久遠の神話
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第三十七話 人との闘いその四
「それも充分な。それじゃあな」
「次はですか」
「いや、俺と闘うとばかり限らないだろ」
「それはそうですが」
「もっと強くなれよ」
それじゃあ、の後はこうなる言葉だった。
「今よりもな」
「強くですか」
「俺は負ける気はないさ」
このことは前置きする。絶対にものだというのだ。
「何があってもな。けれどな」
「僕には強くなって欲しいんですか?」
「甘いっていうか剣道の変な影響かね」
中田は微妙な苦笑いにもなる。ここでは。
「相手が強くなることはいいって思うんだよ、俺は」
「スポーツマンシップでしょうか」
「いや、武道だからな剣道は」
「それでは武士道でしょうか」
「そうなるか?俺はな」
「ならいいんじゃないでしょうか」
「俺にとってか。そうだよな」
言われてだ。中田も笑顔で頷いたのだった。
そしてそのうえでだ。彼はまた上城に告げた。今度告げることは。
「悪いことじゃないのは確かだよな」
「はい、そう思います」
「まあとにかくな。俺は君が強くなることは歓迎するさ」
「有り難うございます」
「おいおい、そこでお礼はないだろ」
このことは否定した。すぐに。
「俺も強くなるからな」
「中田さんもですか」
「当たり前だろ?俺には適えたい願いがあるからな」
笑みを浮べての言葉だった。だがその笑みの裏には確固たる決意があった。彼にとっては何があっても適えなければならない、そのことに対する決意が。
しかしその決意については言わずだ。彼は今はこう言うだけだった。
「だからな」
「じゃあ僕達はお互いに強くなっていって」
「また会おうな」
剣士としてだ。そうしようというのだ。
「勿論普通に会うこともあるだろうけれどな」
「その時は」
「ああ、その時は普通に付き合おうな」
剣士としてではなく大学生と高校生としてだというのだ。これまでの二人の交流だった。
「そうしような」
「あっ、それでいいんですか」
「いいっていうか何でもそう力を入れるとな」
それはだ。どうかというのだ。
「疲れるだろ。だからな」
「剣士として会わない時はですか」
「ああ、そうすればいいだろ」
こう言うのだった。上城に対して。
「それじゃあ今度はひょっとしたら普通に会うことになるかもな」
「その時はですね」
「普通に何か食おうな」
戦いではなく交流。それをしようというのだ。
「それでな」
「わかりました。それじゃあその時は」
こう話してだった。二人は。
今は笑顔で別れた。そうしてだった。
上城は樹里、そして聡美と別れた。中田はバイクで何処かに去った。
その彼を見送ってからだ。こう二人に言ったのである。
「何か不思議だね」
「中田さんのこと?」
「あの人のことが」
「うん、闘い合って殺し合う関係なのに」
あえてだ。上城は殺し合うという言葉も使ってみせた。
そしてそのうえでだ。言うのだった。
「中田さんはこれまで通り付き合ってくれるし」
「闘いが終わればね」
「いつもと同じだったよ。いや」
すぐにだ。彼は自分の言葉を訂正した。
「闘っている間もね」
「そうね。同じだったわね」
「本当にいつもと同じだったよ」
こう言うのだった。
「何も変わらなかったよ」
「不思議よね。何か」
「中田さんの個性なのかな」
上城はこう考えた。中田との関係、殺し合う関係とは思えない砕けた関係についてだ。まだ高校生の彼には首を傾げざるを得ないことだった。
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