ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
超度級ハンマー獲得ミッション
とりあえずあたしとその男の子はカウンターを挟んで向かい合って座った。
さて、どこから話したものか………
と、あたしがふむと唸った隙に、少年のほうから切り出してくれた。
「それで、ホントなの?これを強化できるハンマーをゲットできるクエを知ってるって」
その言葉に答える前にあたしには、眼前の少年に訊かねばならないことがあった。
それは一人の鍛冶屋として、だ。
「ちょっと待って。その前に一つ訊かせて」
少年がかわいらしく小首を傾げる。
「なあに?」
「今までその化け物どうやって強化してきたの?」
そう、それなのだ。いくらなんでも鋭さ180なんて化け物、強化するすべがない。
となると、これから話すハンマーのようなとんでもハンマーを繰る鍛冶屋ということになる。あたしの頭の中のライバル鍛冶職人名簿には、そんな凄腕名人はいない。
あたしのその問いに、少年の表情に一瞬躊躇するような光が浮かび、言った。
「《兎轉舎》って店」
「ふぅーん」
とてんしゃ………聞かない名だ。まあ、あたしとてアインクラッドにある全てのプレイヤー鍛冶屋を知ってるわけではない。どこかにものっすごい職人がいても解からない。
それでこちらの質問は終わったのかと思ったらしい少年は、再び問いかけるような視線を送ってきた。
「あぁ、ごめんごめん。クエストのことだったわね」
「うん」
えーと、とあたしは脳内記憶図書館を探し始める。
どこにあったかなあ、何しろ聞いたのがずいぶん前だからなあ。
そんなことを思いながらあたしは探す。
うーんと、えーっと……………あった!
「たしか……三十一層のフィールドの中に超度でかいクエストダンジョンがあんのよ」
「三十一層って言ったら……森?」
「そ。聞いたことあんでしょ。通称《巨人達の森》。」
「うんうん」
少年はこくこくと頷く。
「その森の中に次層の底辺りまで伸びるでっかいツルがあんのよ。普通はそこにMobは湧出しないんだけど──」
「………クエスト受諾によって、モンスター湧出がアンロックされるってことか」
「そー言うこと。だけど、その難易度が無茶苦茶でね」
少年が再び首を傾げる。
「そのツルの一番上にいるクエストボスから、そのハンマーはドロップされるらしいんだけど………」
「………?ツルが高すぎて登れないとかってゆーこと?」
「違うわよ。でっかい葉っぱが交互に生えてるから登るのに苦労はないんだけど」
ここであたしは、カウンターを挟んで座っている少年の顔に自らのそれをずいっと近づけた。
少年の上体が軽く仰け反る。
してやったり、とにやりと笑いながら、あたしは続けた。
「………その葉っぱ一枚一枚にモンスターが居座ってんのよ。中ボス級のがね」
「………………………………………………………………………あー…………………」
なるほどとばかりに少年は左手の握り拳を右手の手のひらにポンと置く。
「最初は軽く落とせると踏んでた連中は皆返り討ちにあったそうよ。お亡くなりになった方はいなかったようだけど」
「ふーん」
「一度、フロアボスの討伐級の直結パーティが組まれたらしいけど──」
「………葉っぱ一枚の面積が小さすぎた」
あたしの言葉を言い当てた少年をチラッと見て、あたしは続ける。
「……端っこからはみ出したプレイヤーがバタバタ落ちてったそーよ」
うーん、と腕を組んで悩む少年を見ながら、あたしは自分で淹れたお茶をすすった。
ずずーっ。
「んじゃ行こっか」
ブーッ!!
吹き出した。それはもう大量に。
噴出されたお茶は、力学の法則に逆わらず真正面に座っていたものに激突した。すなわち少年の顔面に。
「なっ……ばっ!バッカじゃないのアンタ!!」
「……………それは僕のせりふだと思うんだけど」
滴るお茶の奥からジト目が投げかけられる。
ウォッホン!とあたしはエプロンのポケットからハンカチを取り出してフキフキする。
フキフキフキフキ。
「………それで、ホントに行くの?アンタ一人で?」
「え?おねーさんも行くんだよ?」
ナチュラルに返された、極めてナチュラルに。何言ってんだこいつ、見たいな顔で。
「んー、一応教えてくれる?何で?」
「だって、そのレイドパーティが壊滅しかけたのは、面積の割にパーティメンバーが多すぎたからでしょ?だったらそのツルを本気で登るつもりなら、人数は少なければ少ないほどがいいと思うんだけど……」
正論だ。正論だが何か大前提が狂ってる。
「あたしの話聞いてなかったの!?中ボス級だよ、中ボス級!最低でも2パーティでしょ!?」
「んー、でもそうすると、お目当てのハンマーが出ても最悪くじ引きでしょ?だったら僕達だけで挑んだほうがいいと思うけどな」
しばらく悩んだ末に、あたしはとてつもなく長い溜め息をついた。
「………よっぽどの凄腕か、よっぽどのバカチンね、アンタ」
あたしのその言葉に少年は答えず、あっはっはーとどこか誤魔化したように笑うだけだった。
「ああもういいわ。……で、いつ行くの?」
「僕はいつでもいいよ。おねーさんは?」
「んー、日帰りできそうだし、あたしも今からでいいわよ」
ウインドウを開き、エプロンドレスの上に簡単な防具類を装備する。愛用のメイスがアイテム欄に入っているのを確認し、ついでにクリスタルとポーションの手持ちが十分あるのも確かめる。
左手を振って「OK」と言うと、少年も立ち上がった。工房から店頭に出ると、幸いお客は一人もいない。ドアの木札を「CLOSED」に裏返す。
ポーチに立って外周を振り仰ぐと、まだまだ明るい陽光が差し込んでいた。日没までは相当間がある。
金属入手に成功するにせよ失敗するにせよ──まず間違いなく後者だと思うけれど──あまり遅くならないうちに帰ってこられそうだった。
そして気付くと、目の前ににゅっと小さな手が差し出されていた。
「それじゃあよろしく。………えーと」
突然少年は言いよどむ。しばらくして、少年はあははと笑った。
「おねーさんの名前知らないや」
その仕草に、あたしも思わずあははと笑う。
「あー、まだ言ってなかったかあー」
その小さな手を優しく握り返しながら言った。思っていたのと同じ、小さな手に再び笑ってしまう。
「あたしの名前はリズベット。リズでいいわよ」
「リズねーちゃんかぁ。僕の名前はレンホウ、レンって呼んでね~」
あたしたちはまた、あははと笑いあった。
握った手が優しく握り返された。
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「えーと、今回からやっとリズベット編始動って感じだねえ」
なべさん「そうそう!次回からはまだ読みごたえのある展開になってると思いますのでご容赦を」
レン「あんまり期待を押し上げないほうが身のためだと思うよ」
なべさん「(無視)はい、お便り、感想をどしどし送ってきてくださいね♪」
──To be continued──
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