戦国異伝
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第八十四話 炎天下その二
そしてその汗を手で拭いながらだ。こう言うのだった。
「しかも喉も渇いておるわ」
「それはわしもじゃ」
前田はすぐにだ。こう川尻に返した。
「それでさっきからたまらんのじゃ」
「そうであろうな。とにかくここは水がない」
「その通りじゃ。水っげは何もないわ」
「これでは。戦が大変じゃな」
川尻はこのことについても考えた。
「こうまで水がないとのう」
「そうじゃな。どうしたものか」
「ははは、その時はです」
三人が困った顔をしているとだ。ここでだ。慶次が来た。彼は笑顔でこんなことを言った。
「馬の小便を飲みましょうぞ」
「馬鹿言え、そんなものが飲めるか」
「冗談も大概にせよ」
すぐにだ。前田と佐々がその慶次を叱った。
「というか小便なぞ飲んでもかえって喉が渇きそうじゃ」
「匂いだけで駄目であろう」
「しかし。いざという時はです」
まさにだ。水が本当になければだと。慶次はその時のことを話すのだった。
「それでも飲むしかありませんぞ」
「その馬の小便をか」
「そうしたものをか」
「生きねばなりませぬ故」
まさにだ。その為にだというのだ。
「そうせねばなりませぬぞ」
「他のものなら飲めるぞ」
川尻はこう慶次に返した。
「小便以外ならのう」
「つまり水でござるな」
「それか酒じゃ」
「酒はそれがしも好きですが」
「いや、わしが飲むのじゃ」
川尻は笑ってみせてそうしてだ。慶次に対してまた言葉を返した。
「全てのう」
「おや、鎮吉殿は酒好きでございましたか」
「好きじゃ。しかしそれは御主もであろう」
「確かに」
慶次は悪戯っぽく笑ってみせてそのうえでだ。川尻に言った。
「嫌いではありませぬ」
「そうじゃな。確かにな」
「それこそ幾らでも飲めます」
実際に慶次は酒好きでもある。大柄なせいか飲む量もかなりだ。しかし酒癖はよくだ。飲むとさらに陽気になることでかなり知られているのだ。
その慶次にだ。今度は可児が言ってきた。
「御主は茶だけではないのか」
「そうじゃ。知らなかったのか」
「いや、知ってはいたがじゃ」
だがそれでもだとだ。可児は言うのだった。
「それでもその飲む量はじゃ」
「知らなかったというのじゃな」
「御主はうわばみだったのか」
「うわばみと飲んでも勝てるぞ」
慶次は大きく笑って可児に返した。
「それこそのう」
「やれやれじゃな。しかしじゃな」
「うむ、酒を飲むならこの戦の後じゃ」
見れば彼も可児もだ。二人もだった。
顔中汗だくになっている。そしてそのうえで話をしているのだ。
「この暑い中での戦の後でじゃ」
「そうじゃのう。しかし」
ここで慶次がまた言った。
「こう暑いと泳ぎたくなるわ」
「川でじゃな」
「池でもじゃ。褌一枚になってな」
慶次は笑いながら可児に話す。しかしだった。
よりによってそこに柴田が来てだ。笑って話している慶次にだ。大声で言ったのだった。
「馬鹿者、今そんな話をするでない」
「おや、これは権六殿」
「これはではない。一体何を言っておるか」
「ですから泳ぎたいと」
「それは戦の後に水のあるところでせよ」
これが柴田の言葉だった。
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