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久遠の神話

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第三十七話 人との闘いその十

「それでもね。その先生は凄くいい人だからね」
「私も一緒に」
「今度どうかな」
 無意識のうちにだ。上城は樹里をデートにも誘った。
「日曜にでも部活の後でね」
「そうね。それじゃあね」
 樹里もだ。上城の言葉に頷いた。そうしてだった。
 上城と共にその教会に行くことにした。このことを決めたのである。
 その彼との戦いの後だ。中田はというと。
 家に戻って風呂に入った後夕食を食べていた。その夕食は。
「ソーセージですか」
「ああ、そうだよ」
 中田はテーブルに着いていた。そうしてだった。
 茹でたソーセージとブロッコリーや人参、ジャガイモといったボイルドベジタブルとその野菜を茹でたスープを飲んでいた。主食はパンだ。
 その洋風の食事の彼にだ。声が言ってきたのだ。
「今日はシンプルですね」
「だろうな。けれどな」
「味はですね」
「美味いぜ」
 こう言うのだった。彼自身は。
「こうした料理もオツなものだぜ」
「そうですか。ところで」
「戦いのことかよ」
「彼は倒さなかったのですね」
 上城との闘いのことをだ。声は言ってきた。
「そうされましたね」
「力が尽きたからな」
「はい、そうですね」
「だったら。倒せないだろ」
「それはその通りです」
「向こうも力が尽きて助かったけれどな」
「ですが」
 しかしだとだ。声は話を止めようとした中田に言ってきた。
「貴方は最初から彼の命を奪うつもりはありませんでしたね」
「そう思うんだな」
「その通りですね」
 彼の心、それ自体に対する問いだった。
「違うなら違うと答えて頂けるでしょうか」
「俺は確かに戦うさ」
 中田は違うとは答えなかった。その代わりにだ。
 一呼吸置いてワインを一口飲んでからだ。こう言ったのである。
「けれど他人の命を奪うとかはしないんだよ」
「殺すことはお嫌いですか」
「覚悟はしてるさ」
 戦うからにはだ。人を殺めることもだというのだ。
 彼は白い大きな、ジョッキを思わせるカップで赤ワインを飲んでいた。安いワインだが今はそれに構わずそのワインを次々と飲んでいく。
 それからだ。彼は言うのだった。
「それでもな」
「それでもですね」
「出来る限りは殺したくないんだよ」
「人の命は、なのですね」
「甘いのかも知れないけれどな」
 少し苦笑いになっての言葉だ。
「それでも。出来る限りはな」
「人を殺さずに進まれたいですか」
「俺の剣道は活人剣だしな。人を殺す剣道じゃないんだよ」
「殺人剣ではないですか」
「ましてや暴力でもないさ」
 言いながらだ。中田はまた彼が成敗したあの暴力教師のことを思い出した。
 あの教師のことを考えながらだ。彼は声に答えた。
「心のない力は暴力でな」
「そしてそれはですか」
「剣道をやる人間にとって絶対に使っちゃいけないものなんだよ」
「暴力はお嫌いですか」
「ああ、大嫌いさ」
 中田は暴力については吐き捨てる様にして述べた。
「ちんけな奴が粋がって使うものだからな」
「ちんけな、ですか」
「下らない小者が自分より弱い奴をぶん殴って得意になる」
 あの暴力教師そのものだった。 
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