FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)
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原作開始前
EP.6 過去と現在と未来
前書き
それでは第6話です。
よろしくお願いします。
SIDE ワタル
俺とエルザが妖精の尻尾に入って、1年くらい経っただろうか?
初めは俺の時と同じで、エルザはギルドの人間にあまり心を開かなかった。
カナと初仕事に行った辺りからだろうか、少しずつだが心を開き、普通に皆と話し、笑えるようになった。
理由は聞いても教えてくれなかったが……今エルザが笑えてるなら小さい事だろう、と思ってそれ以上は聞かなかった。
……話を戻そう。マスターが新人を連れてきたのだ。俺とエルザにとっては初めての後輩だ。
桜色の髪に、鱗模様のマフラーをしたそいつはナツ・ドラグニルという名前の、元気な……いや、元気すぎる少年だ。
何かと「勝負だ」と言って暴れまわり、ギルドの備品を壊したり、グレイと喧嘩して俺やエルザ、偶にラクサスに沈められたり……困った奴だが、その姿は見ていて楽しい奴だ。
ナツの使う魔法は滅竜魔法。大陸を旅した俺でも聞いた事の無い魔法だったのだが……何でも育ての親である火竜・イグニールに教わったとか……。
ナツがギルドに入ったのは、そのイグニールが突然姿を消し、そのドラゴンを探して……との事だった。
俺はドラゴンについての伝承は詳しくないし、ギルドの中にはナツの言葉を信じていない者もいた。
しかし、俺にはナツが嘘をつけるほど器用には見えないし、ナツやのナツの滅竜魔法から感じられた魔力には違和感があった。
それにしても、ドラゴンがドラゴン退治の魔法を教えるのには何か理由があるのだろうか? 彼らは高い知能と膨大な魔力を持つ、と言われ、各地では恐れられ、敬われているが……。
今日もグレイと「タレ目野郎!」「ツリ目野郎!」「ヒエヒエ野郎!」「クソ炎!」……などといった風に喧嘩をするナツを見ていたら、そんな事を考えるのが馬鹿らしくなって止めた。
「止めないか!!」
「「ギャアア!!」」
あ、エルザにぶっ飛ばされた。あいつらも懲りないねえ……。まあ、それがこのギルドの良い所か。
そう思い直し、席を立った。
「エルザ、そのくらいに……」
「あ、ワタル! お前も勝負だ! 今日こそ勝ーつ!!」
「あ、馬鹿!」
「フン!」
「ガッ……!」
エルザを止めようとした俺に、グレイの制止も聞かずに勝負を挑んだナツは憐れ、エルザに腹を殴られ悶絶した。
「ワタルに挑みたければ、まずは私を倒すのだな」
「何故そうなる……ってか、幾ら何でもやり過ぎだ」
「うう……エルザは怖ええ……」
「だろ?」
宣言するエルザに、呆れる俺、エルザを怖がるナツにそれに同調するグレイ……カオスと化してきたこの場を収めるため、依頼書をエルザに突き付けた。
「エルザ、仕事行くぞ。準備しろ」
「え!? ふ、2人でか!?」
「? 他に誰か連れて行きたいのか?」
顔を赤らめるエルザに尋ねると、首を勢いよく横に振った。ついでに後ろで纏めてある長い髪も大きく揺れた。
……そういえば髪、伸ばし始めたみたいだな……。
「いや、行こう! 今行こう! 2人で行こう!!」
「おい、こら! 引っ張るなって……じゃあマスター、行ってきます!」
エルザは俺の手を引っ張っていたが、何とか振り返ってマスターに挨拶すると、性懲りもなくまたナツとグレイが喧嘩していた。
平和……とはお世辞にも言えないが、今日も妖精の尻尾は騒がしく、楽しい。
= = =
そして、また1年が経った。
今年は、ライバルであるラクサスがS級に昇格した。
ラクサスとは最初の歓迎試合以降、何度か喧嘩……もとい、模擬戦をしているが、やはり地力では一歩及ばず、負け越していた。
パワーはともかくとして、雷になれるラクサス相手では瞬間的にどうしても一歩遅れてしまい、カウンター狙いでないと、まともに攻撃が届かないのだ。
あの敗戦以降、彼が尋常じゃない修練を積んできた事は明白だったため、今回の昇格は俺自身納得できたし、祝福も送ってやった。
その時の呆け面を笑ってやったら……あの雷様に追い掛け回された。忍者刀の身体能力強化も使った命懸けの鬼ごっこだった。結果は……ご想像にお任せします。
新人も増えた。
長女のミラジェーン・ストラウス、長男のエルフマン・ストラウス、次女のリサーナ・ストラウスの白髪が特徴的な兄弟姉妹だ。
彼らは、対象の体を乗っとり、自分の肉体にその力を還元する、という珍しい魔法、接収を使う。
もちろん、乗っ取る対象はそれぞれで違う。ミラジェーンは悪魔の、エルフマンは野獣の、リサーナは動物のテイクオーバーを使う。
性格は、ミラジェーンは使う魔法のせいか、気性が荒く好戦的で、エルザとよく衝突している。まあ、実力も拮抗しているみたいだし、アイツにはいい刺激になっている……のか? 実際の喧嘩の風景が、ナツとグレイのそれとあまり変わらない事を考えると少し不安だが……まあいいや。
エルフマンは温厚で優しい性格で、野獣のイメージとは真逆だ。兄弟姉妹で自分だけ全身テイクオーバーが使えない事を引け目に思っている様子だが、そんな事を気にするような奴は妖精の尻尾には居ない。それが分かれば、あとは自分のペースで習得できるだろう。魔法とは信じる心なのだから。
リサーナは……明るい性格なのは分かるのだが……ませてるっていうのか? とにかくそんな様子だ。ナツと仲が良いようで、ナツが見つけた卵を二人で暖めていた。
その卵だが……ナツはドラゴンの卵だ、と言い張っていたが……実際は生まれたのは翼の生えた青い猫(?)だった。
ハッピーと名付けられたその猫は、ナツにとても懐いたようで、一緒に仕事に行くところを何度も見た。
しかし、喋れて魔法で翼が生える猫なんて聞いたことが無い。そういう種族なのだろうか?
そして、その年のある日の事だった。
仕事から帰ってきて、ギルドに帰っている途中で、妙な魔力を感知したのだ。
何だ、と思って探りながらギルドの前まで来てみると……思わず面喰らった。
ギルドの前にエルザ、ナツ、グレイがいて、喧嘩していた。これは何時もの事なのだが……問題はその先。
彼ら3人の魔力とまったく同じ感じで、大きな魔力が、結構近くにあったのだ。
どういう事なのだろう、と思い、とりあえず俺は喧嘩しているエルザに声を掛けた。
「……おーい、エルザ! どうしたんだ?」
「 ワ、ワタル!? いや、こ、これは……」
「いや、まあ大体想像つくけどさ……」
案の定、エルザのケーキ絡みだった。
この時、後ろで物陰に隠れている魔導士達が身動きしたのが分かった。誰かを狙ってるのか?
「……ケーキなら後で買ってやるから、ちゃんと仲直りしろよ」
「! な、なら一緒に食べるぞ、約束だ!」
何故か赤くなって誘ってきた。甘いものは好きじゃないが……まぁ、しょうがない。
「はいはい。分かったから行った、行った」
「約束だからな!」
そう言うと、エルザはナツとグレイを探しに行った。
「あぁ……――フッ!」
その姿が見えなくなった瞬間、俺は忍者刀を素早く出して、魔導士達が隠れている木箱に投擲した。
「隠れているのは分かっている。出て来い! 狙いは何だ!」
そう呼びかけると、彼らは少し話した後、出てきた……のだが……
「……は?」
そんな声が出てしまったのも無理はないだろう。
「まさかばれるとは……いや、ワタルなら当然か」
「ねえ、ワタルってこんな小さい時から鋭かったの!?」
「あい、それがワタルです!」
「まあな、でも今なら……勝てるか?」
「おぉ、燃えてきたぞ!」
出てきたのは4人と1匹の……猫(?)だった。
猫(?)と金髪の女は分からなかったが、緋色の髪の女と桜色の男と黒髪の男には、俺がよく知る者の面影があったのだ。
「……もしかして、エルザとナツとグレイ……か?」
「……ワタル!!」
「ウワッ! ちょっと、なにするんだ、アンタ!?」
俺が聞いた途端に、エルザの面影を残した女が俺に抱きついてき、振り回してきた。
引き剥がそうにも、その力により強く抱きしめられ、引き剥がせなかった。
それに、顔をその豊満な胸に押し付けられて、窒息しそうになり……やばい……意識が……。
SIDE OUT
「はな……モゴモゴ……苦し……!」
「か、かわいい~! 14,5歳くらいか!? まさか年下のワタルを見られるなんて感激だ!!」
「ちょっと、エルザ! 窒息してるって!!」
「え……? あ! おい、大丈夫か!?」
金髪の女・ルーシィに言われ、緋色の髪の女・エルザは慌てて力を緩めた。
「まあ、エルザの力で思いっきりやればそうなるわな……」
「ぷぷぷ……だせーな、ワタルの奴!」
「笑い事じゃないよ、ナツ。ほら……気絶してる」
黒髪の男・グレイは呆れ、桜色の髪の男・ナツがワタルを笑い、青い猫・ハッピーがナツを窘めた。
「な、何!? おい、起きろ、ワタル……ハッ! こういう時はアレか、ルーシィ! じ、じじじ、人工呼吸という奴をすればいいのか!?」
「お、落ち着きなさい、エルザ! 呼吸はあるから大丈夫よ!!」
「そ、そうか……よかった……チッ」
――舌打ちした!? むしろ、なんで人工呼吸に持ってったのかしら……?
気絶してる、と聞いたエルザは慌ててワタルを大きく前後に揺すった。そして、ルーシィに取り押さえられ、残念そうにしながらも安心した。
「……う、ううん…………」
SIDE ワタル
あー、酷い目に会った……というか、なんなんだ、こいつらは……?
「あ、起きたみたいよ、小さいワタル」
金髪の女がエルザと思われる女に声を掛けた。
……というかエルザ、だよな? 背とか胸とかいろいろ大きいけど……。
「む、そうか。だらしないぞ、ワタル! あれしきで気絶するなど……」
「いや、無茶言うなよ、エルザ。こいつは過去のワタルなんだから……」
「……過去?」
グレイと思われる男の言葉に、俺は驚いた。
「過去って……どういう事だ?」
「ああ、それはね……ウワッ!」
「どうでもいい! とにかく勝負だ、ワタルー!!」
「やめんか!!」
「グペッ!」
金髪の女を遮って突き飛ばして、ナツと思われる男が襲いかかり、エルザと思われる女に沈められた。
何か見たことあるやりとりだな……。
まぁ、それはともかく……説明をされてさらに驚いた。
彼らはどうやら妖精の尻尾の一員でなのだが……ある本を触ったらここに来てしまった、という事らしい。
でも俺はこいつらを見たことないし、エルザ、ナツ、グレイに兄や姉がいるって事も聞いたことが無い……どういう事なんだ?
「ねえ……小さいワタル。今って何年か分かる?」
「小さいって言わないでください。……今はX778年です。 それが……どうしたんですか?」
ルーシィ、と名乗った女が俺に尋ね、答えると、彼女は落ち込んでしまった。
「どうしよう……ホントに過去に来ちゃったみたい、私たち……」
「そのようだな……ん? ナツとグレイはどうした?」
「え!? ホントだ……てか、ハッピーもいないし!」
ハッピーっていうのは……あの猫(?)の事なのか?
「その2人と1匹なら、ルーシィさんが話しているときにどっかに行きましたよ」
「は!? あいつらぁ……、ここまで馬鹿とは思わなかったぞ!!」
「なんで止めなかったのよ!? ていうか“さん”って……」
「いや、だって……」
未来のエルザはすごい剣幕で怒り、ルーシィさんも俺に詰め寄ってきた。
「もう接触してるから今更かもしれないですけど……一応未来から来たんだったらあんまり関わらない方がいい、って思ったから……」
「ああ、そっか。タイムパラドックスね」
ルーシィさんは納得したみたいだった。
“さん”付けの理由? 俺はギルドの仲間以外の年上の人間には基本的に敬語を使うようにしている。
ルーシィさんは未来の仲間かもしれないけど……今の仲間じゃないからな。
「じゃあ、俺はこれで……帰れるといいですね」
未来のエルザは何か言いたそうだったが、俺は振り返らずにギルドに入った。
SIDE OUT
「何か言わなくて良かったの、エルザ?」
ルーシィはワタルがギルドに入るのを見送った後、エルザにそう尋ねた。
エルザの表情は少し悲しげだったが……笑って言った。
「アイツは私が何か言った所で、考えを変えるような軟弱者ではないさ。それに……帰ればまた会える。なら、今何か言う必要はないさ」
「そう……そうね!」
エルザが答えると、ルーシィは納得したようで、明るく言った。
「ありがとう、ルーシィ」
「ん? 何か言った、エルザ?」
「いや、何でもない。……さあ、あの馬鹿共を探してきてくれ、私は本の解読をする」
「分かったわ! じゃあ……」
「待て!」
そう言ってルーシィと話すエルザはいつも通りの様子で、ルーシィは安心した。
ただ、いつも通り過ぎてバニーコスにさせられて、着ていた服を捨てられた事には……流石に頭を抱えたが。
SIDE ワタル
さて、ギルドに入った俺は、マスターに仕事の報告をした後、開いている席に座って食事をしながら考え事をしていた。
――過去に行ける魔法、か……。
もちろんある程度の制約は付くのだろうが……それでも考えてしまった。
過去に行って、あの事件を変えられたら……と。
だが、すぐにその考えは否定した。
――何を馬鹿な。俺は今満足してるじゃないか。このギルドで笑って、騒ぐ毎日と、このギルドで過ごす温かい日々に……。
そう考えた俺が次に考えたのは、先ほど別れた未来のエルザだった。
――あんまり変わってなかったな……ナツをぶっ飛ばしたり。体の方は流石に変わってたが。
ふと、抱きしめられて窒息させられた事を思い出して、気絶する前に感じた匂いと柔らかさを思い出し、今更ながら気恥しくなった。
――ていうか、何年かすれば今のエルザもそうなるのか……。
想像しようとして……やめた。
今も偶に、朝起きたらエルザが自宅にいる事があるのだ。
今でさえ成長途中のエルザが気付いたらベッドにいるとか……心臓に悪いのに、未来でもそうなっているとは、流石に考えたくなかった。
「……タル、おい、ワタル!」
「ん……エ、エルザ!? ど、どうした、謝ったのか?」
すっかり考え込んでしまったのか、エルザの呼びかけに気付かずに、珍しく慌ててしまった。
しかも考えていたのが未来のエルザの事だったため、またあの匂いと柔らかさを思い出してしまったのだ。
「ああ、謝ったよ……どうした? 少し顔赤いぞ?」
「え……あぁ、ホントだ」
指摘されて顔を触ってみると、確かに少し熱かった。
……むむむ、あの程度で取り乱してしまうとは、情けないな。
「ああ、大丈夫だ……」
「そうか? ワタル、そ、その、だな……」
「約束だろ? 忘れてないよ、もう行くのか?」
「! ああ、この間美味しい店を見つけたんだ。奢ってもらうからな!」
遠慮がちに言いかけるエルザに、ケーキの約束を思い出して声を掛けると、顔を赤くしながら笑った。
まったく……奢りがそんなに嬉しいのかねぇ……。
「ッ! はいはい、分かってるから引っ張るなって……」
俺の手を引っ張るエルザはなんだか嬉しそうだった。
俺はエルザの柔らかい手の感触に、また思い出してしまって内心慌てながらも、頬が緩むのを抑えきれなかった。
――そうだ……今はこんなにも楽しいじゃないか。なら……それでいいじゃないか……。
余談だが、ケーキの甘さと軽くなった財布に辟易としたが、エルザの笑顔で、……まあいいか、と思ってしまったのは内緒である。
後書き
未来のナツたちが来た話は、特装版のDVDに入っていた「メモリー・デイズ」という話です。
知らない方はこの話で興味を持ってくれれば幸いです。
ほかのOVAも、やるかどうかはただいま検討中です。
感想、意見等ありましたらよろしくお願いします。
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