神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第二十章 無意味な会議《3》
前書き
病室にいたのはセーランではない!?
なんとおかしなことでしょうか、それではスタート。
どう言うことか、美琴は知っている。
昔に小等部卒業の日の朝に、飼っていたインコが亡くなった。卒業式には行ったが、皆に会っても晴れぬ気持ちは変わらなかった。そのまま放課後になり、どうしたのとセーランが言ってきた。
明るい今とは違い、まだ皆の後ろにいたころの悲しみを抱いていたセーラン。
聞いて来てくれてちょっと嬉しくて、飼っていたインコが亡くなったことを話した。それを聞いたセーランが言ったのだ。
『作りものなら、同じもの出来るよ?』
今思えばそれは人形だと言うことだ。
だが、幼かった自分はお願い、と頼み込んだ。
家に着いて、飼っていたインコの亡骸を布に包み持って来て、それで今目の前にいるような人形が生まれた。
生まれたのだ。亡骸とは別に全く同じものが、青の光と共に息を吹き替えしたように。
鼓動があり、息をして、変わらぬ声を出して。しかし、それは冷たかった。生きていた頃のあの温かみが消えて、冷たくなっていた。
だが見ていた両親は驚き、愛でるように撫でていたがその冷たさには気付いていなかった。
今はそれと同じことが起きている。セーランはここはいない、何処かに見付からないように身を隠している。
その場所が、あの場所。
「……わかった」
一言だけ放って、走り出した。
力一杯にドアを開け、空気の冷たさを感じた。
「どうした、もういいのか?」
「焦ってどうした」
二人の言葉が聞こえた。
「はい、もういいです。か、かいぎをみにいかないとなので」
セーランがいないことを知られてはまずいので、会議を盾に納得を煽る。
そうか、と若い隊員が言い、それを背後に通路を走った。
本当はいけないことなのだが、失礼ながら今はそれを守ってはいられない。
一秒でも早く、あの場所に着かなければならないのだ。迎えに行き、皆と共に日来を救うために。
運動向きではない弱い体を必死に動かし、風を切り、足は自然と前に出る。
行こう。
皆も頑張っているのだから。
●
日来と北に聳え立つ霊憑山の中間辺り。
色とりどりの花で埋め尽くされた花畑がある。
元は住民の誰かが作ったもので、今では日来が管理している花畑だ。
花畑の中心は円を描くように煉瓦が敷き詰められ、そこから東西南北に向かって煉瓦の道が真っ直ぐに続く。
中心や道にはベンチが設けられ、花を眺めたり休憩に使われる。
風が優しく吹き、花を揺らすなか。南の道から一人の少女が走って来た。
息を切らし、決して速いとは言えない走りで真っ直ぐに来る。
足取りは走りの疲れのせいか悪く、体も左右に揺れている。
だが走ることを止めずに、中心へと近付いく。
距離はあまり離れていないが、それに対して遅く着いた。
息を整えることも忘れ、目に映る一人の少年の名を叫ぶ。
「――セーラン!」
煉瓦の道と、花が植えられている地面との段差。煉瓦に尻を置き、地面に両足を着く一人の少年。
制服を身に付け、聳え立つ霊憑山の方に顔を向けている。こちらに向けているのは背中。
その背中から漏れるように、セーランは幾つもの映画面|《モニター》を表示していた。
振り返らず、坦々と映画面を操作する。
一段落付いたとき、天を貫く霊憑山の頂を見るように顔を上げた。
「早く走れんじゃん」
聞こえた、何時もの温かい声。
頷き、息を切らしながら前へと近付く。
打つ音と、息の切れる音が鳴る。体が熱を持つのも忘れ、足を動かした。
近付いてぼやけて見える、映画面の画面。
「……しらべてるの?」
「辰ノ大花のことをな。あいつのこと、何も知らねえから」
背後に立つと、セーランは宙に浮いた全ての映画面が消した。見られて恥ずかしいものなのか、丁度消えるときに自分が着いたのか。
考えていると、セーランは上に空気を押して立ち上がった。
息を吸った音の後に、彼の声が聞こえた。
「あいつら今日、会議なんだってな」
「うん、もうはじまってる」
「前に鳴った警報がそうか」
短い間言葉のなかで何かを感じたのか、だいぶ間が空いた。
風は弱くも吹いて、服や髪、花や草を揺らす。
美琴は前に立つ、黙っているセーランに向かって言葉を発した。
「……みんなをたすけて、ひらいをすくって」
何をしているのか、彼は黙ったままだ。
だから、また言葉を掛ける。
今度はもっと大きく。
「セーランがいればみんな、がんばれるから……!」
思いを前に、声と共に飛ばした。
言葉を運ぶように追い風が吹き、背中が冷たくなるのを感じた。
追い風に乗るように、声を重ねる。喉を潰すように、声を出して、
「だからいこう! みんなのところ、そのあとに――」
その後には、
「うてんのおさのところ!」
久しぶりに大きな声を出して、肺が潰されようになった。
短く息を吸い込み、肺を膨らませるイメージで空気を送る。そうすると、呼吸が楽になる。
曇った視界の前に、彼が近づくのが見てる。
体を振り向かせ、歩き、手の届く距離に立ち止まった。
「解ってるさ」
頭に手が載った。数回、叩くようにして載った手は力がこもっている。
意志の力。
力を宿し、セーランは笑い、
「そういやあ中等部のときさ、ここで美琴が俺に告ったよな」
「う、うん」
恥ずかしさから、顔が赤くなる。
頬が熱くなるが、セーランはそれを言わない。
「だけど俺は断ってさ、今は俺がその立場だ。結構落ち込むもんだな」
「ならいこうよ。もういちど、セーランのきもち、つたえに」
「だな。こんな所にいてももう意味ねえし、日来救って早くあいつも助けに行くか」
ここで一つの疑問も美琴は得た。まだセーランは、今日宇天長の解放のことを知らされていない筈だ。
疑問を抱く美琴に気付いたのか、セーランは言葉を付け足す。
「あいつの解放は、ほら、病院で俺に渡した手紙に書いてあった。あ、俺の流魔操作で作った人形って視野とか専用の映画面で見れるんだぜ、凄えだろ? どうせ飛豊が気を利かせたんだろうよ、あいつそういう奴だし」
あくびを大きく一つ吐き、空気を肺へと送った。腕を巻くように回し、こちらに近付いた。
眼前には、セーランの体がある。
「ちょっと動くなよ」
聞いた後、自分の体が宙へと浮いた。いや、セーランが流魔操作によって支えているのだ。
支えられていると解っていても、本当に宙に浮いているようなので何時もとは違う変な感じがする。
よし、と言う言葉が聞こえた。
「そんじゃあ飛ばして行くぜ、恐かったら掴まってろよ」
「え、あ、ちょっと、まって――!」
言葉の途中で、体が吹き飛ぶような勢いで宙を行った。空気を切り、足場を踏む音が聞こえる。踏む音は自分からではない、すぐ後ろに自分を追うように走るセーランの足が出す音だ。
何時から人形と入れ替っていたか分からないが、前の傷は治っているようだ。
流魔線を建物や地面に繋げ、それを縮めて機動力を得る。
監視艦や監視隊員に見付からないように、主に建物の影を利用して進んで行く。足場の多くは土だが、たまに監視の編み目を潜るように木製の屋根を足場にしたり、区域の地下へと入りコンクリートの地面を走る。なるべく音を立てないように、かかとから足場に着き、徐々に足全体を着ける。前に進むときも蹴飛ばすのではなく、足を後ろに押し進む感じだ。
縦横無尽に駆け巡る感じは初めて体験した。殆どの者は立体的な行動が出来るが、やはり持ち病のせいで体力面も劣っているため自分には出来ない。
何時から掴んでいたのか、セーランが着ている制服を掴んでいた。
セーラン本人は気付いているのかいないのか、何も言わずに前を向いていた。
風すらも味方とするように地下から出て地上を走るセーランに、後を押すように追い風が吹く。
背後でそれを感じ、更に加速した。
目指す場所は西一番外交区域社交領。
息を切らすも、体は動き続ける。足は今か今かと待ちわびることを忘れ、素早く動いている。身は前倒しになり、早く着きたいと言っているようだ。
何気ない顔でセーランは流摩操作を行い、次へ次へと自身を導いて行く。
●
今、会議は社交院優勢となりかけている。まだなりかけている程度だ、挽回は可能だと飛豊は考えている。
葉木原が行ったのは、言葉の加速と呼ばれるものだ。人は不安なときに、自身を勇気付けてくれる声に震え上がると言う。
だから、ここでやるべきは優勢となりかけているのを止めること。
「すまないが同一視はしていない。何故なら呪いとは堕ちた神の悪行だからな。アマテラス系加護のアマテラスは堕ちてなどいない、つまりはまだ日来は生き続けられる」
「何故そう言い切れる」
葉木原の問いに、飛豊は答える。
「アマテラス系加護は流魔を生成することが出来る。解るか? 生成出来ると言うことは、万象宗譜|《トータルスコア》を信仰している私達にとって流魔は外部流魔の他にもアマテラス系加護により流魔を補給出来る。各国の批判は免れないが、日来の住民は無限に流魔を使い続けることが出来る」
「つまりはもしも戦いが行われたのならば、無限の流魔を味方に戦うと言うことか」
「防御系加護ならば長莵神社が提供してくれる。ベヒモス級戦闘艦に搭載されている主砲くらいまでなら防げる、それ以上のものなら重ねて発動すれば問題無い」
言葉を飛ばし、住民の意思を社交院ではなく会議へと向ける。まずこれで意思は会議の行方に集中し、社交院には集中しない。
戦いについては話した。
次に話すべきは今後の動き。
飛豊は頭に知識を置き、口を開く。
「今後の動きについて少し話そう。私達の場合の今後は奥州四圏から独立、その後には辰ノ大花に協力を仰ぐことに続く」
「辰ノ大花にだと……?」
葉木原の理解が一瞬遅れた。 自分が考えもしなかったことを言われたからだろう。
眉間にしわを寄せ、睨んでいるかのようだ。
周囲もこれには驚いたのか、先程までの空気とは一変しこちらに疑問の念を向ける。
……上手くはいったな。
社交院優勢になりつつあった空気が、自分の言葉によって取っ払われた。
持ち堪えたがこれからどうするか、が重要だ。
辰ノ大花に協力を仰ぐ理由。 もう葉木原は気付いているだろう。
眉間に寄っていたしわが更に深くなり、
「長が考えたことか」
「皆まで言わなくてもいいですよ」
「騒ぎを起こしたくないのはこちらも同じだよ」
社交領の建物のなかから、こちらを監視している黄森の隊員の視線を感じる。装備は一般的な長銃と短剣だろう。
下手な発言はすぐに捉えられ、長銃による発砲でそれまでだ。
社交院もそれを望んでいないのはこちらと一緒なようだ。
建物を横目で見てから、動きがないことを確認する。
「私達の場合の今後は、何を言っても結局は日来の独立が目的だ。だが、世界はそれさえも小さな出来事として変えてしまう。私達が恐れるべきは日来の今後ではなく創生区域の崩壊進行、それに伴う創生区域の消滅ではないのか?」
この声にアストローゼが言葉を重ねる。
「今現在、創生区域内で最も崩壊しかけているのは創生区域最北端の国、金剛石鯨露西亜|《アルマースキース・ロシア》だ。既に極寒の地には少量だが魔物が住みかい、自然を遮る壁がなければ魔物により被害が発生するだろう」
「確かに世界規模で創生区域の崩壊進行は解決しなければならない課題だろう。だが、それとこれとは別問題だ」
「それは違うと思うなあ」
笑みのニチアが加勢した。口を曲げ、笑みのまま。
社交院が言う別問題とは、今の状況とではだ。
日来の今後と創生区域の崩壊進行は一緒に考える必要は無い、と彼方は言っている。
だがそれは間違いだ。理解しているニチアが言う。
「だって他勢力群|《イレギュラー》に移住しても崩壊の進行はやっぱり問題になってくるでしょ? 私達が言う今後は未来に向けて進んでいるの。他勢力群に移住しちゃうと、自分達の身は自分で守れが普通。だから周りは手を貸してはくれない。
だけど、奥州四圏の人形ではなくてちゃんとした神州瑞穂の一地域として独立することで、奥州四圏は日来の存在を容易く無視出来ない。だから崩壊の問題は神州瑞穂の問題として掲げれば、奥州四圏も自身の問題として扱ってくれるかもだよね」
「しかしだ、仮に独立でき、一地域として立場を確立させたとして崩壊は神州瑞穂だけでは解決出来ない。争い合うこのご時世で国は自国中心に動き、他国を蹴落としている。奥州四圏があるからといって神州瑞穂の軍力は他国に比べて劣っている」
確かに、と飛豊は思う。
今この時代は他国を蹴落とし自国を向上させるのが普通。不可侵や協定を結んでいるものの、いづれ来る争いを遠くに伸ばしているだけに過ぎない。
こんな時代でも国は他国の貿易をしてはいるが、それは貿易というものをいざと言うときの交渉材料にするためだ。
創生区域の崩壊進行を人類は危険視しているものの、なかなか国との協力を得られず崩壊の恐怖が押し寄せているのが現実だ。
このまま国々は手を結ぶこと無く、崩壊が進行し続ければ限られた創生区域を巡って戦争の始まり、結局独立しても意味の無いものと化すだろう。
しかし、それでも独立しなければ日来はお仕舞いだ。
飛豊は喉を鳴らし、
「私達は国を相手に戦うわけではない。もし戦うとしても最悪地域との戦いに留めるようにする。話しは変わるが日来が独立し、世界を渡ればアマテラス系加護を信仰している唯一の地域とし、注目を集中することが出来る。まず世界を渡ることが出来る事態で危険視され、一気に世間に知れ渡る」
「それだけでは崩壊の解決にはならないだろう」
と、葉木原の言葉が途絶えたとき。建物の向こうから声が聞こえた。
聞き覚えがある女性の声。
会議場にいた皆は建物に顔を向け、建物内にいた黄森の隊員も屋上へと現れた。
隊員は長銃をこちらではなく、建物の向こう側に構えた。後からも隊員が増え、遅れて来た者は周辺の確認に移る。
何が起きたのかと、周囲は音を立て始めた。
首を右へ左へ、上や回転を加え周りを見渡す。
音が沈む頃、屋上の隊員全員が足元のコンクリートに伏せた。いや、伏せたというよりも上から重圧を受けてたように潰され、しかし潰されまいと重圧に逆らっている。
力がこもる言葉を吐きながら、隊員は身体に力をいれ続ける。身を立たせ、状況を確認しようと。
女性の声は徐々に近付き、一瞬声が途切れて一気に距離を縮めた。
「セーラン、落ちる――!」
「この声は、美琴か!?」
皆が見上げた屋上。
日差しを浴びる、二人の人影が浮いていた。
後書き
今回は書いてて疑問符が浮かんだりしました。会議のところは頭ごっちゃになるんで、今後矛盾が発生したら知らせてください。
自分で確かめろって話しですが……はい、努力します。
そんなことはさて置き、今回セーラン登場しましたね。
しばらくは停滞期で物語進んでないような感じがしますので、今月は頑張って執筆したいです。
ところで作中語られていた世界状況ですが、第一章の初め部分を覚えていたら理解出来たかも知れませんが、“支配を意識した結果国は国と手を取らなくなった”のです。
これがこの「神葬世界×ゴスペル・デイ」という初心者が書いている作品において理解していただきたいところです。
ここで少しネタバレですが、宇天長こと委伊達・奏鳴が解放されるのもこの“支配”を意識した世界の結果なのです。
それではまた次回出会いましょう。
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