戦国異伝
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第百十一話 青を見つつその九
「わしは幸せ者じゃな」
「いえ、殿にお仕え出来る我等の方が」
「幸せ者でございます」
「何なりと申し上げ下さい」
「我等は殿と共にありますので」
「では御館様に天下を取って頂こう」
幸村はここでも信玄を立てる。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「殿もまた」
「わしはわしの信じる道を進む」
忠義、仁義、信義。義の道にだというのだ。
「そうするぞ」
「殿は天下一の武士になられますな」
三好清海が言う。
「間違いなく」
「天下一とな」
「はい、殿は天下には興味はありませぬな」
「それは御館様のものじゃ」
これが幸村の天下への考えだった。
「そもそもわしは天下には興味がない」
「しかし義にはありますな」
「義はこの世で最も大事なものよ」
幸村は真剣そのものの顔でこう言いきる。
「まさにな
「そうですな。それではです」
「義をか」
「はい、それをです」
三好清海もさらに言う。
「その道を何処までも進まれるべきです」
「何度も言うがわしは御館様に天下人になって頂く」
「御館様が天下人に相応しいが故に」
「その通りじゃ」
「それならばです」
「わしは義の道を進むべきか」
「左様です」
三好清海はこう幸村に言うのだった。
「そうされるべきです」
「そうか。それもまた道か」
「これは都のことですが」
筧、十勇士の中で知恵袋の彼の言葉だ。
「茶道が流行っておりますが」
「うむ、近頃当家でもよくしておる」
武辺の印象が強いが武田には風雅もある。信玄は武勇だけでなく政も秀でているが学問やそうした風雅にも通じているのだ。
それ故に茶道もなのだ。
「御館様は茶道もお好きじゃ」
「そして二十四将の方々もですな」
「わしも時折飲んでおるな」
「はい、我等もお供させて頂いていますが」
「その茶道じゃな」
「千利休殿は茶道を天下と同じだけのものとされんとしているとか」
「ほう、面白い話じゃな」
この話には幸村も目を光らせて注目した。
「茶の道は天下に匹敵するか」
「一つの世界ですから」
「茶もそれだけのものになるか」
「利休殿はそうお考えとのことです」
「ではわしもじゃな」
「そうなりますな」
筧も三好清海と同じ様なことを幸村に対して述べる。
「殿は義の道です」
「忠義、仁義、信義」
「どれにも義がありますな」
「忠も仁も義がなければ一つにはなれぬ」
だからこそ義は大事だというのだ。
「そういうことじゃな」
「さすれば」
「うむ、わかった」
幸村は確かな声になっておりその声で頷いた。
「それではじゃ」
「はい、それが殿の道です」
「そうか。わしは義の道を極め」
「つまり義に生きられるべきです」
「殿はそれにより天下一の武士となられますな」
猿飛は楽しそうに述べた。
「義を極められた」
「そうじゃな。御館様と共に行き義の道を極めようぞ」
幸村は今己の前に坂道を見ていた、それは何処まであるかわからないがそれでも登りきろうと決意していた。彼の道は今はじまった。
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