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久遠の神話

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第三十七話 人との闘いその十一

「その弱いっていうのも社会の立場とか腕力とか体格だからな」
「その人のことを見てのものではないからですか」
「腕っぷしが強いってのは自慢になりゃしないんだよ」
「では真に誇るべきは」
「心だよ。そいつの心の奇麗さとか大きさだよ」
「そしてそういったものがない力こそ」
「ああ、暴力だよ」
 それに他ならないというのだ。暴力というものは。
「そんなの使うんなら刀なんて握るものじゃないさ」
「決してですね」
「ああ、俺はそう思う」
「では殺すことは」
「暴力じゃない場合だってあるさ」
 殺すといっても事情は様々だ。その事情の幅は広かった。
「けれどそれでもな」
「出来る限りはなのですね」
「俺は殺さない」
 ジャガイモ、ボイルしたそれを食べながらの話だった。
「出来る限りはな」
「そのうえで、ですか」
「願いを適えるさ」
「そうですか。しかしそれは」
「ああ、甘いっていうんだな」
「剣士同士の戦いは神話の頃から行われてきました」
 聡美も言う剣士の歴史をだ。声はここで中田に話した。
「そしてその中で」
「剣士が大勢死んだっていうんだよな」
「その通りです。殺されてきました」
「まあ剣ってのは元々そうした道具だからな」
 武器とはまさに人を殺すものだ。活人剣になるのはその人が武器を己の心や身体を鍛える為に使うからだ。だが基本はやはり人を殺すものなのだ。
 それでだ。中田も今こう言ったのである。
「そうなるのも当然だな」
「ですから。一人も倒さないというのは」
「まあ出来るだけだよ」 
 軽いがその中には確かな決意があった。人は出来るだけ殺さない。
 中田は食べながら声に告げてだ。そうしてだった。
 再びワインを飲む。それからこうも言ったのである。
「俺にとっちゃそれ以上のものがな。あの願いだからな」
「貴方にとってはあの人達は」
「あんただってわかるだろ」
 パンも食べる。そうしてだ。
 白いパンを口の中でもぐもぐとさせてからワインで流し込み。こう声に問うたのである。
「実際のところな。いるだろ」
「私は」
「何だよ。いないのかよ」
「いえ、います」
「いるのかよ」
「はい」
 声はこう中田に答える。
「そうした人が」
「孤独って訳じゃないんだな」
「いえ、それでもです」
「孤独だっていうのかよ」
「貴方はどう思われますか」
 声は問うてきた。
「想い人が傍にいても。その人が起きてくれないのは」
「ああ、そういう状況か」
「貴方ならわかりますね」
「ああ、わかるさ」
 その通りだとだ。中田も答える。
「そういう話だとな」
「そうですよね」
「というかな。俺だからな」
「貴方だからですね」
「わかるさ。似たっていうかそのままの状況だからな」
「それ故にですね」
「目覚めるんだよな」
 中田は切実な声になっていた。 
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