?
「これがこいつの使い魔かよ。気持ちわり」
「この虫さん、何故か私と黒歌の胸ばかり集中的に狙って来ましたわ」
「胸を?」
「ふふっ、イッセーみたいな虫ね」
「って火織、それ酷くね?」
「だって好きでしょ、大きな胸」
「……いや、まあ……な」
「「むぅ~」」
ガスッ!
「いって!?」
見れば白音がイッセーの足を踏み抜いていた。さらにアーシアはイッセーの頬を引っ張っている。まあこっちは本当に軽くだけど。
「痛い痛い! 白音ちゃん痛い!」
「ふんっ」
うぉぉう、白音ったらイッセーの足を延々とグリグリしてるわ。しかもかなり力を込めて。加えてかなり恨めしそうな目でイッセーを睨んだあと、その目をアーシアと祐斗以外の私を含めた皆に向けた。……うん、ここはスルーしよう。
「さ、さて、はぐれ悪魔さん、チェックメイトよ。それともまだ抵抗するのかしら?」
部長、はぐれ悪魔に問いただしつつも若干白音に怯んでる。まあ気持ちは分からなくもないけど……。
「いや、降参しましょう。かのグレモリー家の姫君が相手ではいささか分が悪い」
なんかニヒルに笑いながら降参宣言してるけど、レイナーレに踏まれながら言ってもカッコつかないわよ? そのはぐれ悪魔はそのままぐるりと私達を見回してニヤリと笑うと
「くく、若干名を覗いて……良いお乳をしておられる」
ぶっ!? この状況で何言ってんのこの悪魔? 随分と変わってる、っていうか普通に変態?
「おいこらテメ何言っt「ぐべぇ!?」……うわぁ」
変態的なことを言ったはぐれ悪魔にイッセーが突っかかろうとした瞬間、はぐれ悪魔が潰れたような悲鳴を上げた。っていうか実際に潰れちゃった。白音が額に血管浮かせながらはぐれ悪魔の顔面を何度も何度も踏みつけてる。
「若干名って、いったい、誰の、こと、ですか!」
「ぐほっ、ぐふっ、がへっ、ぐひっ」
言葉の切れ目切れ目ではぐれ悪魔を踏みつける白音。でも流石にこれ以上ははぐれ悪魔が死んじゃうよ。
「し、白音、その辺で、ね?」
「白音ちゃん、そいつもう意識無くしてるから!」
私とイッセーで白音を押さえつけてはぐれ悪魔から引き離す。
「朱乃、彼を拘束後魔法陣で冥界に転送してちょうだい! 可及的速やかに!」
「はい部長!」
そして私とイッセーが白音を抑えてる間に部長に指示された朱乃さんが、気を失ったはぐれ悪魔を魔法で拘束、そのまま即座に転送した。それを見て白音も何とか落ち着いてくれたみたい。
その後、廃ビルの地下にはぐれ悪魔の研究室を発見、夜な夜な何かの実験していたということが分かった。重要そうな資料を冥界に送って残りは全て破壊することに決まったんだけど……ここでまださっきの事でイライラしていた白音が力加減をミスり研究室どころか廃ビル自体が倒壊、生き埋めになったあとなんとか地下から這い出て帰る頃には皆服がボロボロの状態になっちゃったのはまた別のお話。
そんなことがあった次の日、学校では変な噂が流れていた。
「この学園の女生徒が次々休んでる?」
「ええ、そうなのよ」
この噂を教えてくれたのはこのクラスのエロメガネこと桐生藍華。眼鏡を掛けててキャラ的には委員長っぽいんだけど……その実イッセーに負けず劣らずエロかったりする。まあ本人はその辺普段は隠してるけどね。
「あの、皆さん病気か何かですか?」
そう心配そうに尋ねるアーシアに対して藍華は
「それがどうも貧血ってことらしいんだけど……そう何人も都合良くなるものかしらね?」
と答えた。確かに一斉に何人も貧血になるっていうのはちょっとおかしいわね。
「言われてみれば確かにこのクラスも既に何人か休んでますね」
そう言ったのは天野夕麻モードのレイナーレ。最初の頃はまだ若干違和感があったけど、この娘もだいぶ馴染んできたかな。
「なんか怖いよねぇ~」
「せめて貧血になった理由さえ分かればいいのにね」
その他にも何人かクラスメイトが話の輪に加わってくる。そこで藍華は眼鏡をキラーンと光らせて言った。
「それがね実は……休んでる女の子たちにはある共通点があるのよ」
「「「「「共通点?」」」」」
「そう、共通点。それは……」
「「「「「それは?」」」」」
「休んでるのは皆胸の大きな娘よ!」
「「「「「な、なんだってぇ~!?」」」」」
今更だけどこのクラスの娘達って随分とノリがいいわね。って何でそこで皆揃って私と龍巳の方を向いてくるかな!?
「胸の大きな娘……」
「じゃあ次に休むのは……」
「っていうか」
「何でこの姉妹は揃ってこんなに……!」
「そういえば姉の黒歌さんも……」
「羨ましい……」
「妬ましい……!」
えっ!? な、なんで皆そんなに両手をワキワキさせながらすこしずつ詰め寄ってくるのかな!? あと目のハイライトが消えてるような気がするのは私の勘違いじゃないわよね!?
私と龍巳は胸を抑えてジリジリと後ずさるんだけど、それに合わせて皆離れただけ近寄ってくる。っていうかなんでその中にレイナーレまで混じってるかな!? あんただって十分大きいでしょう!? アーシアは……うん、いつも通りおろおろしてる。いつも通りで安心する一方助けはまったく期待できないわね。
「あ、あの、皆……」
「お、落ち着く……」
2人で呼びかけてみるんだけど……
「一体何食べたらそんなになるのよぉ!!」
「少しよこしなさい!」
「触らせろぉ~!」
「「に、にゃぁああああああああ!?」」
一斉に胸に向かって飛びかかってくる皆に対して、私たちはただ悲鳴を上げるしかなかった。
「なんてことがあったんですよ」
「ふふっ、それは大変だったわね」
「……笑い事じゃない」
あのあと結局私たちは次の授業が始まるまで皆にもみくちゃにされつつ胸を揉まれまくった。女の子同士だからといってあれはないんじゃないかな? 男の子たちの目だってあったんだし。
「それより火織、早く食べようぜ!」
「はいはい、慌てないのイッセー」
そう言って私は作ってきたお弁当を各自に配る。昨日言った通り、今日の朝食と昼食は私が作った。で、今日は昼食は皆部室に集まって食べようってことになったんだけど、別にここまでしなくていいんじゃないかな? いくら私の料理が珍しいからって。
ちなみに朝食は味わってる時間がなかったわ。理由は昨日以上の修羅場がイッセーの部屋で展開されてたから。朝食の準備がないことを良い事に、今朝は黒姉と龍巳がイッセーのベッドに忍び込んでたみたい。その上後から白音や部長、アーシア、レイナーレが合流して昨日以上の修羅場に。朝食作ってる時2階がすっごい騒がしかったわ。
で、その結果朝食を食べてる時間が無くなっちゃって、結局皆朝食を掻き込んで急いで登校、遅刻ぎりぎりになっちゃった。だから部長やアーシア、レイナーレがちゃんと私の料理を食べるのはこれが初になるわね。
「皆、食べる前に言っとくけど……覚悟しておいたほうがいいにゃ」
「どういう意味よ黒姉。私食べられないもの作った覚え無いわよ?」
「火織姉様、そういう意味じゃないです」
「ん、逆」
逆? いったいどういうこと?
「さて、じゃあ行き渡ったところで、いただきます」
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
さて、美味しくないってことはないだろうけど、皆の口には合うかな? って、なんで皆口に入れた瞬間固まるの!? えっ!? 私なんかミスった!?
私は急いで自分のお弁当に口をつけるけど……別に変な所ないわよね? と、その時
「火織! これめっちゃ美味いよ!」
「えっ!? そ、そう? それは良かったわ」
皆急に黙っちゃったからどうしたのかと思ったけど、イッセーの言葉のおかげで安心した。どうやらマズイ訳ではないみたいね。
「火織、この味付け……っていうかこの料理私知らにゃいんにゃけど、隠れて練習してた?」
「そんなわけないじゃない黒姉。特にメニューも決めてなかったから冷蔵庫の中のものでその場で考えて作っただけよ?」
っていうかお弁当の件とか昨日のはぐれ悪魔のせいで今朝になるまで忘れてたんだよね。だから今朝はちょっと慌てちゃった。朝食とお弁当も即興で作る事になっちゃったのよね。
「とっさに作ってこの味……」
「はぅぅ……とっても美味しいです」
「くっ、こんなに差があったなんて……」
えぇっ!? そ、そんなに悔しがるほど!? 私は普通に作っただけなんだけれど。っていうかこのくらいならお母さんやおばさん、黒姉だって作れるわよね!?
「いやいや、この味はそんな簡単には出せそうにないにゃ」
「全く練習せずに料理の腕があがるってどういうことですか……」
「火織お姉ちゃん、ずるい」
「いやずるいって言われても……」
そんなたいした物でもないと思うんだけどなぁ。っていうかイッセー、もうちょっと落ち着いて食べなさいよ。あんたがそんなんだと、作った私が皆に睨まれるんだからね? ……当分料理は自粛しよう。私の平穏のためにも。
と、そんな感じで皆で昼食を食べる中、突然机の真ん中に小型の魔法陣が浮かび上がった。この紋様は……グレモリー? それにこの大きさってことは通信用の魔法陣かな?
そんなことを思っていると、魔法陣の上にグレイフィアさんの映像が浮かび上がった。……なんか昨日に続いてまたもや厄介事の予感。
「それではあのはぐれ悪魔は魔物関連の錬金術師だったのね」
「はい、その件で1つ、問題が発覚致しまして……」
厄介事は昨日の続きか……。それにしても問題?
「問題?」
「はい。研究室で作り上げたドラゴンと冥界の食獣植物を掛け合わせたキメラをその街に放った、とのことです」
うわ、なんてもんを……。
「あの、キメラとはなんですか?」
アーシアと……それからイッセーも分かってないわね。その問いにはレイナーレが答えた。
「アーシア、キメラっていうのはね、いろんな生き物を掛け合わせて創りだされた怪物のことよ」
「怪物さんですか!?」
「マジかよ……」
どうやら2人共状況が分かったみたいね。
「食獣植物はともかくドラゴンは厄介ね」
「ドラゴン、か」
その言葉とともにイッセーは自分の左腕を、そしてアーシアやレイナーレは龍巳の方を向いたけど……この部屋ドラゴンが2体もいるっていうのにそれっぽさがどっちも皆無よね。まあ今さらだけど。
「通信は以上です。新しい情報が入り次第、またご連絡いたします」
「ええ、お願いね。グレイフィア」
そしてグレイフィアさんの映像が消えると共に魔法陣も消え去った。
「部長、これは今晩も通常業務はお休みですかね?」
「ええ、そのようね」
と、その時部室の扉が開かれ、この場にいなかった朱乃さんと祐斗が顔を出した。
「部長、帰還しました」
「ただいまですわ」
「お疲れ様。その表情だと何か収穫があったようね」
「ええ、バッチリですわ」
「おそらくこの学園の女子を狙う者を見つけました」
女子を狙う? それが今回のキメラと関係あるのかな?
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