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FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
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原作開始前
  EP.4 模擬戦 VS 妖精の尻尾

 
前書き
 それでは第4話です。
 よろしくお願いします。 

 
EP.4 模擬戦 VS 妖精の尻尾
 
 翌日の朝。
 ワタルは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドの前に立って、グレイと相対していた。
 周りにはギルドの面々が立っており、双方に野次を飛ばしていた。
 
「がんばれよー」「グレイ、負けんじゃねーぞ!」「がんばれ新人、俺の酒代のために!」……

 ……どうやら賭け事も行われているようだが、ワタルは気にしていなかった。
 
「エルザ以外と戦うのは久しぶりだな……」
 
 昨日のあの後、マスターが何か言ったのか、ワタルに対してあからさまな敵意を向ける者は、グンと少なくなった。
 ワタルはそのことに感謝しつつ、野次の中に聞き慣れた声が混じっていることに気が付いた。
 
「負けるなワタル、そんな変態伸してしまえ!」
「変態言うな! ったく、あいつお前の連れだろ? 何とかしてくれよ……」
「……服脱ぐ癖治した方がいいと思うよ、俺も」
 
 軽口を叩き、ガクッ、と凹むグレイを見ながら、ワタルは緩ませた気を引き締めた。
 
――エルザ(あいつ)が見てるんだ。格好悪いところを見せる訳にはいかないな……。
 
「よし、じゃあ始めるぞ、新人!」
「ああ、待った」
「……何だよ?」
 
 ワタルが待ったを掛けるとグレイはコケそうになった。
 ワタルはそれに構わずに、両手の掌を合わせて一礼した。
 
「何だ、それは?」
「まあ、戦いの前の挨拶みたいなものかな? ……よし、いいぞ」
「では……両者とも準備はよいな……では、ワタルVSグレイ……始めぃ!!」
 
 グレイも立ち直ったようで、審判であるマカロフの号令とほぼ同時に、掌に拳を当てて魔力を練り上げた。
 その魔力を感じ取ったワタルは、足に魔力を集中させた。
 
――来るか……前方、数は4!
 
「アイスメイク……”槍騎兵(ランス)!!」
 
 迫りくる4つの氷の槍に、ワタルは横っ飛びで躱し、集めた魔力を爆発させて一気に前に出た。
 
「なっ、速い!」
「“新人”じゃない……」
 
 ワタルはグレイの顔めがけ、何の魔力も持たない普通の拳を勢いよく繰り出しながら言った。
 
「“ワタル”、だ!!」
「グッ……!」
 
 グレイは手で防御したが、衝撃を完全には殺せず、少し後ろに跳んだ。
 
「く……やるじゃん、新人……いや、ワタル!」
「今のは挨拶代わりだ……今度はこっちから行くぞ!」
「ハッ、来いよ!」
 
 ワタルはそう言うと、鎖鎌を出して構え、片方を投げた。
 
「フンッ、行け!」
「アイスメイク(シールド)!」
 
 ワタルの投げた鎌はグレイの前に現れた氷の盾に弾かれたため、ワタルは鎖鎌から忍者刀に換装して、氷の盾の前まで走った。
 そして次の瞬間、忍者刀の効果で上がった身体能力によって力強く地を蹴って跳んだ。
 
「何っ!? どこに……!?」
 
 グレイには、あまりのスピードにワタルが消えたように見え、驚いて周りを見た。
 
――右、いない! 左もいない! なら……
 
「上か!? アイスメイ……グアッ!」
「いい反応だが……遅い!」
 
 グレイはワタルが氷の盾の上を跳んだ事に気付き、魔法を使おうとしたが……それより早くワタルの踵落としが肩に入り、怯んでしまった。
 続いてワタルはグレイの腹を、足の裏で突くように蹴って吹き飛ばした。
 
「グッ……なかなかやるな」
「どうも……お前の造形魔法もなかなか素速いじゃないか」
「ハッ、そりゃどうも……それと“お前”じゃない。“グレイ”、だ」
「……そうだな、グレイ」
 
 似たような掛け合いに、両者ともにやりと笑った。そして……
 
「ハァアアアアアアアア!!」
「シッ!」
 
 グレイは叫び、ワタルは短く息を吐きながら同時に地を駆け、距離を詰めた。
 
 
 
 
――いつまで手を抜いているつもりなんだ、ワタルは……。
 
 一方、エルザは不満を抱いていた。
 何度かワタルと模擬戦をしていたエルザは、グレイと殴り合いを演じている彼が本気でない事に、とっくに気づいていた。
 
「なかなかやるな、あの新人」
「ああ、グレイはウチの期待のルーキーだ。それと互角なら……」
 
 観客の真っただ中にいたエルザは、その声に反応して声を張り上げた。
 
「互角なものか……ワタル! いつまで手を抜いているつもりだ、本気でやれ!!」
 
 
 
 
「いつまで手を抜いているつもりだ、本気でやれ!!」
 
 響いたエルザの声に、ワタルは頭を掻いた。
 
「あーあ、ばれちゃった」
「お前、本気じゃなかったのか!?」
 
 グレイは、手を抜いて戦っていたワタルに対して怒りの声を挙げた。
 それに対して、ワタルは拳をバキバキと鳴らしながら答えた。
 
「まあな……流石に始めから本気だとつまらないし、な」
「なんだと!?」
「まあ、準備運動はこんなものでいいだろ。……ここからは本気、だ!」
「なに……ッ!?」
 
 本気だ、と言ったその次の刹那、ワタルは既にグレイの懐にいた。
 グレイはそのスピードに驚いて、腹に力を入れたが……
 
「無駄だ……“魂威(こんい)”!!」
 
 バチッ!
 
「ガハッ!?」
 
 ワタルの、直接魔力を放出させる“魂威”は、鋭い音と共にグレイの腹に炸裂し、その防御を無視して5mほど吹き飛ばした。
 グレイは……そのまま起き上がれずに呟いた。
 
「グ……イッテェ……ホントに本気じゃなかったんだな……」
「まあな……どうする? 続けるか?」
「……いや、やめとくよ。動けそうにない……参った、降参だ」
「勝者、新人・ワタル!」
 
 グレイの降参にマカロフが声を張り上げ、ワタルは始まりと同じように一礼した。
 周りの者はワタルに拍手したり、賭けに勝ったことを喜んだり、逆に負けて落ち込んだり、と様々だった。
 
「やるじゃねえか、あの新人!」「グレイに勝つとはな……」「くそー、負けた~!」「大穴だったな…」……
 
 エルザも観客から飛び出し、ワタルに向かって走った。
 
「流石だな……でも手抜きはないだろう、手抜きは」
「あ、あはは……まあ、様子見だったって事で。……ホラよ、立てるか?」
 
 ワタルはエルザの言葉に冷や汗を流しながら、グレイの前まで歩いて手を差し出した。
 
「あ、ああ、サンキュ」
 
 グレイはその手を取り、ふらつきながらも立ち上がった。
 
「おいおい、大丈夫かよ……」
「やった本人が言うことかよ……」
「ははは、それもそうか」
 
 ワタルが笑って言うと、グレイも少し笑って、好戦的に言った。
 
「ふー、お前強いな……でも覚えとけ、次は勝つ!」
「ああ、楽しみにしてる……よ!」
「なっ!?」
 
 ワタルはグレイと右手で握手しながら、感じた魔力と悪寒に左手を横にかざして“魂威”を撃ち……飛んできた雷撃(・・)を逸らした。
 
「へえ、今のを防ぐか……本気じゃなかったっていうのは本当みたいだな」
「……そんなに闘気を放っていれば嫌でも気づきますよ。それに、まだグレイがここにいるのに攻撃を仕掛けたのは不意打ちじゃないと攻撃を当てられないからですか……先輩?」
「ほお……言うじゃねえか……、新人」
 
 観客から出てきたのは、ヘッドホンをした、金髪で右目に傷を持つ15,6歳ぐらいの少年だった。
 そして、何よりも特徴的なのは……“目”だった。
 他者を威圧し、自分の方が上だ、と慢心なく言い切れる強さと誇りを湛えた、好戦的且つ野性的な目は、ワタルの背筋を緊張させ……誰かを思い出させた。
 
「ラクサス! 危ねえじゃねえか!」
「ラクサス……?」
 
 グレイの怒鳴り声で、ワタルは少年の名を知り、そしてその少年・ラクサスが言った。
 
「避けられない方が悪いんだよ。……そうだ、ラクサス・ドレアー。妖精の尻尾最強の魔導士候補の一人だ」
「最強……ね。俺はワタル・ヤツボシ、新人だ。……その新人に最強候補が何の用です?」
「言わなくても分かると思うがな……」
「……連戦なんですけど……」
「手加減してたんだろ? ならいいだろ、別に」
「……まあ、いいか……グレイ、エルザ、下がってろ」
 
 マカロフを見ると、辟易とした表情をしており、ラクサスが戦闘狂(そういう奴)であることは大体分かったので、ワタルは戦闘を避ける事はできないと判断し、ラクサスの挑戦を受けた。
 グレイが観客に紛れて下がると、同時に観客も少し下がったのが分かった。
 
――なるほど、それだけコイツの魔法の威力が凄まじいって事か……。
 
 さっきの電撃の威力は当てにならないな、とワタルは考えて、戦術の構築を始めた……だが、分からない事が多すぎたため、すぐに放棄した。
 
――ま、ぶっつけ本番で何とかするか……。
 
「おい、ジジィ! 審判頼むぞ!」
「はあ……分かった分かった……。ワタル、すまんが頼むわい」
「了解……ホラ、エルザも下がれ」
「あ、ああ……負けるなよ、あいつ強いぞ」
「ああ、分かってるよ」
 
 エルザの言葉に笑って返すと、エルザも笑って観客の方に下がった。
 
「女の相手とは、ずいぶん余裕だな、新人」
「“ワタル”です。名前、知ってるでしょ? ラクサス先輩」
「フン……認めさせてみろ。話はそれからだ」
「はいはい……」
 
 ラクサスはヘッドホンを外し、ワタルは気を引き締めて、一礼した。
 この場に闘気が充満し、誰かの飲んだ唾の音さえ明瞭に聞き取れた。
 そして……
 
「では……ワタルVSラクサス、始めぃ!!」
 
 マカロフの号令が響き、ワタルは走りだした。
 
「ハアッ!」
「フンッ!」
 
 ワタルの拳を、ラクサスは掌で防御し、カウンターの要領で雷を纏った拳を繰り出した。
 ワタルはそれを掌の“魂威”で受け止め、握りしめた。
 
「力比べか、面白ェ!」
「グッ!」
 
――力はやつの方が上か!
 
 互いが互いの拳を思い切り握りしめると、力勝負は不利、と判断して、ワタルはラクサスの腹に魔力を集中させた蹴りを入れて距離を取った。
 
「ガッ!」
「痛てて……なんて力だ、まったく」
「力には自信があるんでな……行くぞ!!」
 
 ワタルは拳に戦闘に支障はない程度だが痛みを感じ、ラクサスの力に驚いた。
 対してラクサスは、雷を体に纏いながら距離を詰め、ワタルの脇腹目掛けて中段蹴りを放った。
 
「オラァ!!」
「ッ!」
 
 しゃがんで蹴りを躱したワタルは掌に魔力を集中させた。
 
「“魂威”!」
 
 そしてラクサス目掛けて放ったが……
 
「何!?」
 
 ワタルの“魂威”はラクサスが身体を雷に変えて回避したことで外れ、周囲にバシッ、という音だけを炸裂させた。
 だが……ワタルの優れた魔力探知能力はラクサスを逃していなかった。
 
「ッ、フッ!」
「なっ!?」
 
 死角となった上から後頭部への膝蹴りを身体の軸を逸らすことで紙一重で回避。そして……
 
「セイッ!」
 
 カウンターで左手の“魂威”を、振り向く時の回転を利用してラクサスの腹に当てた。
 
「グッ! ……見えてるってのか!?」
「逃がすかっ、受け取れっ!」
 
 たまらず距離を取ったラクサスに対し、ワタルは巨大な手裏剣を出して追撃した。
 
「てめえがなっ!」
 
 ラクサスはこれに反応、電撃で手裏剣を弾き……そのままワタルを攻撃した。
 
「ッ! 何!? グアッ!」
 
 ワタルは慌てて電撃を掌の“魂威”で防御しようとしたが……収束が足りずに完全に防御できず、何割かダメージを受けて後ろに跳んだ。
 空中で体勢を整え、何とか着地したワタルは今までの感触から分析し、考えた。
 
――パワーはやつの方が上。スピードも雷になれる以上、瞬間的な速さも負けてる。勝ってるのは……瞬発力ぐらい、か。……一発大きいのを当てるには小技が必要だな。
 
「どうした、そんなもんか!?」
「……」
 
 ラクサスの挑発に応えることなく、ワタルは静かに鎖鎌を出して構え、左の鎌を投げた。
 その鎌を、雷を纏った拳で弾いたラクサスは再び距離を詰め、ワタルの左脇腹目掛け蹴りを放ち、ワタルは左腕を盾にして防いだ。
 
「グッ……フッ」
「? 何を……ッ!?」
 
 左腕からミシリ、と嫌な音がしたがワタルは笑みを浮かべた。
 ラクサスはそれを怪訝に思ったが、直後に悪寒を感じ、その場を飛びのいた。
 直後、今までラクサスがいた場所を先ほど弾いた鎌が通ってワタルの左手に収まった。
 種は簡単。弾かれた鎌を右手の鎌の鎖で操って後ろから襲わせただけだ。
 
「へえ……便利なモンだな。それ、魔力でも操れるのか……」
「……まあな。一発切の隠し芸みたいなものさ。こんな感じに、な」
 
 そう言ってワタルは鎌の鎖を使ってギルドマークを描いて見せた。
 
「だが……そんな小細工、二度は通じねえぞ」
「……試してみるか?」
「面白ェ……やって見せろ……!」
 
 ワタルの挑発に乗ったラクサスは獰猛な笑みを浮かべた。
 
「じゃあ、お構いなく……っと!」
 
 ワタルの右手から放たれた鎌は複雑な軌道を描いてラクサスに襲いかかった。
 
「もう一つ!」
 
 左手からも一拍遅れて鎌が放たれ、ワタルは両手で鎖を後ろ手に持つことで鎌を操った。
 ラクサスはそれを二つとも……躱さなかった。
 鎌は二つともラクサスの左右にはずれたのだ。
 
「ハッ、どうした、外れた……ぞ……ッ!」
 
 そこでワタルの方を見た瞬間、ラクサスはハッと気づき、ゾクッとした。
 鎌から延びる鎖が自分とワタルを囲む、一本道を型取っていることに……。
 
「しまっ……!」
「遅い! “二掌魂威……」
 
 ラクサスがワタルの接近に反応して全方位に雷を放ったのは流石、と言うべきだが、気付いた時には既に遅く……
 
「……双槍”!!」
「ガハアッ!!」
 
 両掌によるワタル渾身の“魂威”を鳩尾に受けて、ラクサスは吹き飛んだ。
 ワタルもカウンターの電撃を受けたが、準備ができていない咄嗟の電撃だったためか、ダメージも少なかった。
 
「イテテ……。これで……どうだ?」
 
 ラクサスの様子を確認しようと、ワタル左腕を抑えながら、観客と共に目を凝らして土煙の中を探った。
 そして土煙が晴れ……ラクサスは立っていた。
 
「っ! マジかよ……タフだな、アンタ」
 
――左腕に力が入らなかった分、威力が落ちてたのか! さて、どうするか……って、あれ?
 
 自分の全力の一撃を受けて立っているラクサスに対し、ワタルは驚きを超えて呆れた。
 すぐに次の手を考えようとしたが、その必要がないことに気が付いた。
 
「……(ニィ)」
 
 ドサッ!
 
 ラクサスは最後に笑みを浮かべると、うつぶせに倒れたのだ。
 
「なんだ、限界だったのか……」
「……ああ、さっきのは……正直効いたぜ、ワタル(・・・)
「名前、覚えてたんだ」
「……認めたって事だ……おい、ジジィ!」
「!……勝者、ワタル!」
 
――まさかラクサスが負けを認めるとはのう……。
 
 マカロフの審判に、ワタルは右腕のみを胸の前で立てて一礼し、観客は沸いた。
 まさか、グレイに続いてラクサスまで負けるとは誰も思っていなかったのだ。
 
「すげえ、ラクサスにまで勝ちやがった!」「あの新人何者だよ……」「期待のルーキー、だな」「俺たちも負けてられねえな」……
 
 そんな観客たちの声を聞きながら、ワタルはラクサスに歩み寄り、右手を出した。
 
「……ホラよ」
「要らねえよ……次は負けねえ」
「そうか……俺もだ、次も勝てるかどうかは正直分からん」
「ハッ、ぬかしやがる……」
 
 再戦の約束と、相手への賞賛を済ましたワタルが観客の方を向いた瞬間……
 
「ワタルー!!」
 
 すごく見覚えのある赤い塊にタックルされた……左側から。
 
 ラクサスの重い蹴りをガードし、その上最後の一撃にも使ったワタルの左腕の骨には……主観だがヒビが入っていた。
 それがワタルを、心配したエルザに勢いよく抱きつかれて……
 
 ピシッ!
 
 ……完全に折れた(イった)
 
「ッ、ウギャアアアアアア!!」
「え!? お、おい、大丈夫か!?」
 
 左腕の骨折……全治一ヶ月。
 家賃9万Jの事を考えると、ギルドの最初の一ヶ月は相当厳しいものになりそうだ、と激痛の中で、他人事のように思った(現実逃避とも言う)ワタルであった。
 
 
 

 
後書き
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