FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)
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原作開始前
EP.5 幼き想い
前書き
それでは第5話です。
よろしくお願いします。
EP.5 幼き想い
SIDE ワタル
模擬戦の後、色々あった。
まず、左腕の治療。全治一ヶ月という、骨折にしては短いが、家賃の事も考えると……駆け出しには少々厳しい怪我を負ってしまい、俺は固定された左腕を見ながら、どうしたものか……、と頭を悩ませた。
結果、完治するまでは怪我に支障のない、探し物や子供向けの魔法教室などの小さい仕事をそれなりの数受けてこなす、という質素だが無難な策をとった。
俺には旅の途中にちょっとした何でも屋をやって回っていた、という経験があったので、一人でも問題なかったのだが……親交を深めたり、怪我の件もあるし念のため、という目的も兼ねてグレイやカナといった同年代の魔導士と一緒に仕事をこなした。
大きな声では言えないが、過去にギルドに参加していた俺にとっては、初仕事なんてあってないようなものだった。しかし、魔法教室はともかく、届け物や落し物、捜し物なんて魔導士の仕事なのか?
余談だが、カナと二人で仕事に行った次の日はエルザの機嫌が最高に悪くなり、慌てた……という事があった。なんであんなに不機嫌だったのだろうか? そんな顔をしているとギルドの面々から白い目で見られた。何故だ。
次に、俺とエルザの1日遅れの歓迎パーティ。初日が不穏な雰囲気だったため、できなかったが、マスターの言葉と先の模擬戦によって、わだかまりは思ったよりもずっと早く無くなった。
少し肩透かしを食らったような気分になったが、それもこのギルドの特長か、と思い直した。
ただ……宴だからといって真昼間から酒を飲むのはどうなんだろうか?
それと……なんで負けたはずのラクサスが模擬戦の次の日にはピンピンしてたんだ? 勝ったはずなのに負けた気分になったよ……。ホントにタフだな、アイツ……。
そして……俺個人としてはこれが一番嬉しかった。妖精の尻尾に入って1週間ぐらい経っただろうか? エルザの右目が治ったのだ。ここ何日か顔を見ないな、とは思っていたが、目の治療だったのか。
ギルド加入時に女の子の顔に傷があるのは流石に可哀そうだ、って思って「エルザの目を治して欲しい」とマスターにお願いしたけど、こんなに早く治るとは……と思って声を掛けた。
「お……エルザ、目、もう治ったんだな」
「あ、ああ……ワ、ワタル……その……目の事、ありがとう」
顔を赤くして、お礼を言われた。
……いや、目も治ったのは俺も嬉しいし、笑顔はかわいかったと思うよ?
でも、さ……マスター、こういう事は黙ってるのが吉ってものじゃないの……?
そんな事を考えていると、エルザはいかにも落ち込んでます、って顔をして寮に帰っていった。
え、俺のせい?
SIDE OUT
少し遡って東の森、妖精の尻尾、顧問薬剤師ポーリュシカの家。
「ひどい傷だねぇ……応急処置はされてるみたいだけど、これを治すのは骨が折れるね」
「まあ、そう言わずに……せっかく綺麗な顔をしておるのに不憫でのう……」
「む……ちょっと来な」
エルザは、マカロフに連れられてポーリュシカを訪ねていた。
彼女はマカロフの古い知り合いで、腕利きの治癒魔導士である。人間嫌いのため、森の奥に住んでいる。
“綺麗な顔”に反応したポーリュシカは顔を顰めてマカロフの耳を引っ張り、エルザから離して声を潜めて話した。
「痛、痛た!」
「大きくなったら手を出すんじゃないだろうね……」
「とんでもない! あの子には……想い人……いや、憧れか? ……とにかくそういうのがおるわい。目の事もそいつに頼まれたんじゃ」
「フーン……その子の名は?」
「……ワタル、じゃ……そろそろ怖い顔は止めてくれんかの、ポーリュシカ」
ポーリュシカの剣幕にビビッて、個人情報を漏らしてしまうマカロフだった。
彼女は鼻を鳴らすと、次にエルザについて尋ねた。
「フン、で……あの子、どこの子だい?」
「それが……ロブの奴に世話になっていたそうじゃよ」
「ロブ!? あいつ、今どこに!?」
「……亡くなったそうじゃ」
「…………そうか」
ポーリュシカは旧友の名前を聞くと驚いたが、亡くなったと聞くと、顔を歪めたのだった……。
エルザの目の治療を始めて何日か経った。
ポーリュシカは人嫌いだし、エルザもギルドに来たばかりで、ワタル以外には完全に心を開いていなかった。
そのため、この何日かは静かなものだった。
ポーリュシカがエルザの目に巻いた包帯を取ると……
「……どうだい?」
「……治ってる……」
ずっと見えないままだと思っていた右目が見えるようになって、エルザは込み上げる物を抑えきれずに、涙を流した。
「見えているね?」
「は、はい」
「ならさっさと出て行きな……あたしは人間が嫌いでね……っと、そうだ、ワタルって子がアンタの目の治癒を頼んだそうだよ。礼を言っときな」
「ワ、ワタルが!?」
「そうだ……その顔じゃ、想い人っていうのも当たりか?」
「な、なな、なん……!?」
「落ち着きなさいな……ッ!? あんた、その目……右目だけ涙が流れていない?」
エルザは、泣きながらも真っ赤になって狼狽えた。それをからかったポーリュシカだったが……ある事に気付いた。
左目は正常なのに、右目だけ涙が流れていないのだ。
「そんなはずは……薬の調合は完璧だった……」
「……いいんです」
ポーリュシカは薬剤書を急いでめくって原因を探ろうとしたが、他ならぬエルザに止められた。
「……何故だい?」
「私は……もう半分の涙は流しきっちゃったから……」
エルザは赤い顔で泣きながら、でも笑いながらそう言った。
ポーリュシカは、彼女が「半分の涙は流しきっちゃった」と言う程に辛いことがあったのだろうと察し、それ以上は何もせず、何も言わなかった。
――願わくば、彼女の未来が幸せ溢れる物でありますように……
ポーリュシカにはただ祈る事しかできなかった。
想い人……ワタル、といったか? 彼とこれからの未来を幸せに過ごせますように、と……。
SIDE エルザ
ポーリュシカさんに目を治癒してもらい、マグノリアに帰る森の中で、私は考えていた。
ジェラールは、その後ろ姿を見ていることしかできなかった。彼は誰よりも前にいたから、私もそれで良かった。
でもワタルは違う。彼は私の横で歩いてくれる。隣に居るとどこまででも歩いて行けそうだ。それに一度、彼の夢を見た時は心地良く、とても安心した。
……そういえばその時は間近で寝起きの顔を見られたんだった、と思い出し、今更ながらに赤面した。
……一度だけ、ワタルに旅の理由を聞いた事がある。
その時の彼は悲しい顔をしていて、私にはそれが自分に近いように感じて、不謹慎だけど何故か嬉しかった。
魔導士として、私が目標にしている彼は遠いところにいるけど、それが近くに感じて、その矛盾が何だか嬉しい。
彼の隣に居たい、と思うのは……私の我儘なのだろうか?
そして、今日は私の目を治してくれるように頼んでくれた。見えなかった右目はあの塔の忌まわしい記憶の象徴で、それが消えた時は嬉しくて涙が出た。
そして……その治療を頼んだのはワタルだ、とポーリュシカさんに言われた。
何故、と思う前に、“想い人”か、と問われた。……隣に居たい、と言う気持ちを恋と呼ぶなら、ワタルは私の……お、お、想い人、ということになるな。うん。
……そういえばお礼を言うように言われたっけ、と思考を切り替えようとして思い出していると、妖精の尻尾の前に着いていた。考え事をしていると時間が経つのが速く感じるな……。
ギルドに入ってワタルの背中を見つけた。でも……ここからどう話しかければいいのだろうか? 先ほどの考えが頭の中をグルグルと回っていた。そんな事を考えていたからだろうか……
「お……エルザ、目、もう治ったんだな」
ワタルの方から話しかけてきた。
急に話しかけられて、心臓が大きく脈打ち、顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。
「あ、ああ……ワ、ワタル……その……目の事、ありがとう」
ああ、口ごもってしまった! 伝わったのだろうか、と思って恥ずかしかったけどワタルの顔を見ると、呆れたようながっかりしたような表情を浮かべていた。
私はショックを受けて寮に帰って寝込んでしまった。
ワタルのバカ……。
SIDE OUT
= = =
右目が完治したエルザはその翌日、漸く、初仕事に出る事にした。
もちろん初仕事は昨日の挽回のつもりで、ワタルを朝食中に誘ったのだが……ワタルは右手一本で器用に食べながら断った。
当然エルザは理由を聞いた。
「何故だ?」
「だから……言ってるだろ。別にお前と行くのが嫌って訳じゃない。でも、初仕事は妖精の尻尾の習慣とかあるかもしれないから、それをよく知ってる人と行くべきだって」
「ワタルは知らないのか?」
「完全に知ってる訳じゃない。今も勉強中だよ……そういう訳だから、カナ! 頼む!」
「えっ……わ、私!?」
「ああ、グレイでもいいが……同性の方がエルザも緊張しないで済むだろ?」
「お、おい……勝手に決めるな!」
同席していたカナは困惑し、エルザも抗議した。もう一人同席していたグレイは我関せずのようだ。
因みにグレイやカナとは、ギルド内で年が近いこともあり、特に怪我をしている今は一緒に仕事に出ることが多く、必然的によく話すようになったのだ。
「なら、エルザはこれから毎日ずっと俺と過ごすつもりか? ギルドにいる以上それは無理だ……っておい、どうした?」
「毎日、ずっと!? いや、そんな……でも、ワタルが言うなら……」
ワタルの言葉の前半を聞いたエルザは顔を真っ赤にしてショートしてしまった。
「……えい」
ピンッ!
「痛っ! 何をする!」
「でこピン。後、それはこっちの台詞だ。……体調でも悪いのか?」
「……大丈夫だ」
「そうか……って何だ、お前ら」
エルザとの問答を終えたワタルはグレイやカナの視線が白いものに変わった事に気付いた。
「別に……」
「エルザも大変ねぇ……仕事、行く? 」
「あ、あぁ……頼む」
結局カナの方からエルザに申し出て、エルザがそれを受けて初仕事に行った。
「なんか、釈然としない……」
「自分の行動を振り返れよ」
「……お前に言われたくないわ、半裸」
「あれぇ!?」
もう当然のようにパンイチになっているグレイにワタルは何時ものように指摘すると、クエストボードに向かって歩いて行った。
――ま、これで少しは打ち解けられるといいんだけどね……。
「マスター、この仕事行きます」
「おう……チューリィ村の時計塔の掃除か。……しかし、お前さんもよくコツコツやっとるのぉ」
「まあ……怪我が治るまでは大人しくしときます。忍耐も修行ですから」
「……ギルドのモンも見習って欲しいものじゃな、その姿勢。物を壊し過ぎじゃ、アイツら……」
「ハハハ、じゃあ行ってきます」
少し雑談をしたのち、マカロフは評議員からの書類を振ってため息を吐き、ワタルは苦笑して荷物を持ってギルドを出て行こうとした。
「ああ、少し待て」
「……何ですか?」
マカロフに呼び止められたワタルは振り返り、尋ねた。
すると、マカロフはニヤッと笑って言った。
「なんでエルザの初仕事に付き合わなかったんじゃ?」
「……何でそれを聞くんですか?」
「なーに、年寄りの冷や水と思ってくれ。……何故じゃ?」
興味本位だ、と言うマカロフに、ワタルは少し考えると言った。
「なんで、って言われても……俺よりもここの仕事に詳しい人が行った方がいいし、それに……」
「ほう、それに?」
続きを促したマカロフに、ワタルは困って頬を掻くと続けた。
「ここに来て一週間になりますけど……エルザ、俺以外とは喋ろうとしないんですよ。ここはエルザが望んだギルドなんですから、せめて俺以外と話せるようにはなれって考えたんですけど……、どうしたんですか?」
ワタルが答えると、マカロフは少し考え込んでいた。それをワタルが尋ねると、
「……ふむ、おまえさん、エルザを無意識に遠ざけようとしとらんか?」
「は? ……そんなことないと思いますけど……」
マカロフの問いに、ワタルは少し面喰って答えた。
「……ならいいわい。仕事、頑張れよ」
「……はい、行ってきます」
ワタルはマカロフの問いに少し違和感を覚えたが、気を取り直して仕事に行こうとした。
「ギルドはわしらにとっては家族じゃ。それはお前も変わらん。よく覚えておけ」
「……分かりました。ありがとうございます、マスター」
マカロフがワタルの背中に掛けた言葉が届いたかどうかは、マカロフには分からなかった。
SIDE ワタル
――家族、か……
列車に乗って依頼主の方に向かっている俺はマスターの言葉を考えていた。
家族――それは俺にとって失ったものだ。失ったから旅を始めた……いや、始めなければいけなかった。
俺の出自は大陸の西部ではあまり縁起の良いものではない。旅の途中では町の人間にはいい顔をされなかったし、時には追い出されたこともあった。
エルザと会ったのは、そんな生活に慣れてきた頃だった。偶々出会った彼女はひどく傷付いていて、正直見過ごせなかった。
見つけて治療したのは、見過ごせなかった、で説明できる。でも……
――なんで旅まで一緒にしたのか……。
そこが俺にはよく分からなかった。女の子が1人で旅するのは危ない、と言ったけど……それは果たして本心だっただろうか?
1人が寂しくなった? 何を馬鹿な、今までも1人だったくせに。
誰かを助けて自尊心を満たしたかった? アホか、そんな自尊心はあの日に消えた。
あいつに惚れた? それこそ馬鹿な、疫病神の俺が誰かに恋したなど三文小説だろう。
ならば……いったい何故?
「分かんねぇなぁ……」
俺の疑問の答えを待たずに、列車は進んでゆく……。
後書き
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