戦国異伝
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第百十一話 青を見つつその十一
だがそれでもだというのだ。
「それで戦に弱いかというと」
「そうではありませぬか」
「織田は戦に強い」
信玄は幸村にこの言葉を告げた、無論左右に控えている二十四将の面々にもだ。
「しかもその十九万の兵が優れた将達に率いられておる」
「確かに。織田家の将達は見事ですな」
「全くです」
今度は二十四将達が言う。
「掛かれ柴田に退き佐久間だけでなく」
「丹羽に滝川といった者達もよいですな」
「それに前田に佐々、前野に川尻もいますし」
「何かと秀でた者達が揃っています」
「しかもかなりの大所帯です」
織田家にはよい将達も多かった。信玄もまた言う。
「七百六十万石、十九万の兵に見合うだけの数の将軍達がおるわ」
「長宗我部家も入りましたし」
「それに加藤や福島といった若い者達も加わりました」
「ここにきてさらにその質と数が充実しておりますな」
「それだけのものになっておりますな」
織田家の将達の質も二十四将達はわかってきていた。それは確かに相当なものであった。
織田家の強さの分析が為された。そして信玄もだった。
己の袖の下で腕を組みそのうえで述べた。
「織田家とことを構える場合は上杉や北条と同じく決して油断できぬ」
「例え何があろうとも」
「それでもですな」
「火は木に克つといってもじゃ」
ここでも五行の話になる。
「木はおいそれとは燃えぬ」
「織田はそういう木でありますか」
「そうじゃ。おいそれとは燃えぬ」
再び幸村に話す。
「あの木はな」
「確かに。それがしもそう思いまする」
「わしだけでは燃やせぬ」
信玄だけでは織田家は倒せぬというのだ。
「御主達がいてこそじゃ」
「それがし達がですか」
「人は城であり石垣であり堀じゃ」
ここでまたこの言葉が出る。
「戦もまた然りじゃ」
「一人では出来ぬと」
「わし一人で戦の場に出ても何もならぬわ」
信玄は笑って幸村達に述べる。
「討ち取られて終わりじゃ」
「御館様だけでは」
「御主達がいてこそやれるのじゃ」
また言うのだった。
「織田に勝つことも無論な」
「では天下も」
「一人で治められぬ」
これもまた無理だというのだ。一人で天下を治めることもまた。
「人は国でもあるのじゃ」
「ですか。ではそれがしも十勇士達も」
「うむ、国じゃ」
それに他ならないというのだ。
「国そのものじゃ」
「では国として御館様の為に働かせてもらいます」
「頼むぞ。ではじゃ」
信玄は満足している顔で話題を変えた。
「今はじゃ」
「はい、今は」
「何をされますか」
「今日の政のことも終わった」
それは既に終わっている。信玄は戦よりも政を見ている者でありそれを忘れることは決してない、もう既に終わらせているのだ。
それで次の話になる。それはというと。
「連歌をするか。それとも茶か」
「歌がよいのでは」
穴山が信玄に顔を向けて答える。
「今は」
「ふむ。歌か」
「はい、それがよいのでは」
「そうじゃな。ではそれにしよう」
「早速筆と紙を用意し」
「歌もまたよい」
信玄はそうしたものにも通じている。ここに彼の人としての深みがある。
「存分に楽しもうぞ」
「そうですな。ただ」
「ただ、じゃな」
「連歌の際に歌えなかった者はどうされますか」
穴山はこのことは妙に楽しげに信玄に対して問うた。
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