久遠の神話
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第三十七話 人との闘いその五
「やっぱり」
「そうじゃないかしら」
樹里もだ。首を捻って言うのだった。
「中田さんってああして気さくな人だし」
「物腰とか変えない人だからね」
「だからじゃないかしら」
こう言うのだった。樹里も。
「そう思うけれど」
「そうなのかな。けれど強かったよ」
溜息と共にだった。上城は彼の強さについてはこう述べたのだった。
「それもかなりね」
「そうよね。私も見ているだけだったけれど」
「村山さんもわかったんだ」
「ええ」
樹里は上城にこう返した。
「そのことはね」
「そうだよね。それを考えたら中田さんって」
どういう人間かとだ。上城はその樹里に話した。
「凄いっていうかね。器かな」
「人としての器よね」
「凄いと思うよ」
中田の器を見たのだ。ここで。
「戦って殺し合う相手でも。一旦剣を収めたら」
「そして戦う間もね」
「憎しみとかなくて接してくれるから」
「そうした人って普通いないわよね」
「しかも僕が強くなることもいいっていうからね」
敵が強くなることもだ。中田はいいと言った。そのことも言ったのである。
「普通そうした人いないからね」
「そうよね。けれどどうして」
何故かとだ。樹里はここで複雑な顔になった。
そしてそのうえでだ。上城にこうも言うのだった。
「そこまでの人が戦うのかしら」
「何か適えたいことがあるっていうけれど」
「自分のことじゃないわよね」
樹里はこのことは察することはできた。中田を見て。
「あの人はそうした人じゃないから」
「部活の先生に言われたけれど」
「剣道部の?」
「うん、福田先生にね」
その先生に言われたこと、それはというと。
「人は自分だけのことに必死になってもね」
「そうなっても?」
「それはエゴだけだったら醜いものになるらしいんだ」
「自分ののことしか考えないと」
「ほら、悪いことをしたり続けたり隠したり」
悪からだ。上城は話した。
「そうしたことについては人ってあくまで自分にこだわるよね」
「ええ。私もちょっと」
「僕もね」
こうしたことは二人もわかった。子供の頃とはいえ悪いことを隠そうとしたりして必死になった経験は誰にも経験がある。それ故のことであった。
「何となくわかるわ」
「そうだね。嫌な思い出だけれど」
「そうした時って。自分では気付かないけれど」
「醜くなるみたいだね」
上城は樹里に話す。その過去の自分を思い出しながら。
そうして二人で歩きながらだ。話をしていく。二人は下校につきながら話していく。
「先生はそう言ってくれたんだ」
「自分のことなら」
「必死になればなるだけ」
しがみつく、そうなっていけばというのだ。
「浅ましさとかも出てね。醜くなるってね」
「そう教えてもらったのね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「人の為に、自分以外の為にすると」
その場合はだ。とうかというのだ。
「そのこだわりは一途でいい意味で必死になるってね」
「人の為、自分以外の為だと」
「中田さんは絶対に自分の為には戦ってないよ」
「そうね。それはね」
「だから。誰の為、何の為かな」
「それがわからないわよね」
「僕はさ。戦いを止めたいんだ」
このことはだ。上城の中ではもう決まっていることだった。
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