スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第百三十七話 握られなかった手
第百三十七話 握られなかった手
「それでだ」
「ああ」
洸が神宮寺の言葉に応えていた。
「あの天使の子供は連れて行かれたか」
「そうみたいだな」
洸はかなり苦い顔であった。
「ミスターも予想しているようにね」
「予想が当たっては欲しくないがな」
神宮寺もまた苦い顔であった。
「この場合はな」
「全くです」
麗も同意して頷いてきた。
「この場合だけは」
「じゃあやっぱりあの子は」
ここで言ったのはマリだった。
「調べられているの?」
「それだけで済めばいいのですが」
猿丸の顔も暗いものだった。
「果たして。それだけで終われば」
「っていうとまさか」
「そう、そのまさかだ」
神宮寺は言いたくはなかったがそれでも言わざるを得なかった。
「御前さんの思う通りだ、マリ」
「そんな風間博士みたいなことを」
「それが有効だからです」
猿丸もあえて言うのだった。
「敵のことを知るには」
「その為には子供を調べるっていうの!?」
マリは完全に感情を露わにさせていた。
「あんな小さな子供を」
「子供といえど敵だ」
また神宮寺はあえて言ってみせた。
「それならわかるな」
「何よ、それ」
それでもマリは納得しなかった。
「そんなこと。許されないじゃない」
「それで御前さんはどうしたいっていうんだ?」
「決まってるわ、そんなこと止めさせるのよ」
深い考えがあっての言葉ではなかった。
「何があってもね」
「よし、それが答えだ」
神宮寺はマリの今の言葉を聞いたうえで微笑んで見せた。
「それが答えだ」
「えっ、ってことは」
「そうだ、行くぞ」
神宮寺はコープランダー隊の面々に声をかけた。
「あの子供を解放しにだ。すぐに行くぞ」
「俺も行きたいな」
洸も名乗り出てきた。
「よかったら一緒に連れて行ってもらえるかな」
「嫌だって言っても一緒に来るんでしょ?」
マリは悪戯っぽく笑って彼に問い返した。
「そうなんでしょう?やっぱり」
「ああ、実はそうだ」
洸もそれを隠さなかった。
「俺もこのことに反対だからな」
「では洸さんもですね」
麗が微笑んで述べてきた。
「これで五人ですね」
「おいおい、五人じゃないぜ」
「俺達も行かせてもらう」
まずはデュオとウーヒェイが出て来た。
「俺達もいるぜ」
「これで七人だな」
「いや、十人だ」
「やはり。納得できない」
「ですから僕達も」
ヒイロにトロワ、カトルも出て来た。
「人数は多いだけいいな」
「それに俺達はこういう仕事には慣れている」
「ですから協力させて下さい」
「じゃあこれで十人か」
神宮寺はまた述べた。
「これ位でいいな。じゃあ行くか」
「いや、もう一人必要だぜ」
今度は宙が出て来た。
「俺も行く。これならいいよな」
「宙さんもですか」
「そうだ。俺なら何があってもすぐに変身して戦える」
洸にも答える。
「だからな。それでいいな」
「そうだな。頼む」
神宮寺が彼の申し出を受け入れた。
「あんたも一緒に来てくれ」
「よし、じゃあ行こう」
こうして十一人でその双使を解放しに向かった。しかしそれは既に察知されていた。しかもそれは一人だけに察知されているのではなかった。
「ふむ、そうか」
「はい」
フィッツジェラルド大統領に側近が述べていた。
「その通りです」
「わかった」
大統領はそれを聞いてまずは頷いた。
「そういうことか」
「それでどうされますか?」
側近はあらためて彼に問うてきた。
「このままではあの天使は」
「いい」
しかし彼はそれをいいとするのだった。
「その為だ」
「その為に?」
「軍をあそこから遠ざけている」
こう言うのである。
「あの天使を解放させる為にな」
「では閣下もやはり」
「押し切られたが。やはりな」
ここで苦い顔をするのだった。
「これはどうも。好きにはなれない」
「風間博士の一派の残党のごり押しでしたし」
「彼等は同じだ」
声に忌々しげなものも宿った。
「博士とな。確か生体実験も行っていたな」
「はい、捕虜を使って」
部下はこのことも告げた。
「既に証拠も掴んでいます」
「では議会にそれを公表しよう」
彼はすぐにこう決断を下した。
「すぐにな」
「わかりました。それではすぐに」
「同時に国民にもだ」
そちらにも手を打つというのだった。
「手を打っておく。いいな」
「了解しました」
「そういうことだ。あのようなことをするのは好きではない」
大統領はここで強い言葉を出した。
「情報を入手してそこから作り出すのはいいがな」
「グラントルーパーのように」
「中尉には感謝している」
名前は出さなかった。
「それはな」
「はい。それでは中尉にはそろそろ」
「戻るように伝えておいてくれ」
「はい」
また大統領の言葉に頷く側近だった。
「それではそのように」
「頼んだぞ」
こうして話を終えるのだった。話が終わってから彼等はそれぞれの仕事に戻った。
そしてであった。大河もまた。スワンと命からそれを聞いていた。
「どうしマスか?」
「長官、これは」
「構わない」
だが大河はそれに対して何もしようとしなかった。
「それはな」
「では行かせるのですね」
「その通りだ」」
こう命にも答えるのだった。
「ああしたことは道に反するものだ」
「だからデスか」
「そうだ。実は今から私も命じるつもりだった」
彼は腕を組んで述べた。
「あの天使を解放させるようにな」
「そんなことができたのですか?」
「はい、そうですよ」
ここで出て来たのはアズラエルであった。
「既にこちらの議会のことは内側まで調べましたので」
「内側っていうとまさか」
「はい、そのまさかです」
楽しそうに笑って命に答えるのだった。
「表から話しても効果がない場合がありますので」
「何かそれって」
「だよな」
しかしそれを聞いた恵子と宇宙太が言った。
「奇麗なやり方じゃないですよ」
「汚いって言ってもいいですけれど」
「戦うのは奇麗でいいのですよ」
しかしアズラエルの顔は涼しげなままであった。
「ですが政治はまた別なのですよ」
「そうなのかよ」
勝平はそれを聞いて少し興味がありそうな顔をしていた。
「喧嘩とはまた違うっていうのか」
「喧嘩は格好よくするものです」
アズラエルは喧嘩についても述べた。
「ですが政治はまた別なのですよ」
「そうなんだよなあ、実際」
ユウナは今のアズラエルの言葉を聞いて腕を組みうんうん、と頷いていた。
「実際ねえ。僕も色々やってるからねえ」
「色々とは何だ?」
カガリがそれに問う。
「まさかと思うが御前」
「いや、買収とかそういうことはしていないよ」
ユウナはそれは否定した。
「けれどね。国家運営に裏帳簿を用意したりとかへそくりみたいなのを置いておくとかそうしたことはね。しょっちゅうだからねえ」
「何かみみっちくないか?」
「だってオーブって小さいから」
身も蓋もない言葉である。
「小国には小国の苦労があるんだよ」
「私はそんなの知らないぞ」
「だってユウナさんって」
「そうだよな」
クリスとバーニィがここで言う。
「オーブの首相に蔵相に外相に内相に国防相に経済相ですよね」
「あと軍の統合作戦本部長に教育総監に参謀総長に後方支持部長ですよね」
「うん、他にも役職は一杯あるけれどね」
つまり殆ど一人で切り盛りしているのである。
「帰ったら大変だよ、本当に」
「何か私が何もしていないみたいだな」
カガリにとっては引っ掛かることであった。
「それだとな。どういうことなんだ?」
「いや、カガリ本当に何もしていないだろ」
これに突っ込みを入れたのはアイビスだった。
「そもそもあんたデスクワークできるのか?」
「デスクワークは嫌いだ」
これが返答だった。
「あんなことをしていたら頭がおかしくなってしまうだろう?」
「いや、ならないよ」
アイビスは呆れた顔ですぐに返した。
「そんなのはあんただけだよ」
「くっ、そこまで言うか」
「じゃあやっぱりユウナさんだけで」
「ナンバーツーだからねえ」
ユウナは今度はツグミの言葉に応えていた。
「大変なんだよ。白昼の残月が来た時だってね」
「あの人死んだんですよね」
トビアはここで彼のことを言った。
「確か」
「死んでいて欲しいね」
ユウナは本心を述べた。
「絶対にね。何があってもね」
「そこまで酷かったんですか」
「人間じゃないよ、あれは」
ユウナにとってBF団とはまさにそうした存在なのだった。
「もうさ。超能力で何もかも破壊してくれて」
「はあ。そんなにですか」
「この世界にはいないから本当に助かったよ」
「しかし確か」
ここでカラスが言った。
「あの中には不死身の方もおられたような」
「うっ、それは嫌なんてものじゃないね」
ユウナはそれを聞いてさらに不安そうな顔になった。
「あんなのが不死身だったらもう」
「何で幻惑のセルバンテスってあんなに呆気なく死んだんだ?」
カミーユもこのことを不思議に思った。
「あんな化け物が」
「さあ。そういえばそれがかなり不自然だけれど」
ファにしろそれは同じであった。
「それでも死んだわよね」
「多分な」
「ここにBF団がいなかったことは幸いだ」
大河もそれについては言及する。
「そしてだ。今我々は」
「はい」
「天使達ですね」
「そうだ。まずはあの子供だが」
話がそこに戻った。
「解放されなければならない」
「しかしです」
だがここでテッサが言ってきた。
「これは命令違反になりますが」
「それはわかっている」
わかっていない筈がなかった。
「しかしだ。それでも今はやらなければならない」
「どうしてもですか」
「そうだ。風間博士と同じ道を歩いてはならない」
これが大河の考えであった。
「だからこそだ」
「あえて命令に背くのですか?」
テッサはあえてそれについて言うのだった。
「それでもですか」
「無論後で彼等には罰は受けてもらう」
「やはり」
「謹慎してもらう」
しかしこの程度だというのだった。
「それで終わらせるのだ」
「それだけですか!?」
「そうだ。それでいい」
大河はここではかなり強引だった。
「彼等についてはな」
「それは」
「無論法は守らなくてはならない」
これは事実であった。
「しかしだ。邪な工作もまた防がなくてはならないのだ」
「だからこそですか」
「あえて。彼等には言ってもらった」
大河は見過ごしたというのだった。わざと。
「だからこそ私も後で罰を受けよう」
「長官もデスか?」
「私が黙認した」
こうスワンにも答える。
「ならば。当然のことだ」
「長官・・・・・・」
テッサはその彼の言葉を静かに聞いていた。そうしてそのうえで言うのであった。
「そこまでお考えだったのですか」
「覚悟だ」
彼はテッサにこの言葉を告げた。
「それが必要なのだよ」
「覚悟ですか」
「覚悟を決めれば如何なこともできる」
断言さえしてみせてきた。
「いいな、だからだ」
「それではここは」
「あの子供を解放しそのうえで天使達と戦う」
これが彼の考えであった。
「いいな、諸君!」
「はい!」
「やってやるぜ!」
彼等もまた心を決めていた。
「総員戦闘配置!」
「えっ、もうですか!?」
テッサはこの言葉にまた驚きを見せた。
「まだ敵は」
「いや、来る」
しかし彼は言うのだった。
「間違いなくな」
「来ますか」
「そうだ。間も無くだ」
そしてこの言葉は当たった。彼が戦闘配置を命じてすぐだった。報告があがった。
「レーダーに反応です!」
「よし!」
大河は命の言葉を聞いて大きく頷いた。
「天使達です。かなりの数です!」
「総員出撃!」
ここでこれを命じる。
「そして天使達を退ける。いいな!」
「了解!」
こうして全員出撃する。テッサはそれを見ながら言うのであった。
「こうしたやり方もあるのですね」
「そうですね」
「これは想像もできませんでした」
その彼女にマデューカスとカリーニンが応える。
「ですがこれは」
「面白いやり方です」
「はい」
テッサは二人の言葉に微笑みと共に返した。
「そうです。本当に」
「では大佐。ここは」
「大河司令の御言葉通り」
「戦いましょう」
その微笑のまま言葉を返した。
「是非」
「そうですね。しかし」
「しかし?」
「我々も思いも寄りませんでした」
「全くです」
彼等はここでこんなことも言うのであった。
「こうしたやり方もあるとは」
「完全な命令違反ですがそれでも」
「これがロンド=ベルのようですね」
テッサは微笑みながらそれに応えた。
「あくまで正しい道を歩む」
「それですか」
「そして私もロンド=ベルにいます」
これが一つの答えであった。
「それなら」
「そういうことね」
スメラギがここでモニターに出て来た。
「じゃあテッサちゃん」
「はい」
「思い切った作戦を立てましょう」
微笑んで彼女に言うのであった。
「私達でね」
「そうですね。ここはです」
彼女もまた微笑をスメラギに返しながら述べる。
「中央突破です」
「中央突破なのね」
「そうです」
彼女が出した作戦はこれであった。
「それでいきましょう」
「そうね」
スメラギもそれを聞いて微笑むのだった。
「ここはそれがいいわね」
「まずはそれからです」
テッサはまた言った。
「そうしてそのうえで」
「ええ。また仕掛けましょう」
こうした話をしながら今突撃を敢行する。その際テッサは全軍に言った。
「正面に攻撃力の高いマシンを集中させて下さい」
「攻撃力を?」
「そうです」
そして次に具体的に述べた。
「コンバトラーやボルテス」
「よし来た!」
「行かせてもらう!」
早速豹馬と健一が応える。
まずはコンバトラーやボルテスのような攻撃力が突出したマシンが派手に切り込む。そうして皆それに続いて攻撃を加えていく。
そしてその次に他のマシンが切り込み。天使達の陣を両断した。
「くっ、しまった!」
「そう来たのか!」
頭使も両使もこれには動きを止めてしまった。
「だが。まだだ!」
「それなら別のやり方がある!」
彼等はその陣を一つにさせた。そうして再びロンド=ベルに向かおうとする。しかしだった。
「またです」
「またとは!?」
「再度突撃を敢行します」
テッサは言うのだった。
「再びです」
「何っ、しかしそれはもう」
「既に」
彼等はそれには懐疑的な声を出す。
「敵が守りを固めているぞ」
「それでもなの!?」
「はい、それでもです」
しかしテッサの言葉は変わらないのだった。
「このまま正面からです」
「おい、二度目は通用しねえぜ」
豹馬がテッサに言ってきた。
「見ろよ、向こうだってもう読んでるぜ」
「その通りや」
十三も言ってきた。
「このまま突っ込んでもやられるだけや」
「その通りですたい」
大作も同じ意見であった。
「今ここで行ったら大変なことになるたい」
「私もそう思うわ」
ちずるも首を傾げさせていた。
「それでもあえて突っ込むなんて」
「いえ」
しかし小介だけは違っていた。
「ここはテッサさんの言う通りにしましょう」
「!?小介」
豹馬は小介がこう言ってきたのを見てふと目を動かした。
「何かあるっていうのかよ」
「はい、作戦立案は僕の専門ではありませんが」
こう謙遜はする。
「しかしそれでもです」
「従う価値はあるんだな」
「その通りです。ここはそうしましょう」
「そうだな」
健一がそれに頷いた。
「よし、大佐に従う」
「いいんだな、それで」
一平は何故かここではテッサの作戦に強く反対はしなかった。
「突撃に加わるんだな」
「ああ、そうする」
彼の考えは決まっていた。
「ここはな」
「わかったわ」
めぐみも素直に従うことにしたのだった。
「大佐に何か考えがあるのなら私も」
「大次郎、日吉」
健一は弟達に尋ねてきた。
「御前達はどうするんだ?」
「おいどんは賛成でごわす」
大次郎も考えを決めていた。
「ここは大佐の言う通りやってみるでごわす」
「おいらも」
日吉もであった。
「それでいいよ。何かわからないけれど」
「俺達はそういうことだ」
健一はメンバーの考えをまとめて述べた。
「それでいい」
「俺達もそうするか?」
「そうね」
ちずるは豹馬と話していた。
「ここはね。よくわからないけれど」
「わいもまあええやろ」
「よかですたい」
「僕は最初からです」
十三に大作、それに小介も同じ意見になった。
「行くで。決めたらな」
「早いうちがいいたい」
「そうしましょう、豹馬さん」
「俺達もそれでいい!」
コンバトラーチームもそれで意見を決めたのだった。
「すぐに突撃を仕掛けてやるぜ!」
「わかりました。それではです」
ここでテッサはまた言うのだった。
「防御力の高いマシンを前面に出して下さい」
「前面にですか」
「そうです」
彼女は言うのだった。
「ここはそうします」
「!?」
「何でだ?」
皆ここでいよいよわからなくなった。
「正面突破を仕掛けるのにか?」
「何故防御力の高いマシンを?」
「後でわかります」
テッサは今はこう言うだけでだった。
「ですから今は」
「まあいいか」
「そうだな」
彼等はまだわからなかったがそれでもまた攻撃に転じるのだった。そうして再び攻撃を仕掛ける。しかしであった。
天使達は護りを固めており今度の突撃は通用しなかった。ロンド=ベルの今回の突撃は防がれる。
「おい、やっぱりよ」
「こうなったが」
「いいんですよね」
皆怪訝な顔でテッサに問う。
「しかも囲まれていっているし」
「大丈夫なんですか?これで」
「はい、安心して下さい」
しかしテッサの言葉は変わらないのだった。
「これでいいのです」
「そうか。だったらいいけれどな」
「これでね」
とりあえずは彼女の言葉を信じることにした。
その間にも包囲されていく。そうして遂に包囲され総攻撃を浴びせられようとするがここで。テッサは全軍に対して命じたのであった。
「全軍敵の方向に総攻撃です!」
「ここでなのね」
「はい」
スメラギの言葉にも頷いてみせる。
「ここでです」
「そうね。グッドタイミングだわ」
スメラギはこう言って微笑んでみせた。
「ここで仕掛けるのが一番よ」
「!?まさかと思うが」
マイヨがここで気付いた。
「これを狙ってか」
「はい、そうでした」
テッサの返答は決まっているかのようだった。
「最初からこれを考えていました」
「そうだったのか」
「まずは正面から突破しました」
それもまた戦術だったのである。
「それで敵に突撃を警戒させ」
「そして包囲させてか」
「そういうことです。それではです」
今まさに攻撃がはじまろうとしている。その時だった。
「来るぞ!」
「今だ!」
完全に包囲して攻めてきた天使達に逆に攻撃を浴びせる。これにより天使達の動きは止まった。
「くっ、まさか」
「計られたか!?」
頭使も両使もここで察した。
「まさか我等がこうして攻めてくると呼んで」
「そのうえでだというのか」
「御前等にも負けはしねえ!」
アポロはアクエリオンを一直線に頭使に向かわせてきた。
「人を食い物にしか思っていねえ御前等にはな!」
「くっ!」
「シリウス!麗花!」
アポロは今共にいる二人に告げた。
「行くぞ!」
「ええ!」
麗花はすぐに応えてきた。
「わかってるわ。ここで彼等を倒して」
「そうだ。それにしても」
「どうしたの?アポロ」
「ヒイロ達はあれでいいんだよな」
いぶかしむ顔で麗花に問うのであった。
「あれでな。いいんだよな」
「私はね」
しかしだった。麗花の言葉は曇っていた。
「天使達のしてきたことを考えればね」
「そうだな。自業自得だ」
「そうか」
シリウスは今のアポロの言葉を聞いて静かに頷いた。
「そうなるのか。自業自得か」
「あそこまでやったらな」
「そうよね。けれどミスター達はそれをしなかった」
彼等はそうではなかったのだ。そうした考えではなかったのだ。
「正しいのかよ、それは」
「どうかしらね」
麗花は今はそれに頷くことができなかった。
「私は賛成できないけれど」
「天使は敵だ」
アポロはここでも言い切った。
「俺達にとってはな。納得できないものがあるよな」
「その通りよ。だから今も」
「ああ、奴等を倒す」
その考えは変わらないのだった。
「今はな」
「そうするのが一番ね」
「天使は敵か」
またシリウスが呟いたのだった。
「人から見てか」
彼の迷いは今は誰も気付かなかった。しかし今はそれは抑えていた。
戦いはさらに激しさを増していった。天使達は押されていく。しかしここで両使は気付いたのだった。その気配を今はっきりと。
「頭使」
そして頭使に声をかけてきたのだった。
「気付いたか」
「うむ」
それは頭使も同じであった。
「いるな」
「そうだ、あそこだ」
あるポイントを指差しての言葉である。
「あそこにいるな、間違いなく」
「その通りだ。では私が行こう」
「貴様が行くというのか」
「戦線は任せた」
言いながら前に出してみせた。己のマシンを。
「それでいいな」
「わかった。それではだ」
「行って来る」
こうして頭使がアクエリオンに近付く。そうして言うのだった。
「同胞よ」
「同胞!?」
麗花はそれを聞いて怪訝な声をあげた。
「何言ってるの、一体」
「馬鹿なことを言いやがるな」
アポロもこう思う他なかった。
「俺達は人間だ。天使なんかじゃねえ」
「そうよ。ねえシリウス」
麗花は今度はシリウスに声をかけてきたのだった。
「私達は人間よ。そうよね」
「う、うむ」
しかしシリウスの返答は弱いものだった。
「そうだな」
「そうよ。私達は人間よ」
麗花はまた言った。
「それ以外の何者でもないわ」
「それは御前達が勝手に思っているだけのこと」
だが頭使はこう麗花の言葉に返すのだった。
「勝手にな」
「いい加減なことばかり言いやがるな、あいつ」
交換要員の席からピエールが忌々しげに呟いた。
「一体何が言いたいんだ?」
「そうよね」
シルヴィアも彼のその言葉に頷く。
「私達は人間なのに」
「人が異なる存在に何をするか」
頭使は彼等に対して何を言うでもなくこう言うのだった。
「それは見た筈だ。御前も」
「御前って誰なんですか!?」
つぐみもそれがわからなかった。
「一体。誰に対して」
「だから天使じゃないの?」
ジュンはそれは何となくだがわかったのだった。
「けれど何かまでは」
「そうよね。何かしら」
彼等も首を傾げるばかりであった。
「誰に対して声をかけているのかしら」
「それがわからないんだよね。本当にね」
「いえ、わかりました」
だがここでリーナが言ってきた。
「それは」
「それはってじゃありーナ」
「その天使が僕達の中にいるの?」
「ええ」
リーナは周りに対して述べた。
「それは」
「うだうだやってるつもりはねえ!」
ここでアポロはアクエリオンを突撃させた。
「手前を黙らせるにはこれだ!」
その腕を伸ばして攻撃しようとする。しかしここで。
不意にアクエリオンが分離してしまった。そして三機に分かれてしまった。
「えっ!?」
「どういうことだ!」
麗花もアポロも突如として分かれたアクエリオンを見て驚きの声をあげた、
「まさかと思うけれど」
「シリウス、どうしたんだ!」
「そう、彼です」
リーナがまた言ってきたのだった。
「それは」
「何っ!?」
「嘘っ!?」
これにはアポロだけでなく皆が驚く他なかった。
「そんなわけあるか!どうしてシリウスが天使なんだ!」
「そうよ。天使の姿じゃないじゃない」
アポロとシルヴィアが彼女に問うた。
「普通に何か食って生きているだろうがよ!」
「それでどうして天使なのよ」
「御覧下さい」
だがリーナはここでまた言った。するとだった。
「お、おい!」
「あれは!」
アポロだけでなかった。誰もが驚きの声をあげた。
シリウスの右手からあの翼が出た。それが何よりの証であった。
「翼が・・・・・・」
「じゃあシリウスは本当に」
「くっ・・・・・・」
当のシリウスも歯噛みするしかなかった。今の事態には。
「これは・・・・・・」
「さあ、来るのだ」
頭使の言葉が優しいものになってきていた。
「我が同胞よ」
「うう・・・・・・」
「我等の下へ」
手さえ差し伸べる。自然とシリウスはそちらに向かう。だが彼の動きは鈍い。それを見たアポロと麗花が叫んだ。
「いや、これは違う!」
「そうよ!」
彼等は一斉に叫んだのだった。
「シリウス!御前は人間だ!」
「天使じゃないわ!」
「何だと?」
頭使がそれを聞いていぶかしむ声をあげた。
「それを否定するというのか?」
「戻れ!」
「私達のところへ!」
こう言って必死にシリウスを戻そうとする。
「嫌だって言ってもな!」
「私達が!」
彼等は自分達のマシンをシリウスのマシンに近付けさせる。麗花はその中で手さえ差し出す。それでシリウスを掴もうとしていた。
「麗花・・・・・・」
「さあ、シリウス」
今二人の手がまさに握られようとしていた。
「私達のところへ」
「そうか。私はやはり」
今握ろうとした。しかしその時だった。
またその右手に翼が生えた。羽ばたくその翼を見て麗花は。
「あ・・・・・・」
動きを止めてしまった。そしてそれを見たシリウスの顔が強張り。絶望に満ちた声をあげたのだった。
「君も。君だけは・・・・・・」
「えっ、これは・・・・・・」
これには当の麗花も顔を強張らせてしまった。
「その。私は・・・・・・」
「やはり私は天使なのだな」
シリウスの声が寂しいものになった。
「では」
「行こう、同胞よ」
頭使の声が優しく笑っていた。
「我等の場所へ」
「・・・・・・・・・」
シリウスの姿が消えていく。主をなくしたマシンはそのまま落ちていく。そしてマシンが落ちていく中天使の軍勢は姿を消したのだった。
「勝った・・・・・・のか?」
「さあな」
「どう言えばいいんだろうな、これは」
ケーンの言葉にタップもライトも答えられなかった。
「勝ったって思えば勝ったのかもな」
「けれどな。それでもな」
「ああ。シリウスの奴・・・・・・」
ケーンも何と言っていいのかわからなかった。
「行っちまったな」
「そうだな」
「天使達の方にな」
戦いが終わり全軍サマルカンドに入った。ここで洸やヒイロ達と合流しその彼等の話を聞くのだった。
「あの子供はそのまま行ったか」
「そうだ」
ヒイロが仲間達に答えていた。
「飛んで行った。礼も言わずにか」
「わかったよ」
万丈はそれを聞いて静かに頷くだけだった。
「生きていたんだね、彼は」
「生きていたが羽根を何本か取られていた」
神宮寺がこう述べた。
「残念だがな」
「しかしです」
だがそれに対してウェルナーが答える。
「助かったのならそれでよしとすべきです」
「その通りです」
「彼等はあの子の命なぞ知ったことではなかったのですから」
ダンとカールも述べた。
「それを考えればやはり」
「今の状況でもよしとすべきです」
「よしとすべきか」
万丈は彼等の言葉を腕を組んで聞いていた。
「その通りだけれどね。それでもね」
「そうだ、そう割り切れるものではない」
マイヨがその万丈に告げてきた。
「今回はな」
「どうしたらいいんだよ、おい」
エイジは言葉を荒くさせていた。
「シリウスの奴はだ」
「そんなことを言ってもなあ」
「そういうエイジは何か解決案があるのかよ」
スティングとアウルに言い返された。
「連れて返るとてでもいうのか?」
「じゃあどうやって?」
「決まってるだろ。奴等の根城に乗り込んでだよ」
エイジはそのつもりであった。
「もうよ。そのまま乗り込んでだよ」
「じゃあその根城は何処にあるのよ」
ルナがエイジに問うてきた。
「何処にあるの?そこは」
「何処ってよ」
こう言われると返答に困るエイジであった。
「それを言われたらよ」
「やっぱり知らないのね」
「当たり前だろ。そもそもあいつ等何処から来てるんだよ」
「それさえもわからないのよね」
ミヅキも言ってきた。
「彼等が何処から来ているのかさえも」
「天使達だとあれちゃうんか?」
トウジがここで言ってきた。
「天界とかよ。そういう場所ちゃうか?」
「天界ね」
ミサトは天界と聞いて考える顔になった。
「この場合はこっちの世界じゃないわね」
「そうね。そうなるわね」
マリューもその言葉に頷いた。
「この世界じゃないとしたらね」
「ではやはりここは」
「そのようですね」
シーラとエレが互いに言い合う。
「彼等との戦闘の中で何処に逃れるのかを見極めて」
「そのうえで」
「よし、それじゃあおおよそ決まりだな」
ヘンケンが言った。
「連中と次の戦いで策を仕掛けよう」
「わかたわ。それじゃあ」
セニアが早速動きだした。
「あたしの方で発信機を作っておくから。特別のね」
「それを天使達につけるのか」
「ええ、そうよ」
こう甲児に答えたのだった。
「それで後は追いかけていくのよ。若しくは」
「若しくは?」
「追いかけている時にあれよ。一気に入るかね」
「向こうの世界にかよ」
「出入りするには扉が必要じゃない」
ここでくすりと笑ってみせるセニアだった。
「そうじゃないかしら」
「ああ、そうだね」
テリウスがそれを聞いて述べた。
「天使達はテレポーテーションで離脱するんじゃなくて普通に撤退しているからね」
「しかも」
コウも言う。
「俺達の視界から消えてからレーダーでの反応が消えるからね」
「つまり異世界への扉を行き来している」
シナプスも言った。
「そういうことだな」
「よし、じゃあ決まりだ」
シーブックがここまで聞いて述べた。
「皆それで行こう」
「よし、それなら」
「次の戦いで天使達の世界に入る」
作戦がこれで決定したのであった。
「諸君!」
「はい!」
サンドマンの言葉にも応えるのであった。
「これより仲間を取り戻しに行く」
「仲間をか」
「そうだ、仲間だ」
サンドマンはアポロの問いに答えた。
「彼もまた我等の仲間だ」
「天使なのに?」
麗花が戸惑いながらサンドマンの言葉に問うた。
「仲間なのですか?シリウスも」
「その通りだ」
サンドマンもその言葉に淀みなく返す。
「では聞こう」
「は、はい」
「人とは何だ」
彼が今度問うたのはこのことだった。
「人とは。何か」
「人ですか」
「我々は人間だ」
彼は言う。
「そう、生まれた星は違えど機械の身体であってもだ」
「俺もか」
宙がその言葉に応えた。
「サイボーグでもか」
「そして俺もだな」
次に応えたのはテムジンであった。
「俺もまた人間だというのか」
「その通りだ」
やはりサンドマンの声にはよどみがない。
「その心が人間ならば人間なのだ」
「だから兄さんもなのですね」
「如何にも。シリウスの心は人の心だ」
サンドマンは心を見ているのだった。
「ならば人に違いないのだ」
「そう考えていいんだな」
アポロはサンドマンのその言葉に顔を向けた。
「あいつが人間だって。それでいいんだな」
「そうだと思います」
エイナが恐る恐るといった感じで彼に告げた。
「アポロさんはシリウスさんを今まで人間だって思われていましたよね」
「当たり前だろ」
返答は言うまでもないといった調子であった。
「そんなのよ。今の今までよ」
「ではそういうことです」
エイナはまた告げた。
「シリウスさんは人間です。心が人間なのですから」
「心が人間」
「だからなんだ」
つぐみとジュンがここで呟いた。
「シリウスさんも人間なんですね」
「僕達と同じ」
「天使はただの種族に過ぎない」
リィルも言う。
「けれど人は心で人になるから」
「その通りだよ」
ユウナもその考えに賛同したのだった。
「結局ね。どんな姿をしていてもどんな血の色でも心が人ならその人は人間なんだよ」
「そうだな。だからコーディネイターも人間なんだな」
「そうだよ。国際エキスパートの人達だって人間だったよね」
「ああ」
カガリはユウナのその言葉に晴れ渡った顔で頷いた。
「その通りだ。私もあの連中は好きだった」
「そういうことなんだよ。簡単なんだよ」
「簡単なんですか?」
「そうさ。君だってコーディネイターであることに悩んだよね」
「はい」
キラはユウナの今の言葉に頷いた。
「前はそうでした」
「しかし今はそんなことはどうでもいいよね」
「はい、そうです」
その通りであった。
「そんなことは。ちっぽけなものだって」
「わかったよね」
「コーディネイターとかそういうのは問題じゃないです」
キラも長い戦いの中でそれを理解したのだった。
「心だって」
「そういうことさ。答えはそれなんだよ」
「それじゃあユウナさん、やっぱりシリウスさんは」
「僕達の仲間さ。そしてこれからの戦いは」
「その仲間を取り戻す為の」
「その通り。じゃあ皆行こう」
ユウナはあえて明るい声を出してみせた。
「シリウス君を呼びにね」
「全軍整備補給が済み次第出撃する!」
サンドマンがまた皆に告げた。
「我等の仲間を取り戻しにだ!」
「はい!」
「わかりました!」
「今からすぐに!」
皆これまでの消沈が消え意気を高くさせていた。そうして今彼等は仲間を取り戻す為に立ち上がったのであった。そう、再び。
第百三十七話完
2009・6・25
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