スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百三十六話 小天使
第百三十六話 小天使
「それでシンは?」
「いつものようになったわ」
シローにアイナが話していた。
「それで今は介護室にいるわ」
「そうか。あいつも懲りないな」
「全くです」
ノリスがここで応える。
「アスカ中尉にも困ったものです」
「というかあいつは中尉だったのか」
「それはじめて聞いたわよ」
サンダースとカレンがそれを聞いて言ってきた。
「ザフトにも階級が出来たのは知っていたけれどな」
「中尉だったの」
「僕が少尉だからそれより上だよね」
ミケルも言う。
「やっぱり」
「そうだな。俺は今大尉だけれどそれより一個下か」
「確か他のザフトの面々は」
「アスラン君とハイネ君が中尉です」
またノリスが述べた。
「他の面々は少尉となっています」
「そうか。年齢を考えたらそんなところかな」
「そうね。あとはその功績によるのね」
「俺も本来ならまだ少尉だったな」
シローもここで言った。
「連邦軍が一年戦争から士官学校卒業していなくても大尉以上になれるようにしたし功績があればすぐに昇進できるようになったからな」
「そうね。ジオンは最初からそうだったけれど」
ここに連邦とジオンの違いが出ていた。
「連邦軍も変わったわね」
「けれどな。アムロ中佐はまた特別だな」
「そうね」
アイナもアムロは別格と見ていた。
「確かもうすぐ大佐にもなるんだったよな」
「あのままだと准将になるのも近いけれど」
「それは本人が断りそうだな」
「そうね。将官になったらそうおいそれとはモビルスーツに乗れないから」
そうした事情があるのだった。将官とはまさに指揮官だからである。
「だから。あの人が将官になるのは」
「この戦争が終わってからだな」
「多分。そうなると思うわ」
「あっちの世界に戻ったらすぐに大佐で」
それはもう決まっているのだった。アムロの今までの功績を考えれば。
「何かやっと感じだよね」
ミケルは両手を頭にやって言った。
「やっと大佐だね。アムロ中佐も」
「いや、やっとじゃない」
だがシローはそれはそうではないと言うのだった。
「やっとじゃな」
「あれっ、そうなの」
「大佐だぞ」
サンダースがそのミケルに話す。
「軍の中でもかなりの要職を歴任する階級だ」
「そうだったんだ」
「そうよ。ブライト艦長が大佐でしょ」
「うん」
ミケルは今度はカレンの言葉に頷いた。
「それを考えたらそうそう簡単にはなれない階級よ」
「そうだったんだ、大佐って」
「ジオンでもそうでした」
ノリスも言ってきた。
「大佐になると流石に」
「そうだったんだ」
「そうだったんだって御前」
シローは今のミケルの言葉にすこしばかり呆れた顔になった。
「知らなかったのか!?軍にいたのに」
「軍にいたって。おいらそこまで考えていなかったし」
だからだというのだった。
「知らなかったよ、そんなの」
「まあ知らないのはまだいい」
サンダースはそれでも彼に言うのだった。
「しかしだ」
「しかし?」
「これでわかったな」
このことを確認するのだった。ミケルに対して。
「御前もこれで」
「まあね」
しかしわかったのは確かだった。
「これでね。よくわかったよ」
「大佐ってのはね。それだけ重い階級ってことよ」
カレンもまたこのことを話した。
「結構以上にね」
「アムロ中佐はそれになるんだ」
「あとフォッカー少佐ももうそろそろかしら」
アイナはフォッカーについても話した。
「中佐にね。そしてやっぱりやがては」
「大佐なんだね」
「けれど。将官はね」
アイナの言葉が少しばかり曇った。
「もっと難しいわよ」
「准将とかには?」
「将軍になるとそうはなれない」
シローの顔は真面目なものになった。
「大佐以上にな」
「あっ、それはわかるよ」
これは彼にもわかることだった。
「おいらにもね」
「それならいいけれどな」
シローはそれでも今一つ信じていないようだった。
「わかったのならな」
「将軍ってうちでも一人しかいないから」
また話すミケルだった。
「グローバル准将だけしかね」
「大佐だって殆どいないでしょ」
カレンはそれも言った。
「それでわからなかったの」
「それでも今わかったからいいじゃない」
「まあね」
カレンは渋々ながら頷いた。
「今やっとだけれどね」
「そういえばタリア艦長の階級は」
「中佐だ」
シローはまたミケルに答えた。
「ただし権限は大佐並だ」
「そうだったんだ。中佐だったんだ」
「あとティターンズの階級は元の待遇だったわね」
アイナはこのこともここで話した。
「あの人達も」
「そもそもあれはおかしかったのです」
ノリスはそれについてクレームをつけた。
「正規軍よりも階級が一つ上の待遇なぞ。おかしいにも程があります」
「そうだよな。それはな」
シローもその意見には同じだった。
「俺もそう思っていたよ」
「悪かったな、それはな」
ここでヤザンが出て来た。そのティターンズだった彼である。
「悪いとは思ってないけれどな。それについてはな」
「悪いと思っていないのですか」
「俺は関わらなかったが毒ガスとかは悪いと思ってるさ」
それについてはというのである。
「あれは悪事に他ならないからな」
「バスク大佐やジャマイカンの奴がしていたとしてもね」
ライラも出て来て言う。
「私等がそうした組織にいたのは事実だからね」
「それは悪いと思っているのですな」
「そういうことさ。まあ今の待遇でもいいんだけれどな」
「それについてはいいんですか」
ゼオラがヤザン達に問うた。
「今の普通の待遇でも」
「だからあれなんだよ」
ヤザンはここでそのゼオラに話すのだった。
「いいかい、シルヴィア嬢ちゃんよ」
「私ゼオラですけれど」
「ああ悪い、間違えた」
彼もまた多くの者がやってしまうミスを犯したのだった。
「声が似てるからな。ついな」
「全く。それだけは気をつけるんだな」
ジェリドまで出て来てヤザンに言ってきた。
「俺の声もこの前間違えたしな」
「そういえばジェリド中尉の声も」
「そうよね」
シローとアイナがここで少し話す。
「黄金君に似てるよな」
「それもかなり」
「声はいいんだよ」
ジェリドもこのことを言われるとかなり苦しいところがあるのだった。
「声はな。それよりもな」
「ええ」
アラドがそれに応える。
「そのティターンズの毒ガスですよね」
「あれは俺達は外されてた」
「ジャマイカンとかそういう奴がやってたんですか」
「そうだ。俺達は実戦部隊だったからな」
これは事実であった。
「実戦部隊とそうした裏の部隊は別だった」
「じゃあやっぱり関係なかったんですか」
「そうだ。しかしな」
それでもジェリドの顔は曇っていた。他のティターンズの面々もだ。
「俺達がいたティターンズがそうしたことをしていたのは事実だからな」
「それはな。やっぱりな」
「悪いことだってわかっているつもりだよ」
「何かヤザンさん達も結構話がわかる?」
「そうみたいね」
アラドとゼオラはここでまた話をした。
「最初はかなり怖いと思っていたけれどな」
「ロンド=ベルに来た時は驚いたけれど」
「俺達は軍人だ」
カクリコンも言う。
「それで命令に従うだけだ」
「そうした命令にもですか!?」
アラドは少し咎めるようにしてそのカクリコンに問うた。
「毒ガスやコロニー落としみたいな」
「相手が軍人ならば従う」
これがカクリコン達の返答だった。
「ただしだ」
「ただし?」
「何ですか?」
「俺達は軍人だ」
またこのことを言うカクリコンだった。
「一般市民に向ける武器はない」
「そうなんですか」
「少なくとも俺が戦う相手は敵だけだ」
カクリコンはこうも言った。
「わかったな。そういうことだ」
「わかることはわかりましたけれど」
それでもゼオラの表情は今一つ釈然としないものだった。
「それでも」
「それでも。どうしたのだ?」
「まだ何か言いたいようだが」
ラムサスとダンケルがそれについて問うてきた。
「よかったら言ってみるといい」
「何でもな」
「いえ、やっぱりですね」
また言うゼオラだった。少しもじもじとしたものを見せながら。
「ティターンズの人達って話せるんだなって思って」
「俺達も人間なんだぜ」
ヤザンが言うのはこのことだった。
「人間が話がわからない筈ねえだろうが」
「それはそうですけれど」
まさにその通りだった。しかしなのだった。
「けれど。何か」
「ティターンズは確かにそうした組織だったわ」
マウアーもそれは認めた。
「それでもね。私達だってそれぞれなのよ」
「それぞれですか」
「ジャマイカンとかは別だぞ」
ジェリドはそこを念押ししてきた。
「あいつは本当に狂信者だったからな」
「だからですか」
「俺達はな。やっぱりな」
「違うんですね」
「とりあえず理性はあるつもりだ」
こうゼオラ達に対して話すのだった。
「最低限のはな」
「普通はそうですよね」
シローも今の彼等の言葉には少し納得した顔で頷いた。
「やっぱり。将校ですから」
「将校ってそこまで重いんですか」
「当たり前だろ?」
今度はアラドに話すシローだった。
「指揮官なんだから」
「じゃあ俺もそれを求められるんですか」
「あんたねえ」
ゼオラがその横でアラドに言ってきた。
「いつも戦うのか食べるしかないじゃない」
「ちぇっ、悪いかよ」
「それはどうなのよ」
こう言うゼオラだった。
「いい加減過ぎない?それって」
「そうか?」
「そうよ、あんたも少尉よ」
これはゼオラも同じである。
「少尉はつまりね」
「将校だぞ。わかってるのか?」
シローもそれを指摘する。
「君達もな」
「それだけのものがあるんですか」
「指揮官として」
「アムロ中佐も最初はな」
またアムロのことが話に出て来た。
「今みたいな人じゃなかったらしい」
「あっ、それ聞きました」
「ブライト艦長やカイさん達から」
「中佐御本人にも」
「聞いてます」
アラドとゼオラはそれぞれ話した。
「何かどうしようもない人だったとか」
「そうらしいな」
シローも言う。
「俺も直接見たわけじゃないけれどな」
「そんな人があそこまでなんですか」
「凄いですよね、それも」
ゼオラもアラドも言う。
「あの人も成長したんだよ」
「そうね」
アイナはシローの今の言葉に頷いた。
「アムロ中佐もね」
「人は成長する」
シローの今度の言葉はそれだった。
「それが人なんだ」
「そうだな。それはな」
「その通りですよね」
彼等はそんな話をしていた。そうしてそのうえで次の戦いに備える。その時天使達の中でもこれからのことについて話をしていた。
様々な色の花が咲き誇っていた。そしてその花々でカラバも作っている。その花達達の中で彼等はそのこれからのことについて話をしていた。
「それではだ」
「はい」
一人の言葉に他の天使達が応える。
「頭使」
「はい」
「音使」
「ここに」
まずは若い男女が応えた。
「両使」
「ここにいる」
「錬使」
「おります」
虫を思わせる者ともう一人であった。
「剛使」
「うむ」
「智使」
「こちらに」
「いる」
巨大な腕を持つ者と老人の顔をした二頭のライオンであった。
「そして双使」
「いるよ、僕も」
無邪気な子供であった。彼等が長老の言葉に応えていた。
「全員いるな」
「それで夜使よ」
頭使と呼ばれた若い男が長老の名を呼んだ。
「これからのことですね」
「その通りだ」
「それならもう決まっていますね」
「確かに」
頭使と音使がそれに応えた。
「人間達を滅ぼす」
「我等の糧とする為に」
「それはわかっているのではないのか?」
両使が夜使に問うた。
「それは」
「その通りだが。しかし」
「しかし」
「何かあると」
「一万二千年前の時とは何かが違う」
夜使はこう智使に告げた。
「何かがな」
「違うというのですね」
「そうだ、違う」
彼はまた言った。
「まずはロンド=ベルだったか」
「あの者達か」
「あの者達がいる」
彼は言った。錬使に応える形で。
「あの者達がな」
「おかげで我等の糧を得られることができなくなっている」
剛使は忌々しげに言った。
「奴等のせいでだ」
「そうだよ。早く何とかしないと駄目じゃない」
双使は明るい声ではあった。
「人間達を捕まえてさ」
「それなのだが」
しかしここで夜使はまた言ったのであった。
「我等は人を糧としなくても生きていけるようだ」
「何っ!?」
「まさか」
「見るのだ」
ここで花に手をかざした。するとそれで彼の手に何かが加えられていた。
「見えるな」
「ええ」
「確かに」
智使達がそれを見て言う。
「糧を得ております」
「しかも花から出される気だけで」
「これを吸うだけで生きていける」
彼は言うのだった。
「我等はな」
「馬鹿な、それはない」
両使はそれを否定した。
「我等は人の糧で生きている。それで何故だ」
「そうだな。それはな」
「有り得ない」
彼等は話をしていく。
「これでは我等のいる意味がない」
「意味!?」
剛使は錬使の言葉に応えた。
「意味とは何だ」
「いや、私は何も」
錬使は自分の言葉を否定したのだった。自分が出したその言葉をだ。
「何も言ってはいないが」
「しかし今言った」
剛使はさらに問う。
「確かにな」
「いや、その通りだ」
ここでまた夜使が言ってきた。
「我等は確かにな。人を糧としている筈だ」
「それがその必要がないとすれば」
「どうしてこの世界にいるのだ?」
「私もそれが気になっているのだ」
夜使の仲間達への言葉は続く。
「何故だ。我々は何故存在している」
「何故かとは」
「それは」
「我々は思い込まされていたのかも知れない」
そしてこうも言った。
「誰かに。人を滅ぼす存在だと」
「それではそれは何の為に」
「誰によって思い込まされたのだと」
「それはわからない」
智使達に対して述べる。
「それはな。わかりはしない」
「しかし。それならばだ」
「我々は騙されていた」
「そうなるのか?」
頭使に音使、両使が言う。
「そういえばあの街も」
「パラダイムシティですね」
「我等が行くことができない街」
彼等はそこに行くことができないのだ。しかし存在は知っていたのだ。
「四十年に一度滅びるらしいが」
「我々は一万二千年に一度現われる」
「そうした存在だ」
「しかしだ」
夜使がまた言った。
「かつては多くいた我等の子供達もだ」
「今では双使だけ」
「その通りだ」
錬使途剛使が口を開いた。
「このままでは我等も」
「消え去ってしまうが」
「ありとあらゆるものが消え去ろうとしている」
音使はふと言った。
「それは我々もまた」
「これはただ自然の流れなのか」
夜使の同胞達への言葉は疑問符が付いていた。
「果たしてな」
「そんなのないよ」
だがこの深刻な空気の中で双使だけは陽気に言うのだった。
「糧なんて人間を殺して手に入れればいいじゃない」
「殺すのではない」
「それは違う」
だがそれは智使によって否定された。
「今の話を聞いたな」
「実際に我等も糧を花達から得られる」
実際に彼等も花に近寄ってみた。すると確かに得られるのだ、その糧が。
「その通りだ」
「実際にな」
「では人を糧とする理由はないのだ」
「花を集めるだけでいいのだ」
まさにその通りであった。
「だから。今は動いてはならない」
「考えることだ」
彼等はこう双使に説く。しかし彼は。
「嫌だよ、そんなの」
「聞き入れないというのか?」
「我等の言葉を」
「僕行くから」
やはり彼は聞き入れなかった。
「そして人間達から糧を手に入れてみるよ」
「行ってはならない」
「止めておくのだ」170
「嫌だよ、行くっていったら行くんだ」
「うう、それは」
「ならん」
だが智使達の言葉はきついものではなかった。少なくともそれは子供を叱りそのうえで止めるものではなかった。それが失敗であった。
「行くよ、夜使」
「いや、それは」
そしてそれは夜使も同じであった。
「それじゃあね」
「うう・・・・・・」
「行ったか、もう」
「止められなかったか」
智使達は彼が行ったのを見届けて言うのだった。
「今は動くべきではないが」
「それでもか」
「行ったのならば仕方がない」
夜使も諦めの言葉を出した。
「それならな」
「そうか。最早」
「我等がもう少し強く言えば」
「夜使よ」
錬使が彼に言ってきた。
「すぐに双使に兵を与えよう」
「わかっている。ようやくまた揃えた者達だがな」
「ようやく動かせるようになればロンド=ベルが戻って来るとはな」
剛使の言葉は何故か忌々しげなものではなかった。
「これも運命か」
「わからん。今全てがわからなくなった」
夜使もこう言うしかなかった。
「全てがな」
「しかし我等の役目が世界を滅ぼすものでなかったとしたら」
音使が述べた。
「私達の役目は一体」
「そうだ。何なのだ」
両使も言う。
「それならば」
「しかし。何かある」
頭使は一人静かに述べた。
「ロンド=ベル達と我々の間にはな。何かがある」
しかしそれが何かははっきりとわからないのだった。彼等もまた大きな謎の中にあった。
中央アジアの大都市であるタシケント。そこに天使達が現われた。
「よし、やっちゃえ!」
双使が言う。
「このまま人間達をやっちゃえ!」
こう言って無差別攻撃に入ろうとする。しかしであった。
「もう来やがったのかよ!」
「野郎!」
ロンド=ベルの面々はこう言ってすぐに出撃するのだった。
そうしてすぐに天使達への攻撃に入る。しかしであった。
「艦長」
「どうしたの?」
タリアにアーサーが言ってきたのだった。
「大変な話が来ました」
「大変なこと!?」
「そうです、これを」
見れば彼はかなり狼狽した顔であった。
「これを見て下さい」
「!?」
いぶかしみながらその電報を見た。そうして彼女もその顔を見る見るうちに強張らせるのであった。そうしてそのうえで彼女も言葉をあげるのだった。
「これは本当のことなの!?」
「はい、そうです」
アーサーも唖然とした顔であった。
「その通りです」
「馬鹿な、こんなことが」
タリアはまた驚きの声をあげた。
「こんなことが通ったっていうの!?」
「その通りです」
「大統領は御存知なのね」
「押し通されたそうです」
アーサーの言葉は苦々しげなものであった。
「彼等に」
「それでもこんなことをしたら」
「風間博士の一派の主張みたいですね」
アーサーはこうも話すのだった。
「どうやらこれは」
「あの博士に派閥があったっていうの?」
「どうやら」
こう述べるアーサーであった。
「あったようです。どうやらカリスマ的な魅力が備わっていたようで」
「カリスマね」
タリアはその言葉をシニカルに出すのだった。
「時としてそれは狂気もそうなるわね」
「それで艦長」
「私の考えを言うわ」
タリアもまた忌々しげに述べた。
「反対よ」
「やはりそうですか」
「当たり前でしょ。こんなことをしては」
そして言うのだった。
「あの博士と同じじゃない」
「私もそう思います」
そして彼もそれは同じなのであった。
「ですがもう大統領も認められたことですし」
「押し切られてね」
「議会も認めたそうです」
民主主義としてこれは非常に大きなことであった。議会の決定は。
「しかも両院共」
「つまりあれね」
タリアもそこまで聞いて言うのだった。
「逆らうことは許されないってことね」
「残念ですが」
「わかってはいるわ」
それがわからないタリアでもないのだった。
「何を言っても仕方のないことはね」
「では艦長」
「わかっているわ。それじゃあ」
「はい」
「全軍に告げるわ」
あらためて指示を出すのであった。
「あの天使を捕まえて」
「えっ!?」
「今何て!?」
それを聞いて驚きの声をあげたのはルナマリアとメイリンであった。
「艦長、それって」
「まさかと思いますけれど」
ルナマリアはモニターから、メイリンは艦橋の自分の席からそれぞれタリアに問う。
「あの天使を捕まえて」
「まさか」
「言いたくはないけれどそうよ」
やはりこう答えるのであった。
「その通りよ」
「そんな、それじゃあ」
「そんなことをしたら」
「言いたいことはわかっているわ」
タリアも苦い顔のままであった。
「もうそれはね」
「私こんなことは」
「そうです」
やはりルナマリアとメイリンも言うのであった。
「あの博士と同じじゃないですか」
「そうです、絶対にできません」
「言っておくわ」
だがここでタリアは彼女達に言うのであった。
「私達は軍人ね」
「は、はい」
「その通りです」
ルナマリア達もその言葉に頷くのだった。
「それじゃあこれでは」
「ここはやっぱり」
「そうよ。従うしかないわ」
これが結論であった。
「嫌だって言ってもいいけれど」
「どうにもならない」
「そういうことですか」
「わかったわね。それでは作戦開始よ」
タリアはまた話した。
「いいわね」
「わかりました」
「それじゃあ」
彼女達もそれで頷いた。そうしてそのうえで戦いに入った。戦い自体は順調であり天使達の軍勢と退けていく。これ自体はよかった。
「しかしよ」
「そうよね」
さやかもまた甲児に対して言う。
「この作戦はね」
「へっ、何かとんでもねえ奴等がいるな」
甲児も誰がこんなことを言っているのか察しはついていた。
「逆らってもいいよな」
「できればね」
さやかの言葉もかなりやる気のないものであった。
「どうせ捕まえたらね」
「実験だな」
また甲児は応えた。
「嫌な話だぜ」
「しかしだ。甲児君」
その甲児に対して鉄也が言ってきた。
「命令は命令だ」
「わかってるさ。それはよ」
「だから従わなくてはいけない」
そして鉄也はさらに言うのだった。
「それに」
「それに?」
「ここで天使のことを知れば非常に大きい」
こう甲児達に告げるのだった。
「非常にな」
「けれど鉄也」
その言葉にジュンが言う。
「それじゃあ本当に風間博士と同じよ」
「そうよ」
ひかるも顔を顰めさせて言うのだった。
「こんなことをしたら本当に」
「それはわかっている」
鉄也も珍しく感情を込めた言葉を出してきた。
「それはな」
「じゃあやっぱり鉄也さんも」
「そうだ。あまり好きにはなれない」
今度はマリアに対して答えた。
「絶対にな」
「へっ、いけ好かない作戦だぜ」
また言う甲児だった。
「天使達を潰すのなら幾らでもやってやるけれどな」
「その通りだ」
大介も同じ考えであった。
「何とかならないものか」
「けれど敵は倒すだわさ」
ボスはそう割り切って考えることにした。
「とにかく今はそうするだわさ」
「そうでやんすね。ここは」
「そうしましょう」
ヌケとムチャもあえてボスに応える。彼等も今は割り切れないものを押さえ込んでそのうえで戦いを続けることにしたのである。
戦いは何時しか包囲戦になりそのうえで天使達を殲滅していく。
そして遂に。双使も包囲されだしていた。
「くっ、人間達がここまでやるなんて」
「おい!」
アポロが彼等の中で双使に言い返した。
「御前どういうつもりだ!」
「何だよ人間が!」
双使もムキになった声で返した。
「人間の癖に何てことするんだ!」
「人間の癖にだと!」
アポロはその言葉に激昂した。
「人間だって生きている!そのことを何だと思ってやがるんだ!」
「生きているからって何なんだよ!」
彼もこう返すばかりであった。
「所詮僕達の餌じゃないか!」
「何だと!」
アポロの激昂はさらに強いものになる。
「御前等そんなに偉いのかよ!」
「人間が僕に言うな!」
やはり双使は言う。
「ただの糧なのに!」
「糧か」
この言葉でアポロは本気になった。
「そう言うんだな」
「そうさ。その通りだよ」
「わかった。じゃあな!」
激昂したアポロがアクエリオンを突き進ませる。
「それが正しいかどうか教えてやるぜ!」
「ふん、やってみなよ!」
「喰らいやがれ!」
アポロは今その攻撃を繰り出すのだった。
その両腕が伸びる。双使を撃ちその動きを止めた。その時だった。
「捕まえてやる!」
「うわっ!」
双使はここで捕まったのだった。アポロの手で。
「ほらよ、これでいいんだよな!」
「え、ええ」
タリアが戸惑いながらも彼の問いに答えた。
「その通りよ」
「手前に教えてやる!」
アポロの激昂した言葉は続く。
「人間が糧じゃないってな!」
「そんな、僕が」
双使は捕らえられたことを実感してまた言うのだった。
「僕が捕まるなんて。そんな」
「来やがれ」
アポロの言葉は続く。
「このまま連れて行ってやるからな」
「そんな・・・・・・」
こうして彼は捕らえられたのだった。このことはすぐに天使達にも伝わった。
「双使が捕らわれたというのか」
「そうだ」
両使が頭使に述べていた。
「その通りだ」
「くっ、まさかと思ったが」
「どうする?」
剛使が同胞達に問う。
「このままではどうなるかわからんぞ」
「その通りだ」
夜使もそれに応えてきた。
「このままではな」
「それではだ」
頭使がここで言うのだった。
「私が行こう」
「救援にですね」
「そうだ、行く」
強い言葉であった。
「すぐにな。行って来る」
「待って下さい」
しかしその彼を音使が止めてきた。
「御一人で行かれるのですか?」
「無論そのつもりだ」
ここで意志も見せた。
「今すぐにな」
「お待ち下さい、ですが」
しかし音使はここで言うのだった。
「このまま行かれては危険です」
「危険がどうしたというのだ」
彼はそれを顧みようとはしなかった。
「双使が危うい。だからこそだ」
「行かれるというのですか」
「同族を救う為にはだ」
彼はまた言った。
「この命。厭わん」
「それでは」
「後は頼んだ」
こう他の者達にも告げた。
「いいな」
「いや、待つのだ」
しかしここで言ったのは錬使であった。
「頭使よ」
「どうしたのだ?」
「ロンド=ベルの中に感じるものもある」
「感じるものだと!?」
「そうだ。それがある」
こう彼に話すのである。
「アクエリオンだったな。あれに乗る者達の中で感じるのだ」
「アクエリオンか」
頭使は行きかけたその足を止めていた。
「あの中にいるのか」
「そうだ、いる」
錬使はまた告げた。
「その者も探す必要もある」
「同胞をか」
「だからこそだ」
彼はまた頭使に告げてきた。
「双使を救うことも必要だが」
「うむ」
「その同胞を見つけ出し。そして」
「そして?」
「我等の中に加える」
彼の次の言葉はこれであった。
「それも考えたいのだが」
「そうだな」
剛使も彼のその案に賛成した。
「今は一人でも同胞が必要な時期だからな」
「それではだ」
今度名乗り出てきたのは両使であった。
「俺も行こう」
「貴様もか」
「頭使だけ行かせるわけにはいかない」
ここでライバル心も見せるのだった。
「だからだ。行かせてもらう」
「夜使」
音使は両使の言葉を聞いて彼に問うた。
「どうされますか。ここは」
「いいだろう」
夜使はそれをよしとした。
「では両使よ」
「うむ」
「貴殿も行くのだ」
こう告げるのだった。
「頭使と共にな」
「それでは」
「では二人で行くのだ」
夜使は今度は二人に告げた。
「いいな。それでな」
「わかった」
「それではだ」
その二人もまたそれに頷いた。
「今から行こう」
「双使を救い出し。そしてだ」
「その新しい仲間も連れて来る」
「待っておくことだ」
彼等はそれぞれ仲間達に告げ場を後にする。そうしてまた戦いに向かうのであった。
だがその二人を見送ってから。智使達が言うのだった。
「我々がもう少し強く言えれば」
「大人として」
無念に満ちた言葉であった。
「それであの子を止められたかも知れないのに」
「どうしても言えなかった」
「仕方がない」
夜使はその彼等を慰めるようにして述べた。
「それもな。仕方のないことだ」
「仕方がないと」
「そう仰ってくれるのですか」
「今は双使の命運は消えてはいない」
彼はこうも告げた。
「そこまで嘆く必要もない」
「しかしその命は今すぐにも」
「消えるかも知れない」
彼等はそれでも不安であった。
「それを思うとやはり」
「どうしても」
「あの子が死ねばもう終わりだ」
剛使も言う。
「もう天使に子供はいないのだからな」
「これも何故でしょうか」
音使もそれが気になっているのだった。
「何故我々に子供が生まれなくなったのか」
「一万二千年前からだった」
錬使が述べる。
「それ以前は存在していたがあの時から」
「しかもだ」
「気付いたが」
智使達も述べる。
「我等に一万二千年前の記憶がない」
「何故だ?」
「それは私もだ」
そしてこれは夜使も同じであった。
「私もまた記憶がない。以前のな」
「この世界はおかしいのでは」
音使も怪訝な顔にならざるを得なかった。
「我々はそれより以前に生きているというのにそれ以前の記憶がないとは」
「やはり。何者かがいるのか」
夜使はこう考える。
「何者かがいて。この世界を操っているのか」
「ではそれは一体」
「何者だ?」
その夜使の言葉に錬使途剛使が問う。
「誰が何の為に」
「この世界を」
「それはわからない」
彼もまだそれはわからなかった。
「しかし。それならば我等もまた」
「手駒に過ぎない」
「まさか」
「考えてみる必要があるかもな」
彼はまた言った。
「これからな」
「そうですか。それでは」
「また」
「まずは双使を取り戻し新たな仲間を加える」
それからだというのだ。
「いいな。まずはな」
「はい、それでは」
「そのように」
今は彼等もこう話すだけであった。しかし彼等も気付きだしていた。何かがいるということは。それがこの世界の謎と大いに関係があるということもだ。
第百三十六話完
2009・6・21
ページ上へ戻る