戦国異伝
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第八十四話 炎天下その三
「ないところでするな」
「水のないところではですか」
「そうじゃ。話しても仕方がない」
柴田は厳しい顔で慶次に言う。見れば彼の顔も汗が滝の様に流れている。
その顔を見てだ。慶次は言った。
「ううむ、権六殿もまた」
「暑いのではというのじゃな」
「汗だくですぞ」
「確かに暑い」
柴田は嘘は言わない。それは今もだった。
だがここでだ。こう毅然として言うのが彼だった。
「しかしそれでもじゃ」
「それは言葉に出さぬと」
「出してはならぬ」
柴田の声がさらに厳しくなる。
「決してじゃ」
「それを言えば兵達の士気に関わりますか」
「その通りじゃ。だから言うでない」
柴田は慶次に言っていく。傾奇者の彼もだ。柴田の様な頑固者にはいささか分が悪いようだ。
「気をしっかりと持てば暑さも耐えられるものだ」
「左様ですか」
「我等が暑い時は敵も暑いのじゃ」
これから彼等と戦うだ。六角もだというのだ。
「あの者達と一戦交え勝ちじゃ」
「そしてですな」
「そのうえで」
「伊賀も手に入れる」
六角が最後の砦にしているだ。その国をだというのだ。
「ここで六角を徹底的に叩けばじゃ」
「それで、ですな」
「六角にはもう力がありませぬな」
前田と佐々がだ。その柴田に対して言ってきた。
「そして後は降伏させる」
「若しくは立て篭もるなら攻め取るのですが」
「その通りじゃ。戦いそして勝つ」
柴田は前田と佐々にもだ。強い声で言い切ってみせた。
「よいな。それではじゃ」
「はい、暑かろうがそれでもですな」
「敵の前に向かい」
「一戦で勝つ」
柴田の目がだ。暑い中でも生きていた。
そして他の者達の様に暑さにもめげておらずだ。そして言ったのである。
「よいな」
「畏まりました。それでは」
ここでだ。暫く黙っていた川尻が柴田に応えた。
「まずは敵の布陣する場所まで向かいましょう」
「問題はその場所ですな」
「一体何処なのか」
金森と中川もいた。まさに織田家の武辺者が揃っている。
そしてその彼等がだ。口々に言うのだった。
「このままただ進んでも何にもなりませぬ」
「敵の場所に向かうのですが」
「敵の場所はもうわかっておる」
そこはだとだ。佐久間が来た。織田家の武の二枚看板が揃った。
その二枚看板のもう一人佐久間も汗を流していた。しかしそれに怯むことなくだ。彼はこう言ったのである。
「先程物見が帰ってきた」
「して六角の居場所は」
「そこは」
「野州川じゃ」
そこだというのだ。
「そこにおる」
「野州川ですか」
「そこにですか」
「そうじゃ。そこの向かい側におる」
六角の軍勢の陣はそこだというのだ。
「布陣しはじめておったらしい」
「ではそこに向かいですか」
「そのうえで」
「川を挟んでか。若しくは川を渡った敵とじゃ」
佐久間はこう話していく。
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