遊戯王GX 輪廻に囚われし赤
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サイバー・ドラゴン
深夜の海を颯爽と一台のバイクが駆け抜ける。
実はオレのDホイール、走れない場所がほとんど無い。空と宇宙位だな、足場がないから。足場になる物があれば壁だろうが水面だろうが走れる。どうなってるのかはアポリアにしか分からない。あいつとタッグを組んでいた時に礼だと言って勝手に改造してたからな。まあ便利だから良いんだけど。精霊界を走るときとか。
さすがに他の入学生と一緒にDホイールを持ち込むのは無理と判断して前日に乗り込む事を決意して荷物と共に海を走っている。組み立て式の簡易の車庫も用意してあるので整備も可能だ。おかげであまり速度が出せないが日の出までには到着出来る予定だ。そんな事を考えながらDホイールを運転し続ける事4時間(途中休憩無し。沈むから)ようやくデュエルアカデミアの灯台が視界に入る。
「やっとか。以外と時間がかかったな」
Dホイールが乗り上げられる砂浜を見つけそこから島内に入る。そのまま森に入り校舎とは逆側になる火山の麓に車庫を組み立てる事にする。組み立てが終われば既に日は昇りきり、入学式の時間が近づいていた。出来ればシャワーを浴びたかったが時間が無い。急いでこの日の為に用意したデッキを持ってデュエル場に向かう。
デュエル場は生徒で埋め尽くされ、更にはテレビ局の人間までが詰め寄せていた。それらの人間はリング場に立つ一人の有名人に注目している。デュエルモンスターズの産みの親、ペガサス・J・クロフォードにだ。
「皆サーン、今日は集って頂いてありがとうございマース。本日、私は重大な発表をしたいと思いマース」
ペガサスの言葉に会場の緊張が高まる。
「一年前から気付かれている方も居るでしょうが、I2社では低レベルのモンスターを中心としたカードや、レベルに関するカードを多く発表して来マーシた」
ペガサスが話す通り、ここ一年の間にI2社から発表されたカードは低級モンスター、しかも低ステータスの物が多く、効果が強力でもあまりデッキに投入しようとするデュエリストが少なかった。一方で海馬コーポレーションからは強力なテーマである『六武衆』『ライトロード』『暗黒界』などが発表され、I2社の人気は下がる一方だった。
「それはこれから発表する事に関する下積みだったのデース」
その言葉に会場に波紋が広がる。それが収まるまでペガサスは何も言わずにただ待ち続けた。そしてまた静寂が広がった所で続きを話し始める。
「融合、儀式に続く新たな特殊召還方法、その名もシンクロ召還デース。そして私が説明するよりも実際に肌で感じてもらう方が良いでショウ。そこでこれよりデュエルを行ないマース。我が社のテスター対アカデミア代表でのデュエルを新ルールで行ないマース」
シンクロ召還に続き、新ルールということで会場がまた騒然とする。
「落ち着いて下サーイ。ルールの方はそれほど変わりはありまセーン。すぐに理解出来ますから安心して下サーイ。まずはLPが今までの2倍、8000からのスタートしマース。そして融合デッキはエクストラデッキと名を変え、制限は15枚になりマース。そして守備表示での通常召還は全て裏側でのセットとなりマース。他にも名称が幾つか変更されますが概ねはこの程度デース。ちなみに海馬コーポレーションはこのルールを意識してのカードをこの一年で発表していマース。もちろんシンクロ召還についてもデース。さて、説明はこの位にして今回のデュエルを行なう二人に入場して貰いまショウ」
その言葉と共に二人の生徒がリングに上がる。片方は白い制服を身に纏い、もう片方は赤いジャケットと帽子を被っている。
「紹介しまショーウ。こちらの彼はアカデミアにおいて帝王と呼ばれる程の実力を持ちサイバー流の免許皆伝を持つ丸藤亮。それに対する我が社のテスターは今年入学したばかりではありますが、シンクロ召還を開発した人物でもありマース。その名も東雲遊矢」
歓声が上がるが二人ともそれによって緊張する様な事も無く、向かい合ってデュエルディスクを構える。
「「決闘」」
ふむ、相手は丸藤亮か。サイバー流ということはデッキはもちろん『サイバー』か。出来れば後攻の方が良いが、先攻か。仕方ない。
「オレのターン、ドロー。何もせずにターンエンド」
遊矢 LP8000 手札6枚
オレの行動にペガサス会長以外が驚く。手札が悪い訳ではないが1ターン待った方が面白いからな。
「何を考えているか分からないが手は抜かん。オレのターン、ドロー。手札よりパワーボンドを発動。手札のサイバードラゴン3体を融合、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召還」
サイバー・エンドだと?ここはツインだろうが。何を考えているんだ?
「パワーボンドの効果によりサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は倍になる」
サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000→8000
「サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック」
とりあえずこのまま受けるわけにはいかないので手札からカードを一枚引き抜いてディスクに置く。
「手札より速攻のかかしの効果を発動。ダイレクトアタックされた時このカードを墓地に送る事でバトルフェイズを中断する」
サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を速攻のかかしが受け止める。あっ燃え尽きた。
「ならばオレはサイバー・ジラフを召還。こいつを生け贄にする事でこのターンの間効果ダメージは受けない。カードを一枚伏せてターンエンド」
丸藤亮 LP8000 手札0枚
場
サイバー・エンド・ドラゴン
ATK8000
伏せ一枚
1ターンで全ての手札を使い切ったか。
「オレのターン、ドロー。一気に行くぞ、手札より苦渋の選択を発動。オレはデッキから5枚のカードを選択し、その5枚の中から相手は1枚選択する。選択されたカードを手札に加え残りは墓地に送る。オレが選択するのはボルト・ヘッジホッグ2枚とレベル・スティラー2枚、それからネクロ・ガードナーだ」
「ネクロ・ガードナーを手札に加えろ」
言われた通りにネクロ・ガードナーを手札に加えるが問題無い。
「手札のクイック・シンクロンの効果発動。手札のモンスターを一枚墓地に送り特殊召還する。チューニング・サポーターを墓地に送り特殊召還」
クイック・シンクロン
ATK700
「そしてジャンク・シンクロンを通常召還する。ジャンク・シンクロンの効果、このモンスターが召還された時、墓地からレベル2以下のモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召還する。オレは先程墓地に送ったチューニング・サポーターを特殊召還する」
ジャンク・シンクロン
ATK1300
チューニング・サポーター
DEF300
「速攻魔法地獄の暴走召還を発動。このカードは相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。オレはチューニング・サポーター2体をデッキから特殊召還」
「サイバー・エンド・ドラゴンはエクストラデッキのモンスターなので特殊召還出来ない」
「さあ、ここからがシンクロ召還だ。効果を無効にされていないチューニング・サポーターの効果、シンクロ召還に使用する際レベル2モンスターとして扱える。レベル2となったチューニング・サポーターにレベル3ジャンク・シンクロンをチューニング」
オレのかけ声と共にチューニング・サポーターは二つの光の玉となり、ジャンク・シンクロンは3つの緑の輪っかになる。光の玉が緑の輪の中に入りそれが一つになった時、一体のモンスターが姿を現す。
「シンクロ召還、来いTG ハイパー・ライブラリアン」
TG ハイパー・ライブラリアン
ATK2400
会場が再び歓声に包まれる。そんな中、ペガサス会長がシンクロ召還の説明を行なう。その説明が終わるまで処理を中断して手札を再度確認する。このままではワンショットキルになるだろうな。だが、手加減することはない。
そんな中、対戦相手の丸藤亮が話しかけてきた。
「成る程、それがシンクロ召還か。今までに無い画期的な召還方法だ。これなら今まで低レベルだからと言って使われて来なかったカードが使われる様になるだろう」
「確かにそうなってくれると嬉しいですけど、別に全く使えないカードなんて数が少ないんですよ。レベル・種族・属性が同じでステータスが低い位か、禁止カード専用のメタカード、オレが思いつくのはそれ位ですよ」
「なるほどな。だが、そのモンスターではオレは倒せないぞ」
「残念だが、バカ正直に攻撃力で競おうとは思っていない」
ちょうどペガサス会長の説明が終わったので効果処理に移る。
「チューニング・サポーターがシンクロ召還に使用された時、カードを一枚ドローする。更に効果が無効になっているレベル1チューニング・サポーターとレベル2となったチューニング・サポーターにレベル5クイック・シンクロンをチューニング、シンクロ召還、粉砕せよジャンク・デストロイヤー」
ジャンク・デストロイヤー
ATK2600
「ジャンク・デストロイヤーの効果発動。このカードのシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数までフィールド上のカードを選択して破壊出来る。オレはサイバー・エンド・ドラゴンと伏せカードを破壊する」
「何!?」
これで丸藤亮のフィールドはがら空きになる。
「更に二体のチューニング・サポーターとTG ハイパー・ライブラリアンの効果、TG ハイパー・ライブラリアンは自分または相手がシンクロ召還に成功した時に一枚ドローする。よって三枚ドロー」
どうしよう、既に決着が付く状況だが追い討ちをかけるか?止めておこう。これ以上やったら心が折れるだろうから。
「ネクロ・ガードナーを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召還、そして墓地のレベル・スティーラーとボルト・ヘッジホッグの効果発動、レベル・スティーラーはフィールド上に存在するレベル5以上のモンスターを選択しレベルを1下げる事によって墓地より特殊召還出来る。ジャンク・デストロイヤーのレベルを下げて特殊召還。ボルト・ヘッジホッグは自分フィールド上にチューナーが存在する場合墓地より特殊召還する事が出来る」
レベル・スティーラー
ATK600
ボルト・ヘッジホッグ
ATK800
「レベル1レベル・スティーラーとレベル2ボルト・ヘッジホッグにレベル5クイック・シンクロンをチューニング。シンクロ召還、駆け上がれ、ロード・ウォリアー。ライブラリアンの効果で一枚ドローする」
ロード・ウォリアー
ATK3000
ジャスト8000のモンスターが揃う。ここまでやっても手札がまだ5枚残っている。
「これで終わりだな。3体のモンスターでダイレクトアタック」
「う、うおおおおおお!!」
丸藤亮 LP8000→0
今回は手札が良過ぎたせいかあっさりと終わった。まあおかげでシンクロが印象に残ってであろうから結果的にはOKだろう。デッキを元に戻して膝を着いている丸藤亮に手を差し出す。苦笑しながらも丸藤亮はオレの手を取って立ち上がる。
「久しぶりに負けたが、良いデュエルだった。今度はオレが勝たせてもらう。それにしてもこれがシンクロ召還か、確かに強力だな」
「違うな。シンクロ召還はただの可能性だ。儀式だろうが融合だろうが自分を勝利に導く為の可能性に過ぎない。オレ達デュエリストはその可能性をつかみ取る為の努力を忘れずに、カードを信じてやれば良い」
「カードを……信じる?」
「そうだ。信じていればカード達はそれに応えてくれる。どんな絶望が待ち受けていようとも、勝利への道は切り開かれる」
エクストラデッキから一枚のカードを取り出して、テストモードでデュエルディスクにセットする。
現れるのは一頭の巨大な竜。神をも打ち破り、未来を切り開いた可能性の竜。
「その目に、心に焼き付けろ。こいつがシンクロ召還の可能性の一つだ」
シューティング・クェーサー・ドラゴン
遊星達の未来を、ゾーン達が望んだ未来を切り開いた最強の竜。
こいつの力を持ってしてもオレの未来を切り開く事は出来なかった。力が足りないのか、それとも方向性が違うのかは分からないが、こいつは遊星がカードと、そして仲間達の絆によってつかみ取った未来そのものだ。
「さっきもいったがこいつは可能性の一つに過ぎない。可能性を切り開くのはカードとの絆だ。自分が使うカードを信じろ。自分が信じなければ誰がそのカードを信じてやれるんだ」
その言葉に何人かの生徒が、自分のデッキからカードを引き抜く。
もちろん丸藤亮も。丸藤亮が引き抜いたカード、それは
「……サイバー・ドラゴン。お前はオレを信じてくれるのか」
『サイバー・ドラゴン』
サイバー系において最も基本となるカード。オレはそれを引くと確信していた。丸藤亮とサイバー・ドラゴンの間には確かな絆がある。出なければ初手に3枚も、その上パワーボンドとサイバー・ジラフまで引く訳が無い。
「ありがとう、東雲遊矢。オレは本当のリスペクトという物を理解出来た。自分が選んだカード達を信じてデュエルを行い、勝利を目指す。それこそが真のリスペクトなんだな」
「どう捉えるかは一人一人に任せるさ」
シューティング・クェーサー・ドラゴンをディスクから取り外し、エクストラデッキに戻す。
「それでは皆サーン、素晴らしいデュエルをしてくれた二人に盛大な拍手をお願いしマース」
会場に居る全ての人が拍手をしてくれる。おそらくはテレビで見ている人もだろう。遊星、ゾーン、やはり人はより良い未来を勝ち取ってくれる。これをお前達にも見せてやりたい。
「それでは現時刻を持ちましてシンクロ召還を解禁しマース。新しいパックにはシンクロモンスター及び、チューナーモンスター、シンクロに関するカードのみが収録された限定パックデース。再販の予定は今の所ありませんが、アカデミア生の皆サーンには特別に10パックプレゼントしマース。頑張って下さいネ」
ペガサス会長のその言葉に会場のボルテージは最高潮に達する。生徒達は新たな可能性をつかみ取る為に購買部に走り出して行った。
さて、オレが所属する寮なのだが、オレが赤い服を着たいという理由によりレッド寮に無理を言って所属させてもらった。見た目はかなり古い寮だが、作り自体はしっかりとしている様で安心した。それにこれ位ならサテライトの方がボロボロなので気にもならない。部屋は一人部屋で、本来なら他に生徒が居たのだが自分からこの部屋を使ってくれと言われたので好意に甘える事にした。まあ、食事には驚いたがな。まさかご飯とみそ汁とめざしのみとはな。これはなんとかしないといけないな。幸い、レッド寮の裏は海だから釣りでもすれば何かしらの魚が釣れるだろう。部屋に戻ってデッキケースから創星神sophiaを取り出す。若干だが力を取り戻しているのがカードから伝わってくる。ということはオレの行ないは間違ってはいないのだろう。しばらくはこのまま静観していよう。カードを再びケースに戻してベッドに潜る。明日からの学生生活の中でオレはまた絆を作っていく。たとえ忘れ去られようとも、オレは覚え続けていく。全ての出会いと別れに感謝を。
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