八条学園怪異譚
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第十七話 舞と音楽その九
「中に入る?井戸の」
「うん、それがいいと思うわ」
聖花も考えながら愛実に答えた。
「それならね」
「そうよね。井戸の中に入って」
「それで調べよう」
これで話が決まった。だが。
愛実はその井戸に落ちた時のことを考えて聖花にこう述べた。
「落ちないようにはしないとね」
「そうよね。昔は井戸に落ちて死んだ人結構いたそうだし」
「だから余計にね」
「うん、注意して中に入ろう」
こうして二人で井戸の中に入ることにした。だが。
狐狸達は決めた二人に対してこう言ってきた。
「一応宙を歩ける下駄あるけれど」
「それ履く?」
「それか天狗さんの団扇ね」
こうしたものもあるというのだ。
「それではたけば宙を舞えて井戸の中も安全に行けるけれど」
「中に落ちていくこともないからね」
「どっち使う?よかったらレンタルするけれど」
「それもただでね」
「それじゃあね」
愛実が狐狸達に答える。
「下駄で宙に浮かんでたら落ちるから」
「むっ、そこに気付くとは鋭いね」
「しっかりしてるね」
狐狸達もそのことは笑って言う。
「団扇は脱げないからね」
「それ使えば安全だからね」
「じゃあそっちお願いね」
愛実は狐狸達に告げた。
「団扇ね」
「はい、これ」
「ちゃんと二つあるからね」
木の葉の形のそれが二つ出て来た。童話等によく出て来るあの天狗の団扇があった。二人はそれを受け取ってからその井戸に向かった。
覆いを外してから二人で向かい合ってこう話した。
「じゃあ今から入るけれど」
「団扇落とさない様にしないとね」
落とせばどうなるか、それは言うまでもなかった。
「だから気をつけて」
「うん、中に入ろう」
「そうしようね」
こう話して二人で井戸の中に入る。井戸の中は円である。その中は暗いが二人は懐中電灯で照らして見回した。
中をゆっくりと降りながら中を見回しながら聖花は愛実に言った。
「特にね」
「何もないわね、今のところは」
「そうね。何もね」
「けれど」
今度は愛実が言った。
「私井戸の中なんてはじめて見たわ」
「私もよ」
それは聖花もだった。
「というか井戸自体がね」
「うん、もうないからね」
「井戸の中ってこうなってたの」
「勉強になるわね」
これはこれで、だった。そして。
底まで降りた。降りると。
そこにあるものを見て愛実はまた聖花に言った。
「お水も何もね」
「ないわね」
「枯れてるのね、この井戸」
「ええ、何もないわね」
こう聖花に言ったのである。
「というか井戸って水が湧くものよね」
「だから使ってたと思うけれど」
「ううん、枯れた井戸の中だからって思ったけれど」
「何もないわね」
「そうよね」
こう二人で話すのだった。愛実も聖花も残念そうに言い合った。
それから上を見上げてこうも話した。
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