スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第百三話 皇太子シンクライン
第百三話 皇太子シンクライン
「ぐはっ!」
「がはっ!」
「馬鹿者共が!」
鞭の音と呻き声と罵声が同時に響き渡った。
「地球一つに何を手間取っている!」
「も、申し訳ありません」
「重ね重ね御赦しを」
「ふん、まあいい」
そこには紫の肌を持つ傲慢な雰囲気に満ちた青年がいた。
「貴様等には期待してはいなかった」
「返す言葉もありません」
「しかしだ」
ここで彼は言うのだった。
「私が来たからには違う」
青年はさらに言葉を続けてきた。
「このガルラ帝国皇太子であるシンクラインがな」
「では殿下御自ら」
「兵を率いられるというのですね」
「それだけではない」
彼は今しがた自ら鞭打った将軍達に告げた。
「帝国軍の主力の集結を命じた」
「この地球にですか」
「そうだ」
こう言うのである。
「この地球にな。その圧倒的な戦力で地球を制圧する」
「一気にですね」
「まずはその手はじめにだ」
シンクラインの顔に邪悪な笑みが浮かんだ。
「ロンド=ベルといったな」
「はい、あの連中です」
「以前はマグネイト=テンといいました」
「そしてあの忌まわしいゴライオンも奴等と合流しているな」
「その通りです」
「あのゴライオンもまた」
彼等はシンクラインの問いに答えるのだった。
「ロンド=ベルに合流しまた我々の邪魔をしております」
「そしてその損害は」
「ならばだ」
シンクラインはその話を聞いて述べてきた。
「ゴライオンだ」
「ゴライオンをですか」
「そうだ。次の攻撃で集中攻撃を浴びせるのだ」
腕を組みつつ将軍達に告げた。
「それでいいな」
「は、はい」
「それでは」
「まずはゴライオンだ」
シンクラインのその濁った目が光った。
「奴等を倒し。その後でそのロンド=ベルとやらを料理してやろう」
彼はその考えで今ロンド=ベルとの戦いに向かうのであった。
ロンド=ベルはインドからインドを横切ってバングラデシュに入ろうとしていた。とりあえずインドではこれといって敵には出会わなかった。
「まあここでは平穏だよな」
「そうだったな」
皆そのことに少し安堵していた。
「とりあえずはな」10
「このまま日本まで行きたいものだな」
「ふん、笑止」
しかしその言葉にはケルナグールが反論した。
「敵がいてこそではないのか。我等は」
「何だケルナグール、また退屈しておるのか」
「如何にも」
カットナルの問いにも答える。
「相手がおらぬこと程つまらぬものはないぞ」
「相変わらず戦いが好きだのう、御主も」
「人のことは言えんと思うが?」
ケルナグールはこう言ってカットナルを見た。
「御主もうずうずしておるのだろう、今は」
「ふん、気付いておったか」
「そろそろ出てくれてもいいものだがな」
勝手にこんなことさえ言う。
「気が利かん奴等だ」
「向こうには向こうの都合があるのだろう」
ブンドルはこう言うのだった。
「我等には我等の都合があるようにだ」
「だからよいというのか」
「来た相手とだけ戦うのみだ」
ブンドルの考えはこうであった。
「それも美しくな」
「そういえば今回は御主好みの戦いはあったのか?」
「さて、それはどうかな」
カットナルの今の問いには微妙な返答だった。
「そう言われるとな」
「ないのか」
「グラヴィオンは美しい」
これはブンドルも認める。
「そしてあのラーゼフォンも美しいが」
「美しい戦いはないということか」
「特にあのガルラ帝国だ」
ここでブンドルの顔が曇った。
「あの者達だが」
「どうだというのだ?」
「かなり卑劣な者達らしいな」
こう言うのであった。
「どうやらな」
「ふむ、それはな」
「どうやらそうらしいな」
カットナルもケルナグールもその言葉に応えて頷くのだった。
「全宇宙の者を奴隷化か」
「今時そんなことをする連中がいるとはな」
「他者を奴隷として酷使し己がのみ栄華を極める」
ブンドルは言う。
「それはまさに」
「ふむ」
「何だというのだ?」
「醜悪だ」
いつもと正反対の言葉であった。
「全く以ってな」
「その通りだな」
「確かにな」
これについては彼等も全く同じ意見であった。だからこそブンドルの今の言葉に頷くのであった。
「それはな」
「わしも奴隷なぞは好かんな」
「我々はあくまで己の力で戦う」
ブンドルは言う。
「あくまで相手とだけな」
「それでどうして奴隷なぞ」
「全くだ」
「一つ言っておく」
ここでブンドルの態度があらたまった。
「私はああした醜さは嫌いだ」
「それはわしもだぞ」
「わしもだ。珍しく三人気が合ったな」
「ガルラ帝国には容赦しない」
それを今はっきりと宣言したのだった。
「何があろうともな」
「うむ、そうだな」
「そうしようぞ」
三人で言い合うのだった。その時ミネバは怪訝な顔をグワダンの艦橋で見せていた。
「ハマーン」
「はい、ミネバ様」
いつものようにミナバを護るようにしてその傍にいるハマーンがミネバの言葉に応えた。
「何か嫌な気配がするけれど」
「ミネバ様も感じておられるのですね」
「じゃあハマーンも」
「はい。何者かが来ます」
こうミネバに応えたのだった。
「よからぬ意志を持った者が」
「だとしたら何者かしら」
ミネバが次に考えたのはこのことだった。
「今度やって来るのは」
「天使達ともゼラバイアとも違います」
ハマーンは言った。
「ドーレムか。それとも」
「ガルラ帝国!?」
「ドーレムの感触ではありません」
ハマーンは彼女のニュータイプとしての超絶的な感性からそれを察知した。
「これは」
「じゃあガルラ帝国!?」
「おそらくは。これは人の意志ですね」
「ええ。それはわかるわ」
「しかも謀略です」
ハマーンはそこまで読んだ。
「それを考えている気配です」
「謀略!?それじゃあ」
「とりあえずはテロに警戒しましょう」
ハマーンが最初に危惧したのはそれだった。
「それも充分に考えられますので」
「そうね。まずは艦内もチェックするのね」
「そうです。これはグワダンだけでなく」
「全艦に」
「すぐに総員に知らせましょう」
ハマーンの決断は早かった。
「そうしてすぐに対処を」
「わかったわ。それじゃあ」
こうしてすぐに全艦で爆発物等をチェックした。だがそれに引っ掛かったものはなかった。
「まずは何もなかったね」
「そうね」
ミカがタケルの言葉に頷いていた。
「まずは一安心だけれど」
「けれど。以前のお兄さんやロゼのこともあるわね」
「ああ」
そのケースも考えていたのだった。
「ガルラ帝国はこの世界の宇宙を支配しているんだったよね」
「そうよ」
ミカはタケルの言葉に答えた。
「そう言われているわ」
「だったら兄さんやロゼのような超能力者がいてもおかしくはないね」
「だとしたらまたいきなり艦内での攻撃も」
ミカはこの危険性も考えた。
「有り得るのね」
「そうだな」
彼女の言葉に頷いたのはシンジだった。
「それも有り得るのは確かだ」
「じゃあその場合はやっぱりタケル兄ちゃんや凱さんが行くんだね?」
ナミダは何気なくだが述べた。
「そうなるよね」
「いや、俺達もいる」
ナオトが名乗りをあげた。
「安心しろ。タケルにだけ負担はかけさせないさ」
「そうだよ」
アキラも言う。
「俺達だって。いるんだから」
「皆・・・・・・」
「とりあえず艦内への警戒は必要ね」
タケルは皆の言葉に暖かいものを感じミカはその彼をさらに包み込むようにして言った。
「ハマーンさんのそうした勘は当たるから」
「そうだな。じゃあこのまま警戒を続けて」
「行きましょう」
ロンド=ベルの面々はテロや潜入工作を警戒していた。その彼等の正面にガルラ帝国の面々が姿を現わしたのはバングラデシュにおいてであった。
「!?何もなしか?」
「正攻法か!?」
何気なくただ正面に姿を現わしたガルラ帝国軍を見ていぶかしむロンド=ベルだった。
「数も多いし」
「まさか」
「いや、安心するのは早い」
ハマーンがここで彼等に言うのだった。
「まだ。感じる」
「感じるんですか」
「しかもより一層強くなっている」
ハマーンは言葉を続ける。剣呑な顔で。
「ガルラ帝国軍からな」
「そういえばあの戦艦」
「普通のガルラ帝国の戦艦よりも大きい!?」
「何か」
「あの戦艦から感じる」
ハマーンはここでまた言った。
「この邪悪な気配は。一体」
「まさかとは思いますが」
ファーラが口を開いてきた。
「あの戦艦は」
「何かあったんですか?姫」
「ガルラ帝国皇太子シンクライン」
この名前を出してきたのだった。
「彼が。この地球に」
「シンクライン!?」
「ガルラ帝国の皇太子ですか」
「はい、そうです」
こう一同に答えるファーラだった。
「ガルラ帝国の皇太子にして最低最悪の人間です」
「最低最悪!?」
「というと」
「目的の為には手段を選ばず己の欲望の為には他人を犠牲にすることを厭いません」
これだけでもどういう人間かわかるものだった。
「そして」
「そして!?」
「美しい女性を捕らえそのうえで徹底的に辱めます」
「なっ!?」
「何よそいつ!」
「最低なんてものじゃないわよ!」
それを聞いて一斉に怒りの声をあげたのは女性陣だった。
「そんな奴なら容赦しないわよ!」
「そうよ、手加減しないわ!」
女性陣の士気が一気にあがる。
「シンクライン、待っていなさい!」
「地獄に落としてあげるわ!」
「待て、血気にはやるな」
それはダイテツが止めた。
「それではかえって相手に狙われるぞ」
「ですが艦長」
「それでも」
「諸君等の気持ちはわかっている」
それはわかっているダイテツだった。
「では。ここは」
「ええ、そうですよ」
「ここは」
「全軍攻撃開始だ」
今ここで指示を出すのだった。
「前進を開始する。いいな」
「はっ、わかりました」
「それで」
皆彼の言葉を受けてそのうえで前進をはじめた。こうして警戒と憤りの中でシンクライン率いるガルラ帝国軍との戦いに入るのであった。
「来たな」
「はい」
その戦艦にいたのはシンクラインだった。戦艦の艦橋において司令の椅子に座りつつ報告を聞いていた。
「我等に迫って来ます」
「わかった。ならばすぐに攻撃にかかれ」
「予定通りですね」
「そうだ、予定通りだ」
こう指示を出すのだった。
「ゴライオンを狙え。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ。他の敵はまずはいい」
シンクラインはこうまで言うのだった。
「他の者はな」
「まだいいのですか」
「あの忌まわしいゴライオンを倒すことだ」
鋭い声で言うシンクラインだった。
「まずはな。その為にはどれだけ犠牲を払ってもいい」
「といいますと」
「まさか」
「言っておく。貴様等は死ね」
「なっ!?」
「死ねとは」
「言ったまでだ。死ね」
平然とこう言うシンクラインだった。
「貴様等は私の為に死ぬのだ」
「・・・・・・・・・」
「何か言いたいことはあるか?」
冷然とした声でまた彼等に言うシンクラインだった。
「貴様等はガルラ帝国の者だ。それならば当然だ」
「は、はあ」
「それはそうですが」
「ガルラ帝国は私だ」
彼はまた言った。
「それならば死ね。私の為にな」
「は、はい」
「わかりました」
引いたがそれでも頷くしかなかった。彼がガルラ帝国の皇太子なのは事実だからだ。その事実の為に今命を賭けるのだった。その真意はともかくとしてだ。
ガルラ帝国もロンド=ベルに向かう。そしてあるポイントに集中的に集まってきた。
「むっ!?一点集中攻撃か?」
「まさか」
「それならやり方があります」
レフィーナはその敵の動きを見て落ち着いた声で述べた。
「すぐに全軍彼等を取り囲みましょう」
「そうですな」
ショーンが彼女の言葉を聞いて頷いた。
「そう来るならば」
「はい。しかし」
だがここでレフィーナは釈然としないものも感じるのだった。
「おかしいですね」
「といいますと?」
「いえ、彼等の動きです」
やはり言うのはそれについてであった。
「攻めて来るのはわかりますが」
「はい」
「それにしてもあの陣形は」
見ればガルラ帝国は戦力をどんどん出して来る。しかしそれでもその戦力を全てその一点に集中させてきたのであった。包囲されようとも。
「どういうつもりでしょうか」
「艦長」
ユンがここでレフィーナに報告してきた。
「もう援軍はこれで終わりのようです」
「そうなのですか」
「レーダーに反応が出ているのはあれで全てです」
こう報告するのである。
「今戦力として戦場にいるだけで」
「そうですか。それを全てですか」
「おそらくは」
「やはりおかしいですね」
レフィーナは顔を顰めさせて言う。
「彼等は。何を考えているのでしょうか」
「包囲されています」
またショーンが言う。
「彼等は、です」
「彼等は・・・・・・ですね」
言い換えれば自分達が包囲しているということになるのだった。
「確かに」
「後は攻撃を仕掛けるだけです」
レフィーナは言った。
「このまま」
「それでは」
「はい、総攻撃を開始します」
これはもう決定していた。
「宜しいですね」
「そうですね。これで」
また言うレフィーナだった。
そして早速ロンド=ベルの総攻撃がかかる。彼等はすぐにその戦力の全てをガルラ帝国に対して叩きつけるのであった。
「おかしいですね」
「そうだな」
アルゴがジョルジュの言葉に頷く。
「幾らこちらが攻撃をしても」
「戦力こちらに向かっては来ない」
「こりゃどう見てもおかしいな」
「何かさ」
ヂボデーとサイシーも眉を顰めさせた。
「俺達は狙ってはいないみたいだな」
「それでも誰かを狙ってるよね」
「ふむ。確かに」
シャッフル同盟の四人の言葉にメキルが応える。
「その先にあるのは」
「!?まさか」
ここで気付いたのはアレンビーだった。
「あそこにいるのは」
「どうした!?アレンビー」
「あいつ等の先にいるのって」
「ムッ!?」
ドモンはアレンビーの言葉に目を瞠った。
「だとしたら奴等は」
「ドモン、見て!」
今度はレインが叫んだ。
「敵はゴライオンに」
「むっ!?いけませんぞ!」
メキルもここで気付いた。
「ならば。すぐに黄金殿達を!」
「ああ!」
「戦力を二つに分けろ!」
リーがすぐに決断を下した。
「まずはゴライオンを守れ。そして他の者は敵の数を減らせ。いいな!」
「は、はい!」
「わかりました!」
皆リーのその指示を受けてすぐに二手に別れた。主力はそのままガルラ帝国のマシンを次々と倒していく。そして残った戦力が向かうが。
「くっ、こいつ等!」
「数で来るのかよ!」
ゴライオンは忽ちのうちに敵の総攻撃を受けてしまった。千機近いその攻撃を受けてさしものゴライオンもあちこちに激しいダメージを受けていく。
「だ、駄目だこのままじゃ」
「くっ!」
また攻撃を受けた。そこは。
「銀!」
「大丈夫か!」
「あ、ああ」
銀の乗るライオンがダメージを受けた。見れば銀がコクピットの中で呻いている。
「何とかな」
「いや、御前の傷はかなり深そうだ」
「そうだな」
彼の言葉を聞いて黄金と黒銅が言う。
「やはりここは退け」
「俺達だけでやる」
「何を言ってるんだ」
だが銀はその言葉を受けようとはしなかった。
「俺はまだ戦える」
「おい、本当にいいのか?」
「それで?」
今度は青銅と錫が彼に問うた。
「どう見てもその傷は」
「尋常なものじゃ」
「とりあえず命に別状はない」
彼は言うのだった。
「だからだ。安心してくれ」
「そうか、わかった」
黄金が彼の言葉に遂に頷いたのだった。
「じゃあここは御前を信じるぞ」
「悪いな」
「五人で闘う」
リーダーとしての決断だった。
「ここはな」
「黄金・・・・・・」
「そして五人で生き残る」
黄金は強い声で言った。
「何があってもな」
「済まない」
「あれだけの戦いを潜り抜けてきたんだ」
ここで彼はかつて、地球に辿り着くまでのことを思い出していた。
「それに比べれば。今はな」
「そうだな。この位な」
「この位ならな」
他の三人も彼の言葉に頷いた。
「やってやる!五人で!」
「生き残ってやる!」
「銀!」
四人の声が一つになった。
「俺達は何があっても一緒だ!」
「いいな!」
「ああ!俺は生きる!」
銀も彼等の言葉に応えた。
「戦う為に生きる!」
こう叫んだ。そうして五人は一つになり巨大な剣を振るいガルラ帝国の者達を倒していくのだった。
ゴライオンの傷はさらに深くなっていく。しかしそれでも戦場に立っていた。だがそれでも限界が近付いてきていた。倒れるのは最早時間の問題だった。
「いい感じだ」
シンクラインは一人密かに笑っていた。
「この調子でだ。倒すぞ」
「はい、わかりました」
「それでは」
「犠牲は大きいな」
見ればその通りだった。この戦いに投入したガルラ帝国の軍は既に七割以上の損害を出してしまっていたのだった。
「しかしだ」
「まずはゴライオンですか」
「そうだ」
彼は言うのだった。
「何があってもな」
「損害が八割を超えました」
また報告があがった。
「周りからの攻撃がかなりのものです」
「ロンド=ベル。やはり」
「奴等も手強いのは確かだ」
シンクラインもそれはわかっていた。
「しかしだ」
「しかし?」
「ゴライオンを倒せばそれだけ戦力が減る」
彼は言うのだった。
「それだけな」
「左様ですか」
「その為に死ね」
またこうしたことを平然と言ってみせてきた。
「貴様等はな」
「・・・・・・・・・」
「言っておく」
その惨い言葉は続く。
「退く者は撃つ」
こう言うのである。
「私がな。わかったな」
「・・・・・・わかりました」
「それは」
彼等も頷くしかなかったのだった。かくして攻撃はさらに続けられる。
ゴライオンは今にも撃墜されそうだ。しかしであった。
「まだだ、まだだ!」
「そうだ!俺達はまだ」
「立っている!」
満身創痍になりながらもであった。
「この程度で!」
「倒れてたまるか!」
「死なない!」
そして言う。
「倒れもしない!」
剣も振るい敵を倒しつつ。立ち続けている。ロンド=ベルの仲間達もそれを見て必死にガルラ帝国の軍勢に攻撃を浴びせるのだった。
「くっ、減らせ!」
「一機でもだ!」
こう言い合いながら。
「とにかく敵の数を減らせ!」
「ゴライオンを援護しろ!」
「わかってる!」
「喰らえ!」
総攻撃が続く。ガルラ帝国の損害は増す一方だ。しかしであった。
ガルラ帝国軍は殆ど特攻になっていた。そのまま攻撃を浴びせる。ゴライオンも遂に右の膝をついた。いよいよ駄目かと思われた。
しかしここでアムロが吠えた。
「やらせるかっ!」
吠えると共にフィンファンネルを放ち。
それでゴライオンの前の敵を一掃した。それが最後の合図となった。
「よし、今だ!」
「今こそ!」
ロンド=ベルはガルラ帝国の最後の軍に向かって総攻撃を開始したのであった。
その最後の攻撃で遂に彼等はその軍を消滅させた。文字通りの消滅だった。
「終わった・・・・・・」
「何とか・・・・・・」
皆まずは安堵したのだった。
「ゴライオンは?」
「それで無事なのか?」
「あ、ああ」
黄金が彼等の言葉に答えた。
「何とかな。無事だ」
「銀が。傷を負っているけれどな」
「そうか、無事か」
「皆助かったんだな」
まずはそのことに安心するのだった。
「生きているのならな」
「よかった」
まずはそのことに安堵するのだった。
「けれど銀」
「大丈夫なの?」
そのうえで銀を気遣うのだった。
「本当に。傷は」
「いいのか?」
「ああ、何とかな」
痛みに堪えていたがそれでも答えは返ってきたのだった。
「大丈夫だ、済まない」
「だったらいいけれど」
「無事なら」
「とにかく。ガルラ帝国は退けた」
「後は」
「あの戦艦ね」
シンクラインの乗る戦艦を見据える。しかしここでその戦艦は反転したのだった。
「撤退した!?」
「一隻になったら」
「あれが皇太子シンクライン!?」
ここで彼等はファーラの言葉を思い出すのだった。
「ここで逃げるのが」
「部下にだけ犠牲を強いて」
「はい、そうです」
その問いに答えたのはやはりファーラであった。
「シンクラインとはああいう男なのです」
「部下に犠牲を強いておきながら」
「自分だけは」
「だからです」
また言うファーラであった。
「まさに外道です。彼こそは」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
「そうだな」
皆その言葉に対して頷くのだった。
「自分だけ逃げるなんて」
「何て奴だ」
「どうやら。あいつだけは何とかしなくちゃいけねみたいだな」
甲児が険しい顔になっていた。
「この俺の手で。ギッタンギッタンにしてやりてえもんだぜ」
「そうだな」
彼の言葉に鉄也が頷いた。
「俺も甲児君と同じ意見だ」
「鉄也さん」
「俺もああした人間は好きじゃない」
「僕もだ」
そして大介もそれは同じなのだった。
「皇太子シンクライン。何があっても」
「そうですよね。何かこの世界に来てこれだけ怒ったことははじめてだぜ」
「そうなんですか?」
これに異議を呈してきたのはテッサであった。
「甲児さんしょっちゅうなのでは」
「しょっちゅうっておい」
彼は今のテッサの言葉にはすぐに反論した。
「それじゃあ何か俺がいつも怒ってるみてえじゃねえかよ」
「はい」
テッサのその天然が続く。
「違うのですか」
「違うよ。俺だってな」
「ああ、馬鹿だから」
ここで横からアスカが言う。
「こいつ馬鹿だから。気にしないで」
「馬鹿って」
「文字通り馬鹿だから」
いつものアスカの調子であった。
「気にしないでいいから。馬鹿が叫んでるって思えば」
「はあ」
「おい、ちょっと待てよ」
甲児は今度はアスカに対して言った。
「誰が馬鹿だ、誰が」
「あんたに決まってるじゃない」
「手前!毎回毎回同じことばかり言いやがって!」
「本当のことなんだから文句言わないの!」
「何が本当だ何が!」
甲児も全く引かない。
「俺は自分でUFOだって作れるんだぞ!」
「あんなチャチな円盤で何喜んでるのよ!」
「あれの何処がチャチだおい!」
「攻撃受けたら一発じゃない!」
「回避するんだよそんなのはよ!」
「あんたみたいにバカスカ喰らって何ぼの人間が言っても説得力ないわよ!」
「御前のエヴァだってそうじゃねえか!」
ここでアスカもヒートアップしてきた。
「あたしのエヴァはフィールドあるからいいのよ!」
「俺のマジンカイザーだって無敵だ!」
「その割にはいつもいつもどんだけダメージ受けてるっていうのよ!」
「極限でも勝つんだよ!」
しかも喧嘩を続けるあまり話のあちこちに矛盾が生じてしまっている。
「俺はな!」
「最近いるだけじゃない!」
「誰がいるだけだ誰が!」
「あんたよ!」
「とにかくです」
テッサはとりあえず二人をそのままにして一同に言ってきた。
「戦いは終わりました」
「はい」
「まずはゴライオンの修理と」」
「そうですね。あのダメージはかなりのものです」
エキセドルが応えてきた。
「すぐに大規模な修理にかかりましょう」
「後銀さんですが」
「はい、わかっています」
エキセドルはその言葉にも応えるのだった。
「それでは。すぐに」
「はい、御願いします」
こうしてゴライオンの修理と銀の傷の手当てに入った。その傷は決し浅いものではなかった。
「危ないところだったわ」
リツコが言うのだった。
「あと一歩遅かったらね」
「死んでたっていうのね」
「そういうことよ」
真面目な顔でミサトの言葉に答えた。
「本当にね。手遅れになるところだったわ」
「そうだったの」
「傷もかなり深かったし」
こうも言うのであった。
「暫くは絶対安静よ」
「じゃあ暫くゴライオンは」
「そうね。四人で戦うことになるわね」
黄金に対しても答えたのだった。
「当分の間はね」
「そうですか」
「とにかく。無理は禁物よ」
これが銀にも他のゴライオンのメンバーにも告げた言葉であった。
「何があってもね」
「わかりました。それじゃあ」
「今は」
「四人だけれど頑張ってね」
また言うリツコだった。
「暫くはね」
「わかっています」
「銀の分まで」
それを誓い合う四人だった。
「やってみせますよ」
「何があっても」
「とりあえず命は無事だから」
リツコはそれは保証したのだった。
「それは安心してね」
「わかりました」
「それじゃあ」
「他はね。今回は何もなかったわね」
ゴライオンの面々に話したうえで今度はこう言ったのだった。
「特には」
「ええ、そうね」
ミサトが彼女の言葉に頷いた。
「とりあえずはね」
「それにしても。ガルラ帝国もね」
「大ボス登場ってところかしらね」
「少なくとも皇位継承者が出て来たってことはね」
「彼等も本気ってことね」
「そうね」
それは確かにわかるのだった。言うまでもないことであった。
「さて、ここでガルラ帝国も本気になったし」
「どうなるかしら」
「何、敵がちょっとだけ増えただけさ」
フォッカーはここであえて楽観的に言ってみせた。
「その分撃墜数が増えるってな」
「少佐・・・・・・」
「今までだってそうだったじゃねえか」
フォッカーのそのあえての言葉は続く。
「そうじゃないのか?いつもな」
「言われてみればそうですが」
「それでも」
「修羅の時でも思い出せばいいさ」
また言うのだった。
「あの時だってそうだっただろ?」
「敵の規模はですか」
「そうさ。バルマーだってな」
今度はあちらの世界の話であった。
「数で来たんだ。もう驚いたり過剰に警戒することはないさ」
「そうですか」
「結局のところは」
「落ち着いて向かえばいいのだ」
そして今度はこう言った。
「確実に倒す。それだけだ」
「そうですね。それでは」
「今まで通りで」
「ただしよ」
今度はクローディアが話に入って来た。
「ロイ、今まで通りでも確かにいいけれど」
「ああ」
「油断はしないで」
こう釘を刺してきたのだった。
「それはね」
「油断大敵ってわけか」
「これはちょっとね」
彼女の顔は普段とは少し違ったものになっていた。
「普段と意味が違うけれど」
「!?どういう意味だ?」
「ほら、ゴライオンのことよ」
彼女が言うのはそこだった。
「ゴライオンだけれど」
「あのやり方か」
「そういうこと。普通じゃないわ」
「そうね。それは確かにね」
ミサトもクローディアの言葉に真剣な顔で頷いた。
「尋常じゃない方法だったわね。あれは」
「犠牲を顧みずにゴライオンだけを狙う」
未沙も来た。
「あんなやり方ははじめてよ」
「つまり今回バルマーはあれですね」
輝も言うのだった。
「どれだけ犠牲を払ってもゴライオンだけを倒そうとした」
「そういうことになるわね」
「普通じゃないっていうかな」
ヒビキは首を捻りながら述べた。
「犠牲は何とも思わないっていうのか」
「そうなんだろうな」
霧生の言葉はかなり突き放した感じであった。
「結局のところはな。奴等はな」
「けれどあれよ?」
レトラーデが霧生に反論する。
「今までガルラ帝国ってそんな戦術執らなかったじゃない」
「そうね。それはね」
ミスティがレトラーデのその言葉に同意した。
「なかったわね。確かに」
「それがどうして急に?」
「答えは一つしかねえよな」
マックスに対してイサムが告げた。
「ですね。それじゃあ」
「そのシンクラインって奴だ」
「それでは王女」
「はい」
ガルドがファーラに問い彼女もそれに応えてきた。
「そのシンクラインはそうしたやり方は」
「普通に執ります」
嫌悪感と共の言葉であった。
「他人を何とも思いません。ですから」
「そういうことですね」
未沙が彼女の言葉に頷いた。
「だからこそあれだけの損害を出そうともですか」
「そうです。己のことだけを考えて作戦を立てます」
「冗談抜きで最低の奴ってわけですね」
柿崎も嫌悪感と共に述べた。
「ってことは」
「そうです。まさに最低の人間です」
「そんな奴が相手でよくゴライオンは今まで」
「生きてこられたものだな」
シルビーとネックスはそこにも考えを及ばさせたのだった。
「だからこそあれだけ強くなったのかしらね」
「かもな」
「何度も死線を脱しました」
これがファーラの返答だった。
「地球に来るまでに」
「そうですか。やはり」
ミレディは彼女のその言葉に納得した顔で頷いた。
「よくここまで」
「その彼がここに来た」
またシンクラインの話になった。
「我々にとって。大きな脅威です」
「とにかくです」
金竜の声は重厚なものになった。
「ゴライオン、そして銀の傷は深いです」
「はい」
「今は絶対に安静です」
「そうですね。それは」
「暫くの間は」
ガムリンとフィジカが彼の言葉に頷く。
「彼等には休んでもらいましょう」
「さもないと本当に」
「あいつはそれでも戦いたいみたいだけれどな」
ドッカーは銀のことを話した。
「どうやらな」
「無理にでも止めるさ」
これがフォッカーの考えだった。
「さもないと本当に死ぬからな」
「そうね。あの傷じゃね」
ミサトが深刻な顔になった。
「彼、今出撃したら本当にまずいわよ」
「ゴライオンはあれですよね」
リツコはファーラに対して問うた。
「五人揃わないとやはり」
「そうです。本来の力を出せません」
やはりそういうことであった。
「ですから。今は」
「わかりました。それではです」
また未沙が言う。
「ゴライオンは暫く欠場です」
「出さないのですね」
「はい。万全の戦力で挑むべきですから」
「いえ、それもそれでまずいわよ」
がだそれにはリツコが反論した。
「まずいって?」
「戦力がね」
彼女が言うのはこの問題だった。
「ないじゃない。今は」
「敵の数が今回もかなり多いのはわかっているけれど」
「だから。一機でもいないとなると」
「それはわかってるわよ」
参謀としてこの程度のことはわかっているミサトだった。
「けれどね。それでも」
「ゴライオンは出せないのね」
「仮に四人でゴライオンを出したらね」
「ええ」
「銀君も絶対に出ようとするわよ」
彼女が危惧しているのはそれだった。
「絶対にね」
「それじゃあ。そうなったら銀君は」
「死ぬわ」
当然の答えだった。
「間違いなくね」
「そうね。出たらね」
「だからね。今は」
「わかったわ。じゃあゴライオンは暫くね」
「出せないわ」
これはどうしても外せないのだった。
「どうしてもね。わかったわね」
「ええ。わかったわ」
リツコもこれで納得したのだった。
「それじゃあやっぱりね。ゴライオンはね」
「そうよ。当分の間欠場よ」
こうしてゴライオンは欠場ということになった。彼等にとってはかなり痛いことだが止むを得ないことであった。そのうえでさらに東京ジュピターに進むのだった。
そしてこの時ガルラ帝国では。シンクラインが将官達を前に話をしていた。
「ゴライオンだが」
「はい」
「まずはかなりのダメージを与えたな」
「はい、それは」
「かなりのものかと」
彼等もそれは充分に察していたのだった。
「では殿下。これより先は」
「どうされるのですか?」
「ここからが本番だ」
彼は傲慢な笑みを浮かべて言うのであった。
「ここからがな」
「といいますと?」
「何かお考えが」
「そうだ。さらに攻める」
こう告げるシンクラインだった。
「ここでな」
「といいますと殿下」
「さらなる攻勢をですか」
「そうだ。しかしだ」
彼はここでさらに言葉を続けてきた。
「攻めるのはロンド=ベルではない」
「!?殿下」
「それは一体」
「どういったことですか?」
「何も軍を攻めるだけが戦争ではない」
笑みは邪悪なものになっていた。
「軍をな」
「ではやはり」
「いつも通りですか」
「そうだ。いつも通りだ」
こう話すのであった。
「いつも通りだ。私のやり方でな」
「左様ですか」
中にはこれで顔を曇らせたものもいたがそれは一瞬で消したのだった。
「それでは殿下。今度の攻撃は」
「その様になのですね」
「確かオーストラリアという地域があったな」
彼はまた言った。
「そこがいいな」
「そこですね」
「では早速」
「そしてだ」
彼はさらに指示を続けてきた。
「ガルラ帝国の全軍を集めるのだ」
「!?殿下まさか」
「全軍ですか」
「ガルラ帝国の」
「そうだ」
冷徹な声で彼等に告げるのだった。
「全軍をな。この地球にな」
「今宇宙に展開しているガルラ帝国の全軍を」
「この地球にですか」
「私は二度は言わない」
また冷徹な声で告げたのだった。
「わかったな」
「は、はい」
「それでは」
「わかったならば伝えよ」
シンクラインの言葉はさらに続いた。
「全軍にな」
「はい、それでは」
「そのように」
彼等は頷くしかできなかった。何しろシンクラインの言葉は絶対だったからだ。少しでも逆らえばどうなるかは言うまでもなかった。
「さて、ゴライオンよ」
シンクラインはここでまた邪悪な笑みを浮べた。
「そしてファーラ姫よ。私の前に跪くがいい」
こう哄笑するのだった。彼の邪悪な策略が蠢こうとしていた。
第百三話完
2009・1・3
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