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番外 リオINフロニャルド編
前書き
リオのその後の話です。
この話は読者の皆様に置かれましてはかなり予想外の流れなんじゃないかなと思います。
作者自身も思いついたのは最近ですしね。
ドッグデイズも二期が放映されているし、同じ都築ワールドと言うことでノリでクロスオーバーしてみました。
ある意味ネタです。
輝力や守護の力の設定に関しては捏造のオンパレードです。
そのあたりをご了承の上読んでいただければ幸いです。
「わああああぁぁぁぁぁぁぁ」
あたし達は今、どこか分からない空間を重力に引かれるかのように落下している。
いったいどのくらい落下したのだろう。
そんなに長い時間じゃないだろうけれど、ようやくこの空間にも終わりが見えた。
突然、あたし達はどこかの空中に放り出された。
「ああああああっ」
『スレイプニール』
ソルが気を利かせて飛行魔法を使用したので地面への激突は…
「わあああああああぁっへぶぅ」
「うにゃっ」
「きゃっ」
「うのぁっ!」
あたしの上から降って来たヴィヴィオとコロナ、ついでにアインハルトさんにぶつかって諸共地上へと墜落した。
「いたたたたっ…」
ぶつけたところをさすっているヴィヴィオ達。
「重いんだけど…」
「あ、ごめん」
瞬間的に『堅』で身体強化したからダメージは無いけれど、出来ればちゃんと飛行魔法は使用して欲しかったよ。
ヴィヴィオ達がいそいであたしの上から降りると、あたしも立ち上がり、あたりを確認する。
青い空、色とりどりに咲き誇る草花、それと、犬耳と尻尾を付けたキャロさん。
…
…
…
うん?
今なにかわたしおかしな事言わなかった?
「あれ?キャロさんいつの間にコスプレを?」
「リオっ!今はそんな事を言っている場合じゃないよ」
「そうだよ、ここがどこか分からないんだからねっ!」
あたしのボケにコロナとヴィヴィオがつっこんだ。
「そうですね。私達は確かに部屋で横になっていたはず」
冷静に分析したアインハルトさん。やはりこの中では一番お姉さんだ。
「それに、彼女はキャロさんじゃないようですよ?」
「え?」
改めてその彼女を見る。
彼女もこちらの状況が良く分かっていないようで、あわあわしている。
良く見ると耳と尻尾以外にも目の色や髪型と言った細かな点に違いが見られる。
「本当だ」
そう言ったのは一番キャロさんと付き合いの長いヴィヴィオ。
これはどうしたものかと思案していると、遠くから声が聞こえてきた。
「姫さまーーーーーー」
その声に目を向けるとなにやら大きな鳥に騎乗してくる騎士のようないでたちの人たち。
しかし、やはりその人たちも耳と尻尾が付いている。
「エクレ」
あたし達を囲むように騎士たちが陣取り、そこから1人抜け出てキャロさんに似ている人へと頭をたれる翠の髪の女性。
「姫様、ご無事ですか」
「私はなんとも無いのだけれど」
あたし達は突きつけられた武器に抵抗の意思は無いと、両手を挙げた。
「ヴィヴィオ~、これってどういう事?」
「わ、分からないよぉ」
情けない声をだすコロナと、それをなだめるヴィヴィオ。
「とりあえず、抵抗しない方がいいようです。彼らもそこの彼女を守っているだけのようですし」
そうアインハルトさんが言う。
少しすると騎兵が割れて、その奥から翠の少女を引き連れたキャロさん似の少女が進み出てくる。
「私はビスコッティ共和国領主ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティと申します。異国の人。どうやら突然の来訪のようですが、いったいどういったご用件でしょうか」
キャロさん似の少女の名前はどうやらミルヒオーレさんと言うらしい。
「すみません。あたし達もどうしてここに居るのか分からないんです」
皆この状況に混乱しているみたいだからあたしが代表して答える。
「そうなのですか?」
「眩い光に包まれた後、気が付いたらここに居たんです」
「そうなのですか。元の場所へは帰れそうですか?」
えっと…どうだろう?
「少々お待ちください」
そう断ってあたしはヴィヴィオ達に向き直る。
「ねぇ、帰れるかな?」
「まずここがどこか分からなければ転移魔法も使えないよ」
「ここはビスコッティ共和国って名前らしいよヴィヴィオ」
「国の名前じゃなくて世界の名前です」
そう、アインハルトさんが言った。
「あ、そうだね」
再びあたしはミルヒオーレさんに向き直る。
「あの、この世界の名前ってなんて言うんですか?」
あたしのこの問いに答えたのはミルヒオーレさんではなくて、隣に居た翠の髪の少女、エクレだった。
「お前らは何も知らないんだな。ここはフロニャルドだ」
むかっ!
あたし、あの人嫌いです。
それでも名前は聞けたからヴィヴィオ達に向き直る。
「フロニャルドって言うらしいよ」
「フロニャルドですか…」
「アインハルトさん知ってるの?」
「いえ、知りませんが」
ヴィヴィオが期待を込めて問いかけたが、すぐさま否定するアインハルトさん。
「と言う事は、帰れないって事?」
若干悲壮感漂う表情でコロナが言った。
「だねぇ」
「ちょっとっ!リオっ!どうしてあなたは余裕そうなのっ!?」
大声を上げたコロナ。
コロナの心情も分かるんだけどね。
「……二度目だからかな」
「二度目?」
どういう事ですか?とアインハルトさん。
「昔、と言っても三年位前の事だけど。あたしは1人で言葉も通じないところに転移したことが有ったからねぇ」
「え?」
「そんな事があったの?」
驚くコロナとヴィヴィオ。
「それで。その時はどうしたんですか?」
冷静に問いかけたのはアインハルトさんだ。
「管理局からの助けが来たよ。…とは言っても、特殊な場所だったらしくて、ミッドチルダに帰るのに一月ちょっとかかったなぁ」
3人とも一月もとつぶやいているが、あのころを思い出して少ししんみりするあたし。
「って事は現状では帰れないって事ですね」
それを踏まえてどうしようかと言う段落で経験者は語る。
「こういった場合あんまり動かないで管理局の助けを待ったほうが良いんだけど、どのくらい掛かるか分からないし」
「私達には食料などの持ち合わせもありません」
だよねぇ。
「それじゃあどうするのよっ!」
コロナ、もう少し落ち着けー。
「ずうずうしいかも知れないけれど、彼女、ミルヒオーレさんは領主さまのようだから頼ってみよう」
運がよければ保護してもらえるかもしれないし、そうじゃなくても救助が来るまでの間、仕事の斡旋なんかをしてくれるとうれしい。
まずはお金を稼がないと。
なんて思うあたしを助けているのはきっとあの世界の思い出だろう。
今はどうすることも出来ないと結論を出したあたしはミルヒオーレさんに向く。
「あの、あつかましいお願いなのですが」
「なんでしょうか」
「あたし達はこの世界とは別の世界の人間です」
「はい」
「突発的な事故で時空を渡ってしまった為に帰る手段が存在しません」
「そうなのですか?」
「はい。それで、出来ればあたし達を保護してもらえないでしょうか?もちろんあたし達が出来る仕事があれば紹介していただければご負担も減ると思います」
これは本当に彼らの好意にあずかる手段だ。
あんまり褒められた手段ではない。
だけど、帰るためにはまずこの世界での生きる糧を得ないといけない。
今のあたしの年齢は三年前のソラお姉ちゃん達と同じ。
あの時はあの世界での生活する糧をあの人達に頼っていたあたし。
今度はあたしの番だ。
「そうですね。私の城に来ますか?」
「ひ、姫様!?」
「エクレ、見たところ彼女達は皆小さな子供じゃないですか。そんな彼女達が見知らぬ土地にいるのですよ?助けてあげないと」
「で、ですが!」
食い下がるエクレをよそに、近くにいた青い髪のいかにも騎士と言う男性に向き直るミルヒオーレさん。
「エミリオ、彼女達をお願いします。私は帰ってリゼルに彼女達の滞在の準備をお願いしないと」
「はっ!」
騎士の礼をとるエミリオさん。
「すみませんが、私は先に失礼させていただきますね。後はこのエミリオが城まで案内してくれるはずです」
「あの、いいんですか?」
「はい」
そういうとミルヒオーレさんはエクレを連れて先に辞した。
「えっと、どうなったの?」
3人を代表して問いかけたヴィヴィオの問いに答える。
「うん。ミルヒオーレさんの家で保護してくれるそうだよ。後はそこのエミリオさんが案内してくれるって」
あたしの言葉から自分の名前が出たのを聞き取ったエミリオさんがこちらを向く。
「姫様のお言い付けだ。城まで案内する。セルクルに騎乗できるか?」
「セルクルとはその大きな鳥の事ですか?」
「ああ」
「…無理ですね」
「なれば、1人ずつ騎士の後ろに相乗りでよろしいですか?」
「お願いします」
丁寧に介添え付きでセルクルに乗せてもらうと一路ミルヒオーレさんが待つお城へと向かう。
「すごーい」
「お城…です」
「本当だ」
ヴィヴィオ、アインハルトさん、コロナの感想。
城門を通り、セルクルを降りるとメイドさんがあたし達を部屋へと案内してくれた。
「ベッドが四つ。全員一緒になるように取り計らってくれたんだ」
「こんな所に厄介になっても良かったのかな?」
まじめなヴィヴィオがつぶやいた。
「仕方ないじゃん。厄介になった分は何かで返したいけれど。あたし達に何か出来る事はあるかなぁ」
得意なことは戦う事くらいだからなぁ。あたしもヴィヴィオ達も。
しばらくすると、メイドさんが入室してきて用件をあたし達に伝える。
「姫さまがお呼びです。ご足労願えますか?」
「なんだって?」
コロナが問いかける。
「ミルヒオーレさんが呼んでるって」
移動すると、格式高い部屋へと通され、席を勧められた。
進められるままに椅子に座る。
正面にミルヒオーレさん。
その右隣に翠の髪の少女、エクレが陣取り、もう片方には少し小柄なふわふわした茶髪の髪がかわいらしい少女が立つ。
「お呼び出しして申し訳有りません。紹介しておきたい人がいましたので」
「いえ、気にしないでください。厄介になっているのはあたしたちの方ですから」
「そうですか。それで紹介したいと言う人はですね、こちらの」
ミルヒオーレさんの言葉をついで隣の栗毛の少女が自己紹介をする。
「リコッタ・エルマールなのであります」
「リコはですね、ビスコッティ国立研究学院の主席なんですよ」
なんかえらい学者さんのようだ。
「それでですね、先に戻った私はリコに異世界帰還の方法は無いのか調べてもらっていたのですが…」
リコさんが言葉を引き継いだ。
「基本的にこの世界では召喚と送還はセットになっているのであります。お呼び出ししてお帰りになるのを手助けをする事は出来るのでありますが…」
そんなぁ…とヴィヴィオ達の表情が陰る。
「迷い込んだ人を送り返す事は出来ないと言うことですか?」
「前例が無いだけなのであります。研究すれば異世界へと渡る事は可能なのかもしれないのですが…あなた様の故郷の世界の名前を聞いてもよろしいでありますか?」
「ミッドチルダです」
答えたのは年長のアインハルトさん。
「ミッドチルダ…聞いたこと無いのであります。以前勇者さまにいらしてもらった世界とは別の世界かと思います、姫様」
勇者さまって何?
とりあえず勇者について聞いてみた。
少し前に隣国との戦が続いたらしく、劣勢に陥ったビスコッティ共和国は勇者召喚で異世界人に助けを求めたらしい。
召喚された勇者は国を救い、元の国に帰ったそうだ。
え?戦なんてしていたの?この国。
それにしては活気にあふれているようだけど?
「しかしながらでありますが、以前送還について調べていたとき、フリーリア王国に異世界に渡る術があると言う話を聞いたであります」
そうリコさんはあたし達を励ますように言った。
「フリーリア王国…そこに行けば帰る手がかりも見つけられるかもしれないって事ですか?」
「その可能性は高いのでありますが…もしそんな技術があっても他国に教えてくれるものでありましょうか?」
うーん。
「……うーんと、それならば、フリーリア王国に戦の申し込みをいたしましょう」
「「姫さまっ!」」
「え!?ちょっと待ってくださいっ!あたし達の為に他国に侵略なんて駄目ですっ!」
あたしの言葉にミルヒオーレさん達がポカンとしている。
え?何?この状況。
「ああ、リオさん達はこの世界の戦の事を知らないのでありましたね」
うん?どういう事?
そしてリコさんが教えてくれた戦とはあたし達の知っているソレとはまったく違うものでした。
戦場を決め、救護の準備をしっかりしてから戦闘を開始する。
とりあえず、敵は凹ってかまわない。
この世界はフロニャ力と言うもので守られていて、フロニャ力が強い場所では怪我はしないとか。
とてつもなくやさしい世界ですね。
頭、背中にタッチすると即座にけものだまになり、タッチボーナスも稼げるらしい。
どうやらこの戦、得点制らしいです。
と言うか、けものだまっていったい…
それと、フロニャ力を自分の紋章に集めて自分の命の力と混ぜ合わせることで輝力と言う力に変換する事が出来るらしい。
うーん…
フロニャ力とはどうやら魔力素みたいだ。
ソルに観測させてみたら、魔力素は場所により濃度が上下するけれど存在している。
ミルヒオーレさんの言葉を聴くと、魔力素とオーラを混ぜて使う技術みたい。
その力を使って紋章砲と言うビームを放ったり、紋章剣といった斬撃を飛ばすらしい。
戦自体を興行として大々的に開くことで結構大きな利益が出るとか。
どうやら一種の娯楽のようですね。
とは言え、国家間の要求の調停の場としても機能するようで、今回のように戦を設けて勝てば多少の要求は通るようです。
まあ、要約すると、戦自体は結構頻繁に行われているから気にするな、ただし帰る手段が欲しかったら勝たないと、と言うことらしいです。
「それと、丁度今日は隣国ガレットとの戦の開催日なんですよ。ですので実際に戦場をご覧になってはいかがですか?やはり一度実際に見ていただいたほうがよろしいでしょうし」
たしか、戦で活躍すると報奨金がもらえるんだよね?
戦に出て稼げれば、出元は国の収益からだけど、一応自分で稼いだって事になるかな?
「あのっ!その戦、あたしも参加したいんですけどっ!」
「へ?」
…
…
…
簡素な革鎧に片手剣と木製の盾が一般参加の基本装備だそうで。
片手剣を脇に射し、盾は背中に引っ掛けて準備完了。
「ねえリオ、本当に1人で行くの?」
と、コロナがあたしを心配してくれた。
「そうだよ、わたし達も一緒に行く事だって。ねえ、アインハルトさん」
「はい。どうしても1人でいかれるんですか?」
ヴィヴィオの言葉にアインハルトさんも心配そうに言った。
「うん、だって皆は紋章術、使えないでしょう?」
「うっ…」
そう、ヴィヴィオ達にはこの世界では一般的な戦闘技術の紋章術の発現が出来なかったんだ。
「どうやったら出来るの?」
「説明はされたでしょう」
フロニャ力(魔力素)と命の力を混ぜ合わせる事で生成される輝力と言うエネルギー。
なまじ魔法と言う技術が一般化されているからこそヴィヴィオ達には命の力と魔力素を混ぜ合わせる事が出来なかった。
いや、ちがうかな。ヴィヴィオ達の操る膨大な魔力に少量のオーラではうまく混ざらなかったと言うべきか。
どうやらこの世界の人たちにはあたし達と違いリンカーコアに魔力素を溜め込む器官はないみたいだ。
それでも周りの魔力素を操り自分のオーラを混ぜることで莫大なエネルギーに変換している。
1+1が5になっているような感覚だ。
この1+1がヴィヴィオ達には出来ない。
だいたい1(魔力)+0.1(オーラ)くらいかな?
これじゃうまく混ざるはずも無い。
戦の相手は真剣を振るってくるが、輝力が使えれば武器が壊れ、服が破けるだけで済むらしい。
輝力が使えるとフロニャ力の加護が働いて、異世界人でも大怪我はしないんだって。
不思議なもんだ。
武装が破壊されれば襲わないのがルール。
「だから、どうしても参加したかったら、輝力の扱いが出来るようになってからだよ」
それにヴィヴィオ達は昼間の模擬戦で限界のはず。
今は緊張と混乱で活力が満ちているだけだ。
あたしはまだまだ余裕があるし、ね。
うーうーうなるヴィヴィオを置いてあたしはスタート地点へと移動した。
戦場を見渡せば、そこはジャンプ台があったり、ため池があったり、そのため池に足場代わりの丸太や、うんていなどの遊具なんかが見て取れる。
今回はわりと狭い戦場らしいとミルヒオーレさんから聞いていた。
フィールドはおよそ陸上競技場一個分くらいかな。
参加者はビスコッティ、ガレット共に3000人くらいだとか。
この規模の戦では騎士団長クラスの参戦は無いから気楽に楽しんできてくださいとの事。
頭上には巨大にキューブ型のモニタが設置されていて、戦場の様子をアナウンサーたちが解説を交えながら実況するらしい。
…うーん、完全に運動会のノリだなぁ。
【それでは、両軍準備が整ったところで、戦の開戦です】
アナウンサーの宣言と共に両軍一斉に歩を進める。
「それじゃ、あたしも行きますか」
ぐっと四肢に力を入れると前へと駆け出す。
水上アスレチックを制覇して先に進むとどうやら相手とかち合った。
「おおおりゃああーーーー」
気合一閃。目の前に迫った相手の猫耳兵士の短剣での攻撃を体を捻って避ける。
「たっちっ!」
「なっ!」
ポワンッ
あたしが彼の背中に触れると一瞬にしてけものだまへと姿を変えた。
「なにこれ、かわいいっ!」
説明で聞いていたけれど、実際見るとなんかかわいい生き物なんだけどっ!
…でも実際はむさいおっさんだから持ち上げたりはしませんけどねっ!
「うらーーーっ」
おっと、油断も隙も無い。
次から次へと敵兵が攻撃を仕掛けてくる。
攻撃をかわして頭にタッチ。
やはりかわいらしいけものだまへと変化する。
「だんだん楽しくなってきたっ!」
「うおーーーー」
「えやーーーー」
向かってくる敵に頭と背中を次々タッチ。
ぽぽぽぽーーんと言う音をたててけものだまに変化する。
それにしても、この戦って子供だからって容赦ないよねぇ。
まあ、絶対安全がモットーらしいから相手も手加減がないのかも。
「よしっ!この調子でどんどん行こうっ!」
【おーっと、あの快進撃を続けているダークホースはいったい誰だぁ!?】
【装備は一般兵のものですが、その身のこなしは騎士達よりも上ですね。これでは一般参加者では彼女の相手は難しいでしょう】
アナウンサーの実況に少しイケメンの解説が答えた。
【彼女?女の子なんですか!?バナード将軍】
【とてもかわいらしいお嬢さんですね】
戦場の中間を過ぎたころ、前方に全身を黒い甲冑に身を包み大きな斧と鎖でつながれた鉄球を武器に構えているおじさんがこちらを睨みつけるように対峙している。
「なぁかなか善戦しているよぉだが、ここからぁ先はぁこのゴドウィン・ドリュールが一歩もとおぉさんぞぉ」
【でたーっ!ガレット騎士団、ゴドウィン将軍だぁ!これはあの少女の快進撃もここまでかぁっ!】
「1勝負、お願いしますっ!」
「のぞむところよぉっ!」
瞬間、ゴドウィン将軍の背中に紋章が浮かび上がる。
「うおぉらぁぁぁああああああっ!」
振り回した鉄球が何倍にも膨れ上がりあたしに投げつけられる。
「ちょっ!」
あたしはすぐさま精孔からオーラをひねり出すと『流』で身体能力を強化する。
腕に6割、足に2割、残りの1割は全身の強化にオーラを回すと、あたしは迫り来る鉄球を受け止める。
「ああああああああっ!」
【うっ!うけとめたーーーーーっ!】
ウワァァァァァァ
アナウンサーの実況と四方から上がる歓声。
「なんとぉっ!」
まさか受け止めるとは思わなかったゴドウィン将軍が驚きの声を上げる。
「せぇっのぉっ!」
あたしは渾身の力で受け止めた鉄球を投げ返した。
【なっ!なげかえしたぁああああっ!】
「ぬぅんっ!なぁんのぉっ!」
あたしが投げ返した鉄球を鎖を持ち上げて持っていかれまいと踏ん張るゴドウィン将軍。
「ぬぁあはははははぁっ!やりおるなぁっ!」
踏ん張って振り回し、もう一度投擲体制をとったゴドウィン将軍。
だけど、遅いよっ!
あたしは踏ん張るゴドウィン将軍の隙を逃さず懐近くまでもぐり、
「タッチっ!」
ゴドウィン将軍の頭部を駆け抜けるようにタッチした。
「むぅっ!ぬかったぁぁぁぁぁああっ!」
バリバリバリっ
パリンっ
小気味よい音を立ててゴドウィン将軍の甲冑がはじけ飛ぶ。
「私のまけだぁっ。ゆけいっ!」
「はいっ!」
防具破壊ですっぽんぽんかと思って身構えたけれど、インナーまでは破壊されなかったようだ。
【なんとぉっ!ゴドウィン将軍をうちやぶったあああああっ!あの少女の快進撃はどこまで続くのかぁっ!】
実況が囃し立てる。
【はやいっ!はやいっ!はやいっ!快進撃は止まらない~~!】
つり橋を超えて平原へと入ったあたしを待ち受けていたのは銀髪の少年だった。
その後ろに猫、トラ、ウサギの耳を生やした女の子が控えている。
【おおっとっ!彼女の前に現れたのはガレット獅子団領、ガウル殿下だっ!これは彼女の快進撃もここまでか!?】
「ゴドウィンを倒したんだってなぁっ!」
えっと、実況を聞くとガウルくんって言うのかな?
「あのハンマーの人?」
「ああ」
「相性が良かっただけですよ」
あの人はパワーファイターで一撃の攻撃には重みがあるタイプだけど、かわされたり受け流されると次の攻撃にはほんの少し時間がかかる。
速度重視のあたしはその隙を突いたにすぎない。
「それでもだっ!勇者が帰ってしまってからなかなか全力で戦える機会が無かったからなっ!ひさびさに本気でいかせてもらうぜっ!おまえらっ!援護は不要だからなっ!」
「「はーい」」「…了解」
後ろのお姉さんがガウルくんの言葉に了承の返事を返した。
ソレを合図にガウルくんの輝力が輝きだす。
「輝力開放…獅子王爪牙っ!」
輝力が四肢に集まって獅子の爪を思わせるような形にまとわり付く。
「いくぜぇぇえええっ!」
っ!速いっ!
大地を蹴ったガウルが目にも留まらぬ速さでその爪をふるう。
まずいっ!あたしと同じ高速機動型っ!
あたしはその速さに対応しようと咄嗟に写輪眼を発動させた。
「ちっ!」
まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。悪態をつくガウル。
あの爪。まともに受ければリタイアは必死。ならばこちらも爪が要る。あの爪に対する爪が。
「輝力開放っ!」
あたしの後ろに紋章が浮かぶ。
扱うエネルギーは少し違うけれど、なんとなく出来る気がする。
あたしは両手で印を組むと、輝力を雷に性質変化させて両手に纏わせるように形態変化させた。
チッチッチッチッチッ
できたっ!
「なんだっ!そいつぁっ!」
「雷遁・千鳥。輝力版」
千鳥を扱うのはとてつもなく多くのオーラを使うのだけど、この輝力に変換したエネルギーならばオーラのみの場合よりも少ないようだ。
まぁ、その分魔力も消費しているけれどね。
それでもガリガリと輝力が削られていくのが分かるからあまり長期戦は出来ないかな。
でもっ!これで互角に戦える!
「いくよっ!」
「来いっ!」
◇
放送される実況中継がリオの活躍を伝える。
「うーーうーー、いいなぁリオ。楽しそうだなぁ」
ヴィヴィオがうらやましそうな声をあげた。
「リオ、すごい。どんどん倒しちゃってる」
コロナがモニタに映るリオが触れた後にけものだまに変化している兵士達を見て言った。
「リオさんのどこにあんな膂力があるのでしょう」
ゴドウィン将軍の鉄球を受け止めたリオさんをみて私が率直な疑問をくちにすると、コロナさんがかえした。
「あ、そう言えば今日の模擬戦でわたしのゴライアスのコブシを真正面から打ち砕いてたよ」
「ええ!?あのゴライアスを?」
ヴィヴィオさんの驚きの声。
彼女はどれほど実力を隠しているのか。
快進撃を続けるリオさんの前に今度は銀髪の少年が現れる。
「輝力ってあんな使い方もあるんだ」
そうヴィヴィオさんが感心している。
あれは魔力刃のようなものだろうか。輝力を質量化させて四肢にまとわり付かせている。
モニタの中でガウル殿下が仕掛ける。
「はやいっ!っ、リオっ!」
ヴィヴィオさんが心配して声を張り上げた。
「…大丈夫ですよ、彼女なら」
「え?」
「ほら」
疑問顔でこちらを向いたヴィヴィオさんにモニタを勧める。
そこにはガウル殿下の攻撃をしのいだリオさんが映っていた。
「すごーいっ!」
「あ、今度はリオの手から何か出てるよ?」
コロナさんが言ったようにリオさんの後ろに紋章が輝いたと思ったらなにやら手を不可思議に組み合わせ、一瞬後に両手をバチバチと雷が覆っているかのように纏わり付いている。
「すごいね、リオ。輝力をもうあんなに使いこなしているよっ!」
いえ、あれは前から知っていた物を輝力で再現しているように感じます。
つまり、これが彼女が言っていた「ここ(魔法世界)では使えない」技術ですか。
「まだまだ本気の彼女と対戦できるのは遠そうです」
自身の未熟さを感じ、独り言のようにつぶやくと、モニタの中で二人の試合の決着がついていた。
◇
何回も激突したそれもついに終わりを迎える。
互いに必殺の一撃の威力を込めてすれ違いざまに攻撃を加えた。
そのまま交差。
バリバリバリッ
「きゃーーーっ!」
あたしの防具にひびが入り、一瞬で下着を除いてブレイクした。
たまらずしゃがみこむあたし。
「なははははっ、オレの勝ち…アレ?」
ピシッバリンっ!
小気味よい音をたててガウルくんの防具も吹き飛んだ。
【これは両者防具破壊だぁああああっ!なんとガウル殿下と引き分けにもちこんだあぁぁ!】
『バリアジャケット・セットアップ』
一瞬でバリアジャケットが展開されて、あたしの体を覆った。
「ありがとう、ソル」
『問題ありません』
「ちぇ、引き分けかぁ」
「おう、あんた強いな。名前はなんてんだ?」
後ろに控えていた3人からマントをもらって羽織ったガウルくんがあたしにたずねてきた。
「リオ、リオ・ウェズリー」
「オレはガウル・ガレット・デ・ロワ。親しいやつからはガウって呼ばれてるな」
「ガウ…くん?」
「おうっ!」
「ガウさま、装備の交換に戻りませんと」
後ろに控えていたウサ耳のお姉さんがガウくんを引っ張って陣営に戻っていった。
「あたしも戻らないと」
邪魔にならないようにリタイアゾーンから本陣へ。
ミルヒオーレさんから服を受け取りすぐに着替えると残念ながら今回はそこでタイムアップ。
本陣の中でミルヒオーレさんとリコさんのいる席へと招かれた。
「大活躍でしたね」
ミルヒオーレさんがねぎらってくれた。
「負けちゃいましたけどね」
「いえいえ、戦自体は我がビスコッティの勝利なのであります。それにゴドウィン将軍にガウル殿下。お二人も撃破されたのでありますよ?報奨金はいっぱい出るとおもうのであります」
リコさんがそう言って励ましてくれた。
「それに、タッチボーナスもかなりのものになったかと。あとでお受け取りくださいね」
そうなのか。
夢中だったから途中で100から後は数えるのはやめちゃったけれど、結構がんばったよね。
「お疲れでしょう?部屋で少し休まれると良いかと思います」
「ミルヒオーレさん達は?」
「わたし達はこれから戦勝国イベントの準備です」
「姫様が歌うのでありますよっ!」
「頑張ってくれたリオさんとそのお友達さんは招待いたしますので是非見に来てくださいね」
「はい、是非に」
とりあえず、もらった報奨金から立て替えてもらった参加費を返済し、残りはありがたくいただいた。
ゴドウィン将軍とガウくんの撃破が利いたのか、この世界の平均月収の二か月分くらい有りますよとの事。
贅沢をしなければしばらく生活はできるかな。
それから催されたミルヒオーレさんのコンサートイベントを見に行って、手に入れたお金で小腹を満たした後あたし達はお城に戻り、与えられた部屋で就寝した。
疲れきっていたこともあり、すぐに寝付くことが出来たため、皆帰れないと言う不安を一時でも忘れることが出来た。
フロニャルド滞在二日目
次の日、ベッドから起き上がり、メイドさんに配膳してもらった朝食を食べ終わるとミルヒオーレさんが呼んでいると呼び出され、執務室のようなところに案内されたあたし達。
入室するとミルヒオーレさんが座り、その隣に銀色の髪のお姉さんが座り、さらにその横にガウくん。
後ろにリコさんや昨日紹介されたビスコッティ共和国の騎士団長さん、その隣にエクレ、ガウくんの後ろには昨日もいた猫、トラ、ウサギの三人娘が控える。
あたし達を対面の椅子に座らせるとテーブルに紅茶を置いてメイドさんが下がる。
「こちらはガレット獅子団領領主の」
「レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワじゃ。そなたらが異世界から来た客人か」
ミルヒオーレさんの紹介を引き継ぎ自己紹介するレオ姫さん。
ガレット・デ・ロワって事は、ガウくんのお姉さんかな。
「アインハルト・ストラトスと申します」
「リオ・ウェズリーです」
その後ヴィヴィオ、コロナと自己紹介が続く。
自己紹介も済んだところであたし達を呼んだ用件に入る。
「先ほど、フリーリア王国に異世界へ渡る方法を教えてくださいとお願いする使者をだしたのですが…やはり教えられないとの事でした」
「…そうですか」
「なので、予定通り戦の申し込みをして参りました。しかし、かの国はとてつもなく戦が強いのです」
「そうなんですか?」
「はい…」
しょんぼりするミルヒオーレさん。
「じゃから、今回は我がガレットとビスコッティの共同戦線と言う事になったのじゃ」
なるほど、それでレオ姫さまがここにいる訳ですね。
「しかし、戦の開戦には打ち合わせや戦場の準備などの事情から二週間ほど時間が掛かる。これは了承してもらう他ないのう」
それは仕方が無いかな。
戦は国家主催の行事のようだし、安全対策もばっちりの一種の運動会だ。
準備は万全でなくてはならないだろう。
「けっこう時間が掛かるんだね…」
二週間と言う言葉に気落ちするコロナ。
「でもここはわがままを言えないよ。コロナ、合宿が二週間伸びたと思って楽しもうよ。それに、二週間の間に助けが来るかもしれないしね」
「う、うん」
とは言え、戦に勝ったとて、帰れるとは限らないとは言えなかった。
午後はなんとなく中庭で皆で輝力の練習中だ。
どうやらあたしだけが使えたことに納得がいかなかったようだ。
うんうんうなって練習しているが一向に成功しない。
「ダメー。なんとなくもうちょっとな感じがするんだけど、そのもう少しがわかんない」
ヴィヴィオがそう言って地面にしゃがみ込みダレた。
「どうですか、皆さん輝力は感じられるようになりましたか?」
丁度よく中庭にやってきたミルヒオーレさんがあたしにそう尋ねた。
「なかなか難しいみたいです」
「そうなのですか。以前いらしてくれた勇者さまは少し教えただけで使いこなしてしまわれたのですが」
「ヴィヴィオ達の場合、フロニャ力だけで力を行使する事になれちゃっているんですよ。だから逆に難しいのかもしれません」
「フロニャ力だけで?」
「はい。あたし達は魔力素って言ってますけど。ソルっ!」
『アクセルシューター』
足元に魔法陣が展開して、あたしの周りに数個の魔力スフィアが現れる。
「これは…紋章術とは違うのですか?」
「これが魔法です。あたし達の場合、このエネルギーだけで色々できたりするのですが、フロニャルドの人たちはこのエネルギーを多く取り込むことが出来ないんじゃないかな」
「と言うと?」
「あたし達が魔力素だけで扱う事が出来るレベルまでは吸収出来ない。だからそれに自分の命の力を混ぜこんでそのエネルギーを何倍にもしている」
「それが輝力だと?」
まあ、あたしの推察だけどね。
「まって、まって。その説明だとリオが輝力を扱える説明になってないよ!」
ヴィヴィオが突っ込んだ。
うーん、実際に命の力と言うのがあるというのは知られちゃったし、ヴィヴィオ達ならばいいかなぁ。
「あたしは命の力、生き物なら誰でも持っている生命の力、あたしはオーラって呼んでいるけど、それを扱うことが出来るからね」
「それがあの時は使えないって言ってた力ですか?」
アインハルトさんがあたしに問いかけた。
「そうだね。この力は結構危険なんだ。魔法とは似たことも出来るけれど、非殺傷設定なんてものは無いから、行使すれば人が傷つく。まぁ、フロニャ力の加護があるこの世界では違うかもしれないけどね」
強烈な攻撃をくらってもフロニャ力の加護が強い地域ではけものだまになったり服が破けたりだけで済むらしいしね。
「実際にはどんなことが出来るの?」
「うーんと身体強化とか、性質変化とか…まぁ、簡単に一個見せるけれど、危ないから近寄らないでね」
あたしは印を組んで息を吸い込む。
「火遁・豪火球の術」
ボウッとあたしの口から巨大な火の玉が燃え盛る。
「うわっ!」
「何それっ!」
「…すごい」
「わー、すごいですね」
上からヴィヴィオ、コロナ、アインハルトさん、ミルヒオーレさんだ。
「それで、このオーラと」
そう言ってあたしは右手にオーラ、左手に魔力を球形にして放出した。
「魔力を混ぜ合わせたのが…」
右手と左手を正面で合唱するように合わせ、魔力とオーラを混ぜ合わせた。
「輝力」
放出した球形の5倍ほどの大きさのスフィアが形成された。
「ま、こんな感じかな」
「すごい」
しかし、輝力は長時間溜めておくことには適さない感じがするね。
必要なときに必要な分だけ混ぜ合わせて使うと言う感じかな。
そこはやはり一長一短だ。
「じゃあ昨日のアレは?」
と、コロナ。
昨日のあれと言えばアレか。
「うーん、あれは輝力を雷に性質変化させた上で形態変化させて放電させたんだよ」
とは言え、あれはあたしに性質変化に雷の特性と、魔力変換資質・雷があったから出来たようなものか。
「うん?」
「まあ、コロナ達には難しいって事だね」
そんなこんなでその日は練習を続けたが、輝力を会得する事はかなわず。
まあ無理に取得する必要もないんじゃないかなぁと思っていたんだけど…
四日も練習していると曲がりなりにも輝力を使えるようになっていたヴィヴィオ達。
あせってヴィヴィオ達を見てみたが、精孔が開いた訳じゃないみたい。
誰もが持っている内側の少量のオーラに混ぜ合わせる事を覚えたようだった。
これで戦に参加できると喜んでいるから…まぁいいのかな?
フロニャルド滞在五日目、夜。
あたしはバルコニーで1人、日課の『堅』の訓練。
「ねぇ、リオ。ちょっといいかな?」
「んー?」
ただ自然体で立っているだけのあたしに躊躇いがちに話しかけたヴィヴィオ。
「ねぇ、リオ。リオの周りを何かもやのような物が覆っているのが見えるんだけど…それって何?」
「え?」
と、振り返ったあたしは驚愕の事実を目の当たりにすることになる。
ヴィヴィオの左目に浮かぶ三つ巴の勾玉模様。
写輪眼。
「ヴィヴィオ…その眼…」
「眼?」
近場に有った姿見で自分の姿をのぞくと、その眼に驚愕するヴィヴィオ。
「あっ…これって…」
え?ヴィヴィオ知ってるの?
「きゅう…」
って!ヴィヴィオが倒れてるーっ!
「ヴィヴィオっ!」
「ヴィヴィオ、大丈夫!?」
「すぐにベッドに運びましょう」
あわてるあたしとコロナをたしなめるようにアインハルトさんが冷静にヴィヴィオをベッドへと運んだ。
「うにゅー…なんか体がだるいー」
ベッドに横になったヴィヴィオがそうもらした。
「いったい何があったのでしょう」
アインハルトさんが気遣わしげに言った。
「オーラを大量に消費したからだよ」
「オーラ?」
「ヴィヴィオ、ここに何か見える?」
あたしは人差し指を立て、オーラを球形に放出するとヴィヴィオの前に差し出した。
「んー?何もみえないよ」
ふむ。
「なにか分かったのですか?」
アインハルトさんが詰め寄る。
「うーん。なんでヴィヴィオが写輪眼を使えるのか分からないけれど、精孔も開いてないのにオーラを消費したからじゃないかな?」
「写輪眼?」
ヴィヴィオが問い返す。
「さっきのヴィヴィオの左目の事」
「左目?」
何の事?とコロナ。
「ねえヴィヴィオ、さっきどうしてああなったか分かる?」
「えーっと。リオがなんかやってるんじゃないかなぁって思って、よく見ようと思ったらああなってた。あの時みえたあのモヤは多分…」
頭のいいヴィヴィオなら予測が付いているんじゃないかな。
「オーラだね」
「そうなんだ」
「それよりも。ヴィヴィオって聖王の家系なんだよね?何で竜王の特異体質が遺伝されてるの?」
どうして写輪眼を発動できたのだろうか?
「……それはわたしが聖王と竜王のハイブリットだからだと思う」
それからヴィヴィオが語った事実をまとめると、半分は聖王、もう半分は竜王の遺伝子を掛け合わせたクローン体らしかった。
「それより、なんでリオはそんな事を知ってるの?」
そうコロナが言った。
「言ったでしょう?あたしは竜王の子孫だって。写輪眼はあたしの家系に宿る特殊能力。一種のレアスキルだもの」
「って事は、リオも使えるの?」
ヴィヴィオがベッドから上半身を起こしてあたしに聞いた。
「使えるよ」
そう言ってあたしは写輪眼を発動させる。
「わ、眼の色が赤くなった」
コロナはあたしの目の変化に驚いたようだ。
「これがあたしが竜王の子孫である証。まぁ、これの能力はさておいて。ヴィヴィオは使わないほうがいいと思う」
「な、なんで?」
「これを発動させるのに使うエネルギーはオーラ…命の力なんだけど、結構大量に消費するし、精孔の開いていないヴィヴィオじゃすぐに底をついちゃう。そうすると今みたいに倒れることになると思う」
「精孔って?」
「体内にめぐるオーラはね、所々ふさがっていてうまく流れていかないのが普通なの」
「うまく流れていかないのに?」
「そう。だから扱える命の力が少ない」
「リオはじゃあその精孔が開いているんだ」
「そう言う事だね」
「精孔を開ける事は可能なのですか?」
問いかけたのはアインハルトさん。
「うーん、出来なくは無いけど危険だから」
オーラを纏った状態で相手にショックを与えれば目覚めることがあるって聞いた。
だけど、オーラを纏った状態で殴れば骨は折れるし、内臓系はぐちゃぐちゃになるだろうし…
「…そう、ですか」
まぁ、こんな所だね。
すこし予想外の出来事が起こったけれど、それでも穏やかに夜は更けた。
そんなこんなでフロニャルド滞在二週間目。
結局助けは来なかったけれど、今日は戦興行の日。
「うーん、わくわくするよぉっ!ね?アインハルトさん」
装備は以前あたしが装備した簡素な革鎧と短剣。
「はい。以前は見ているだけでしたから。実際にこうやって参加できることになってやはり高揚しています」
ヴィヴィオの振りにアインハルトさんが答える。
あたし達は歩兵部隊に組み込まれ、開戦の時を待っている。
【いよいよ開戦の合図を待つばかりとなりましたビスコッティ・ガレット連合軍VSフリーリアの戦。これはもう夢のような対戦ですねぇ】
男のアナウンサーが隣の女子アナに振った。
【そうですね。フリーリアの戦歴はここ数年では負けなし。不敗を誇っていますね】
【そうなんですよね。しかーし、今度の相手はビスコッティ・ガレットの連合軍。両国の騎士団長や騎士達が全員参加の夢の舞台。さて、どちらがこの戦を征すのかっ!】
「コロナ、そんなに緊張しないっ!ミルヒオーレさんがあたし達のために開いてくれたこの戦。勝つのは絶対だけど、せっかくだから楽しもうよ」
「りお~」
ちょっと返事がしょんぼりしてるけど、まぁ戦が始まればきっとその場の雰囲気で何とかなるでしょ。
ドンッドドンッ
花火が打ち上げられ、開戦の合図を伝えた。
「だぁいぃいちじぃんっ!ゆけぇいぃっ!」
歩兵部隊の指揮に当たっているゴドウィン将軍が気合を入れた号令で進軍が開始された。
【さぁっ!開戦だぁああああっ!両軍、まずは歩兵部隊を先行させて様子見の構えのようだぁ!】
「それじゃ、みんなっ!頑張ろうっ!」
「おーっ!」
「う、うん」
「はい」
さてさて、まずはアスレチック群だ。
丸太で出来た平均台を駆け抜け、階段を三段飛ばしに駆け上がる。
「り、リオは~や~い~」
そんなコロナの声が聞こえたけれど、あたしは前へ前へ駆ける。
「きたぞーーーっ!迎え撃てーーー」
相手の兵士がこちらへと歩を進めた。
「よっ!はっ!ほっ!」
「うわーーー」
「やられたー」
「むねん」
ぽぽぽーんっ
けものだまに変化した兵士達をすばやく救護班が回収する。
バトルフィールドの中に三つほど、小高い舞台のようなものが設置されているのが見える。
敵軍はソレを守るように配置されているようだ。
つまり、あれの中を突っ切ってその舞台へと上ればなにかボーナスが有ると見ていいんじゃないかな?
【おーっとっ!ダークホースは先日の少女だけではなかったぁああっ!ご覧ください。またも小さな女の子がせまる敵兵をちぎっては投げちぎっては投げっ!まさに無双だっ!】
ヴィヴィオやコロナ、アインハルトさんとは離れちゃったけど、どうやらそれぞれ別の方向へと順調に進んでるみたいだ。
迫る敵兵をけものだまに変えつつ、舞台の端から釣り下ろされているロープを手にすると、するすると軽い体重とそれに見合わない握力で登っていく。
「よっこいしょっ!」
【さあ、ロープを上りきった先に待ち受けているのはなんなのかっ!】
上りきった先で待ち受けていたもの。
それは、年の頃14歳くらいの猫耳猫尻尾の1人の少年だった。
「君が一番乗りか。ここは闘技場。俺を倒せればかなりの得点が入るから、頑張って倒してね」
その少年をひと目見たとき、あたしは驚きで意識が飛びそうになってしまった。
なぜかって?
【おおっと!舞台の上で待ち構えていたのはアイオリア・ドライアプリコット・フリーリア殿下だぁっ!】
「アオ…お兄ちゃん?」
「え?」
「…あたし、リオ・ウェズリーです」
…会えた。
どんなに姿が変わっても、あの銀色に輝くオーラをあたしは忘れない。
「リオ?…どうしてこんな所に?」
あたしは驚いて、でも、思いがけない再会に涙をいっぱいに浮かべて…
「…っいまは…そんな事っ…よりもっ」
感動で声が震えるけれど、それをぐっと堪える。
「今は戦…全力であなたを倒しますっ!」
今あたしの持てるすべてをあなたに見てもらいたいから。
「ソルっ!」
『バリアジャケット・セットアップ』
簡素な革鎧が、速度重視の軽装のバリアジャケットへと変わる。
「…そっか。わかった。何があったのか聞くのは戦が終わってからにする」
『スタンバイレディ・セットアップ』
アオさんの防具がいつかの銀の竜鎧へと変化した。
「行きますっ!」
「来いっ!」
◇
初めて参加した戦は想像以上に楽しいものでした。
安全対策は万全だし、一種の運動会みたい。
こんな楽しい事をリオは前回体験していたなんてっ!
とは言え、リオみたいにタッチボーナスを荒稼ぎするなんて芸当はわたしには難しいから殴って蹴ってすり抜けて、先日覚えた輝力を使って紋章砲でぶっ飛ばしつつ戦場を進むと、どうやら上へと登るロープが釣り下がっていた。
ロープを上りきると、前方には猫耳と猫尻尾のお姉さんが1人待ち構えていた。
「ふぇええ!?なんかものすごく小さいけれど、もしかしてヴィヴィオ!?」
その少女はわたしを見ると大いに驚いてわたしの名前を叫んだ。
「え?なんでわたしの事を知っているんですか?」
わたしの問いかけになにやら考え込むように自問自答している彼女。
「えーっと…あの位のヴィヴィオがフロニャルドに行ったなんて話しを聞いた事はないから…別人?…あ、そう言えばあの子の名前は本当にヴィヴィオなのかな?レイジングハートどう思う?」
レイジングハート!?
『姿かたちが99パーセントで一致しています』
「うーん、そっかぁ…でもわたしが知ってるヴィヴィオじゃない可能性もあるのかな?」
なんかごにょごにょ言ってるけれど、あの人はもしかして…
「なのはママ?」
「あ、あれ?レイジングハート!なんかわたしがなのはだってばれちゃってるよ?どうしようっ!」
姿かたちはぜんぜん似てないけれど、たしかにあれはなのはママだ。
『マスター、落ち着いてください。いまは戦。まずはそちらを優先しないと』
「そっ、そうだねっ!ヴィヴィオっ!どうしてこんな所にいるのか分からないけど、まずはフロニャルドの戦にのっとって、勝負っ!」
「えっと…はいっ!」
なんかぐだぐだになりつつもわたしの戦いが始まった。
◇
始まったあたしの戦いはのっけからマックス、全速力。
写輪眼を発動し、『堅』をする。
「ソルッ!」
『アクセルシューター』
「シュートっ!」
大量の魔力スフィアを弾幕として放つ。
【大量の砲撃がアイオリア殿下にせまるっ!これはさすがに避けきれないか?】
アオさんがそんな簡単に被弾するはずは無い。
巻き上げる粉塵。
その間に自分は地面を蹴って一足でアオさんに踏み込む。
「木の葉旋風っ!」
空中回し蹴り…からのっ!
「リオスペシャルっ!」
相手を蹴り上げての空中コンボ。
「むっ!」
バシンッバシンッ
【はやい、はやい、はやいっ!眼にも留まらぬ連撃だぁっ!】
オーラを脚部に多く振り分けての連撃。
だけど…
「うわっ!」
全部防がれた上に足をつかまれ、地面へと投げつけられたあたし。
ドゴンっ
咄嗟に背中にオーラを集中させたのでダメージは少ない。
そのままそこに倒れこんでいる隙を与えてくれるほどアオさんは甘くない。
すぐにアオさんの追撃のコブシが迫るなか、転がりながら回避して距離をとる。
ドォン
あたしが居た所が粉塵を上げて砕け散った。
あぶないあぶない。
あたしはすぐに印を組む。
『火遁・豪火球の術』
ここで眼くらましも兼ねて大きな炎の塊をアオさんにぶつける。
おそらくあたしの印を写輪眼で見抜いたのだろう。
『火遁・豪火球の術』
アオさんも同じ術であたしの火遁を相殺した。
【なんと両者火を噴いたっ!】
爆煙を切り裂いてアオさんの攻撃があたしに迫る。
「はっ!」
気合と共に振り下ろされたコブシ。
【煙がひどくて今状況はどうなっているのかっ!ここからは分かりませんっ!】
あたしは『堅』で耐えようと試みるが…アオさんの『硬』での攻撃には威力を殺しきれず…
ぽわんっ
「何っ!?」
あたしの影分身が煙になって霧散した。
あの火遁を相殺されたあの一瞬であたしは影分身と入れ替わり、距離を取っていたのだ。
「輝力開放っ!」
あたしの後ろに紋章が現れる。
『フープバインド』
ソルの援護でアオさんを捕まえることに成功した。
すばやく印を組んで輝力を雷に変化させる。
「雷遁・千鳥っ!バージョン2!」
ぢっぢっぢっぢっぢっ
ガウ君の真似をして、両手両足に纏わせた千鳥がけたたましい音を立てる。
【おおっと!ようやく粉塵が晴れたかと思えば、アイオリア殿下が捕縛されているっ!?さらに彼女のあの技は先日のあの技かぁっ!?】
【どうやら両足にも展開できるようになったようですね】
「行きますっ!」
「っく!」
強化された足で地面を蹴ると、蹴った地面が焦げているのも気にせずアオさんに迫る。
バインド破壊を試みるアオさんを留めるべくソルフェージュが破壊されまいとさらに堅牢に縛り上げる。
「やあああああああああっ!」
気合一閃。
あたしの突きがアオさんを捕らえた。
勝ったっ!
そう思った瞬間…
ぽわんっ
「影分身っ!」
そんなっ!
【なんとっ!アイオリア殿下が煙のように消えてなくなった!?】
「本体は何処!?」
あわてて探したアオさんの本体は、あたしがそうしたように影分身から距離を取っていて、輝力のチャージを終えていた。
「っ!」
急いでその場を離れようとしたあたし。
だけど…
「バインドっ!」
「すごいね、リオ。ここまでとは想像以上だ」
【どうした事かっ!今度は逆に彼女が縛り上げられているっ!?】
アオさんの手に集められた輝力が球形を取っているがとてつもなく荒れ狂っているように回転しているのが見える。
「生半可な攻撃じゃリオの『堅』を抜けないだろうから、とっておきの一撃で決める」
すでにアオさんの右手のそれの直径は一メートルを超えている。
アオさんが地面を蹴った。
「大玉螺旋丸っ!」
「くっ!」
『堅』で防御したのだけれど、アオさんの攻撃はあたしの想像をはるかに超えていた。
やっぱりアオさんはつよい…な…
【きまったぁあああぁあぁぁぁぁっ!これはさすがにここまで健闘した彼女もノックアウトか!?】
そんな実況の声をBGMにあたしの意識はブラックアウト。
戦の終了まであたしは救護室で気絶していました。
…
…
…
「ここは…」
眼を覚ますと見慣れないベッドに寝かされていたようだった。
「救護室だね」
「っ!アオさんっ!」
「久しぶり…に、なるのかな?」
アオさんの声に自然と涙があふれてくる。
「はい…三年ぶり、です」
「そっか」
「いろいろ…話したいことも…有るんですが…」
「うん」
「まずは…会いたかった。会いたかったです、アオさん」
会えないと思っていた、だけど、会えた。
それだけであたしの涙腺は崩壊して、延々と泣き続けるあたしをおろおろとしながらも慰めてくれたアオさんがまたうれしくて、あたしはもっと泣いてしまったのでした。
その後、積もる話も有るだろうとアオさんが持っていた『神々の箱庭』に招待されて。箱の中は時の流れが違うからと滞在すること数日。
箱庭のなかで色々教えてもらって。
…そして。
「夏休みになったらこっちに呼んであげるから、今は笑顔でお別れだね」
今はひと時の別れ。
「…はい。絶対ですよ?絶対、召喚んでくださいね?」
ヴィヴィオ達もそれぞれ滞在中に世話になった人たちにお礼をいって回っている。
それも終わるとついに転送魔法陣が起動した。
「またっ!絶対会いに来ますからっ!」
あたしはそう叫んで、二週間にわたるフロニャルドの滞在は終わった。
その後、ミッドチルダに帰ったあたし達はいろいろな人に心配されたのはまた別の話だ。
後書き
ゴドウィン将軍…大好きですっ!
しかし、文字表記は彼の言葉はむずかしぃっ!
中途半端的に後半は少し巻いてしまっていますが、まぁ一話完結だとこんなものかぁと言い訳しつつ、リオ帰還までの箱庭内の話しはまた後日。
…まだ書いてないんですけどね。
そう言えばフロニャ文字を解読すると英語をひらがなで書いてるみたいなものらしいですね。
って事はこの世界の公用語は英語?
まあ、今回はあの宝石に不思議な力があったと言うことで、言葉の問題はスルーしていただけると助かります。
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