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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第十九章 無意味な会議《2》

 
前書き
 まだまだ会議続きますが、今回はそうでもないです。
 始まりスタート。 

 
 焦りは禁物だ。
 そう自分に言い聞かせるように、飛豊は焦る気持ちを落ち着かせる。
 ここであることを思い出した。
 それを飛豊は口にする。
「そう言えば、以前の宇天学勢院との会議の後に日来を終わらせる、と言っていたがどういう意味なんだ?」
 この問いに答えたのは、やはりと言うべきだろうか。葉木原が答えた。
「日来の移住とは、即ち日来を捨てることだ。他勢力群|《イレギュラー》に移住することは日来を終わらせることを意味する」
 何故かこの答えに何かが引っ掛かる。勘というものだが、それをほっておくことは出来なかった。
 飛豊は自身の右に立つ空子を飛び越え、その先に立つレヴァーシンクに問う。
「レヴァーシンク、この答えにどう思う?」
「何か隠してるね、絶対。まあ、ここから先はちょっと任せておいてよ」
 口端を曲げて笑うレヴァーシンクは、映画面|《モニター》を手前に置きそれを操作する。
 二組の間に表示されている映画面の社交院枠に、赤の丸が描かれる。
 それは“日来を終わらせる”、の言葉を強調するように。
「僕達はこれに対して一つの仮説を立てた」
「ほう、それは何だ?」
「日来を終わらせる、と言う言葉には日来を、自分達を終わらせると言うも込められているとね」
 周囲がざわめいた。
 意味が理解出来てしまったのだろう。自分達を終わらせる、これは死に近いものを意味する。
 この仮説に至ったのには、一つの理由がある。
「この会議前に色々と調べてね、それで気になることを発見したんだ」
 それは、
「アマテラス系加護の最後だ」
 住民はそれに疑問を持つ者、知っていたように振る舞う者も見受けられる。
 加護の歴史については学勢のときに学ぶが、それは浅く広いものなので全てを理解していない者は多い。
 そんな者達にも、レヴァーシンクは言葉を飛ばす。
「アマテラス系加護が唯一の加護の万象宗譜|《トータルスコア》の最後とも言うべきだろうね。殆どの万象宗譜を信仰していた者達があるとき信仰心が薄れるか、信仰していた土地を失った場合、その地域一帯に不幸が相次ぎ、最悪そこに住んでいた住民にも不幸が降り注ぐ。
 八十年前にアマテラス系加護を守護として用いていた地域が他の加護、つまり他の宗譜に変えた数日後。周りに生える木々がその地域を食らうように生い茂った。幸い怪我人は出なかったようだけど、今ではその地域は人の住まない森と化している」
 更には、
「そこに住んでいた者達は皆、その後消息を絶っているんだ。一説には流魔を生成出来る唯一の加護の呪いだとか。
 これを知っている者は日来では半々だろうね。その呪いはどうするんだい? 社交院」
 苦虫を潰したのを堪えるように、葉木原は力んだ顔を無理矢理元に戻す。
 手応えありだ、そう思っていいだう。
 だが、彼方もそれに対して何もしていなかったわけではなかった。
「痛いところを突かれたものだ」
 吐くように言った葉木原の言葉は、空気に触れてすぐに消えた。
 それを倉澤と神崎は声に出すことを堪え、肩を震わせていた。
 鋭い視線でそれを静め、
「だが、その情報には根拠と言うものが存在しない。全てがたまたま起こったことだとも考えられる。それにな、それが起こったときには崩壊が急に進行しているのだ。私達は崩壊の余波だと考えている」
「全て、てわけじゃないけど、かなりの確率で起こっているのにそれを崩壊の余波と考えるのかい?」
「ならば逆に問おう。覇王会はその呪いとやらと、崩壊の関連性についてはどう思っている? 崩壊が何と言うものなのか知っていれば、我々と同じ答えになると思うが?」
 今度はこちらが問われる形となった。
 これはヤバいな、と飛豊は感じた。
 崩壊とは流魔の飽和状態が進み、生物に害をなす高濃度流魔が地を侵食していくことだ。何故増えているのかは、まだ解明されていない。そして崩壊はこの創生区域にも進んでおり、そのまま進んだならばどうなるか。
 進んだならば、そうなれば異常なことが多発する。
 そう、社交院はこの異常と呪いを同じと見ているのだ。
 そしてこの考えに至らなかった自分達を指摘するように、あちらは言葉を重ねる。
「崩壊が進む日には必ず創生区域に異常が生じる。直接流魔に干渉して加護を発動しているアマテラス系加護は、崩壊が進めば異常が生じるのも同然のことだ。そして直接流魔に干渉しているからこそ、崩壊に何らかの影響を与えていると考えられるが?
 それをどう反論するのだ、アマテラス系加護を信仰している限りはこれは必然。呪いなどと言う堕ちた神の悪行と同一視し、アマテラス系加護を汚さないでもらいたいな!」
 社交院側に勢いが付いた。
 その声に住民は震え、何かを感じた。
 顔を見合せ、彼らは発した。言葉と言う意思を。
 円の外からは、視聴していた者達が口を動かし意思が聞こてきた。
「日来の未来を託すなら経験を積んだ社交院の方がいいのかもな」
「若いのも良いかもしれないが争いがあると、私のような子を持つ身としてはちょっとねえ」
「皆、散々になるのはもうこの際仕方無いだろうさ。まず死んでしまったら意味が無いからな」
「呪い、て言われてもなあ。他へと移り住んで別の宗譜に代えればいいだけだから」
 などと言う、社交院を押す声が聞こえる。
 先程の言葉で、先行きの見えない日来を導いてくれる者として社交院が支持されつつある。
 若い自分達では、住民は支持をしてくれないのか。
 このままでは駄目だ。
「どうするカ? あっち、ちょっと勢い付いて来タ」
「先程の言葉はこちらに向けた言葉ではなく、住民の支持を仰ぐためのものだったということだな」
「目の前の敵に集中し過ぎて、周りのことに気が向けていなかった私達の負けかな」
 無理矢理のニチアの笑みは、頬がつり上がりわざとらしい。
 どうする?
 自分に問い、飛豊は空を見上げた。
 落ち着け、まだ会議は終わっていない。
 始まっていくら経った?
 自分は全力を出せたか?
 こんな会議で後悔は無いか?
 問いを自分に向かい投げる。
 ふ、笑えてきた。自分はまだやれるではないかと。
 未熟者? ああ、そうだ私達は未熟者だ。
 頼りない? だったら頼れる存在になろう。
 日来はどうなる? 私達の答えは既に決まっている。
 目を閉じ、暗闇が現れた。
 耳からは騒がしい周囲の音、こちらに不安を抱く声が聞こえる。
 上等だ、やってやる。

『んまあ、お前達はやれば出来る。だからやり抜け、悔いを通り越して後悔へと進んでけ』

 馬鹿な長の言葉が、暗闇のなかから聞こえてきた。
 幾日も前のときに、セーランが言っていた言葉だ。
 私達はまだやれると、あのときから信じていたのか?
 今ここにいない彼に、黒に染まるなかで問う。
 答えは返ってこない。当たり前だ、心のなかで問い掛けたのだ。これが返ってきたら、それはそれで怖い。
 目を開け、飛豊は光のなかへと戻ってきた。
 色に染まる当たり前の世界。
 自分達の長が、救おうとした日来の色が眩しく目に映った。



 東一番居住区域に一つの大きな病院が建つ。
 その周りには大小様々な家々が建ち並び、人々が動きを生み出している。
 大病院と呼ばれる建物のなか、五階通路に一人の少女が歩いている。
 花束を抱えるように持ち、ポニーテールを左右に揺らしながら何処へ向かうのか歩いている。
 廊下に音が反響し、それが幾らか続いて音が消える。
 音と共に、足を運び美琴は歩んだ。
 セーランが待つ、監視された病室へと。
「ん? 君は日来学勢院の学勢か」
 病室の前。
 入り口に立つ二人の内、美琴が来た方向と同じ左に立つ黄森の隊員が声を出した。
 一人だけなので少し怖いが、歳はあまり離れてなく若かった。
 原因不明の病気の影響で、視界が常に曇っているので良くは見えないがそんな感じがする。
 隊員に美琴は声を出し、
「あ、あの。おみまいしに、きました。おねがいでき、ますか?」
 初対面の人に声を掛けるときは何時もこうだ。言葉が上手く続かず、相手の理解を遅めてしまう。
 だが、言葉はすぐに返ってきた。
「ちょっと待っていなさい、上の者に確認してくから」
 優しい言葉が聞こえ、その声の持ち主は廊下の奥へと消えていった。
 監視しているのは悪くて怖い人と、自分のなかで思っていたがそうではなかった。
 この人達はどのような気持ちで、日来を監視し黄森の地に立っているのだろうか。
 疑問に思ったが、本来であれば今はそれを問うときではないのだがそれを口にした。
「すみません。たいいんさんは、ひらいがきらいですか?」
 言ってしまった。
 何故か急に恥ずかしくなって、頬が熱くなる。
「な、なんでもない、です。わすれて、ください……!」
 体を振り、先程の言葉を気にしないでと伝える。
 気に触ってしまったのだろうか。彼方は無言のままで、何も行動を起こさない。
 口にしたのが間違いだったのか、そう後悔する。
 それを見ていた隊員は、笑みを漏らした。
「怖がらなくても平気だよ。私は他人に力を振るえる程強く無いから」
「……え?」
「私にはね、嬢ちゃんくらいの子がいるから君の感じてることを勝手に想像するくらいは出来る」
 自分の父親と同じ笑みと、温かみを感じる。
 子がいるということは、自分の前に立っているのは父親だろう。
「日来のことは嫌いではない。関係の無いことだけど私の妻は元は日来出身でね、今回の件については妻共々複雑な気持ちなんだ」
 彼らも自分と同じ人なのだ。思いに違いはあれど、感じ方は同じ部分が存在する。
 こんな優しい気持ちがもっと広まればいいのにと、美琴は心の何処かで思った。
 その時だ。上の者に確認しに行った隊員が戻って来た。
「仕事中にあまり日来の者とは関わると後が大変だぞ」
「何を言ってるんだ、バレなければいいんだよ」
「それ、よくないとおもう。ばれなくても、だめなものは、だめ! まずは、じぶんのみのあんぜんから」
「ほら、少女の方がアンタよりも大人だな」
「これは参ったな」
 彼らとは解り合えるような気がする。
 感じながら、隊員から言葉が飛んだ。
「三分だけだが、その間ならいいそうだ。なかには監視用に映画面|《モニター》が表示されているが、それには触れないように。緊急警報が鳴るようになっているからね」
 頷き、下がった花束を上げる。
 背後から見えないように隠しながら隊員に小さく手を振り、隊員は頷くことで返しとする。
 優しく扉を開けて、病室のなかの空間へと入って行く。
 病室内は廊下よりも温度が少し高かった。
 音の反響で、病室のなかにあるものを確認した。
 なかには置物や着替えがある。そして入って来たドアの上に、一つの映画面が表示されている。
 隊員が言っていたものだ。そこには監視中と言う文字が表示されている。
 窓際には花瓶に入れられた花と一つのベッドが置いてある。
 そこに一人の者が上半身だけを立てて、窓の向かうの景色を見ていた。
「……セーラン」
 美琴はその者の名を呼んだ。
 小さく弱い声に、ベッドに載るようにいるセーランは顔を見ていた景色から離した。そのまま顔をこちらに向け、笑った。
「美琴か」
 自分の名前を呼ばれた。
 だが、その言葉に違和感を感じた。
 意思はあるが、心がここには無いようなそんな感じがした。
 戸惑いながらも、声を胸から出した。
「おみまいにきた。みんなはね、しゃこういんとかいぎしてる。ひらいのこんごをはおうかいとしゃこういん、どっちにたくすかの」
「あいつらなら心配ない。必要があれば助けを呼ぶさ」
 やっぱりおかしい。まるで操られている人形のように冷たい感じがする。
 告白が失敗して落ち込んでいるのか、最後に宇天の長に会えなかったからだろうか。
 美琴は思い出したように、抱いていた花束をセーランに見せる。
「はなたばもってきたの、かびんにいれとくね」
「……美琴」
 冷たい声で呼ばれた。
「なに……?」
「手紙、持ってきてないか」
「もってきてるよ、よくわかったね。……よむ?」
 花束を近くにあったテーブルに置き、ポケットから飛豊から渡された手紙を取り出して、手が届くように近付けた。
 日差しが眩しく、逆光となっているので表情は確認出来なかった。
 目が見えないわけではないので、顔を近付けたり雰囲気や呼吸の仕方等で相手の表情や感情は理解出来る。
 自分に向けられていた視線が、顔から手紙へと移って行き、手に持った手紙が無くなった。
 互いの呼吸の音が聞こえる空間に、紙を広げた音が加わる。
 黙ってそれを見ていた。
 音から確認するに紙は一枚だけで、文が執筆されているであろう紙をそのまま渡された筈だ。結果、読むにも然程時間は掛からず、下を向いたセーランの顔が上に向く。
「美琴、中等部のときのあの場所覚えてるか?」
 あの場所、と言う言葉で理解は出来る。
 頷き、
「おぼえてるよ、あそこがどうかしたの?」
「待ってる」
 そう言われた。
 どう言うことか、確認しようとセーランに問うよりも早く、ベッドの上にいるセーランは動いた。
 自身の左手を横に出した。美琴は出された手を自身の両手で包み込むように触る。
 ……っ!?
 触って気付いたことが三つ。
 一つは、温かい筈の体温が飛豊には冷たく感じた。もう一つは、骨格や内臓などの身体の至る部分が作られたものだと言うこと。
 それらは踏まえて、最後の一つ。
 これはセーラン本人では無いと言うことだ。
 ここにいるのは本人では無く、作られた人形だった。
 光の無い瞳で、人形は静かに笑った。 
 

 
後書き
 はい、主人公久し振りということです。
 セーランの様子を見て、察しのいい人は余裕であることに気付くと思います。
 今回は他に語ることはないかな?
 ま、あっても後でやればいいっか。
 質問とかあったらコメント下さったら返答させていただきます。
 次回は病室スタートです。 
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