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戦国異伝

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第八十三話 明智の覚悟その一


                     第八十三話  明智の覚悟
 丹羽、そして明智の読み通りだった。丹波の進軍はというと。
 織田方の優勢のままだった。丹羽が率いる一万の軍勢は順調に波多野氏が篭もる八代城に向かっていた。そしてそれまでの間にだ。
 国人達が次々と降ってきていた。しかもその中にはだ。
 波多野氏についていた筈の者達もいた。尚且つその数は結構なものだった。
 その降る彼等を見てだ。丹羽は休憩の陣中で言うのだった。
「予想通りではありますが」
「それでもだと」
「そう仰いますか」
「はい、まさに潮が寄せるが如くですな」
 今己が率いる軍勢の動きをだ。丹羽はこう評した。
「速いです」
「しかもです」
「さらによいことにです」
 細川に和田がだ。ここでその丹羽に話す。
「明日武田殿、一色殿の軍勢と合流します」
「あの方々の軍勢ともです」
「よいですな。これで我等の兵は二万五千を超えます」
 そこまでの数になるというのだ。今丹波にいる織田の軍勢は。
「この国を手に入れるだけはありますな」
「しかし。それでもですな」
「ここはあえて」
「はい、できれば武は用いません」
 丹羽はその細川と丹羽に静かに答えた。
「こうして兵を動かすだけでもかなりの武であります故」
「戦はせぬ」
「そういうことですな」
「左様です。では」
 それでだとだ。丹羽はまた言った。今度の言葉は。
「明日はその武田殿、一色殿の軍勢と合流してです」
「いよいよ八代ですな」
「そこに向かいますか」
「そうします。そして」
 丹羽は今は語らない明智を見た。そうしてだ。
 その穏やかな口調でだ。彼に問うたのだった。
「明智殿、では」
「用意はできております」
 至って落ち着いてだ。明智は丹羽に応える。その言葉は淀みなく淡々とさえしている。その態度で丹羽に対して述べてきたのだ。
「都には文を出しておりました。そしてです」
「そうしてですか」
「先程返事が来て。そこには」
「何を書いてあったのでしょうか」
「諾、と」
 明智は丹羽に一言で答えた。
「そうありました」
「左様ですか」
「はい、ではそれで宜しいでしょうか」
「この時が来ましたな」
 唸る顔でだ。丹羽は答えたのだった。
「では。その様にされるといいでしょう」
「有り難うございます。それでは」
「明智殿の覚悟は見させてもらいました」
 だからだとだ。丹羽は確かな声で明智に答える。
「だからこそ。そうさせて頂きます」
「ではその様に」
「それではそうさせてもらいます。早速」
「それがしも明智殿のことは聞いていましたが」
 それでもだとだ。丹羽は言うのだった。再び。
「しかしそれでもあえてですか」
「はい、あえてです」
 まさにそうだと。明智の言葉は揺るがない。その表情もだ。
 そしてそのうえでだ。また言う彼だった。
「戦はせずとも。それで済むのなら」
「そして今は戦をせずともだというのですね」
「その通りです。だからこそです」
「そのことはまた聞かせて頂きました」
 丹羽は具足姿で腕を組みそうして述べた。そうしてだ。
 明智だけでなく今自身の前にいる諸将にだ。答えたのである。
「この丹波では戦はしませぬ」
「戦をせずに国を手に入れる」
「そうされるのですか」
「戦わずして勝つ」
 孫子のこの言葉をだ。丹羽はそのまま言葉に出した。
「そうします」
「では。城を攻めずにですな」
 ここで言ったのは細川だった。彼も孫子にある言葉を出したのである。 
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