戦国異伝
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第百十一話 青を見つつその十
信玄もその幸村から彼の道を聞いた。そして確かな声でこう彼に告げたのである。
「それでよい」
「義を目指してですな」
「そうじゃ。御主には野心はない」
そのことは間違いない。彼にある熱いものはそうしたものではないのだ。
まさに義だ、信玄もそれがわかっているからこそ言うのだ。
「あるのは義。ならばじゃ」
「その義を極めるだけですか」
「わしには二十四将がおる」
今も彼の下に左右に分かれて控えている。文武に秀でた信玄が頼む股肱の者達だ。
「そして御主もおる」
「それがしがですか」
「十勇士はよいことを言った」
「では」
「そうじゃ、御主は天下一の武士となるのじゃ」
信玄も言うことだった。
「義の道を進むな」
「では御館様は」
「天下に泰平をもたらす」
彼もまた天下を目指している。しかしそこにあるものは野心だけではない。
夢だ、信玄はそこに夢がありこう言うのである。
「是非共な」
「そうですな。さすればそれがしは」
「わしの天下取りの手足となるか」
「忠義、この義を極めさせて頂きます」
幸村は確かな目で己の前に堂々と座す信玄に返した。
「是非共」
「では見せてもらおう。しかしさしあたってはじゃ」
「政ですな」
「まだ領土の政は治まってはおらん、だからじゃ」
信長と同じく信玄も政を見ている、それ故の言葉だった。
「まずはじっくりと政を行いじゃ」
「そのうえで」
「上洛にかかる。織田信長は降し」
「どうされますか」
「御主の横に置こう」
悠然と笑いその赤い服の若者を見ての言葉だった。
「そうするぞ」
「では織田信長もまた」
「あれだけの者殺すつもりはない」
「だからこそでございますか」
「わしの天下取りの後で御主にあの者、そして」
信玄が見ている者はもう一人いた。
「越後の龍もよ」
「上杉謙信もでございますか」
「あの者もまた天下泰平とその後の為に働いてもらう」
「左様でございますか」
「二十四将と共にな」
「では殿、数年後には」
軍師の山本が隻眼の顔を信玄に向けて言う。
「上洛でございますな」
「そのつもりじゃ」
「大きな戦になります、しかし」
「火は木に勝つ」
武田は今も赤だ。信玄にしろ二十四将にしろ着ているその服は全て赤である。これが武田の色だからだ。
そして織田家の色は青だ。信玄は五行思想から言うのだ。
「赤と青はそうした関係にあるからじゃ」
「では織田家に対しても」
「確かに強い」
信玄は決して織田家を侮ってはいなかった。
「兵は確かに弱い」
「それでもですか」
「兵の強さは大事じゃがそれでも決めることではない」
戦やそうしたことはだというのだ。
「数も装備もある」
「それも大事ですか」
「そうじゃ。数も装備も武田より遥かに上じゃ」
これもまた確かだというのだ。
「具足も確かで槍も長く」
「そしてですか」
「弓矢や鉄砲も多い」
織田家はそうしたものが充実しているというのだ。兵は確かに弱いがそれでもその強さはかなりのものだというのだ。
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